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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『商業都市』

 魔力酔いによって高熱を出していたリュウヤの容態も落ち着き、すっかりやかましさを取り戻した。


「す、す、す……すんげええええええ!!!」


 なので延期していた〈エルファムル連合国〉からの出発もこうして叶った。が、俺は思う。


 こいつは病気で床に伏しているくらいが丁度良いのではないかと。


「やはりこうなるよな……」


 両手を高らかに上げてはしゃぐ少年の背中を、諦めを込めた眼差しで見つめる。


 俺たちが到着したのは、商業都市――テイネメクオ。


 貿易都市とも呼ばれ、他国……といっても表ざっては人間国に限るのだが、裏では他種族とも闇取引を行っているとされる商売の都市だ。


 そして、この都市の一番の目玉で、リュウヤの興奮の原因でもあるのは――魔道具だ。


 魔法と異世界の技術、機械と言うものとの組み合わせで、この都市は世界で最も技術力が高いと有名なのだ。


 なのでリュウヤ少年が幼な子のようにはしゃいでも、この程度では騎士は微笑ましく眺めているだけだった。


「リュウヤのように騒ぐ者は、ここではそう珍しくない」


 落ち着いた口調でシグマが俺の推測を確信にしてくれる。


 まぁ、気持ちが昂るのもわからなくはない。

 俺とてそこかしこに建ち並ぶ店から顔を覗かせる見たこともない道具類が気になって仕方ないのだから。


「なぁ、ノルン。探検してきてもいいか!」


 急に駆け寄ってきて何事かと思いきや、リュウヤは開口一番にそう提案してきた。


 周辺に視線を移し、魔法で変装している他種族がちらほらいるのを確認する。


 技術が発達していれば、それを真面目に売り買いする者もいれば、奪い取ろうと画策する連中もいるのは当然だ。


 故にこの都市では暗黙の了解がある。


 ――自分の身は自分で守れ。


 まぁ、これはこの都市に限った話ではないのだが、誘拐や行方不明、殺人などがここではあとを絶たないらしい。


 更には騎士も暗黙の了解があるせいでまともに役割を機能していないと聞く。


「……構わない」


 きらきらと未知との遭遇への期待に満ちた眼差しへと向き直り許可を出してやる。


 どうせ止めてもいなくなるだろうと思ったからだ。


「ただし、危ないと思ったらすぐに逃げろ。好奇心に負けて死なれては困るからな」

「大丈夫だって。俺だってそこまで馬鹿じゃないってばー」


 にへらと無邪気な笑みを見せて親指を立てるリュウヤ。


 馬鹿が人の形をしている奴が何を言っているのやら。


 こいつにここに来た目的を話さなくて正解だったと安堵する。


 何を隠そう。リュウヤ以外の全員には話してあるのだ。


「――となると、皆まで言うな。私が護衛につけと言うのだろう?」


 まだ言っていないし、視線も体も向けていないのに、先駆けてシグマから呆れ気味に問われてしまう。


 もう何度目なのだろうな。

 こうして冒険と称して駆け回るリュウヤに護衛としてシグマを同行させるのは……。


 少なくともシグマが察するほどの回数を繰り返したのは間違いないだろう。


「すまないな。カグラもよろしく頼む」

「大丈夫。私もリュウヤと一緒の方がやりやすいもの」


 リュウヤのあとを追うカグラにも一言添えておいた。


「――シグマ。そっちには5人だ、気を付けてな」

「貴様こそ」


 こうしてリュウヤを先頭に、カグラとシグマの3人が別行動となった。


 〈エルファムル連合国〉を出てから数日後には尾行されていた。


 しかもその人数が多いので、いつ襲ってくるのやらと待ち構えていたのだが全然その気配がなかった。

 偵察、監視だけを命じられているようにだ。


 ひとまず馬車と馬を宿屋に預けて護身用の結界を施し、俺たちも都市を散策することにした。


「あれなんか面白そうではないか?」


 注目の的が魔道具なだけで、商業都市の名は伊達ではなく日用品から武器まで様々な店が建ち並んでいた。


 全ての店を見て回るだけで何日もかかりそうだ。


 その中の一つ。髪飾りなどの装飾品を取り扱う店に立ち寄った。


「おやおや、これはお似合いの夫婦(めおと)さんじゃあないか。娘さんもかわいらしいねぇ」


 奥からしわがれた声で来店を歓迎する老婆が顔を出した。


「ああ。自慢の妻と娘だ」

「ちょっ――」


 俺が言った途端に耳まで真っ赤にして振り向くイーニャを宥めながら店を見渡す。


 周りの店よりも悪く言えば殺風景やら素朴な店造り。

 だがそれが逆に風情を感じさせて、朗らかな老婆と相まって悪くない独特の雰囲気だった。


「店主よ。不老長寿のお守りとかはないか」

「ふぉっふぉっふぉ。わしへの皮肉かい。そんなものがあればあんたらに売る前にわしが使ってべっぴんでおるよ」

「ご冗談を、店主はまだ若いだろうに。なら、娘に似合う髪飾りを見繕ってくれないか?」


 冗談や比喩ではなく、この老婆は幻で姿を偽っているまだ年若い少女だ。それもかなりの熟練度の高い魔法だ。


 並の魔法使いではまんまと騙されるだろうな。


 若いとなめられるから、あえて老婆の姿でいるのか。


 ……いや、詮索はよそう。これ以上面倒事に巻き込まれてはグリムに怒られる。


 ただでさえ、この都市を訪れた目的が目的なのだから。


「その子にかい。……これなんかどうだい。厄除けのまじないが施された品だよ」


 店主が差し出してきたのは鷹の形をした銀色のシンプルな造りの髪飾りだった。眼の部分には緑の宝石のようなものが付けてある。


 僅かだが魔力を感じる。

 まじないの話はあながち嘘ではないようだ。


「……」


 じっと眼の部分の宝石を見つめるアカネ。


「気に入ったか?」

「…………」


 そう訊くと、振り向いてから視線を泳がした。

 本当に良いのかと迷っているのだろう。今さら遠慮する必要などないのにな。


 育ちの良さがわかるものだ。


「店主、それを買おう。いくらだ?」


 買い取った髪飾りをさっそくアカネにつけてみると、老婆の見立て通りよく似合っていた。

 値段を聞いた時、イーニャが「高っ」と口を滑らせたが気にしないでおこう。


 笑顔で見つめていると、恥ずかしそうにもじもじとするアカネだった。


「似合っているぞ、アカネ」

「うん、本当によく似合ってる」


 同意を示すイーニャも嬉しそうに笑顔になっていた。

 娘を見る母親の眼差しだ、とは言わないでおこう。


 今度こそ、照れるのではなく怒られそうなのでな。


「感謝するぞ、店主よ」

「気に入ってもらえて、わしも鼻が高いわい」

「ではな。機会があったらまた頼む」

「おきをつけて。いつでも、お待ちしておりますよ」


 そんな言葉を背中に受けて俺たちは店を後にした。


「――っ」


 アカネの嬉しそうな表情を、穏やかな気持ちで眺めていると突然殺気が肌に突き刺さった。


「俺の娘に剣を突きつけるとは、何の真似だ?」

「貴様こそ、その穢れた輩を庇うとはどういうつもりだ?」


 全くの躊躇なしにアカネに突き出された剣を素手で止めて、鎧に身を包む持ち主を睨み付ける。


 顔を覆い隠すような兜のせいで容姿がはっきりしないが、声だけで判断するなら女のようだ。


 どうやらそこら辺の安い剣ではないようで、魔法で強化した俺の手はいとも容易く貫かれている。幸い、切っ先はアカネに届かなかった。

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