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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『同行』

 レンフィアとグリムの会話が行われた翌日。


 フィーネとグリムは森の外へとたどり着いた。


「出たー!」


 元気な声が風のように突き抜ける。

 両手を広げ太陽の光を存分にその身に浴びる少女が一人。


 彼女こそがふたりを森の外へと案内してくれた恩人である。


「助かりました」

「……感謝、する」

「ううん、全然大丈夫!」


 自分に感謝を言うフィーネとグリムに、手を振って気にしないでと笑顔で返すシェナ。


 幼い頃からそこで駆け回っていたシェナにとっては、恐ろしいとされる森でも庭のようだった。

 こうして出入りができたのは、彼女の活発な幼少期の冒険の賜物だ。


「世界樹のあのほんわかした灯りもいいけど、やっぱり太陽も捨てたもんじゃないね!」


 語尾を強調して言うのと同時にフィーネへと振り返る。同意を求めるキラキラの純粋な眼差しに仕方なく頷きで返した。


 そんなふたりの仲睦まじい光景を眺め、グリムは腕を組んで思案する。


 レグルス(ノルン)以外に決して心を開かなかったフィーネをこんな短時間で手懐けるとは、もしやなかなかの実力者なのではないか。


 実際はシェナの自由奔放さにフィーネは振り回されているだけなのだが、もしも嫌いであれば斬り捨てているだろう。


 しかし、シェナはこうして無事に生きている。それこそが嫌っていない、悪くないと思っている証拠だ。


「ところで、シェナさんはこれからどちらへ行かれるのですか?」


 何気ないグリムの問いかけにむぅと唸るシェナ。


 しばらく思案した後に彼女は顔を上げ、グリムとフィーネの顔を見渡す。


「――もしよかったらだけど、ふたりと一緒にノルンのところに行きたいなって。だめかな?」


 一瞬キョトンとするグリムだったが、決めるのは自分ではないとフィーネに視線を向けた。


 そこには若干不満そうな表情の主の姿が。


 しかし、数秒後には諦めるように軽く息を吐いてから、


「……いいよ」


 と一言だけ答えて我先にと歩き始めた。


 あまりにも素っ気なさすぎて実感が湧かなかったのか、返答を聞いてからもシェナは無言でその背中を目で追った。


「姫様の許可が出ました。シェナさん、早くしないと置いていきますよ」


 固まる少女に微笑んで我に返るように促した。


 そこでようやく現状の理解が追いついたシェナが満面の笑みで歓びの声を上げ、一目散に先を行くフィーネに駆け寄った。


「ありがとうっ、フィーネちゃん!」

「――フィーネ」

「へ?」

「ちゃん、いらない。フィーネでいい」


 嬉しさにはしゃぎ回る情報屋の少女を宥めながら、グリムはふたりの姿を微笑ましく思っていた。


 賑やかな旅になりそうだ。


 新たに賑やか担当のシェナを旅のメンバーが増え、3人になったフィーネ一行。


「あっ、でもほんとにいいの? ワタシって情報屋だから、いろんな人に狙われてるよ。その点でご迷惑をおかけするかと……」


 はしゃいでいた時とはうってかわって、申し訳なさそうに俯く情報屋の少女は唐突に頭の上に手を置かれた。


「大丈夫」

「ええ、姫様の仰る通りです。盗賊や山賊、騎士団など、どのような方々が来ようとご安心を。今やあなたは私たちの旅の仲間ですから、敵の手にそう易々と渡すつもりはありません」


 無表情で励ますフィーネに続き、グリムも笑顔で言葉を付け加えた。


 あははと笑いを返すシェナだったが、本当は物凄く危ない人たちと一緒に旅することになったのではないだろうかと心配していた。


「それに、陛下に守られているのでしょう? 我々と行動を共にするのに加え、あの方がそう宣言したのなら堂々としていて大丈夫です」


 耳飾りを渡された時のことを思い出して、頬を赤く染めるシェナ。そんな彼女を疑いを込めたじとっとした眼差しで見つめるフィーネ。


「な、なんでもないよ、なんでも」


 言葉とは裏腹の慌てた反応にふんと鼻を鳴らされてしまう。


「それよりさ、次はどこに向かうのさ」


 無理やり話題を変えるべく次の目的地を尋ねた。


 頭の中の地図と照合して、グリムはこの進行方向ならどこにたどり着くのかを推測する。


「最終的な目的地なら決まっていますが、道中は姫様の気まぐれとしかお答えできません」

「気まぐれ……? それってどういう意味なの?」

「そのままの意味です。ここまで姫様は迷いなく真っ直ぐに進んでいるので、おおよその推測ができる程度なのです」


 いままでの道中の出来事を思い出して苦笑しながらグリムは説明した。


「シェナさん。姫様を甘く見てはいけませんよ。絶対に目を離さないでください」


 いつになく真剣な表情で言われたので、シェナは思わず頷いてしまった。


「お恥ずかしながら、私でも時折見失ってしまうことがあるので、ご協力をお願いします」

「……はい」


 〈長耳族(エルフ)〉の国の皇帝であるシェナのレンフィア(父親)が認めるほどの実力者のグリムすら見失わせる。


 そんな意味不明に近い人物を見失うなと言われ、半ば不可能ではないかと考えつつも了承する。


 なぜなら旅の仲間になったから、その責任が自分にはあるのだと意気込んだのだ。


 そして、旅をしている内にシェナは知ることになる。


 自分が可愛いと思っていた相手が、とてつもない人物であった事実を。

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