表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第一章 召喚されし魔王
10/285

『仲良し』

 ――何を隠そう。俺は今、窮地に立たされている。


「「――レグルス。これ(この子)は誰?」」


 お互いに指差し合って俺を見る。


 ふたりの美少女が火花を散らしたり、俺に鋭い眼光を向けて詰め寄ってきたり対応に迫られている。


「ふたりともまずは落ち着け。これじゃ事情の説明も――」

「「レグルスは黙ってて!」」


 素晴らしいハモりだこと。


 ていうか、訊いてきたのお前らだぞ……。


「はあぁ……」


 どうしてこうなった。


 俺はここに至るまでの経緯を思い出す――。


 まぁ、そんなに遡るまでもない。


 ホーグドリアでの復旧を任せ、旅の準備をするためにイーニャと一緒に我が部屋に戻った。するとふかふかのベッドを見るや否や脱兎のごとく飛び付き、数秒で寝息を立てた。


 潜入の緊張感があったり、木製の馬車の上では満足に眠れなかったんだろう。


 気にせず旅の準備をしようと作業を開始……と、部屋を見渡して俺は立ち尽くす。


 私物、ほぼなくね?


 一ヶ月間、着替えとか全部用意してもらって、気付いたら回収されてを繰り返してたからな。確実に生活力が下がっている。


 あとでメイド長に協力してもらおう。と、イーニャを起こさないように布団を被せてベッドの脇に腰かける。俺もこれのふかふかもふもふは気に入っているのだ。


 コンコン。


 ふかもふっていると扉をノックされたので「誰だ?」と比較的小声で尋ねる何も沈黙が返ってきた。


「入って良いぞ」


 ガチャリとドアノブが回った。


 こんなことするのは一人しかいない――フィーネだ。

 案の定、綺麗な銀髪を揺らした少女が入ってきた。


「無事でよかった」

「心配してくれていたとは光栄だな。あーそれと、次からはノックしなくて好きに入ってくれば良いぞ。フィーネなら構わない」

「うん……?」


 頷きが途中で止まり、閉じられた目が捉えているのは俺の後ろの人物だった。


「んん……どうしたの?」


 ギシッとベッドが軋む。


 何でお前はタイミング良く起きてくるんだよ。あと一日くらい寝ててくれて良いんだぞ。


 俺にはわかる。今、完全にふたりの視線が交錯した。


 そして――


「「――これ(この子)は誰?」」


 初めて会ったにも関わらず見事なコンビネーションを披露してくれる美少女ふたりに俺は圧倒されることとなった……。


 そんなに怒る必要もないだろうに。待てよ、喧嘩するほど仲が良い……邂逅から数秒で仲良し?


 まぁなんともコミニュケーション能力の高い者たちだ。羨ましいねぇ。

 このまま傍観に徹したいが、あとで何をされるかわかったもんじゃない。仕方ないから間に割って入る。


「紹介するからまず離れろ」


「「ふんっ」」


 見事なコンビネーションだ。案外冗談抜きで相性いいのかもしれない。


「この銀髪美少女は、フィーネ。フィーネ・グランヴァース・デーモンロード。前魔王の娘だ」


 ふふんと鼻を鳴らして胸を張るフィーネ。そういうのはもう少し成長してからの方が良いと思うぞ。


 魔王の娘と聞いてイーニャがビクッとしたような気がするが触れないでおこう。


「で、この怪しい美少女は――うわぁお」

「ちょっとっ、怪しいって何よ!」

「良いじゃねえか、ミステリアス感があって魅力的かもしれないだろ?」

「そ、そうなの。なら許すわ」


 ふてくされつつも納得したようで、それ以上の文句は言わなかった。


 おいおい、チョロすぎだろ。

 〈真面目ドジ馬鹿チョロスパイ〉に改名だな。


「改めて、イーニャ・トレイルだ。今回の事件の首謀者の一人で、まぁ平たく言うとスパイだな……と待て待て、今は協力関係だから殺すなよ」


 フィーネが殺気を放つので急いで止めた。


 ほらー、イーニャが怖がってるだろー。俺がいなきゃ本気でヤバいことを思い知らされた。


「レグルスが言うなら仕方ない……命拾いしたな」

「大丈夫かイーニャ。こう見えて本当は優しい奴なんだ、許してやってくれないか?」

「こ、コラ、やめろぉうぉぅぉー」


 フィーネの頭を撫で揺らしながら、ガクガクブルブルなイーニャに優しく微笑みかける。


 すると突然フッと吹き出して笑い出した。


「ほんと、レグルスに似て悪い人じゃなさそうね」

「だからふたりとも仲良くな。と言っても明後日には旅立つので、今の内にじゃれ合っておくんだな」

「待ってレグルス。旅立つなんて聞いてない」

「んー、言ってなかったか。はははー気にするな」


 こっぴどく怒られました。


 詳しく事情を説明すると今度は優しく頭を撫でられる。


「な、なんだ」

「なんとなく」


 悪くないと思ったことはバレないように、ムスッとした表情のままフィーネが満足するまで待った。


「……ペット?」

「誰がペットだ!」


 半ば引き気味に冷たい視線を送ってくるイーニャ。だが片手が上がっている。まるでフィーネと同様、俺を撫でたいと身体が勝手に動いているようだ。


「レグルス……」


 わなわなと動く手について触れる前にフィーネが俺の名を呼んだ。


「駄目だ」

「むっ、まだなにも言ってない」


 この程度なら聞かなくてもわかる。どうせ旅に同行したいと言う気なのだ。


「お前がいなくなったらフレンが困るだろうが」

「それなら大丈夫」


 何処から湧いたんだその自信は……。


 好意を寄せられるのは悪くないんだが、実際問題フィーネが城を離れるのは現状を鑑みるとあまり良い選択とは言えない。


 何故ならフィーネが俺の部屋を何度か訪れていると既にメイドの噂になっているからだ。メイドが知っているくらいだ、〈八天王〉――もとい〈七ノ忠臣〉の耳には入っているとが考えるべきだ。


 俺を邪魔に思っている連中を炙り出すなど複数の計画が含まれている旅である以上、信頼できる者を魔界に残しておきたい。


 フレンは何らかの柵があるのか、簡単には動けないようだ。


 なら、この世界初心者であり人間の俺に気兼ねなく接してくれたグリム。

 ホーグドリアでの一件で活躍し、俺の戦闘訓練の指南をしてくれたバルム。

 何故か気に入ってくれた、反抗勢力への最大の抑止力になるフィーネ。


 他にもメイド長を含めたメイドたちも信頼できる人物たちだ。


 味方と言えるのはたったこれだけしかいない。逆に一ヶ月でここまで増えたのを喜ぶべきだろうか。


 どちらにせよ、フィーネは切り札に違いないのだ。


「なぁに、2度と会えなくなるわけじゃない。俺は必ず帰ってくるから待っていてくれないか?」


 どれだけ強力な力を秘めていようとまだ12歳の子ども。フレンの一人娘であるフィーネにとって、俺は恐らく兄のような存在なのだろう。


 もしかしたら元奴隷の子どもたちと仲良くできるかもしれない。出発前にもう一つの案件(・・・・・・・)と一緒に、グリムに確認しておくか。


 糸が切れた。それが意味するのは……はぁ。待てと言わなかった俺の責任かもな。


 それから俺たち3人はなんだかんだで和気藹々と話したりしていつの間にか眠りについていた。




 ◆◆◆




 レグルスらが話に花を咲かせる頃、魔界からの永久追放を言い渡された裏切り者ベルグスはと言うと――


「――貴様ッ、なんのつもりだ!?」

「なんの、と申されましても、裏切り者の排除に決まっているでしょう?」


 慈悲で腕と足を治療してもらい、五体満足の状態で追放を受け入れて自ら立ち去ろうとしていた。


 なのにベルグスの周りには彼のものと思しきバラバラの手足が散らばっている。


 残った手と顔で命乞いを求めるベルグスを見下ろす人物が一人。


「や、やめろ。これは命令違反だ、魔王に処罰されるぞ!」

「その魔王に剣を向けた方がよく言います。ですが知られては困るのは間違いありません」

「な、ならば……」


 一縷の希望が見えたベルグスの表情に若干生気が戻る。が、彼に微笑みを浮かべる人物はこう続けた。


「知らされる前にもう――死んでください」

「なっ、や、やめ――」


 言い切るのと同時。残った身体が周囲に散らばる手足のようにバラバラになった。


 無惨な死を遂げたベルグスだったものを見下ろす人物の顔から笑みは消え、無表情へと変わっていた。まるで適当に石を転がす程度の出来事のように。


 しかし、その身は飛び散ったベルグスの血で汚れている。


「ベルグスの言う通り、これは命令違反だぞ」

「これはこれは、フレン様ではありませんか」


 突然背後から声をかけられたのに驚きもせず、振り返った時にはいつもの優しい表情に戻っていた。


 そんな、人を殺した直後とは思えない表情を見せる者に対して、フレンは眉間にシワを寄せた。


「レグルスには話したのか?」

「いいえ。あの方は、このようなことをお許しにならないでしょうから。ですが見抜かれていると思います。あの方はとても聡明な方です」

「ああ、お前の言うとおりだ。あいつは優しくて賢い奴さ」

「だから、選んだ(・・・)のでしょう?」


 フレンは数秒の沈黙の後、ベルグスだったものが散らばる辺りに歩み寄り手を翳した。


「――〈獄炎舞(フェルノ)〉」


 すると地面から赤黒い炎がそれらを呑み込み灰燼に帰す。


「わかっているなら程々にするんだな、グリム(・・・)

「肝に銘じておきます」


 立ち去るフレンに頭を下げるのを確認すると、一度海の方へと向き直した。


「ですが、あなたも知っているでしょう。()は昔から我慢が苦手だと言うのを……」


 そう呟いて城へと足を進めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ