朝食の風景
まだ父の姿はなく、母だけがテーブルに付いていた。
「おはよう、おかえりなさい」
「おはよ、お父さんまだなんだね」
「お父さんは朝に弱いのよね、先に食べちゃいましょうか」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる母は、息子のリューナから見てもまだ若く、化粧などもしない性質のせいもあって美人というより可愛らしく見える女性だった。
「ひどい母子だな。少しくらい待ってあげようとかいう気にはならんものかね」
シャツの中で胸元をポリポリと掻きながらやってきた、無精髭のいかつい男。幸運なのかは分からないが、少なくとも容姿を見る限りでは息子に遺伝子が受け継がれることは無かったようだ。
「お父さん、おはよ」
「ほら、早く席に着いてくれないと、リューナがまた小さくなっちゃうでしょ」
「お、そうだな。すまんすまん」
気にしている身長のことをからかう母に不満の視線を向けるリューナだが、微笑みで返されるばかりで謝罪は貰えないようだ。
家族3人が揃い、ようやく朝食にありつく。今朝はライ麦パンと野菜サラダ、クックの卵を使った目玉焼き。
朝食を食べ終えて人心地つくと、父から話かけられた。
「今朝は何か出たか?」
「うん、グリーンスライムが2体」
「そうか。で、そろそろ剣でも持つ気になったのか?」
「うーん、やっぱり剣はちょっとなあ。僕には自作の武器があるから、このままでもいいんじゃないかな」
父は息子の武器が不満だった訳では無いのだが、男は剣を持つべきだ、という考えが強い人物だった。
そのくせ自分は仕事用の斧しか持っておらず、見かけた魔物は斧で叩き斬るのみ、という山賊より荒々しいスタイルだ。リューナなどは父と遭遇する魔物に同情するくらいだ。
「もうじき学校にも通うんだろ。そうなった時にブーメランじゃバカにされないか?」
「叔父さんは大丈夫だろうって言ってたよ。今は色んな人がいるから、そんなの気にされないって。そもそも入学するのは街に住んでる人がほとんどで、何割かは武器なんか持ったこともないでしょ」
「そうか、そういえばそうだよな」
父は少し残念そうだが、諦めたという顔でも無いようだった。叔父からも話は聞いていたし、魔物を問題なく退治できていることもあり、リューナの実力は同世代の中では高い方だろうと感じている。
家を継いでのんびり暮らすんだ、などと枯れたことを言っている息子だが、1度は世界をその目で見て来て欲しい。そしてあわよくば名を残すような偉大な人物に、と親バカな考えを抱いていた。
そんな父の思惑を知ってか知らずか定かでないが、リューナは広い世界を旅することになるが、それはまだまだ先の事である。




