5.修行と探索
前回のあらすじ
魔の森の洞窟を探索し、【扉】の奥へたどり着いたココ。そこでココはルイードという死んで生き返った人間とであう。ルイードの未練を晴らし、自身が強くなるためにココはルイードに弟子入りすることに……。
中央に上につながる階段のみが存在する円形の部屋。そこに剣戟の音が響き渡る。
「はっはっは! いいぞ! どんどん来い!」
「ぐ……っ! このっ!」
僕はルイードさんーー師匠に対し、袈裟、唐竹と様々な角度から剣を振り下ろす。それに対し師匠は振り下ろす先に剣を合わせ、易々と受け流す。弟子入りしてすぐは受け流されもせずよけられていたのだから、これでもかなりの進歩だ。
僕が師匠に弟子入りして、1カ月が経とうとしている。ストラウト亭の手伝いがあるので毎日とは言えないが、三日に一度はここにきて、師匠の教えを受けている。それに都合のいいことに、どうやらこの遺跡という空間、時間の流れが外とは全く違うようで、1カ月たったといったが、ここでは3~4カ月はたっただろうーー初日に洞窟から出るとまだ昼だったのは驚いたーー。その期間で僕は、師匠から剣術の基本と師匠の技を叩き込まれた。
「……っの!」
「おっ」
攻撃が全く通用しないことに苛立った僕は、師匠から教わったばかりの技を繰り出す。横に剣を振りぬき、その勢いのまま回転し勢いを増やす技《廻日》ーー本当はわざと攻撃を外すのだが受け流されているので問題はないーー。師匠は僕の攻撃に少し目を見開くが、これも簡単に受け流されてしまう。そしてその勢いのまま僕は地面に倒れこみ、仰向けになって荒く息を吐く。
「はぁっ……くそっ」
「さすがだな。もうこいつをモノにしたのか。いやースポンジみたいにどんどん吸収してくれて教えるのが楽しいねぇ」
「……余裕ですね」
「そりゃオマエ、どんどん強くなるといってもまだまだ俺には及ばねぇよ。力はあるみたいだがまだまだ足りないしな……といってもそろそろ次のステップに入ってみてもよさそうだな」
「次のステップ……ですか?」
大の字に倒れこみながらも、僕は師匠の方を見る。今までの訓練はただ師匠に技を見せてもらい、それを僕が《空間把握》や持ち前の記憶力ーー記憶をなくしているくせに記憶力はいいようだーーを利用しものにするというものだった。あとはそれを生かして師匠に挑むだけ。それの次のステップとは……
「そそ、次のステップ……実戦だ」
「そう言っていきなりですか……」
「はっはっは、だって廻日で教える技なくなったし」
「それが本音ですね……ていうか奥義とかそこらへんはないんですか?」
「そんなもんはない」
「そうですか……」
僕は師匠に連れられ、階段を進んだ先、上の階層へと来ていた。上の階層は石で作られた部屋で仕切られており、一本道だったり右左に分かれていたりでかなりの規模があるようだ。
「あ、次の部屋に魔獣がいるようですね」
「お、そうか……にしてもやっぱり先祖返りって便利だな。魔法使えて」
《空間把握》により隣の部屋の状況を把握し、伝えた僕に師匠はうらやましそうに言ってくる。師匠によると、《空間把握》や炎のような能力は魔法と呼ばれ、この世界では大昔に人々に使われていたもののようだ。しかしある時から人々は魔法が使えなくなったらしい。そして、現在この魔法を使えるものは先祖返りと呼ばれているとのことだ。
「よし、それじゃココ、お前にこれを渡しておく」
「……これは?」
部屋の手前で師匠にとあるものを渡される。それは腕輪のようなものだった。中心に大きめの宝石がついている銀製のものだ。
【腕輪:状態0】
《分析》をつかっても腕輪としか表示されず、隣におかしな表記がある。いぶかしんでいると師匠が説明してくれた。
「それは腕輪だ。名前とかないからそんままだ。んで、そいつは一度つけたら死ぬまで外れない」
「それって呪いとかそこら関係のものじゃないですか?」
「まぁきけ」
いきなり不穏なことを言ってくる師匠に対し、あきれたように尋ねる。師匠はまぁまぁといったようすで続ける。
「それは昔に作られたものでな。どういう仕組みなのかは知らんが魔獣を倒せば腕輪を付けている奴の能力の限界を底上げしてくれた上で多少の強化をしてくれるんだ」
「……つまり?」
「それ付けて魔獣倒せば修行効率アップだ」
「なるほど……でもなんでこんなものをもってるんです?」
そう尋ねると師匠は簡単だ、といって説明してくれる。
「それ、俺が付けてたやつだから」
「あぁ、なるほど……」
師匠はこれは死ぬまで外れないといった。そして師匠は死んだ人間。腕輪が外れても何もおかしくはないーーむしろ自然だーー。
「ま、そういうわけだからとりあえず付けとけ」
「……わかりました」
そういわれ、僕は腕輪を身に付ける。最初は少し大きいと思っていたが、腕に通すと自然とぴったりのサイズになった。
そして、警戒しながら隣の部屋に入る。その部屋には《空間把握》のとおり、魔獣がいた。体長2mほどのクマで体の色は黒に近い赤だ。
【ブラッドベア】
《分析》によるとそういう名前らしい。その魔獣を見て、師匠が言ってくる。
「よし、行けココ。あ、魔法使っていいからな」
「……わかりました」
そういわれるのは予想がついていたので、剣を抜いて前に出る。ブラッドベアはすでにこちらを警戒し、臨戦態勢を取っている。僕は《空間把握》を使用したまま、ゆっくり一歩ずつ前に進む。そうしてお互いの距離が3mほどになったとき、ブラッドベアが動いた。迷わず突進してきたブラッドベアの行動を読み、僕はそのルート上から離れ、そのまま剣を振る。剣はそのままブラッドベアに当たるが……
「グルァッ!」
「……っ!」
ハウンドウルフの時のように切り裂くまで行かず、すこし皮を切っただけだった。……固いな。あたりどころが悪かったのか、それとも剣が弱かったのか……後者の場合はどうしようもなさそうだ。そんなことを思いながらも、体を切られひるんだブラッドベアに接近する。その勢いのまま剣を振り下ろすが……今度は皮を切ることすらかなわず、鈍い音を立てて剣が当たるだけだった。
「……後者の方だったか」
「大丈夫かココ、手を貸すか?」
「まだ大丈夫です」
「あいよ」
剣が弱くて刃が通らないなら、それならそれでやりようはある。僕はブラッドベアの反撃を避けながら、一時後退する。
……よし。
僕は再びブラッドベアに接近する。ブラッドベアは腕を振り下ろして迎撃してくるが、僕はそれを難なく避けがら空きになった腹部へ向けて、剣を振る。そして剣を振ると同時に、その剣の刀身に炎をまとわせるーー炎を操る訓練も続けていたので、こういった応用もできるようになったーー。炎をまとって威力の上がった剣はブラッドベアの腹部に直撃し、皮を斬り、そしてその奥の肉を切り裂く。
「グァッ……」
ブラッドベアはそのまま倒れ、絶命する。その様子を見ながらも僕は剣を下ろさず、しばらく立ち尽くす。そうして完全に倒したのを確認し、構えを解く。そしてふと腕輪を付けたほうの腕を見てみると、腕輪が発光していた。そして中心にある宝石にⅠという文字が浮かび上がる。
その変化が終わると、なにやら体が少し軽くなったような錯覚を覚える。
【腕輪:状態Ⅰ】
《分析》の結果も変化している。これが師匠の言っていた腕輪の効果なのだろうか。
「ご苦労さん」
考えていると師匠が話しかけてきた。
「どうやら無事に階位をあげられたようだな」
「階位……ですか?」
「あぁ、腕輪の宝石に文字が浮かんでるだろ? それが階位だ」
「はぁ……」
「まぁそれで腕輪の効果は理解できたろ。つぎだ」
そういって師匠は鞘に入った短剣を投げ渡してくる。僕はそれを危なげなく受けとり、師匠の方を見る。
「魔獣の素材は金になるんだ。剥ぎ取りを覚えようぜ」
「なるほど……」
たしかにそれは覚えておいた方がいいだろう。
僕はそれから、師匠の指示に従い短剣でブラッドベアから素材を切り離した。取れた素材は牙と毛皮と爪、そして魔獣の体内に存在している魔石という物体ーーどうやら魔素が大量に含まれているらしいーーだ。魔獣の肉には漏れなく毒があるためそのまま放置だそうだ。まぁ放置してても邪魔なので炎で焼却処分しておく。
「さて師匠」
「なんだ?」
剥ぎ取りが終わり、短剣を鞘に納めながら僕は師匠に尋ねる。
「この素材どうするんですか?」
「……」
「考えてませんでしたね?」
「あぁそうだ!」
「開き直らないでください」
ブラッドベアの素材は嵩張る。これを持ち運んで進むのは難しいだろう。
せめて鞄などがあればよかったんだが……。
毛皮片手にそんなことを考えていたとき、
「えっ」
「お、なんだ?」
手に持っていたはずの毛皮がふっと消えた。え? なんで消えたんだ? 周りを見回してみても何もない。……もしかしてまた僕がやったのだろうか?
……炎を使うときは炎でろとか考えるし……とりあえず毛皮出て来い。
そう念じれば、毛皮が何もないところからパッと出てきた。
「おぉ、それもお前の魔法か?」
「……の、ようですね」
尋ねてくる師匠に対しそう返答する。便利な魔法が出てきて助かるが……ほかにもまだありそうな気がする。
「いやーいい魔法持ってんな! 旅するときも楽できそうじゃねぇか!」
「……どうも」
……まぁとりあえずこの魔法は《収納》とでも命名しておこう。
それから再び師匠とともに部屋を渡り歩き、途中魔獣を何体か倒したところで、今回はここまでということになり僕は扉の部屋まで戻りモガ村へと帰った。
アオイです。
よく考えたらこういった戦闘描写をしっかりと書くのは初めてでした。
大丈夫ですかね? ちゃんと書けていますかね?
キャラクターの服装描写などいろいろと苦手なものが多々あるのでこういったとこで不安になります。
ま、まぁ微妙だったとしても、温かい目で見守ってくださると助かります。
あ、あと階位について補足説明しておきます。
階位はその人物の能力と、その限界値を上げてくれます。身体能力などは鍛えることで普通に上がったりもすると思うので……まぁこれだけだと今市わかりにくいと思うので例を挙げさせてもらいます。
例えば、ガチャのあるゲームでそのカード(キャラクター)を使えば、その経験でレベル(能力)が上がったりするとします。それで、同じカードを合成するとするじゃないですか? そうすると、合成の分で能力が上がり、同じカードを合成することによってレベル限界値が上がるじゃないですか?
つまり階位の上昇は、同じカードを合成するのと同じようなものだと考えていただければ大丈夫かと……




