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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『出品』

 重い扉を開けた先には、薄暗いながらも豪勢な造りの景色が広がっていた。

 雰囲気はバーや飲み屋に近い印象だ。


 それこそ、飲み物や食べ物を用意している店が壁際に建ち並ぶ。


 仮面をつけた男女様々な人物が歓談を楽しんでいる。


 どうやらここは会場の手前、交流の場なのだろう。


「まだ昼間なのに、やはり地下だと暗いな」

「素性の選択を妨げる意味も含まれているのだろう」


 ほぉ、一理ある考えだ。


 新客の俺たちに視線が注がれる。


「手練れが多いな」


 顔や素性を隠しても、足運びなどである程度の実力は図れる。


 シグマの言うように、そこかしこになかなかの実力者がいるのは間違いないらしい。


「会場は……あっちだ、行こう」


 歓談に浸る気は更々なので、案内板に従ってオークション会場へと急いだ。


「――ちょっと待ちなよ、そこのお2人さん」


 見知らぬ声が背中に投げ掛けられた。


 何か聞こえたが、別の誰かに向けた言葉だろうと振り向きもせずに歩みを進める。


 すると、声の主が業を煮やしたのか「おいっ」と肩を掴んできたので、


「――え」


 無礼者の身体が空中を一回転させた後に床へと叩きつけた。


 掴んできた手と腕を基点に投げ飛ばして上げたのだ。


「な……え……」


 可愛そうに。


 状況が理解できないのか、床に転がったままで瞬きを繰り返している。


「気安く触るな。次は殺す」

「ヒィィッ」


 絡んできた奴は、殺気をぶつけると大人げない悲鳴を上げながら去っていった。


「逃げるなら始めからやらねば良いのに」

「未知なる品を前に、気持ちが昂っているのだろう。酒を嗜んでいたようだしな」

「てっきり追い出されるかと思ったが大丈夫だな」


 壁際に立っている執事服連中の様子を伺ってみるも、見て見ぬ振りをするつもりのようだ。


「それとも、この程度は日常茶飯事なのかもしれぬな。周りの連中も全然気にしていない。武器携帯許可の意味がわかったな」


 護身のためなら騒ぎは構わないと。


 やれやれ、もとは俺自身が望んでいたと言えど、面倒なところに招待されたものだ。


「――皆様。ご歓談のところ大変申し訳ございません。まもなく本日のオークションが始まります。参加される方々は会場への移動をお願いします」


 部屋の一番奥にある大きな扉の前に立つ、門番として俺たちの相手をしたフォンブルがそう伝えた。


 拡声魔法を使用しているようだ。


 慣れているのだろうな。

 大き過ぎずに小さ過ぎない音量だった。


「お、ついに始まるぞ」

「今日は何が買えるかの」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ」


 未だ見ぬ品を求めて部屋に散らばっていた仮面の者たちが一斉に吸い込まれるように、フォンブルが開いた扉の奥へと消えていった。


「俺たちも行こう。油断するなよ」

「貴様こそ」


 互いの拳の側面を軽くぶつけ、俺たちも扉を抜けた。


「ようこそお越し下さいました、紳士淑女の皆々様方。今宵も様々な品々を用意しております。存分に吟味し、楽しんで、買っちゃいましょう!!」


 舞台を下に、客席が斜面に配置された劇場のような構造が広がっていた。


 明かりは通路の僅かなものと、舞台上のもののみ。


 オークションの品物を見やすくするためだ。


「そして、本日の司会、進行を務めさせていただきますのは、常連の方々はもはやお馴染みのわたくしでございます。初めましての方に向けて自己紹介を。わたくしはセントと申します。以後お見知りおきくださーい」


 各々が好きな席に座る。

 一番の特等席の前列は早い者勝ちというわけだ。


 なるほど、それで我先にと入っていったのだな。


 にしても、愉快な髪型の司会者がいたものだ。前方に飛び出しているではないか。


「お前は目が良いか?」

「無論、夜目もきく」


 元隠密部隊だものな。

 訊くまでもなかった。


「なら俺たちは立ち見だ」

「座らないと」

「妙な胸騒ぎがしてな、立っていたい気分なのだよ」

「それなら仕方ない」


 最後尾の客席と壁の間の通路で俺たちは立ち見を選んだ。


 他にも何人か立ち見をする者もいるようだ。


「俺は魔力探査でキルミエントを探す。お前は自慢の夜目で探してくれ」

「言うではないか。どちらが先に見つけるか勝負としよう」


 認識阻害の仮面をつけている奴を、もしも目視で見つけられるのなら苦労はしないのだが……。


「その勝負乗った。明日の夕食を賭けよう」

「よし」


 そうこうしている内にもオークションは始まり、


「本日の一品目はこちら」


 舞台上に運ばれてきたのは古びて錆び付いた剣だった。


「皆様もご存じ、あの英雄ゼノンが稽古に使用していたとされる剣でございます! これで鍛えればもはや英雄も同然。次に歴史に名を残したい方は是非購入してみてはいかがでしょうか!!」


 髪型が気になって説明が耳に入ってこない。


 じっとせずに激しく動くから、ぶるんぶるん揺れて余計に目立つのだ。


「いかんいかん」


 首を振って雑念を消し去る。


 キルミエントを見つけることに集中せねば。


 事前にシグマの記憶からどのような人物かは把握しているから、会場にいるのが数100人を越していても難しくはあるまい。


 隣ではシグマが鬼の形相で客席を睨み付けている。

 本気で目視で見つける気のようだ。


 相変わらず真面目な奴め。


 俺も負けていられないな。

 ここは先に見つけて実力の差を教えてやろう。


「さすがは英雄が使っていた剣です。わたくしの予想を越えた額が出ました!」


 こちらの企みなど何処吹く風。


 オークションの品は次々と運ばれ、その度にとんでもない額で落札されていった。

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