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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『可能性』

「ハッハッハッ。迷え、悩め。それが若者の仕事だ。その果てに自らの道を見出だせば良い」


 にこっと笑顔になる獣王の後押しもあり、リュウヤの緊張がほぐれていったように見えた。


「勇者である貴様には、使命や宿命、他者からの期待がのし掛かるであろう。しかし、貴様は同時に一人の意思を持つ人間だ。自らの目で、心で事実を見定めた上で選択をすれば良い」

「――うん」


 ゆっくりと首を縦に振るリュウヤに、最後に忠告を付け加えた。


「ただし! 選択には自ずと責任が伴う。揺るがぬ覚悟をもって事にあたれ。生半可な覚悟では大切なものを失うきっかけにもなり得る。それを忘れず、進むことをやめない。さすれば霧は晴れようぞ」


 リュウヤには少し難しい言い回しのようにも思えたが、言葉の意味が、というよりは気持ちが伝わるのが大事なのだと勇者の表情が物語る。


 何故なら弱々しかった背中が、しっかりとした意思を取り戻していたからである。


 俺にはできなかった激励を前にして、少しだけ歯痒い気持ちを感じてしまった。


「なぁ、ライスター」

「ん?」

「また行き詰まったら話を聞いてもらってもいい?」


 真っ直ぐに目を見つめながらリュウヤは尋ねる。


「ああ、構わないとも。構わないが……時には仲間にも吐露しても良いと我は思うぞ。そのための共に歩む仲間ではないか?」


 笑顔であっても獣王の言葉には重みがあった。


 それを汲み取ったリュウヤがふと視線を仲間たちに向ける。


「…………」


 しばらく仲間を眺めてから獣王に向き直った。


「俺ってば、幸せ者だぜ」


 ぽつりと溢した本心。


 まったく、俺までも頬が緩んでしまうだろうが。


 王の器なのかどうかはまだわからない。


 だとしても、リュウヤは間違いなく〈勇者〉なのを実感した。



 ……同時に考えてしまう。思い描いてしまう光景があった。


「……いずれ」


 〈勇者〉として人々を導けるように成長したリュウヤと、〈魔王〉レグルスが相対する、そんな未来が見えてしまう。


 しかし、悪いことばかりでもなかった。


 揺るぎない覚悟を抱く者には、それなりの礼を尽くして相手をしなければなるまい。

 もし〈勇者(こいつ)〉の選択が、〈魔王()〉との対峙だったとしても、真正面から敵としてぶつかってやろう。


 拳を握りしめるリュウヤを横目に、俺は密かな誓いを立てた。


「――選択肢を増やすためにも、更に強くならねばな」


 胸に秘めた誓いを悟らせないように、いつも通りに振る舞った。


「だぁー、そうだったぁー。なぁ、ライスター。手っ取り早く強くなる方法はないー?」


 揺るぎまくる覚悟の勇者を前に、苦笑いを浮かべざるを得ない獣王であった。


「ライスター。もし都合が合うなら、リュウヤたちの稽古をしてやってくれないか?」

「む?」

「やはりいろんな奴と戦い、経験をさせたいのだ」

「良い。そうと決まれば早速始めよう――」

「――へ?」


 立ち上がったライスターは、項垂れるリュウヤの首根っこを掴んで軽く持ち上げた。


 親獅子が子獅子の首根っこを加えて運ぶ様子にそっくりだ。


 もちろんリュウヤもライスターに稽古の場へと運ばれていくのだった。


「シグマも行くと良い。獣王との手合わせだ、決して無駄にはなるまい」


 もはや中身が入っていないであろうカップを口に付けるシグマに提案した。気まずい立ち位置になってしまったのは否めない。


 だからこれはお詫びとしてだ。


 相手は他でもない〈獣王〉だ。

 シグマにとっても得るものはあるはずだと判断した。


「確かに、悪くない。リュウヤの稽古に付き合うとする」


 そう言って椅子からスッと立ち上がり、その足で獣王たちの後を追った。


 念のためカップの中を確認したが、やはり空だったのは言うまでもない。


「ライスターさんにリュウヤとシグマさんはどこに行ったの?」


 ほどなくして訊きながらこちらに歩いてくるカグラ。


「稽古だ」

「物好きね……」

「強さに憧れを抱くのは男の(さが)らしいからな。体が勝手に動いてしまうのだろう」


 困ったと言いたげな表情で呟くカグラに、一応リュウヤたちのフォローをしておいた。

 もちろん、その中に俺自身も含まれている。


 獣王との決闘を経て、俺は戦闘狂ではないにしても、戦闘自体が嫌いどころかむしろ楽しさを感じるのを知ってしまったからだ。


 抽象的な表現をするなら、ワクワクするというやつだ。


 相手が強ければ強いほど楽しくなる。戦闘狂に足を半分ほど突っ込んでいるようにも思えなくもない……。


「俺も様子を見てくる。お前たちはここで姫様と仲良く遊んでやってくれ。なかなかどうね――友だちと遊ぶ機会もないだろうからな」

「わかった。それなら任せて」


 胸を張って承諾するカグラ。


 リュウヤと違ってこちらの勇者は頼もしい限りだ。

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