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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第二章 旅立ちの人間界
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『覚悟』

「では、問おう。お前の覚悟を――」


 超人を演じるのはここまでだ。ここからは本来の自分でいくとしよう。


「お前の一番大切なものは何だ?」

「そ、某の、大切なもの……もちろんこの村に住む全員だ」


 コジュウロウタは雰囲気がいきなり変化した俺に困惑しつつも真面目に答えだ。


 慌てなくて良かった。イーニャのように頬に一撃をお見舞いが必要になるかと思ってヒヤヒヤしたぞ。


 さすがに娘の前で父親を殴る趣味はない。


 物陰からこっそりと聞き耳立てているのはバレバレだ。さっきのコジュウロウタの大声で起きた奥さまとイーニャがいるのも当然気付いている。


 目の前の方は気付いていないようなので、とりあえず黙っておこう。周りを気にする余裕がないのだ。


「ほお、そのためなら何でもするのか?」

「村の皆を守るためなら、某は……某には迷いはない、どんな苦行をも乗り越えよう」

「たとえそれが、王国――強いては人間と敵対することになってもか?」


 どうやらイーニャは勘づいたようだな、俺が何を企んでいるか。

 邪魔をされては困るので、念のため動きを封じ、黙らせておこう。


 小声で、できるだけコジュウロウタに聞こえないように。


「命言使用――〈封動(動くな)〉」


 これで横やりは入らないだろう。て言うかそれを切に願う。


 コジュウロウタはさすがに最後の問いには迷いを見せる。


「……ああ、構わない。皆を守れるのなら、人間たちの敵になるのも厭わないとも!」


 真っ直ぐ俺の目を見て返答した。


 これ以上は愚問だな。

 規模は小さくとも、俺が目指す環境をつくり、それを必死に守ろうとする者を放ってはおけない。


「良いだろう。コジュウロウタ・スメラギ、お前の覚悟、しかと聞き届けた。故に俺はその覚悟に応えることをここに約束しよう――〈魔王〉レグルス・デーモンロードの名に懸けて」

「「ま、魔王!?」」

「どうした、今さら撤回するか? 俺は別に構わんぞ。その場合、俺の正体を知ったお前たちを消さねばならなくなるが……はてさて悩むなぁ」


 コジュウロウタが驚くのと同時。こっそり覗いていた奥さまと娘さんも声を上げた。


「フェイ……アリサまで、起きてたのか」

「そりゃあ、あんな大声出せば眠り姫も起きようぞ」


 ちなみに奥さまがフェイで、娘さんがアリサだぞ。


「…………」


 ちなみに石像のように動かないこれはイーニャだぞ。


 目で何かを訴えているようだ。無表情で見つめ返してやると、てっきり涙目にでもなるかと思ったら顔を赤くしたので、しばらく放っておくことにしたぞ。


 と言うわけにもいかず、子どもの教育のために動けるようにしてやった。何処でもいつでも変わらず騒がしいやつだ。


 それから詳しい部分は省いて本当の事情を説明。半分くらいは嘘をついたが。いずれ話すから今は騙させてもらう。


 俺が本物かどうかは、歴代の魔王が身に付けていたとされる〈魔王の首飾り〉を見せたらあっさりと信じてくれた。フレンが旅立つ前に「これを持っていけ」と渡されたものだった。


 まさかイーニャに説明される日が来ようとは、フレンめ、次会った時は文句確定だ。と思った。


「ふわぁあ……」


 イーニャがあくびをし、アリサが机に突っ伏していたので続きは明日にしようと寝室へと向かった、までは良かった。


「ではな」

「おい待て」


 当たり前のように立ち去ろうとするコジュウロウタの肩を鷲掴みにする。


 察しはついていた。ついていたとも。しかし実際にそうなるとやはり言わざるを得まい。


「俺とイーニャが同じ部屋なのはどういう訳か訊かせてもらおうか?」

「ふたりは夫婦であろう? 同じ床につくのは当然ではないか?」


 口角が上がっているぞ口角が。


 さすがに俺も眠たくなってきたので、仕方ないから同じ部屋で寝てやろう。もとよりこれからはあの馬車で一緒に寝ることになるんだろうし、良い練習になる。


 それに一回寝たしな!

 気にすることはない。


 部屋に入り、先にベッドですやすやなイーニャ。冷たい眼差しで見下ろしてやり、俺は……椅子に座った。


 眠るべく目を閉じてとある疑問が頭を過る。――〈魔王〉の名を出すの早すぎないか?


「馬鹿ってうつるのかなぁ……」


 自分の行動の浅はかさにほんの少しの後悔を抱いきながら、俺は睡魔に従った。




 ◆◆◆




 翌朝、俺はこの世界に来て初めて太陽に起こされた。身体のあちこちが痛い。椅子に座って寝たせいだな。


「んん……?」


 うっすらと瞼を上げて視界を確立すると、右側から何かが迫ってきていた。当の本人は目を閉じていて、俺が目を覚ましたことに気付いていないらしい。


 部屋の外から音がする……これは面白そうだ、寝たふりをしようじゃないか。イーニャ、お前への仕返しだ。


「ねえッノルン! お父さんが昨日の話の続きを、しよう、って……」

「ぁ……」


 勢いよく扉を開けるアリサ。

 ナイスだぞアリサ。


 突然の来訪者の出現に硬直し、顔を赤くしているだろうイーニャ。


「失礼しました」


 大人な対応のアリサについに堪えきれなくなり、俺は声を上げて笑ってしまった。



 ――朝食を5人でつつく。


 料理に使われている食材は全て村での自給自足の賜物らしい。

 太陽の恵みは素晴らしいもので、魔界の食材とはまた違った良さがあった。

 魔界のは味は全然良いのに見た目があまりよろしくないんだよ。厳ついんだよ。


 真面目に“魔法で太陽”を考えた方が良いのかもしれない。今度グリムに相談しよう。うん、そうしよう。


「なぁイーニャ、機嫌を直してくれ」

「ふーんだ」


 ふーんだ、って子どもかっ……子どもか。


「あらあら、仲がいいこと」


 朗らかな笑顔でコジュウロウタの奥さまは仰いました。


 喧嘩するほど仲が良いってか?

 人は恐らく、これをデジャヴと言うのだろう……。


 俺とイーニャの関係はともかく、王国の騎士団が来たときの対応の話をしなければならない。呑気にスープなんぞ飲んでいる暇はないのだ。


 考えとは裏腹にスープが口へと運ばれる。美味しすぎて、て、手が勝手に動いてしまう。


「美味しい。またあとで作り方を教えてくれるか?」

「ふふふ、そんなに気に入ってくれて嬉しいわ」

「この味は簡単には再現できんぞ?」

「お母さんの料理は世界一なんだよ」

「……わ、私も入れて!」


 楽しく賑やかな食事。窓から部屋を照らす陽光が温かい。誰もが望む平和な一時。


「お……おや?」

「どうしたんだ!?」

「あらあら」


 だからなのか――俺は涙を流していた。自然に、なんの前触れもなく流れていた。

 こんな穏やかな時間を、俺は過ごしたことがある。失った記憶の映像が僅かに頭を過った。


 予想外の出来事に戸惑う一同。すぐさま涙を拭って心配するなと笑顔を見せてやる。


「気にするな。ちょっと懐かしくなっただけだ。早く食べないと俺がお前らの分も食べてしまうぞ」


 俺が冗談を言うとまた賑やかな食卓に戻った。

 気遣う必要などないのに……ここは素直に感謝しよう。


 朝食も終わり、フェイとアリサ、自分から手伝うと名乗り出たイーニャら3人が洗い物をする後ろで、俺はコジュウロウタから予言の詳しい内容を聞いていた。


「この村、改めてみるも凄いな」


 円を描く森の中心に開けた場所があり、そこにまるっと村がある。名前はニステア村。


 約千年ほど前に魔物に追われていた数人の旅人が迷い込んだのがこの場所。てっきり包囲殲滅されるかと思いきや、魔物は森にすら入らなかったと言う。


 ここを中心に辺り一帯に不思議な加護が施されている、と村の伝承には残っていた。


「おかげで魔物の襲撃に怯えずに暮らせているのだ」

「それを王国の連中は知っているのか?」

「村の者は決して口外しない故、知らぬはずだが……」


 視線を逸らす。村にいる予言少女のような奴が王国にいるとしたらあるいは……。


 俺は話を聞く前に先んじてイーニャに「村に着いてから体調はどうだ?」と訊くと「そういえば元気になった気がする」と能天気な笑顔で返答された。


 俺も船酔いで頭痛やら吐き気やらがあったのに、森に入ってからは気分が優れていた。じゃなきゃ、敵を引き付けるためだとしてもあんな風に単独で動いたりしない。


 一括りに〈魔法〉と言っても、その種類はまさに千差万別。それこそ人の数だけあるかもしれないと教わった。


 ただし、主だった騎士の使う魔法は〈騎士学校〉で学ぶ基礎的なものが多い。だからほとんどは容易く追い返せるが、今回の相手は一筋縄ではいかないとコジュウロウタに言われた。


「〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉に最年少で選ばれた少年――マクシス・セベルツィアが率いている」


 マクシス・セベルツィア――15歳の若さで〈王国の守護者〉に選抜された天才美少年騎士、なんだと。

 “天才”と聞いてもパッとしないのは、恐らく……いや確実にフィーネのせいだな。今頃何してるだろうか。俺が噂したからくしゃみでもしてるかも。


 村から西に進んだ先に街があり、そこで作物を売ったりもしている村人もいる。その村人が客からとある噂を聞いた。


 王国南部にある魔物が大量に出没する〈魔群領域〉指定の山岳地帯から無事生還し、なおかつ山の主を倒した証、つまりその首を持ち帰ったのだ。


 相当な実力者のようだ。まぁ、それは人間界の基準での話だろ。


 新米だとしても、王国の中でも精鋭と名高い〈王国の守護者〉の一人と戦えるのは光栄だ。しっかりと学ばせてもらおう。


「コジュウロウタ。村の皆の説得は任せた。俺は説得とかは苦手なんだ」

「どの口が申すか」


 皮肉と苦笑が返ってきた。


 作戦の内容は至極単純。しかし実行には村人たちの協力が不可欠ではないが必要なので、もろもろの事情を含めてコジュウロウタに説明してもらうことになった。


 騎士団の到着は予言では3日後。


「なら明日には実行に移す」


 “なんでもする”と宣言したからには存分に働いてもらおう。


 やってもらうのはたったふたつ。説明と説得だ。


 応援してるぞ、村長コジュウロウタ。


 もちろん反対されようが同意を得ようが、俺が〈魔王〉として約束した以上、村も村人も全部守る。――既に俺のものだからな。


 さぁ、来たまえ。マクシスだかネメシスだか知らんが、実力を試させてもらうぞ。

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