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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『応える』

「やはり、強いな。かといって、諦められるような安い夢ではないんだよ!!」


 マクシスが己の決意を叫ぶ。


「そうだね。叶えたいんじゃない。絶対に叶えるんだ」


 トールが言葉を付け加えた。


「――覚悟が示された。ならば、我も出し惜しむのは終わりとしよう」


 何処からか不思議な声が聞こえた。


「な、なんだ!?」


 すると、声の主は自分だと主張するように、突然麗剣が目映い光を放った。


「主よ、我が名を呼べ。さすれば力は解き放たれる」

「……わかった。目覚めよ、我が剣――〈麗剣クァイムアルヴィオン〉!」

「応!」


 マクシスと麗剣が言葉を交わし、今ここに真の姿を我らの記憶に刻みたもう。


 全体的に丸みを帯びた形状から鋭い見た目になり、大きさもマクシスに見合うものへと変化していた。


「…………」


 まずいかもしれない。


 正直甘く見積もっていた。


 伝説の麗剣の真の力が解放されて、ようやく俺の敵になり得るのだと。


 しかし、現実はどうだ。

 予想以上の力を放っているではないか。


「すごい……。これが、麗剣の本当の力」


 握る手から伝わる今までとは明らかにけた違いの力に、マクシスが感嘆の声を上げる。


「(――レグルス)」

「――っ!」


 本来ならもっと早く聞けた、川のせせらぎのような綺麗な声が頭の中に直接届けられた。


 懐かしい声が聞けただけ。


 単にそれだけ。


 なのに……とても嬉しい。

 歓喜のあまり飛び上がりたいくらいだ。


「(大丈夫だ。俺は負けない)」

「(負けたら、一生、わたしの奴隷)」


 なかなか辛辣なことを。


「(悪くないかもな。フィーネのような美しい少女の傍にいられるのならそれもありだ)」

「(――バカ)」


 怒られてしまった。


 まだからっていたいが、あまりやり過ぎると後が怖い。


「マクシス。胸を貸そう」

「つくづく上から目線なやつだ」


 自分のために形を変えた麗剣を構えながら悪態をつく。


「その油断が貴様の命取りとなる!」

「さぁ、どうかな?」


 大地を蹴り、驚異的な速度で跳躍した。


 空気を、音を置き去りに、マクシスは麗剣を振るう。


「――バカな」


 麗剣の刃が俺の腕を僅かに傷つけて血を流させる。


 マクシスの計算では俺を上下ふたつに斬るつもりだったと。


「魔力を流して操る糸だ。俺が使えないわけがないだろう?」


 先ほどまでトールがダガーを駆使して使っていた糸を利用させてもらった。


「このぉッ!」

「無駄だ」


 取り返そうと魔力を注ぐも、俺の魔力量には及ばずに残念な結果に終わる。


 これは魔道具の弱点のようなものだ。

 使い方が簡単な魔道具は、それだけ奪われるリスクが発生する。


 たとえ使用方法が難しくても、相手がそれなりの手練れならリスクも比例して大きくなる。


「取り返せない……なら――破ッ!」


 糸の全てが水泡の如く弾けて散った。


 だから、このように奪われた場合の対処法方を用意しておくのが基本だ。


 並の使い手なら戸惑うところだろうに、いとも容易く自らの魔道具を破壊しやがった。糸だけに…………。


「――ふんッ」

「よっと」


 糸がなくなったので、自由に動けるようになったマクシスが麗剣を振り払う。


 それを再び後ろに飛び退くことで躱わす。


 よく見るとマクシスは麗剣を持っていない(・・・・・・)

 どうやら、動かしたいという思念で操っているようだ。


「俺が催促したから文句は言えないな。ここは麗剣と戦えることを光栄に思い喜ぶべきかな?」

「そんな余裕を与えるとでも」


 ダガーを投げながらトールがそう言った。


 それらを避けながらマクシスと打ち合う。


「2人がかりでもその薄ら笑いを崩せないのか。実に悔しいな!」


 瞳が紅に染まり、赤いオーラのようなものをマクシスは纏った。


 おいおい、ここでバーサーカーになる気かよ。


「残念だったな。オレは以前のオレとは違うんだよ!!」


 俺の予想に反して理性を保ったままのマクシスは、バーサーカー状態の強化された身体能力を全面に押し出してきた。


 ずるずると押され、地面に筋を作る。


「マクシス!」

「了解!」


 トールの声が聞こえた途端、マクシスは持ち前の身体能力を活かして後ろへと飛び退く。


 彼らの狙いはダガーで描いた魔法陣だ。


 どんな強力な魔法なのやらと興味があるので、口角を上げて避けようともせずに受けるつもりでそれを見下ろした。


「おっ、おい、ちょ待てよ!」


 そんな時、馬車の方でリュウヤが誰かを呼び止める。


 誰だとそちらを見やると同時。光を帯びて発動間近の魔法陣が砕け散った。


 正確には魔法陣の媒介となっていたダガーが、同時(・・)に全てふたつに斬られたのだ。


「…………遅い」


 スタ、と俺の背後に降り立つ小さな影。


 見なくても魔力で誰なのかはわかる。声のおまけ付きだ、間違えようがない。


「こらこら、大人しく待っていないと駄目でしょー」

「レグルス、遅いのが悪い」

「5分くらいしか経っていないだろうが……せっかちめ」

「むぅ」


 俺の発言が気にくわなかったらしい。


 頬を膨らまして不機嫌さを主張してくる。

 悪いが、それだと全く怖くない。むしろ可愛く見えるぞ。


「わたし、ずっと待ってた。レグルスに、会える日を……待ってた」


 一変して寂しそうに顔を俯かせるフィーネに頭を掻いてため息をつく。


 配慮が足らなかった。


 俺としたことがトラブルが続いたから、冷静な判断ができなくなっていたのだな。


「……悪かった」

「…………」


 ぽふっと綺麗な髪の上に片手を乗せて謝罪する。


「マクシス、トール。光栄に思え、片鱗を見せてやろう」


 目の前に存在する大人しそうな少女を瞳に映して、ふたりは固まっていた。

 表情もより険しいものへと変わっている。


 警戒を露にするのも無理もない。

 フィーネを前にしているのだ。


 わかる者にはわかる。


 その小さな体躯に秘める強さを。


「怖がらなくて良いぞ。俺もこいつも、今は(・・)お前たちを殺さない。ただ追いかけられないように戦闘不能にするだけ。もっと簡潔に言えば気絶させるだけだから安心したまえ」

「いくら貴様と言えど、簡単には信じられない」


 殺気は俺もフィーネも全く出していないのだがな。


「勘違いするな。これは頼みでもお願いでも、ましてや約束でもない。それらは対等な立場の者同士、または弱者から強者にするものだ。だから俺が言ったことは強者から弱者へと一方的に放つ――命令だ」


 グリムに案内されたあの部屋にいた元奴隷の女の子――マルサが言っていた。


 お姫様を守り、願いを叶えるのが王子様の役割なのだと。


 恐らくこれは人間の童話とやらから影響を受けたのだろう。俺も書物として図書館で何種類か読んだとも。


 まぁ、フィーネは前魔王の娘で、俺は〈魔王〉と輝かしいものからはほど遠いようにも思える。


 だからフィーネを放って、マクシスとトールとの戦いを楽しむか――否。できないよな。


 それでもフィーネはお姫様で、俺は王なのだ。


 寂しい思いをさせた以上、一刻も早く償いをせねばなるまい。


「殺さないからお前たちが死ぬことはない。が、死ぬ気で来ねば後悔するぞ」


 麗剣に選ばれ、麗剣が応えたとしても、マクシスが完全に使いこなすにはまだ時間が必要だ。


「こちらが有利。故に、選ばせてやろう。お前たちはどちらに負けたい?」


 鞘に納められた刀を地面に立て、その上に両手を置いて尋ねる。


 敗北する相手を誰にしたいかを。

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