プロローグ
魔王――あなたはこれを聞いて、誰を、何を思い浮かべるだろうか?
人間を喰らう化け物。
人間を弄ぶ悪魔。
人間を滅ぼす悪の権化。
様々な“魔王”を思い浮かべるだろう。我々もそうだ。――いや、正しくはそうだったと言うべきだ。
彼が現れるまでは。
あなたたちがどんな最悪の存在を想像するかは我々にはわからない。だが、我々が想像する魔王は一つしか、一人しかいない。
この廃れた世界の歴史上、誰も成し得なかった偉業を成し遂げた最後の魔王。
誰よりも恐怖され、誰よりも気高き、誰よりも強き者。
我々人間の時間は短い。だからこそ、彼がいたことを記して後世に残そうと思う。
我々は彼を決して忘れてはならないからだ。
目を閉じれば容易に思い出せる。
彼が成し遂げた偉業を見せられないことに、歯痒さを覚えてしまう。しかし、見せることが叶わない代わりにこうして文字で残す。
我々に許されたのはこれぐらいなのだ。
どうか、語り継いでほしい。
世界を愛し、世界に愛された彼の魔王のことを。
心の準備はできたかね?
では、語るとしよう。
伝説となった最後の魔王の物語を――。
かなり長く眠らせていた作品ですが、空いたお時間のお供にぜひ。