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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第五章 竜の姫君
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『発現』

 数えきれないほどに拳をぶつけ合い、どれだけの時間が過ぎたのやら。


 城を覆う結界は、城だったものを囲う結界に意味が変わっている。


 魔法によって広げられた空間だった玉座の間を破壊し、その勢いは衰えるどころか増す一方。色鮮やかな瓦礫が漂う空間へと様変わりだ。


「これは……あとでお姫様に怒られるかもな」

「私も隣に立つとも」


 心強い謝罪仲間を得て口角を上げる。


 〈獣王〉の名は伊達ではないことを肌身に十分に感じ、もうじきだろうと決闘の終幕が近づいていると予想する。


 力を解放した俺に、ついてこれるとは思わなかった。


 息を切らす獣王に対して、こちらは整った呼吸をしている。


「全力を出した感想はどうだ?」


 次で終わるであろう決闘相手に問いかける。

 その瞳が諦めなど微塵にも感じさせなかったからだ。


「幸福だ。私は――」


 獣王の言葉は途中で遮られる。


 他でもない、彼の主である竜人姫が思いを届けたのだ。


「――フォルン!」


 なかなか可愛らしい愛称だなと微笑む。


「――負けないでー!!」


 切実な願い。


 血の繋がりはないが、彼らは間違いなく親子だった。

 だからこそお姫様は父の負ける姿など見たくないのだろう。


 だがそんな必死な思いでさえ、この世界では簡単に踏みにじられてしまうのだよ。


「一つ実れば十を得る。十を得れば百を知る。百を知れば千を悟る――」


 ふっと力なく笑い、次の瞬間には詠唱を始めていた。


「まさかっ、させるか――ぐうッ!」


 詠唱を阻止しようとしたその時、この身でさえも耐えようのない頭痛が走る。


 ――動けない。


「重ね、重ね、何処へ行ける、何処でも行ける。終わり果て無き道行き歩む。開け、我が道――〈覇道界衡流辰燈(ヴェリア・ゼルキシス)〉」


 これを好機と見て、獣王はそれを成した。魔法行使の中で最大の関門とされる――完全詠唱を。


 〈覇道界衡流辰燈(ヴェリア・ゼルキシス)〉――まず標的の上下に魔法陣が展開、そこから防御魔法を無視した高出力の光が放たれる。次に前後、その次は左右にと同じ行程を繰り返す。

 最後にそれらを包み込むように球体が現れ、文字通りの全方位からの閃光が球体内部を乗り潰す。


 魔法陣が展開した時点で結界が張られ、陣より外に出られなくなるため、発動されたら終わりの魔法なのだ。


 強力であるが故に一部の例外(・・・・・)を除いて、完全詠唱が不可欠とされる魔法である。


「「兄様(ノルン)!」」


 視界が閃光に包まれる中でも、イーニャたちが俺を呼ぶ声が聞こえた。


 ――そうだ。俺は負けられない。相手が誰でだろうと敗北を許すわけにはいかないのだ。


 紛れもない危機に陥ったことで、片鱗しか見せなかったそれ(・・)がようやく解き放たれた。


「開限――〈適応能力(サンクトゥス)〉」


 これこそが俺の特異能力(レガリア)である。


 〈適応能力(サンクトゥス)〉――どんな環境でも適応、生存できる能力。水の中、炎の中、マグマの中、宇宙空間すら適応可能……らしい。


「――俺の勝ちだ、獣王ライフォーン」


拳を眼前で止めて宣言する。


「次は私が勝つ」


 打つ手なしの意思表示に両手を上げた。


「貴様の勝ちだ、ノルン」


 倒れかける体を転移して支えた。


「安心しろ、死なせはせん。敗者にはそれ相応の対価を払ってもらう」


 決闘の直前に決めたお互いの条件に加え、敗北した者には勝者の提示したものに応えなければならない暗黙の了解が存在する。


 文句など敗者には到底許されないこと。

 これから下るものを甘んじて受け入れるべく獣王は言葉を待っていた。


「〈竜人姫(あいつ)〉が一人前になるまで、傍で見届けろ」

「――なん、だと?」


 信じられないと言いたげな面持ちで見返してきた。


「俺は〈魔王(自ら)〉の立場を軽んじるつもりはない。かといって、情け無用、温情皆無の卑劣に成り下がるなど誰が望もうか」


 救いようのない奴は探さなくてもこの世界には溢れている。


 そんな正真正銘の外道に容赦するような甘さは持ち合わせていない。


 だが、拳を交え、互いに知り合った相手を軽んじることをするのは己の矜持が許さないのだ。


「付き従えとか言うと思ったか? それは役目を終えてからでも遅くはない。まぁ、その時は()かどうかはわからんがな」


 城の修復をしながら苦笑する。


 本格的に戦争が始まれば、俺だって殺される可能性が飛躍的に上昇する。


 ましてや、今この状況下においても、いつ何処で死ぬかもわからない。


 死が当たり前のように隣り合わせのこの世界では、油断すればその時こそ終わり(・・・)なのだ。


 死者を蘇らせることすら可能の世界でも、かくして万能とは程遠い。


 蘇生はいくつもの条件をクリアして初めて可能になる、奇跡に近いものだ。だからこそ俺も多用はできないし、できたとしてもするつもりはない。


「これで良いだろう」

「――弁明の準備はできているんだろうな?」


 ふたりで破壊した城のある程度の修復を終え、地上に降りた俺の背中に怒りをたっぷりと込めた声がかけられる。


 何やらポキポキと音も鳴っていた。


「うわー、逃っげろー」

「待てっ、ノルン!」


 子どものようにそういって、獣王を担いだまま駆け出した。


 後ろから鬼の形相をしたシグマが追いかけてくる。


「貴様ッ、あの時私は本気で戦えと言ったはずだ!!」

「言いたいことはわかるがな、俺には俺なりの考えとか事情がだな」

「問答無用!」

「――危な!」


 殺気を背後から感じ、横へ跳ぶとそこに斬撃が飛来した。


 そこからは風を斬る勢いで斬撃を飛ばしてくるシグマとの追いかけっこが行われた。

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