4.扉の先の出会い
前回のあらすじ
自分の記憶の手掛かりを見つけるために、最初に自分が目覚めた洞窟の探索を開始したココ。洞窟の奥には広大な空間が存在し、その中に神殿のようなものがあった。そしてその神殿内部に、歪んだ空間【扉】を発見する。そして、その扉をくぐったココは、見知らぬ空間へとたどり着いた。
現状を整理しよう。
僕は洞窟に入って、奥へと進んだ。洞窟の奥には神殿のようなものがあった。神殿の中には扉だというゆがんだ空間があり、僕はそこに入った。そしてその先には、円形の空間があった。
その円形の空間だが、ヒカリゴケはないのに明るい。周囲を見渡せば、壁の上部に格子のついた穴が開いてあり、そこから光が漏れている。穴の先を覗いてみれば、そこからは青空が見える。どうやらこの光は日光らしい。
そして日光が入ってきていることから、ここは洞窟の中ではなくどこか外の空間であるということがわかる。
「……オーケー、いろいろと突っ込みたいけど我慢しよう」
なんで外にいるんだとかいろいろあるけどありのままを受け入れることにしよう。
とりあえずは……
「グルルルゥ……」
「君を何とかしたほうがよさそうだね」
【ハウンドウルフ】
あたりを見回している際に中央の階段から降りてきたのであろうオオカミ、魔獣の方を見てそうつぶやく。
偶然にも相手は初めて会った時とおなじ魔獣だ。どうやら洞窟であった魔獣はこいつみたいにここに降りて、扉を通ってきたらしい。
僕はゆっくりと腰に下げた剣を鞘から抜き、構える。
「グルァッ!」
それと同時にハウンドウルフがとびかかってくる。すぐに僕は《空間把握》を発動する。これにより、周囲の状況を把握でき、ハウンドウルフの動きが手に取るようにわかる。
そしてハウンドウルフの動きを読み、ひとまずハウンドウルフの飛びかかりを何とか避ける。
落ち着け……想定通りやれば大丈夫なはずだ。
僕はしっかりと剣を構え、ハウンドウルフを待ち構える。
そしてハウンドウルフは、再び飛びかかってくる。
同じように僕は、ハウンドウルフの進行ルートから体を離し、今度は構えた剣をそのルートにもっていく。
そして、剣を振りぬく。
「ギャン!?」
振りぬいた剣はハウンドウルフの腹部あたりをとらえ、そのまま切り裂く。切り裂いた部分から血が噴き出し、ハウンドウルフはそのまま倒れ、しばらくして絶命する。
「……」
生き物を殺すのは初めてだが、特に思うところはなかった。相手が魔獣だったからか、または僕がすこしおかしいのか。まぁいまは気にしないでおこう。
剣についた血を払って鞘に納める。そうしてふぅっと息を吐いたところでぱちぱちと拍手する音が背後から聞こえた。
すぐに振り向くと、そこには鎧を着た男性が壁にもたれて拍手をしていた。年齢は30くらいだろうか?ぼさぼさな髪だが、それでも様になっている偉丈夫がそこにはいた。
「お見事」
「……どちら様ですか?」
そういいつつ、僕は剣を再び抜いて構える。初対面相手に失礼だとは思うが、いきなり背後にいたことなどで怪しさ満載だ。そしてなにより、
【リヴィングデッド(ヒューマン:ルイード・クルス)】
《分析》によると、彼は人ではない。
そのまま警戒していると、彼は豪快に笑いながらこう言ってきた。
「いやー若いのに大したもんだ! それに倒した後もしばらく構えを解かないとはわかってるじゃないか! 敵が一体だけとかわかんないもんな!」
「は、はぁ……?」
「おっとわりぃわりぃ! 自己紹介がまだだったな。人と話すなんざもう何年振りかもわかんねぇんでな!忘れてたわ! 俺はルイード・クルスってんだ。もう死んじまってるけどよろしくな!」
「え、えぇと、ココ・ノエリオです」
「そうか、ココってぇのか! それでなんでお前こんなところに一人でいるんだ?」
「え、ええっとですね……」
毒気を抜かれるようなマシンガントークを受け、僕はここにいる理由を話す。
話終わるころにはもう警戒は解け、それどころか打ち解けていた。
「記憶喪失ねぇ、苦労してるんだな」
「いえ、ルイードさんほどじゃないですよ」
「そうか?」
「えぇ、こんなところで一人でずっとなんて、大変っていうレベルじゃないですよ」
「まぁすっごく退屈なのは確かだな! でも飯とか食わなくてよくなったのは楽でいいわ!」
「ポジティブですねぇ」
「それだけが取り柄だったんでな!」
ルイードさんについて説明するとこうなる。
彼はずっと昔にここで死んだ人らしい。そして、魔獣として生き返った。一度死んで生き返った人間はリヴィングデッドと呼ばれ、二度と死ななくなるらしい。それだけならいいが、生き返って時がたつにつれだんだんと正気を失い、最後には魔獣と同じく人を襲うようになるらしい。
そしてこの空間について。
ここは遺跡と呼ばれ、自分たちの先祖がつくった建物だという。古代文明の技術などが満載で、とくに遺跡の最奥には宝物庫と呼ばれる空間が存在し、貴重品や特別な道具などが収められているらしく、それを目当てにルイードさんのような傭兵があつまり、挑戦するーー遺跡には魔獣や罠がたくさんとのことーーらしい。
「いやー最奥の間を守ってるやつを倒すところまで行ったんだけどなー、そこで力尽きちまったんだ」
「それが未練とやらですか?」
補足だが、リヴィングデッドになる人は例にもれず、みな未練を持っているとのこと。
それを解消してやれば、死なないリヴィングデッドを殺せるとのことだ。
そう聞くと、ルイードさんは首を横に振った。
「いんや、それにゃあ全く未練はねぇ。俺の力が及ばなかっただけだからな。むしろすっきりしたよ」
「はぁ……だったら?」
そう尋ねれば、ルイードさんは急に真面目な顔をしてこう言う。
「俺はな、弟子がほしかったんだ」
「弟子……ですか?」
ルイードさんはそうだ、と言いながら続ける。
「俺の剣は我流なんだが、そこそこいいところまで行けてな? これを俺の代で終わらせるのは惜しいって思ってな……この挑戦が終わったら息子にでも技を教えてやろうと思ってたんだが……この通り死んじまってなぁ。おまけにここから出れない状態だ」
ルイードさんはなぜか扉から外には出れないらしい。
「だから、俺の未練は弟子を取れなかったことだ」
「そうなんですか……」
「と、いうことでココ、お前俺の弟子にならねぇか?」
まぁ今の流れでそう来るとは思っていた。そのままルイードさんは続ける。
「お前、見たところ筋はいい。それにこれから生きていくにはいろいろな技があった方がいいだろう? 遺跡の罠の解除の仕方とか傭兵のイロハとかいろいろ教えてやるぜ? 幸い練習相手なら腐るほどいるしな」
「そうですね……」
たしかにそれは悪くない。もしかしたら遺跡の奥に何かあるかもしれないし。強くなって遺跡を攻略できれば一石二鳥……いや、ルイードさんの未練の件も含めれば一石三鳥か。
……これは断る手はないな。
「僕でよければ、お願いします」
「ほんとか! よっしゃ任せろ! 金……いや聖銀クラスの傭兵になれるようにしてやる!」
どうやら銀云々は傭兵のランクなのだろう。そこら辺のことも教えてもらえばいいか。
こうして、僕はルイードさんに弟子入りすることとなった。
「それじゃまずは一対一で斬り合おう! 実剣でな!」
「えっ……」
「大丈夫だ! 俺は切っても深くて1cmにするから!」
「それ結構切れてますよね?」
……ストラウト亭と同じく、辛いことになりそうだ。
アオイです。
なんか最近こちらばかり書いている気がする。いや、連載作品の方はしっかり書いていますよ?それでもなにか……こちらを優先してしまっている気が……。
い、いかん、しっかりと週2で定期投稿を保たねば……。
そんなことを考えながら読んでいる小説の新刊を買ってしまう今日この頃です。やっぱり続きが気になったらダメですね!




