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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『強くなるために』

「認めたくないな、まったく」

「2度も敗北するとは……悔しい限りだ」


 膝を地面につけ、肩で呼吸をしている。

 さながら全力疾走をした後のようだ。


 こうなると結果はわかったていたことだが、俺とフィーネの勝ちだった。


 傷だらけではあるものの、俺の宣言通りふたりはまだ生きている。


 体力の面ではかなり不安が残る状態ではあるが……。


「予想よりも強かったぞ。自信を持つが良い」


 嘘や偽りのない素直な評価を告げる。


「お前もそう思わないか?」

「まあまあ」


 一緒に戦った相棒(フィーネ)はなかなか手厳しい評価だった。


 弱い、と言わなかったのだ。


 それだけでも評価に値しよう。


「何度も言うが、お前たちは着実に強さを増した。それでも世界にはこいつのように圧倒的な強者はたくさん隠れている」

「…………」

「2度に渡り思い知りました」


 黙り込むマクシスを見かねて、代わりにとトールが苦笑混じりに言葉を返す。


 しかし、トールに庇われるような形で後ろにいたマクシスが決意に満ちた表情で一歩前に出た。


「……貴様に訊くのは筋違いだと理解している。だが、他に聞ける相手がいない。――強くなるには、どうすればいい? オレたちの夢を叶えるためには、なにを……すればいいんだ……」


 どんどん力なく項垂れていき、最後の方は耳を凝らさなければ聞こえないほど小さかった。


「オレはこの国の在り方を認めない。人の命を単なる道具のように弄ぶ者たちを、オレは許せない。だから国を変えたいと思った。誰もやらないならオレが……けど、貴様と戦って敗北を知ってからずっと付きまとう」


 自分の手を見下ろしながら思いを語る。


「弱いお前になにができるのか、この国を変えることなどできるのか……と。思わずにはいられんだ」

「俺と戦うまで負けたことがなかったのか?」

「いや、あった。だが騎士になってからは初めてだ」


 なるほど。

 それも原因のひとつなのだろうな。


 勝ち続けてしまうと、見えなくなっていくものがある。


 敗北者の典型的なパターンに陥ったわけだ。


「なら良かったと俺は思うぞ?」

「皮肉とは、ますます腹立たしい」


 不機嫌そうにそっぽを向くマクシスに苦笑する。


「敗北を知らぬ力など、それはただの暴力に等しいと俺は考えている。敗北を、負ける悔しさを知ってこそ、真の意味で強くなれるのではないか?」

「貴様には敵わないな……」

「当たり前だ。お前は俺の正体を知っているのだろう? それで納得してくれ」


 何処で俺のことを知ったのは後でグリムに調べさせよう。


「知りたいのは精神的な理論ではないって顔だな。戦う能力は、だろ」


 こくりと頷いた。


「簡単だ、戦えば良い。何度も、何度も何度も戦い、己が身に経験を積む。俺に戦い方を教えてくれた師はいつもそう言っていた」


 記憶の断片に存在する靄がかかった人物の言葉だ。


 どんな顔だったかも思い出せない朧気な記憶だ。


 本当に自分のものなのかも怪しい記憶。


 それでもこうして誰かの励みになれるのなら、どっちだって構わないと思える。

 マクシスとトールには感謝しないとな。


「「……?」」


 微笑みかけるとふたり同時に首を傾げた。

 仲の良い奴らだ。


「近い内に大きな戦争がある。参加して、力をつければ良い。もし弱いままなら、俺がお前たちの夢を奪ってしまうかもな」

「人間と魔族の戦争。……本当にやる気なのか?」


 疑う、と言うより不安の表情だった。


「やるとも。これはもう決まったことだ。たとえ俺がここで負けたり死んだとしても行われる。あまりにも長い時間を歪み合い過ぎたのだ。話し合いや不干渉で納得できないほどにな」

「あなたは、いつ爆発するかわからないくらいなら、自らの手でその火をつけようと言うのですね」


 トールの奴め、面白い例えをする。


「言い得た表現だ」


 やはり、マクシスより賢そうだな。


「お前の言う通り、手綱を握れないなら、俺がその紐になれば問題ない」

「あえて問おう。なぜそこまでして戦争をしたがるんだ」

「一番近い言葉が戦争(・・)なだけで、真の意味では恐らく違ってくる」


 そうだとも。

 自分で何度も戦争と口にしているが、結局お互いそれは単なる口実に過ぎないと利害済みだろう。


「わからないか。――復讐や憂さ晴らし、欲求をただぶつけたい、解放したいだけさ。それらを可能とする一番適した場所が戦場だった」

「そんなことのために貴様たちは命を捨てると」

「おいおい、勘違いはよろしくないな。人間も魔族もお互い様だぞ。どちらが正しいか否か、善いか悪いかなど彼らにとってはもはやどうでも良いこと」


 眉間にしわを寄せ、そんなことがあり得るのかと悩んだ。


「希望があれば絶望がある。人によっては、絶望があるからこそ希望が存在するのだ……とか言う。知性を得て、考える思考を手に入れてしまった生物の宿命」

「あなたも死ぬかも知れないのですよ」

「俺は死なないさ。やらなければならないことがあるからな。どんな手段を使おうと生き残り、必ず成し遂げると誓った」


 記憶を失った俺に、この世界で言い渡されたのは「魔王になれ」なぞと無茶振りにも程がある一言。


 もちろん悩んだ。考えた。


 それが本当に俺のやるべきことなのか、と。


 しかし、結局俺は首を縦に振って承諾してしまった。


「だからお前たちも生き残って強くなって見せろ。生き残る――それも一種の強さだ」

「仰る通りですね。では、次こそは我々が必ず勝利します」

「当たり前だ。3度も負けるなんてオレは絶対に嫌だからな。覚悟しておけ、ノルン」

「次に会うときは戦場だ。強くなったお前たちの実力を、楽しみにしている」


 そう言い残して、俺は指をならした。


 〈転移法(テイレル)〉で仲間の全員を馬車ごと転移させたのだ。


 マクシスたちと戯れている間に、追跡妨害の魔法は余裕で準備できたからな。


 これでひと安心だ。


「〈麗剣クァイムアルヴィオン〉……ねぇ。次に会ったら使いこなしているのだろうな」


 好敵手と呼ぶには少々心許ないが、良い相手になるのは断言できる。


 こうなってしまったのだ、計画を早めねばなるまいな。

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