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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『第三者』

「「――見つけた」」


 同時にふたつの口から放たれた言葉。


 俺はにわかに信じられなかった。


「本当かよ」

「では、同時に場所を言おう」


 提案を頷いて承諾する。


「「3列目の右から2番目」」


 俺とシグマは互いに口角を上げた。


「よくもまあ本当に見つけるとは……」

「私が何度あの忌々しい姿を見たと思っている?」

「これは俺の負けだ。明日は楽しみにしておけ」


 目視で俺の魔法に並ばれたのだ、敗北を認めざるを得ない。


「あの男は、貴様の目にはどう映る」


 真面目な表情で訊いてきた。


 腕を組んで少し思案してから答える。


「思ったより賢そうだ。護衛は両隣に2人、壁際に5人。貴族なのに随分質素だ」


 ()は濁る手前と言ったところか。


 人として腐る直前の状態だ。

 あそこまでいけば、時期に完全に濁るのも時間の問題。


「賢い……いや、狡猾の方が相応しい」


 と、首を横に振って否定する。


「あいつは自らの血を後世に残すために、夜な夜な気に入った者に迫っていると聞く。大量の金品を渡してその事実を黙らせる手回しまで抜かりない。腹立たしいほどに」


 怒りに眉を寄せてシグマは拳を握りしめる。


「貧困層を狙って金で解決ね」


 狡猾の方が相応しいな。


「お待たせいたしました!!!」


 空気が重くなっている俺たちを吹き飛ばす勢いでセントが一際大きな声を出した。


「本日の目玉の品の登場です! これのために今この場にいる方も多いのではありませんか?」


 そこで一旦止めて、大袈裟に空気を吸う素振りを見せる。


「ついについについに――〈竜心結核(ドラグライト)〉のとうっじょうっだあああああああ!!!」


 観客は下手に声を上げたりしない。代わりに拍手で賑わせるのだ。


 当然〈竜心結核(ドラグライト)〉ともなれば、今日一番の音が会場に響き渡るかに思われた。


「あれが……」

「そのようだ」


 初めて見る〈竜心結核(ドラグライト)〉にシグマですら息を呑んだ。


 防犯のためにガラスケースの中に収納された赤い結晶。

 結晶の中心にはさらに濃い深紅の球体が躍動していた。


 まるで、まだ生きた心臓であるかのように。


 故に会場を支配したのは雑音を消し去った静寂。

 目の前に存在する竜の心臓に、誰もが見惚れたのだった。


「……素晴らしい」


 男の感嘆の呟きを皮切りに我先にと値札を掲げ、金による争奪戦が始まった。


「貴様はやらないのか?」

「興味ない。魔力の保有は十分だし、新しい魔法も自分だけで事足りる」


 〈竜心結核(ドラグライト)〉がここまで欲される理由の一つは魔力の供給源になるからだ。


 しかも砂漠を緑豊かな地へと変えるとまで例えられる高純度のものなのだから、喉から手が出るほど欲しがるのは至極当然。


 魔法研究、魔力増強と使い道はいくらでもある。


「お前こそいらないのか? あれを使えば捗ると思うが」


 バルログナとシャロンを引き離したりする魔法の開発についてだ。


「必要ない。仲間を信じているからな」


 恥ずかしいことを恥ずかしげもなく堂々と言いやがった。


「――さぁて、そろそろ始めようか」


 少年のものと思しきその声を聞いた途端、内に秘めたる本能がけたたましい警鐘を鳴らした。


 ――面倒なことが起こる。


 自然と俺の視線は声のした方へと向き、そこには黒いローブに見を包んだ者が席を立っていた。


「4色……?」

「いきなりどうし――」

「――へ?」


 シグマは自主的に言葉を途中で止めざるを得なかった。


 何故なら司会と進行役のセントが間抜けな声を上げた次の瞬間には真っ二つに両断されたからだ。


 予想が悪い方で的中した瞬間だった。


「おろ? ほんとに死ぬなんてな。司会だからもっと強いのかと思ったのに、つまんないの」


 会場を再び静寂が支配する。


「キャアアアアアアッ」


 そして、数秒の静けさの後に女性の叫び声がこの場にいる全員に現実を理解させた。


「アハハハ、すごい声」


 混乱と恐怖が皆の心を染め、彼らはオークションを放棄して席を立ち上がり逃げ始めた。


「逃さないって」


 少年がそう言ったからなのか、会場の唯一の出入口の扉は固く閉ざされたままだった。


「開けろ! ここから出せ!」

「私を誰だと思っているんだ!」

「俺が先だ!」


 自分が一番偉いんだ。生き残るべきだと他者を蹴落としてまで命を欲する者たちが扉に殺到した。


 それを嘲笑いながら黒ローブ少年は軽快な足運びで席から席へと跳び、まもなく舞台上へと降り立った。


「…………」


 仮面の集が焦る中、俺はとある疑問を抱いていた。


 開催者(ベリアル)の部下が惨事を止めようとする様子がないのだ。


「罠、か」

「妥当な考え」


 目的はわからないが、初めから観客を閉じ込めるつもりだったのだろう。


 喧騒をよそに、黒ローブ少年は〈竜心結核(ドラグライト)〉を手に入れて懐にしまった。


 あれの入手のためだけに閉じ込めたとは思いにくい。


「作戦を次の段階に移行」


 正面をこちらに向け、左半身をすっぽり隠したローブの姿と顔を見せた。


「――シグマっ」


 咄嗟にシグマを突き飛ばす。すると、斬撃が会場を横断して軌道上の全てを斬り裂いた。


 座席も逃げ遅れた人も――俺の腕もだ。


「騒ぐなよ、オレの話を聞けって」


 弧を描いた武器を右手に握りしめていた。


 恐怖のあまり黙り込む仮面の観客たちを見てニヤリと口角を上げて話を続けた。


「いいね。自分たちの立場をよくわかってる。オレの名前は――アルヴァン・N・オーレディア。今からこの会場にいる全員を殺すから」


 アルヴァンと名乗った少年は、この場にいる全員の死刑宣告を言い渡した。


 俺の片手首からは血が止めどなく流れ出る。


「お前をリュウヤたちのもとへと転移する」

「待て。仲間を傷つけられたのに、私に黙って退けと言うのか」

「この程度、舐めれば治る。嫌な予感が的中したのだ。アカネがいるから大丈夫だとは思うが、より確実性が欲しい」


 悩む素振りを見せ、頭を掻いてからやけくそ気味に承諾した。


「受けよう。その代わり、絶対に生きて帰ってこい。旅はまだ終わりではないんだ」

「肝に命じておくよ――〈転移法(テイル)〉」


 転移阻害が施されていたが、俺なら抜けるのは容易い。


 魔力を追って無事にリュウヤたちのもとへと転移したようで胸を撫で下ろす。


「ここからは俺の番だ」


 見事な切断面で斬り飛ばされた手を回復魔法で再生させながらアルヴァンとやらを睨んだ。

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