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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『ふたつの道』

 マクシス、トールとの決着をつけ、俺は皆を転移させた。その後、周囲を警戒しながら休憩していた。


 既に追っ手は諦めたらしく、追いかけてくる様子はなかった。


「……ふぅー」


 俺はとある案件で悩んでいた。


 これからどうしようか、と。


「なぁ、これからどうするんだ?」


 頭を抱えていると、追い打ちをかけるようにリュウヤが訊いてきた。


「当初の予定ではあのまま王都に向かう予定だった。しかし、こうなった以上、王都に向かえば面倒事になるのは明らかだ」


 まずは分かりやすく現状を説明する。


「オークション会場での騒ぎの発端は俺たちではない。アルヴァンとか言う奴だ。開催者のベリアルと何らかの契約なり取引なりをしたらしい。そのおかげで追い回されることになった」

「王国とは関係ないんだな」

「ああ、奴らの独断だろう。現に追いかけてきた連中の中に、騎士の姿はなかった」


 確かめるような口調のシグマに、肯定してから根拠を話した。


「――でも、今後はそうとは限らない。国王との取引が可能な立場にいるベリアルが手を打ってくると考えている……そんなところ?」


 最後に一気に力が抜けるような気楽な態度に変わった。


 説明が終わって馬車に乗り込むと、いつからそこにいたのか。

 シェナが何食わぬ顔で座っていたのだ。


「また情報を持ってきたのか?」

「もっと驚いてくれてもいいんだよー」


 不満げ、と言うより楽しそうにシェナは頬を膨らませる。


「今更お前が何処にいようと驚かないさ」

「つまんなーい。ねぇーフィーネちゃん、ノルンってばワタシにイジワルしてくるー」

「……いじわる、ダメ」


 ふたりして頬を膨らませてこちらを見つめてくる。


 俺は驚きのあまり目を見開いた。


 あのフィーネが冗談に乗っかったのだ。


「……悪かった」


 だから自然と謝罪が口をついて出た。


 それを聞いてシェナとフィーネは、お互いに顔を合わせてニコッと笑顔になった。


 グリムに視線を移すと、予想通り孫を見守る祖父のような優しい眼差しだった。

 思わず笑ってしまいそうになるのを微笑んで誤魔化す。


「言い忘れていた。皆、追手の足止めご苦労さま。助かったよ」


 色々考えることが多いせいで労いの言葉を忘れていたのを思い出したのだ。


「別にいいぜ。いい訓練になったし。な、カグラ」

「ええ、そうね。自分の課題点がまた見つかったから対策を考えられる」


 と、リュウヤとカグラは笑顔で応えてくれた。


「構わない、そういう契約だ。むしろ私は、もっと頼ってもらっても平気だ」


 仏頂面で返事をするのはもちろんシグマだ。


 それに加えて嬉しいことを言ってくれる。


 思わず頬が緩むではないか。油断も隙もないな。


「……ん」


 不器用なりに優しい笑みを浮かべるアカネの頭を撫でる。


「グリム、それにフィーネも助力感謝する」

「当然です」

「当たり前」


 即答してくるので少し面食らいそうになりながらも、リュウヤたちの方へと向き直る。


「リュウヤ、カグラ、そしてシグマ。俺はお前たちに話さなければならないことがある」

「なんだよさっきから。急に改まって気持ち悪いぜ――痛ててっ」


 訝しげな表情をするリュウヤの耳を、カグラが黙れと言わんばかりにつねる。


「続けてください」

「助かる。先程のリュウヤ(お前)の問いに答える前に言わねばならぬこと。それは――俺が〈魔王〉だと言う事実だ」


 俺たちの間に沈黙が降りる。


 そうだよな。急にこんなことを言われても「はい、そうですか」と簡単に受け入れられるわけがないよな……。


「ちょ、っと待てよ。じゃあ、俺はノルンを倒さなきゃいけないってことかよ」


 困惑と混乱が入り混じった表情で勇者は尋ねた。


「単純な話だとそうなる」

「は、ははは……まじかよ」


 リュウヤは力なく笑って木にもたれかかった。


「俺は〈魔王〉として果たすべき責務を果たす。お前がどんな選択をしようと、それは変わらない」

「じゃ、じゃあよ、ノルンは王国を……人間を滅ぼす気なのかよ? そんなことしないよな?」

「戦争の結果、アインノドゥス王国が滅ぶ可能性はある。が、俺が殺そうとしているのは弱者を虐げる王族や貴族を含めた愚か者だ。もし人間全体が愚か者と成り下がったのだとしたら、俺は迷わず滅ぼそう」


 それを聞いてリュウヤは勢いよく立ち上がった。


「どうして……どうしてお前はそうやって殺すことしか考えないんだよ!」

「他に方法がないからだ」

「話し合いとか、その、あれとか、なんか色々他にいくらでもあるんじゃないのか!」


 そのまま俺の胸ぐらを掴んできた。


 フィーネが斬ろうとしたが、グリムに制止させた。


 ――心配するな。こいつは俺を殺さない。


 少なくとも今はまだ。


「俺みたいな馬鹿には思い付かないかも知れないけど、お前ならそんな奇跡みたいなことができるんじゃないのか? 俺たちを助けてくれた時みたいに、竜のお姫様と交渉した時みたいに、またなんとかしてくれよ。できるって言えよッ、ノルン!!」


 レグルス・デーモンロードと名乗っても、お前は変わらずノルンと呼ぶのだな。


 リュウヤ……やはりお前は、勇者に相応しい。


「――勘違いするな」

「――ッ!?」


 胸ぐらを掴む手を振り払った。


「綺麗事を語るな。俺は正義の使者でも、人々の希望でもない――〈魔王〉だ。魔族を統べる王だ。人間を殺すことに、躊躇いなどあるわけがないだろう?」

「嘘……だろ……」


 信じられないとふらふらと後退りするリュウヤをカグラが支えた。


 その瞳は真っ直ぐ俺を捉えている。


「なら、どうして勇者(私たち)を助けたの?」

「…………」

「あなたが本当に魔王なら、あの時に見殺しにしていればよかったはずよ」


 俺はどんな顔をしているのだろう。


 笑っているのだろうか。


 怒っているだろうか。


 悲しんでいるだろうか。


 どんな顔でふたりと向かい合っているのだろう?


「……気の迷いだ。一時の戯れだ。物事を成すのに障害がひとつもないのはつまらいだろう」

「じゃあ……あなたは自分が楽しむために私たちを助けて、強くしようと鍛えたと言うの?」

「正解。やはりお前は賢いな。馬鹿(リュウヤ)を補うだけの頭脳がある」


 カグラのこんな怖い顔を俺は初めて見た。

 守るようにリュウヤを抱きしめている。


「話を戻そう。当初の予定より早いが、俺はアインノドゥス王国に宣戦布告をする」


 そこで一旦話を止めて、一度深呼吸してから再開した。


「お前たちが取る選択はふたつ。このまま俺に同行する――その場合、人間と戦うことになるだろう。最悪、殺さなければならないかもしれない」

「ふたつめは王国側について、あなた()と戦うこと」


 視線を俺からグリム、フィーネと順に移す。


 落ち着いて周りを見る能力もある、と。


 カグラの眼差しは最後にシグマに向けられた。


「シグマさんは知っていたのですか?」

「知らなかった。薄々そうではないかと疑ってはいたがな」


 いつもと変わらない仏頂面で答える。


「どうする……つもりですか?」


 この先に来る答えを、カグラはわかった上で訊いたのだ。


 躊躇いが混じっていたのがその証拠だ。


「私の目的は国王と五老公への復讐だ。それが遂げられるなら、取引相手が悪魔でも魔王でも構わない」

「そう、ですか……」

「すぐに決められないのも当然だ、明日まで待ってやる。ふたりで相談して決めろ。自分たちの未来だ、誰かに指図される勇者ではあるまい?」


 身を翻してその場を離れようとしたが、言い忘れたことがあったと再びふたりの方を向いた。


「どちらを選択しても構わない。お前たちがふたつめを選んでも、その場で即抹殺などしないから安心しろ」


 そんなつまらないのは嫌だなのでな。


「戦場で会うまでお預けってやつだ。それが、共に旅をした俺ができるせめてもの情けだろうからな」


 今度こそふたりと距離を置いた。

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