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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『お返し』

 手を閉じたり開いたりして動きを確かめる。


 かなり痛かったぞ。我ながらよく悲鳴を上げなかったな。


 アルヴァンはなおも剣を振り回して斬撃を飛ばし、非情の惨殺を繰り返す。


「貴様ッ、自分がなにをしているのかわかっているのか!?」


 勇敢な奴もいたものだと感心するのも束の間、誰なのか理解してため息をついた。


 他でもない、キルミエントだった。


「それを奪ってどうするつもりだ」


 斬られるかもしれないのに堂々としている。周りの護衛は血を流して倒れ、目覚めないのは確かめなくともわかる。


「魔王様にでも献上するさ」

「魔族の手の者か」

「さぁてね。判断は好きにしな」


 俺はあんな飄々とした態度の奴は知らぬぞ。

 ルシファーくらいしかな。


 と言うことは、魔族と人間の争いを望む輩になる。


 戦争が早く到来するのは悪くないが、他者に良いように操られるのはお断りだ。


 お返しついでに目的を聞かせてもらおうか。


「およ? オマエどっかで……あー、この国の五老公にいたなぁ。いや、今は一人が裏切ったから四老公か?」

「ここで暴れたんだ。ベリアルが黙っておらんぞ」

「オマエが強がる理由はそれだな」


 ニヤリと嘲笑を浮かべるアルヴァンに、俺は眉を歪めた。


「無駄無駄。ベリアルは何もしないよ。むしろオマエたちが死ぬのを望んでるくらいさ」

「ば……バカな……」

「勝手に大丈夫だって決めつけちゃダメじゃないか。来世ではしっかりとしなよ。じゃあ、ばいばい――」


 弧を描く剣――刀が無慈悲にも振り下ろされる。


 シグマの情報が正しければキルミエントに戦闘能力は皆無。


 護衛を失った奴に、あれを防ぐ手立てはない。


 それでもなお、キルミエントは逃げも隠れもせずに振り下ろされる刀を睨み付けた。――否。彼の瞳が映すのは刀より先にあるもの。


 そう、アルヴァンの顔だった。


 己が身が朽ちようと、決して恨みは忘れることなかれ。


 恐怖よりも憎しみ、悲しみよりも怒り。


「――は?」


 理屈なんてものがあったのか、理由なんて本当に必要なのか。

 そんなものはどうでも良いではないか。


 俺が、そうしたいと思った。


 ただそれだけで十分だろう。


「――うるさいよ」


 結果、刀は振り下ろされなかった。


 間に割って入った人物によって。


「へぇ。オレの刀を受け止められるヤツがいるなんてな」

「自惚れとは笑わせてくれる」


 ギリギリと互いの武器が擦れる音が耳に届けられる。


「じいさん。お前はさっさと失せろ」

「無礼者め……礼は言わんぞ」


 足音が遠退いていく。


 身を翻して出口へと向かったのだろう。


 それで良い。こうも素直に言うことを聞いてくれるとは悪くない誤算だ。


「なんだ? あいつらを逃がそうってか? はあー、だーかーらー無駄なんだってば。この会場には結界が張ってあって、オマエら程度の力じゃ出られないの」

「それに仲間が逃げようとしている連中の中に混ざっているから、どう足掻いても生き残れない――そう言いたいのか、小僧」


 飄々と常に余裕を持っていた表情が険しくなる。


「勘違いをしているようだ。仕方ない、特別に教えてやろう」

「いいぜ、聞いてや――ッ!?」

「先に礼儀を教えてやるよ」


 急に顔を床に叩きつけるアルヴァンは困惑しているようだ。


 手足もまともに動かせず、まるで全身に重石をつけられたように床にめりめりと音を立てて食い込む。


「がっ、ああっ!」

「おいおい、まだ序の口だ。へばってもらっては困る」


 これはお返しだ。


 偶然であろうと俺の腕を飛ばし、俺の仲間を斬ろうとした罪への罰だ。


「アルヴァンとか言ったな。お前は仲間が大切か?」

「……知るかよ」

「なら、死んでも構わないのだな」

「なにッ、ま、待て!」

「例えば敵が今のお前のように命乞いをしたとして、それを承諾するのか?」


 指を鳴らす。


 すると、逃げ惑っていた人物の一人が、身体を突き破るように体内から現れた十字架によって弾けとんだ。


 悲鳴が上がるのを気にせず、俺は床にめり込むアルヴァンを見下ろした。


「もう一度問おう。仲間は、大切か?」

「くっ……大切だ。これ以上殺したら――」

「赦さない、か? 下らんな。お前風情の恨みを買ったところで、今までの何ら大差はない」


 睨み付ける眼差しを真っ向から受け止めた。


「残念だったな。お前らより俺が強かった、それだけだ」


 淡々と事実を告げる。


 アルヴァンは未だに抗うのをやめようとせず、起き上がろうと歯を食い縛っている。


「案ずるな。もう憂さ晴らしは済んだし、直に解放される」

「仲間を殺したオマエを、オレは絶対に許さない!」

「やはりその程度(・・・・)なのだな」


 実際に俺はこいつの仲間を殺していない。


 なら、あの十字架は何なのか?


 魔法による幻に過ぎないのだ。それも見抜くことが叶わないとは思わなかった。


 あれだけ息巻いていた奴だ。

 幻などで騙されるとは思いたくなかった。それではあまりにも――つまらなすぎる。


「アルヴァン。お前の目的が何であれ、王国に歯向かう気があるのなら、もう少し強くならなければな。こんなのでは到底ギルシアのもとへはたどり着けぬ」


 ため息混じりに教えてやる。


 キルミエントを殺そうとしただけで、王国に歯向かうと決まったわけではない。


 本当に単なる気まぐれだ。


「べリアルとどんな企みなのか、それはそれで気になるが……またの機会としよう」


 何事となかったかのように平然とした態度で舞台上を進み、今日の一番の注目の品を前に足を止める。


「これが欲しいのだろう。取り返しに来るが良い。いつでも待っている」


 〈竜心結核(ドラグライト)〉を手に取り、アルヴァンに翳して見せつける。


「俺はノルン。あー、これはべリアルにも言ったがお前にも言っておこう。俺の仲間に手出しするなら容赦はしないから覚悟をもってことに当たれ。――ではな」


 そう言い残して〈転移法(テイル)〉で仲間たちのもとへと転移した。

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