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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第六章 魔王の一人娘
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『素直』

 〈エルファムル連合国〉の城の一室。


 窓から暖かい陽光が差し込み、部屋の居心地をよくしてくれる。


「まさか、そなたが他者と行動を共にするとはの。相手が人間ならば驚きは倍じゃ」


 本当に信じられないとメリーは苦笑する。

 グラスの形をした、古風な見た目の陶器に注がれたお茶を口に含んだ。


「フンッ。年中城に引きこもってるあんたにだけは言われたくない」

「うぐっ。わらわは王として民を守らねばならぬからの。暇を持て余すそなたと同じではない」

「…………」


 仲が良いのか悪いのか。


 メリーと人型バルログナの言い合いを聞き流し、湯気が漂うお茶が飲むと体を内側から温めてくれる。


 隣ではシグマがどうすれば良いのか方法を探っていた。

 一見、落ち着いている風だが、内心では戸惑っているのだろうな。


 大切で大好きなシャロンの身体を、今はバルログナが使用中である。


 しばらく残ると伝えに行った矢先――話がある、とこのふたりを連れて来てほしいと頼まれて現在に至る。


「お前たちは知り合いなのか?」


 このままではシグマの精神が危ぶまれるので、論争に口を挟んだ。


 ギリッと睨まれる。


「うむ……因縁の相手、と言うべきかの」

「因縁ねぇ。となると、気まぐれバルログナが暴れて、その対処をメリーがした。お互いに実力が拮抗して、良い勝負で相手を認めようとしたが、プライドがそれを許さなかったから会う度に口喧嘩をしてしまう――そんなところか?」


 瞳に宿るのが邪魔物への怒りから、驚愕へと変化していく。


 ふたりの性格から鑑みて適当に予測したのだが、この反応はどうやら良い線だったらしい。


「あんた……まるで見てきたみたいな言い方ね」

偶然(たまたま)だ。数を撃てば当たるのと同じだろ」


 ――見てきた(・・・・)


 その可能性を完全には否定できないのだよな。

 記憶を失った者とは、さすがに慣れてきたがやはり不便な時が多い。


 そのくせ、変に片鱗がちらりちらりと見え隠れするのだから対処には精神力を使う。


「バルログナと竜人姫(メリー)が争ったなんて聞いたことがないぞ」


 やっとシグマが喋った。


「ライスターが手を回したのだろう。おおかたその戦いでメリーが力を使い、情報を外部に漏らさないようにとの理由でな」

「そなたよ、本当に見ていないのよな」

「記憶にない」


 それぞれの種族には最強がいる。

 他種族への牽制の意味も込められて名前を開示している場合や、その実力故に知られた場合の2パターンだ。


 〈獣人族〉ならライスターやメリー。

 〈魔族〉なら〈魔王〉。

 〈鬼人族〉なら紅蓮・須皇。

 そして〈人間族〉ならギルシア・S・アイオン。


 中でも代表的なのはこいつらだろう。

 世界で最も有名な人物たちだ。


 〈魔王〉は名前が示す人物が変わるが、やはり選ばれるだけの実力の持ち主として警戒されているようだ。


 ……そういえば、〈長耳族(エルフ)〉にも種族最強がいたな。

 たしかに〈ファンヴァース帝国〉の現皇帝――レンフィア・クライエル・ファンヴァース。

 通称〈世界樹の番人〉と呼ばれる、歴代最強と吟われる人物だ。


 そして、この最強たちには共通点がある。


 それは至極単純なもので、どんな能力を持っていてどんな戦い方をするのかの情報が極端に少ないのだ。

 理由は敵として対峙した相手が悉く死んでいるか、記憶を弄ったりなど、そもそも情報を持ち帰ることが叶わないらしい。


 中には知られても構わないとしている奴もいるがな。


「何となく予想はついている、と伝えておこう」

「やはり、そなたはいじわるだのう」

「そのいじわるな男に求婚して、挙げ句の果てにフラれたのはどこのどなたかしら?」

「ぅっ……」


 こらこら、あまりメリーをいじめてやるな。

 泣きそうな顔になっているではないか。


 単純な強さなら既に〈獣王〉を越しているであろう〈竜人姫〉も、まだまだ幼い年頃の女の子なのだ。


「まったく、貴様と行動するようになってからと言うもの、何度驚かされたらいいんだ。これでは心臓が保たないぞ」

「お前みたいな奴が、そんな脆い心臓や精神なわけがあるか」

「人を見かけで判断するのはよくない」


 したり顔で言ってくるから、余計に腹が立つ。


 握った拳と沸き上がる苛立ちをぐっと堪えていると、メリーが唐突にふふふと笑いだした。


「どうしたのだ?」

「ん、ああ、いやなに。そなたらは誠に不思議な(えにし)じゃと思ってのお」


 俺たちを見渡しながら〈竜人姫〉は微笑む。


王国の守護者(シグマ)三大魔獣の一柱(バルログナ)混血種(アカネ)勇者のふたり(リュウヤとカグラ)、そしてノルン(そなた)


 そこで言葉を一旦切って、一息ついた後に再開した。


「形容しがたい組み合わせ。じゃが、そなたらは仲間として共に旅をしておる。いがみ合おうと対立はせぬ。わらわには、それが羨ましくてたまらんぞ」


 微笑みから悲しさを感じたのは気のせいではないのだろう。


「――旅がしたいのか?」

「…………叶うならの、してみたい」


 数秒の躊躇いの後に呟くように答えた。


 王としてではなく、一人の少女として友に見せる素直の感情。


 アカネの影響もあってか、俺はこういう表情(かお)に弱いんだよなぁ……。


「そうさな。世界がもう少し平和になったら、俺たちと一緒に来るか? もちろん無理強いはしない。他にも獣王の意見を聞いたり、この国の守りも鑑みてからなどと条件は山積みだがな」


 俺を見上げる少女に告げる。


「楽しいことだけではなく、辛く悲しいこともあるだろう。たとえどんな困難が待ち構えていようと立ち止まらない覚悟があるのなら、俺はお前を連れていく。どうする、メルリツィア」


 そんな少女の瞳を真っ直ぐに見つめ返して名前を呼ぶ。


「――ッ! ……ぅ、うむ。よいぞ。わらわを連れていってくれ」

「喜んで」


 すると視線どころか顔まで逸らされてしまった。


 おやおや、耳が真っ赤ではないか。と弄ったらどんな反応をするのやら。


 そう思いながら、差し出された手を取った。


「おい。目の前でイチャイチャしないでくれるか。見ているこっちが恥ずかしくなる」


 俺とメリーの間の華やかな空気は、バルログナの皮肉で呆気なく崩壊する。


「悪いな。当然お前も一緒だからな」

「なっ、なんでだよ!」

「決まっているだろ。俺がお前に勝って、お前は俺に負けた。理由として十分だと思うのだが?」


 お返しをお見舞いされて不機嫌そうにため息をついた。


「仕方ないな。けど、次は絶対に勝つ」

「望むところだ。負けるつもりはないがな」


 それからたくさん話をして俺たちは大いに盛り上がって穏やかなひとときを堪能した。

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