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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『娘』

 ――遠慮。


 こいつはそんな言葉を知らないのではないかと最近思うようになった。


「メリーとライスターってさ、どうやって会ったの?」

「ぶふーっ」


 無神経の塊たる質問がお茶の間に衝撃を与えた。

 一番の被害者は訊かれたふたりとは別の人物。問いの主の幼馴染みの少女である。


 俺はまぁ……リュウヤだから、と納得することにしている。


「けほっ、けほっ……あんたねえっ!」

「仕方ないじゃんかー。気になるもんは気になるんだしさぁ」


 悪びれもせずに好奇心への敗北宣言を恥ずかしげもなく告げるリュウヤに、怒りすら忘れて呆れるカグラ。


「仲良しだの、そなたらは」

もちろんだ(全然よ)!」


 全く真逆の返答にどうしたものかと眉をつり上げる竜人は見ているだけで面白い。


 さすがにイーニャには負けるが、メリーもなかなかの七変化を見せてくれる。


「無神経にもほどがあるでしょ!」

「友だちってのはさ、やっぱり隠し事は駄目だと思うんだよ」


 何やら顎に手を添えて顔の向きを斜めにそう言うリュウヤ。


 妙な腹立たしさを感じた。が、すぐにそれは晴れ晴れとした気持ちへと変わる。


「ちょっとは遠慮しなさい!!」

「へぶっ!」


 パシンッ。


 素晴らしい振りかぶり(フルスイング)を見せたカグラに拍手したいところだ。


「リュウヤの無神経さはさておきだ、実は俺も気になっていた。獣王と竜人姫の出会いとはどんなものだったのか……」


 俺は腕を組んでから、華麗に宙を舞ったリュウヤの後押しをしてやる。


「無理にとは言わない。過去は良いことばかりとは限らないしな」

「そんなに知りたいかの?」

「うん、知りたい」


 身を乗り出して返答するリュウヤの復活の早さに目を丸くした。


「とのことだが、どう致したものかの……」


 メリーは所在を求めるように隣のライスターに視線を向ける。


 丁度紅茶を口にしようとしていたが、結局、付けずテーブルに置いた。


 娘にはとことん甘い父親だな。


「友ならば良いと思うぞ。代わりに、リュウヤとカグラの出会いを聞くのが条件だがな」


 鋭い眼光を光らせて、等価交換を真正面から申し出る。


「ぐぬぬ……」


 口をぐねぐねと動かして悩むリュウヤの姿は、もう、何と言うか……馬鹿だ。


 その隣では現実から目を背けるが如く、カグラが両手で顔を覆って首を振っていた。


「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿――」


 身震いしそうな数の馬鹿を繰り返し呟く様は、さながら呪いをかけようとする呪術者にも似ていた。


 幼馴染みの呪いなど何処吹く風と気にしないリュウヤはたっぷりと熟考した後に、


「よしっ、それでいこう」


 と満面の笑みを浮かべて首を縦に振った。


「他愛もない話だぞ。ウォッホン」


 独特な咳払いを一つ。


「我は好敵手であった竜から預かったのだ……。あやつめ、頼むの一言だけ残して去っていった。目を閉じればつい先ほどのように思い出せる」


 話しに沿って目を閉じるライスターに、聞く者は息を呑んだ。


「それで、その竜はどうなったんだ?」


 待ちきれずに自分から少年勇者は訊いていた。


 ライスターはふと少しだけ口角を上げて、悲しげな表情を浮かべてその先を相手に想像させる。


「――生きとる」


 溜めに溜めてからの言葉に、脳の処理が追い付かないリュウヤは口を開けてポカンと呆けた顔のままで硬直した。


「……生きとんのかあーい!」


 空気を一瞬にして凍りつかせる芸を披露して、珍しく顔を赤くするリュウヤは放っておこう。


「〈銀嶺竜〉――アシリッサ=ツヴァロイン」


 自らの策にまんまと嵌まった少年を悪童のような笑みを見せていた獣王が、目を見開きながらその名前が聞こえた方を向いた。


 俺と獣王の視線が交錯する。


「なぜ……いや、貴様の立場なら当然か」


 口ずさんで何も聞かずに納得した。


「銀嶺竜……。かつて神龍ボルボレイクと対の存在とまで言われた伝説の竜。まさかその血縁と友人になるなど、昔の私なら気絶しそうだな」


 苦笑を浮かべてシグマはありがたい解説をしてくれた。


「メリー、おめえ……」

「な、何ぞ……?」


 神妙な面持ちで詰め寄るリュウヤに、情景反射で後退りするメリー。


「ちょーすげえんだな!」


 両手で相手の両手を掴んで上下にぶんぶんと振る。


「うわぁうわぁ」


 成されるがままのお姫様。


 見かねたカグラがリュウヤの耳を鷲掴みにして、ぶんぶんタイムを終了させる。


「痛っ、痛ててててててててててっ」


 先程のリュウヤと同じように呆気に取られるメリー。


「こういうのも悪くないだろう?」


 困惑気味のメリーに笑いかける。


「いっつもこうなの」

「ん、ん」


 イーニャとアカネが微笑む。


 視線の先では正座させられたリュウヤが説教を受けていた。


「……うむっ、悪くない。むしろ好ましいぞ」


 整理が追い付いた思考がお姫様を笑顔にしてみせた。


 そのままイーニャとアカネに連れられて、女子通しで楽しそうに笑いあった。


「我のやり方は間違っていたようだの」


 言いながら後悔するように表情を曇らせる。

 今度は演技ではない、正真正銘の本心のようだ。


 恐らく獣王なりに娘を一人前にすべく一生懸命だったのだろう。


 だからこそ上に立つ者として強く在るように育てた。友人や仲間などの対等な関係を差し置いてまで、周りの期待に応えようと進み続けてきたのだ。


「――間違っていない。あんたが磨いた宝石は、この世で唯一無二の輝きを見せている。民のためもあるだろうが……父親の誠意に応えたいと思ったのではないか?」


 ハッと口元に隙間を作るライスター。


「過去を悔いる暇があるなら、より良い今、そして明日のために父親(あんた)は胸を張っていなくてはな。他の誰でもない――大切な一人娘のために、な」

「…………若造に説教されるとは、我もまだまだよの」

「師弟、夫婦、兄弟、ましてや親子でも互いに学ばされる。友人からも然りだろうよ」


 それは自分自身に向けた言葉でもあった。


 俺も多くのことを学んでいるんだ。

 単純な力や魔法などとは違う――強さをな、仲間から教えられている。

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