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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『オークション』

「わかりきっていたことだが、知らない人物はいなかった」


 シグマはその光景を思い出すように目を閉じた。


 商業都市テイネメクオの地下で秘密裏に行われるオークションがある。全然隠しきれていないのが事実だ……。


 しかし、出品される品は地上で売られているものよりも確実に価値が違う。逸脱していると言っても良いほどだ。


「だろうな。裏なんて言葉はただの建前。実際は隠す気など全くない一攫千金のための売買場だ」

「その歴史の中でも目玉の品が今回出品される〈竜心結核(ドラグライト)〉」

「お目当てのそれを買おうと、わざわざ王都から訪れる奴だ」


 シグマと同じ王国の五老公の一人――キルミエント・ダグレーン公。


 ――無類の宝石好きが竜の心臓が結晶化した品を見過ごすわけがない。


 次の目的地を何処にしようかと悩んでいた時に、シグマがその話をしてくれた。


 今のところはどのような人物なのかをこの目で実際に確かめたいが一番の理由。あわよくば仕留めるか、などと考えていなくもない。


「王族だろうと貧民だろうと、金さえ出せば買える。その徹底振りは素晴らしいと称賛するよ」


 金を支払えば、オークションに出された者なら誰でも購入できる。買い手が素性を関係なしに、平等で品物の売り買いを行うのだ。


 地下オークションでは金が全てである。


 だからこそいくら五老公の一人と言えど、直接本人が足を運んで競り合わなければならなかった。


 不正即ち死を意味する。


 地下オークションの暗黙のルールだった。


「貴族を殺しても国からのお咎めなし。国すらルールを守らされるのは、オークションの開催者が強すぎるから。逆らえば国の存続が危ぶまれるから……本当なのか?」


 にわかには信じられない情報の真偽を尋ねてみると、シグマは首を縦に振った。


 傲慢な国王にさえ承諾をさせる強さ。

 噂だと〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉序列1位――ギルシア・S・アイオンにも負けずとも劣らないのだとか。


 ギルシアとの決定的な違いは、素性、容姿、どんな魔法を使うのか情報が皆無に等しいとこだ。

 開催者が人の前に姿を現す事自体が稀で、その貴重な機会も愚か者を殺す直前のみ来た。


 つまり、関係者でも開催者の姿を拝めるのはごく一部の人物だけ。部外者で姿を見ようものなら死が待っていると。


「名をベリアル。本名は不明。男である可能性が高い。シェナですらこの3つしか情報を得られなかった」

「シェナ……あの情報屋だな。貴様が認めた相手だ、相当腕が立つのだろうが、この場合は3つでも上出来と称賛するべきだと思うぞ」


 まったく、シグマに同感だ。

 生きて情報を持ち帰っただけで感謝すべきだ。


 ほんと、凄い奴だよシェナは。


「こっちはほとんど収穫なし。相手はこちらの存在を認知したらしいがな」

「わかるのか?」


 首を傾げてもっともな疑問を投げかけてくる。


「わざと俺がわかるようにしていやがる。力量を探っているのだろうよ」


 騎士団長ミリエフィールとの邂逅以降。


 4人が俺を囲むように四角の陣形で尾行してきた。今も俺がその四角の中心に位置している。


「外の4人のことか。たしかに、気配も魔力も隠していない。にしてもあからさま過ぎないか?」

「裏の人間が考えることなど、俺にはわからぬよ」

「ここにもしばらく滞在するとして、私はまた子どもたちの護衛かな?」


 肩に乗るミニバルログナの顎を撫でて微笑みを浮かべる。


 内容には皮肉が込められているのが気になるが、何度も頼んでいるので甘んじて受け入れよう。


「いーや。予想が正しければ護衛ではなく、俺とペアで行動だ。もし、護衛がお望みなら無理にとは言わないが?」

「その予想が当たるのを望む」

「ははは。あいつらの相手はそんなに嫌か?」


 懸命に願う姿を見て苦笑してしまう。


「嫌とは言わない。ただ……」

「心労が絶えないと」

「わかっているのなら聞くな」


 怒られてしまった。


 ミニバルログナは楽しそうに笑っているようにも見える。

 普段から表に出ているのはシャロンの意識だ。


 どんな風の吹き回しでプライドの塊のバルログナとシャロンが和解したのか非常に気になるが、どうやら上手い付き合い方ができているらしいので一安心だ。


 こうしてシグマの肩に乗って穏やかな姿をすっかり見慣れてしまった。


「なにをヘラヘラしている。私は貴様に皮肉を言っているのだぞ」


 またも怒られてしまった。


 だがな、シグマ。

 お前には悪いがこういう何気ない会話を俺は楽しんでいるのだよ。


 だからもし、お前やリュウヤが立ちはだかった時、俺は躊躇わずに殺せるかどうか。時折不安になる。


 殺す以外の選択肢もあるかもしれないと、つい思ってしまいそうなのだよ。


「お、そうだシグマ。バルログナを一緒に連れて行くなら注意しろ」

「おい、まさか貴様、オークション会場に行くつもりだと」


 よくこんな少ない言葉から察するものだ。


「お察しの通りで」

「寝首をかかれないよう、注意することだな」

「信頼にたる仲間がいるのでご安心を」

「……ハァ。私は2度とシャロンと離れる気はない。信頼する仲間が守ってくれるだろうからな」


 皮肉を言い合い、そして2人で笑い合った。


 旅をしている間は、守るなと懇願されても守るから安心したまえ。

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