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七曜の転生譚  作者: はにゅ
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暁の大陸 山奥にて

 窓の外から聞こえてくる、トンビのような間延びした甲高い鳴き声で目を覚まし、まだ日が昇るまでには時間があるが、薄明かりを頼りに少年はベッドから這い出す。


「ふぁ……」


 軽い欠伸を1つ漏らしながら、少し厚手の寝間着を脱ぎ、羊毛で作られた上着とズボンを着用して自室を出た。そのまま薄暗い廊下を進み、ギィ、と軋む木製のドアを開けて家から出ると、すぐそばに置かれている桶に貯められた水で顔を洗う。ここまでの流れは毎日のものなので、例え半分寝ボケていようが問題なく行われるものである。


 山の端が薄明かりを纏い始めるのを見つつ背伸びをし、準備万端とばかりにフンと鼻息をひとつ吐き、まだ開け放たれたままになった玄関の内側から厚手のローブを取り出して羽織る。

 薄っすらと灰色がかったローブは暖かくて丈夫に出来ており、フード付きだ。フードを被ると頭からスネあたりまでをすっぽりと覆えて、朝の冷たい空気も気にならない。


「ゴハンですよー」

 優しく声をかけながら、自宅の脇にある鶏小屋で餌やりをするが、そこにいるのは鶏とは少し違う生き物である。クックと呼ばれるその鳥は、鶏と比べて一回り大きく、少し筋肉質である。その尾羽は長くピンと伸びていて扇のようだ。

 クックの用途は様々で、羽根も肉も卵も市場に出回る。主に豆や麦などを飼料としているが、雑食なのでたまに前日の残飯なども食べさせることがあった。ちなみに目覚まし時計代わりにもなっていて、今朝のトンビのような鳴き声も彼等である。


「お、今日は3つ。ありがとね」


 餌に群がるクックの背後に転がる白い卵を回収すると、小屋の外に立て掛けてあった竹箒を持ち、薄く敷かれた藁を集めて焼却炉に運ぶ。

 炉の下部を指差し、心で念じる。すると詰め込まれた藁の中に小さな火が現れ、藁に燃え移るのだった。


「やっぱり魔術って便利だな。そういえば野焼きは向こうじゃ禁止されてたっけ? 小学校の卒業前には校庭の焼却炉が使用禁止になってたような気も……」


 少年はかつて暮らした世界を少し懐かしく思った。窮屈で、堅苦しく、少し息苦しい世界。


「そんな事はいいとして、問題は魔術の才能が無さそうだってトコなんだよねー。未だに大きい火は出せそうにないし」


 ブツブツと独り言を漏らしつつ、燃える藁で暖をとって冷えた指先をほぐしていると、少年の背後からゆっくりと近づくものがいた。

 紺色の毛並み、体長は1メートル程のオオカミである。

 気配に気付いた少年はサッと振り向くが、双方とも驚いた様子は無く、軽い調子でオオカミに声をかける。


「おはよ。それじゃあ行きますか」


 ウォン、と小さく返事をしたオオカミを数歩後ろに引き連れ、自宅と鶏小屋周辺をぐるりと覆う柵に設けられたゲートへと向かう。ゲートの脇には木製の長い杖が立て掛けてあり、少年がそれを手に取って地面に立てるようにして持ち直すと、杖の先端に取り付けられた大きな鈴から耳触りの良い音が鳴る。

 数歩ごと鳴り響く鈴の音と、山から聞こえる鳥や獣の声を心地良く思いながら牧草地へと向かうのだった。

 山あいの小さな集落、さらにそこからも少し離れた所で獣に囲まれて住んでいることも理由ではあるが、少年にとって今の世界は少し不思議で、どこか優しく、そして暖かいと感じられた。



 少年の名前はリューナ・セイアッド。8歳になったばかりで少し華奢に見えるが、山育ちであることと毎日羊の世話をしていることもあり、体力だけなら普通の大人よりも高い。赤みが強い茶髪で、日焼けしにくい性質なのか肌は白く、中性的な顔のつくりをしている。身長が同世代よりも低いこともあり、知らない人からは女の子に間違われるのがコンプレックスで、対照的に男らしい見た目である樵の父を羨んでいた。


 彼には両親にも話していない大きな秘密がある。それは前世の記憶があるということだ。6歳を迎えるまでは大きな病気や怪我などもなく、健康な普通の子供だったのだが、6歳を迎えてから少しずつ心身に違和感を覚えるようになった。その違和感の正体は、ある日唐突に理解出来た。夢や勘違いといったものではない、確かな前世の記憶が蘇り、幼かった精神が大人びていくのを感じた。そして、前世の終わりとその先にあった出来事を思い出して確信を持った。異世界に転生したことに。



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