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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『病』

「勝者の姿には見えんな」


 皮肉を苦笑しながら呟く獣王を睨みたいのに睨めない。


 ただいま、〈エルファムル連合国〉の城、玉座の間にて正座中。シグマと共にだ。


 頭にたんこぶを膨らませたシグマと、一撃を振り下ろされてもダメージがなかった俺を見下ろすは、笑顔を浮かべた少女ふたり――イーニャとアカネである。


 追いかけっこをしていたら怒られました……。


「遊ぶのはいいけど、建物を壊してどうするの!?」

「んーんー!」


 両手を腰に当ててご立腹の女子ふたり。


 イーニャはともかく、アカネまでもが怒るとは。周りに影響されてきたと言うことだろうか。


「お怒りはあとで受けるから、俺の用事を済ませても良いか?」


 咳払いを一つ。


 ご立腹のイーニャから、不思議な構図に目を丸くする〈竜人姫〉に視線を移す。


 みなまで言わなくともそれだけで状況を察したイーニャは、不満を携えたまま「あとでね」と強く主張してから下がった。


「騒がせたな、竜人姫……とまず一つ訊いても良いか?」

「う、うむ。許可するぞ」


 一礼をしてから尋ねた。


「いつまでも姫と獣王と呼ぶわけにもいかないと俺は考えている。だから――」

「はいはーいっ、それ私も気になってた!」


 後ろから手を上げて私も私もと主張してくるイーニャを、とりあえず黙らせてから続きを言った。


「ふたりをどう呼べば良いかを聞きたい。これは勝者敗者関係なしにしてくれると助かる。こいつらが気にするだろうからな」


 親指を立てて周りの旅のお供たちを指し示す。


「――なぁ」


 そこで明らかに姫様どころか女性のものではない声が聞こえた。


「どうした、リュウヤ」


 先程のイーニャに倣ってか、控えめに手を上げていた少年勇者に続きを促した。


「俺たち、自己紹介がまだじゃね?」


 得てしてリュウヤにそれを言われてハッとなる俺は、失態に気付かされて額に手を添えて唸った。


 その相手はせめて別の奴が良かったと思うのは諦めるしかないのかもしれない。


「と、進言があったのだが、如何かなお姫様?」


 どうこういっても変わらない事実を紛らわすべく話を竜人姫に振った。


「勇者の言うとおりであるな。我らは貴様たちを一方的に知っていたが故、蔑ろにしてしまっていた。申し訳ない」


 あたふたする姫様の代わりに、隣に立つ獣王が謝罪した。


「して、改めて名乗ろう。我はライフォーン。人が営む()はない。呼び方は……ライスター、レイ、ライル。呼びやすい呼び名で構わん」


 ちらりと横目で姫様に次を促す。


「わっ、わらわもだな。コホン。わらわはメルリツィア・エンデュミオン・エルファムル。メルやメリーと呼ばれとるぞ。あ、あと固くならんでもよい。友のように振る舞うことを許可する」


 身だしなみを整えて、まるでお見合いに来た女性のように半ば畏まった態度で名乗る。が、そこはれっきとしたお姫様のようで最後にこちらの緊張をほぐすように言葉を紡いだ。


 それを聞いて次はこちらの番だと認識し、お互いに見合って目で順番を決めた。


「私からいくわ、フレンドリーにね……。カグラ・シノミヤ。基本的にみんなからはカグラって呼ばれてる」

「次は俺だな。俺はとう……リュウヤ・トウジョウだ。リュウヤって呼んでくれ」


 未だにこの世界での名前の順番に慣れないようで、お姫様の御前で思い切り間違えて顔を赤くしつつも名乗りきった。


「私は――シグマ・セイレーン。特に決まった呼ばれ方はされていない。罵倒でなければなんでもいい」

「…………」


 順番がやって来たのに黙り込んだままのイーニャ。


「次はお前だぞ」


 訝しげな眼差しで見つめると、口元を指した。


「あ、そうか。忘れてた」


 魔法を解除すると息を思い切り吸い込んで吐いた後に俺を睨み付ける。


「イーニャ・トレイル。ここのみんなからはイーニャと呼ばれてる」


 そこで姫様と獣王の視線が自然と俺の後ろにちょこんと隠れる少女に向けられる。


「ああ、すまない。この子は事情があって言葉を話せない。代わりに俺が紹介する――アカネだ。そして、俺がノルンだ。よろしくな」

「うむ、そなたらの名前、しかと覚えたぞ」


 屈託ない笑顔で頷く姫様。


「姫様――いや、メリーは俺に用があったのだろう。決闘でうやむやになっていたからな、まずはそれを聞こう」


 わらわのものになれ、以外に理由があると結論付けていた。


 俺がそう切り出すとメリーとライスターはふたりして神妙な面持ちになってしまう。


 それだけでただならぬ事情があるのだろうと察する。


「シグマ。何度も悪いが……」

「ここまで子どものお守りを押し付けられたのは初めてだ」

「そう言うな。願いのためだと思えばどうだ?」


 ずるい返答だな、と言いながらイーニャやリュウヤたちを連れて玉座の間を出ようとする。


「アカネは大丈夫だ。気にせず行ってくれ」


 玉座の扉を開けた先にはシュヴァルツが待ち構えており、シグマたちを案内するようだ。


 背中を見送り扉が閉じられるのを確認してから、俺は改めて玉座に振り向いた。それにアカネも続いた。


「安心しろ、この子は信用できる。俺の娘だからな」


 もちろん血の繋がった関係ではない。だとしても親と子になるのに血が必須とは言えないのもまた事実。


 それを知っていてかメリーとライスターは頷き合ってから話を始めた。


「――病?」


 信じられと口を開けた。


「名だたる医者に診てもらったが、まるで原因がわからんのだ」

「メリーは竜と人の〈混血種(ハーフ)〉のはず。そんじょそこらの病気なら無意味だろうに」


 〈獣人族〉がもとから身体能力が高いのと同じように、〈竜〉にも他の種族とは異なる強みがある。


 いくつものあるのだが、最たるものが自己再生能力(・・・・・・)だ。例えば人間が骨折し回復魔法などを施さず、体が持ち得る自己修復に任せた場合は1ヶ月単位で時間がかかる。


 しかし竜の場合は――数時間(・・・)だ。


 そう言った持ち前の能力の高さもあり、竜は病にかからないとされている。


 だからこそわからない。――どうして病にかかったのかが。


「一度、俺にも調べさせてくれ」

「う……肌を見せるのか、の?」


 俯きながらちらちらと俺を見やりながら窺うように尋ねてくる。


「見せたいのか?」

「そ……そなたが、その……どうしてもと言うなら……」


 綺麗な髪の合間から覗く耳が真っ赤だった。


 隣に控えるライスターは笑いを堪えている。


「冗談だ。外ではなく中を見るからな」


 そうしてメリーの正面に立ち、額に手を翳した。


 医者にわからないものが、俺にわかるわけがないだろと自嘲しながらも体が勝手に動いた。


 こうするべきだと俺の中の何かが訴えかけてくるようで抗う気にはなれなかった。

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