7.宣告
前回のあらすじ
ルイードの修行により着実に強くなっていくココ。ストラウト亭で酔っぱらいを撃退するということもあったが、ココは修行を続けている。今日もココは、遺跡で修行を行っている。
「ふっ……!」
「ギャン!?」
すれ違いざまに、飛びかかってきたハウンドウルフを切り裂く。切り裂かれたハウンドウルフはそのまま倒れ、絶命する。それと同時に、右手首につけた腕輪が発光し、階位が変動する。ここしばらくは実戦で何体もの魔獣を倒しているので、今回を合わせて現在の階位は二段階上がってⅢだ。
「お、階位があがったな?」
「ええ、上がりましたよ」
倒したハウンドウルフをひとまず《収納》で回収しながらーーこの《収納》生きている以外のものはなんでも収納できるようだーー師匠の言葉に答える。
「そうかそうか! それじゃどこまで強くなったかこの後手合わせで確かめようぜ!」
「……マジですか」
「おうマジだ! そんじゃ今日はこの階層の先の階段を見つけるまで進んだら帰るぞ」
「了解です」
これが終わったら鬼の手合わせかと思うと、気が遠くなってくる。階位が上がり、僕の腕が上がったからか、今までの手合わせでは僕の攻撃を受け流すだけだった師匠は、積極的に反撃してくるようになってきた。しかもその反撃がかなり強烈で、もし対処を失敗しようものなら壁まで吹き飛ばされることもある。吹き飛ばされたときのことを思い出し、一瞬体を震わせながらも僕は今いる層の上に行くための階段を探すーーこの空間は階段で層を区切られ、上に何層にもわたって広がっている。師匠が言うには最奥が21層だったとのことで現在は13層。かなり進んできたといってもいいーー。
そして14層への階段を見つけ、1番下の入り口まで戻ってきた僕は現在、
「ぐっ……このっ!」
「おっとあぶねぇ……こっちからも行くぞ!」
師匠と剣を交えていた。手合わせとは言うが寸止めとかは一切なく、鉄製の剣を振ってお互いにーー師匠は半ばーー本気で斬り合っている。階位Ⅱの時では終始僕が押され気味だったが、階位Ⅲの今では《空間把握》を使用して互角といったところだろうか? ちなみに《空間把握》や炎などの魔法だが、これも階位が上がるごとに少しずつ強化されている。《空間把握》は把握できる距離とその精度、炎はいまだに黒い炎は出ないがいろいろな応用ができるようになった。まぁ炎に関しては使う気はないのだが。
「おらおらおらぁ!」
「くっ……っ!」
僕の隙をついて無数に飛んでくる師匠の反撃を受け流したりしながら躱す。それに対し師匠は笑いながら追撃してくる。
「はっはっは! よく避けたな! 前だったら今ので終わってたんだったが」
「下手……すれば! 死に掛けるので! 勘弁してほしいですがね!」
「いやいや、お前なら死なないってわかったからやったんだよ……おっと!」
会話の合間に放った横薙ぎの一撃をバックステップでよけ、師匠は一旦僕と距離を取る。その間に僕は息を整えながらその場にたたずむ。
「随分……余裕ですね」
「いんや? 案外そうでもない。今の一撃もちょっと危なかったな」
「その……割には……息……上がってませんが?」
「まぁ俺死んでるし、疲労どころか痛み感じないからな」
卑怯な……。
「まぁ階位が上がったことによる実力の確認はこんなもんでいいだろう……そんじゃそろそろ本気で行くぞ?」
嘘だろう? とおもったが、師匠のいつになく真剣な顔を見て、それが本気であるとわかった。仕方なく、僕は最近よく吐いてるため息をつきながら、覚悟を決める。そうして剣を正眼に構え、師匠を待ち構える。
「いくぞ?」
「……いつでもどうぞ」
「いい返事だ」
そう言って師匠は動き出す。一瞬で僕との距離を詰めたかと思うと、その勢いのまま剣を突き出して来る。《閃華》という技だ。《空間把握》によってそれを予期していた僕はその突きを避ける……が、
「おらぁ!」
「……っ!?」
師匠はその突きの途中で剣を僕に向けて振ってきた。驚愕しながらも僕はその一撃を剣で受け止める。ガキンという音が響き、僕と師匠の剣がぶつかりあう。
「はっはぁ! よく止めたなぁ!」
「……っ!」
師匠は僕を称賛するが、それにこたえる余裕はない。一瞬でも気を抜けば押し切られる。師匠は片手、僕は両手で剣を持っているのに師匠の方が力が強いって……っ!
「お、よくよけたな。剣ばっかりに気を取られてちゃ駄目だぜ?」
突如として飛んできた師匠のパンチを何とか避ける。
バランスを崩したが、そのまま倒れその勢いで師匠から距離を取る。正直きつい……これが師匠の本気か。《空間把握》を限界まで使用してもついてくので精いっぱいだ。
「どんどん行くぞぉ!」
「ぐぅっ……!」
そうして、本気の師匠との斬り合いが続いた。
しばらく斬り合いが続いた後、僕は体中傷だらけになりながらも剣を構え、荒い息を吐きながら立っていた。師匠の方は多少の傷を受けてはいるが僕よりは軽傷だろう。
師匠はまじめな顔をしながらこちらを見て言う。
「……ここまでついてこれるとは思わなかったぞ」
「はぁっ……はぁっ……それは……どうも……」
息も絶え絶えに師匠に返答する。
師匠は僕のその様子を見て、鞘に剣を収める。
「次で最後だ」
「……はい」
師匠はそう言って、鞘に納めた剣を構える。「居合」という単語が僕の頭の中に浮かんだ。今まで教えてもらった技の中にはそんなものはなかったはずだが……ひとまず考えるのをやめ、僕も剣を構える。
次の瞬間、僕の手から剣が弾き飛ばされた。どんなに傷ついても離さなかった剣が高く打ちあがり、そして地面に落ちる。いつの間にか師匠が僕の目の前にきて、剣を振り切った体勢で止まっていた。
僕はそのまま後ろに倒れ、尻餅をつく。
師匠はそれを見て、今度こそ剣を鞘に納め、普段通りの雰囲気に戻る。
「今のが俺の奥義《一閃》だ」
「……奥義はなかったんじゃないんですか?」
僕は倒れこんだまま、恨みがましく師匠を見る。それに対し、師匠はばつが悪そうな顔をしながら言う。
「いやぁ、そんなほいほい教えてたらあれだし……それにこれ、ただ斬るだけの地味な技だし?」
「そういう問題ですか……」
「まぁそういうな、お前がここまでやれなかったらそもそも奥義を見せる気はなかったんだし」
「それはどうも」
「いやーそれにしてもやっぱオマエ筋がいいなー、まだ階位Ⅲだってのに本気の俺とあそこまで打ち合えるとは……こりゃお前の炎解禁したらどっちが勝つかわかんねーな」
そういって師匠は笑い飛ばす。そんな師匠を見て、僕はもう何度目かわからない溜息を吐く。
そんなとき、
「な、なんだこりゃぁ!?」
師匠の背後、【扉】の方向から声が聞こえた。声の聞こえた方向を見ると、一人の男性が立っていた。その男性に僕は見覚えがある。ちょっとまえにストラウト亭でトラブルを起こしたイルという男だ。魔の森を探索するとか言っていたが、本当に来たのか……よく魔獣に倒されなかったものだ。
「なんだあいつ?」
師匠は訝し気にイルの方を見る。その視線に気づいたのか、彼はこちらの方を見る。
「な、なんだあんたら……って、お前は!?」
「知り合いか?」
「まぁ……ちょっと」
僕の姿を見つけた彼は僕の方を指さして叫ぶ。
そうしてイルは続ける。
「なんでてめぇがこんなとこに……いや、それはどうでもいい。ここは遺跡だな? まさか魔獣を狩りに来たらこんなとこ見つけるなんてなぁ……俺はついてるぜ!」
なぜ僕がここにいるのか聞こうとしたあたりで自問をはじめ、ぶつぶつとつぶやいている。そうしてバッとイルは顔を上げ、叫ぶ。
「こうしちゃいられねぇ! ナザックに帰って攻略の準備だ!」
そういって彼は扉をくぐり、消えていく。
それをぽかんとした様子で見ていた僕と師匠は、少しして正気を取り戻す。師匠は顎に手を当てて、何かを考え込む様子でつぶやく。
「ふむ、ついに見つかっちまったか」
「ですねぇ……まぁ、どうということはありませんが」
「いや、そうでもねぇ」
「え?」
師匠の方を見ると、こちらをまっすぐにみている。
「ココ、お前明日しっかり準備してこい」
「え? なんでですか?」
師匠の意図が分からず、尋ねる。すると師匠は一拍溜め、言う。
「卒業試験だ」
「はい?」
「明日、この遺跡を攻略する」
「……え?」
「21層までいって、守護者を倒して、宝物庫から宝を得る。……それをお前の卒業試験とする」
アオイです。
はい、ほんと更新速度がおかしなことになっていますね。これだけ早いなら本命の方の更新速度も上げろと言われたら逆らえないかもしれません……。
い、いやちがうんですよ? なんか書いてたら自然と筆(というかキーボードをたたく指)がすすんじゃってどんどん書いちゃうんですよ……。
まぁさすがにこのペースは維持できないので、もうちょっとゆっくりにしていこうとは思っています。




