『追いかけ』
「まさか、こんなところで会うとはな」
「(お知り合いかい?)」
「(以前、敵として退けさせたのだよ)」
グリムの質問に、視線を立ちはだかるふたりに向けたままで答える。
マクシスにトール。
前回と違って部下を引き連れておらず、周りにも気配がない。本当にふたりだけのようだ。
少しだけ懐かしいと感じるのは、短い間に色々あったせいなのだろう。
「その節はお世話になった。だから今回はお礼にと思ってくれたらいい」
「見つけるのに苦労しなかったのは意外でした」
さすがは期待の新人とその右腕。
俺を見つけるのは簡単だったと。
……あれだけ暴れたのだ。逆に見つけられなければ無能の烙印が押されよう。
「目的は後ろの連中と同じか?」
親指で都市の方を指しながら問いかける。
すると、マクシスは首を横に振った。
「オレの目的は――この国を変えることだ」
それを聞いて、俺はトールに視線を移す。
「そのためにあなたを倒すのです――陛下」
「(手を出すなよ)」
フィーネが殺気を出す前に制止する。
アカネが先に手を掴んで止めていたから、必要なかったみたいだがな。
重要な一言を聞き逃さなかったシグマが手綱を握ったまま訝しげな表情を見せた。
「俺は、お前の目標への道に立ちはだかる壁だと」
「勝ち負けには拘るつもりはないが、やるからには勝つつもりで挑む」
揺るがぬ信念が込められた眼差しだった。
「相変わらず真面目すぎる。脇道を覚えたらどうだ?」
「同感です……が、そこがマクシスのいいところでもあるので変えさせません」
穏やかな微笑みでトールはそう告げる。
腹の底が見えない不気味な奴だ。
こいつも変わらないな。
実力云々ならまだしも、性格や中身の部分は簡単に変えられたら誰も苦労しない、だよな。
前方の挑戦者。後方の追っ手。
両方を相手するのは少々面倒だなー。
かといって転移魔法は使っても追いかける準備はしているようだし、先送りにするだけのようだ。
「シグマ、アカネ、そしてグリム。後方は任せた」
シグマの方から盛大なため息が聞こえたが、特別に気にしないでおいてやろう。
3人とも指示にしたがって後方から追いかけてきている連中の相手をしにいった。
俺とて逃げるのが得策なのは重々承知の上だ。
されとて白黒をはっきりさせなければ、マクシスは進めないと言うのだ。
俺が〈魔王〉なのを知っているようだし、下手に情報を流されても困るからな。
「相手を殺すなよ」
俺は何をすればいいんだ、と馬車からひょっこりと顔を出すリュウヤ。
「言わなくてもわかるだろう?」
――守るべきものを守れ。
理解したのかどうか、任せてくれと胸を張って剣を構える勇者少年。
力みすぎてて不安しか感じないぞ。
カグラが宥めてくれるのを祈ろう。
「少々荒手だが場は整えた。さて、お前たちはどうする? 別に2人同時にかかってきても構わないぞ?」
「余裕だな」
「事実を言われても喜べぬ」
眉を歪めつつも口角を上げるマクシス。
「その言葉、後悔するなよ」
てっきりオレひとりで十分だー、とか言って馬鹿正直に斬りかかってくると思ったのに。
これは予想以上に成長しているみたいだ。
うかうかしていたら足元を掬われかねないな、これは。




