10.出会いと別れ
前回のあらすじ
遺跡の最奥で師匠であるルイードと戦い、倒したココ。ルイードとの別れを惜しみながらも、ココは宝物庫へと向かう。
「……さてと」
師匠が灰になり、散っていくさまを見届けた後、僕は師匠から預かった手紙とペンダントを大事に《収納》でしまい込みながら、前を向き、悲しみを振り切るように宝物庫の扉を目指す。
宝物庫の扉の前に立つと、扉はひとりでに開いていく。そうして、宝物庫の内部があらわになる。
漫画やアニメで見るような、大量の金貨やアクセサリーで埋め尽くされているわけでなく、外の部屋よりは狭い空間の中央に、ぽつんと部屋の中央に箱のようなものがあるだけであった。僕はその箱に近づき、まずは箱を確認する。その箱は宝箱といっていいような形をしており、鍵はかかっていないようだ。箱を開け、中身を確かめる。箱の中には一振りの剣が入っていた。大きさは僕が先ほどまで使っていた剣と大して変わらず、素材はわからないが、黒い刀身をもち鍔の部分には紫色の宝石がついている。
【魔剣シルドヴェルン】
《分析》によると、これはそういう名前らしい。魔剣……まぁ色からして確かに禍々しい。まぁ宝箱の中にはこれしかなかったため、ひとまず取り出そうと手を伸ばす。そして、剣に指が触れたとたん、魔剣の鞘についていた宝石を中心にカッと光り始めた。
「な、なんだ?!」
警戒し、ひとまず宝箱から離れ、距離を取る。魔剣はそのままひとりでに浮き上がり、さらに強く発光を始める。その光量に思わず目をかばってしまう。やがて光が収まり、視力が元に戻ると……
「え……」
「……」
先ほどまで浮いていた場所に魔剣はなく、代わりに桃色の髪を携えた少女が浮いていた。少女はそのままふわりと着地し、閉じていた目を開ける。その髪と同じ桃色のキレイな瞳に見つめられ、僕は動けないでいる。そうして、かなり長い静寂が訪れる。
「……」
「……」
……いや、さすがにこの沈黙は長すぎないか?そうしてさらに沈黙が続き、気まずくなってきたあたりで少女が口を開く。
「フ、フフフ」
「?」
少女はひきつったような笑い方をしながら、話し出す。
「よ、よくぞここまで来た勇敢なる者よ。我が名はシルドヴェルン。大海を割り、大地を穿ち、大空を切り裂く魔剣なり。運命に導かれしものよ、わが契約に応じ、絶大なる覇王の力、その手にするがいい。さすれば汝の望むしゅ……」
あ、噛んだ。
「……さ、さすれば」
あ、続けるんだ。
「さすれば汝の望むすべてのものが手に入るであろう。富、名声……ありとありゃ……」
あ、また噛んだ。
「「……」」
少女は黙り、僕は何を言ったらいいかわからず、再び場を静寂が包む。
「……ふ」
「?」
しばらくして少女が自嘲気味に笑いだす。
「……死にたい」
あ、これダメな奴だ。
「なんであそこで噛むんですか途中まで言えてたじゃないですか。そりゃあの箱に入れられて結構長い年月が経って人と会話することなんてすごい久しぶりで、頭真っ白になりながらあのセリフ考えましたよ? だったら最後までやり遂げましょうよなんで噛むんですかなんで……」
「え、えっと……」
膝を抱え、地面にのの字でも書きそうな様子で独り言を始めた少女にどう声をかけていいか悩む。ていうかあのなっがい沈黙はセリフ考えてたのか……。
【魔剣シルドヴェルン】
《分析》の結果から彼女は本当に先ほどの剣であるようだ。
「だ、大丈夫?」
「……シルのことなんてほっといてください。こんなダメダメ魔剣なんて……ふっ。あ、お帰りはあちらの扉からどうぞ、入り口の扉とつながっていますので……」
声をかけると、少女はこちらを見ずに宝物庫の一角を指さした。そこにはこの遺跡に入るときにも通った歪んだ空間【扉】があった。
「……」
「ふふふ、私はダメな子できそこなーい」
「……じゃあ、僕帰るから。それじゃ」
何やら自虐の歌を歌い始めた彼女を尻目に、扉の方へ歩き出す。そして扉をくぐろうとしたとき、突如横からタックルを食らった。
「まってくださいー!」
「ぐはっ!?」
師匠との戦闘による疲労もあり、その衝撃に対処できずそのままの勢いで倒れると、先ほどの魔剣の少女が僕に抱き着いて、いや、泣きついていた。
「どうしてそこで置いていくんですか!?」
「いや、ほっといてくれっていったじゃん」
「言いましたけど! そこは男として慰めるところではないんですか!」
「いやそんなの知らないよ……とりあえず退いてくれない?」
「あっ! ご、ごめんなさい」
僕を押し倒した状態の彼女にどいてもらい、ひとまず起き上がる。そうしてふぅっと息を吐き、少女に告げる。
「それじゃ僕はこれで」
「まってくださいぃいいい!」
そのまま扉をくぐろうとしたら少女に抱き着かれ、動きを止められてしまう。
「いや、その様子じゃ元気でしょ? じゃあ慰めいらないじゃん。というわけで帰ります」
「まってください! シルを置いていかないでぇ!」
フリルのついたゴシック調のドレスのスカートを揺らしながら、必死に彼女は僕を抱きとめている。
「いや、おいていかないでって……君もこの扉からでればいいじゃないか」
「シルは契約者がいないとここからでられないんですー!」
「契約者?」
「そうです! 私はこの遺跡の宝物とされているので所有者が決まらない限りここから出られないんですー!」
「それで僕にどうしろと……」
「簡単です!」
そういうと、彼女は一旦僕を放し、胸に手を当てて告げる。
「私と契約してください! 契約といっても特にあなたに害を与えるものはありません。私を養ってくれればいいだけです」
「一人で食べていくのに必死だから結構です」
「待ってください! 待ってくださいぃ!」
そう告げると、再び抱き着かれた。
「代わりに私の力が使えますから! 魔剣が使えますからぁ!」
「魔剣が使えるって、具体的に何ができるの?」
「え、そうですねぇ……本人の技量によりますが先ほど言ったように海を割ったり大岩を砕いたりできます。あとは刃こぼれなんかもしません! 手入れいらずですよ! だからお願いします! シルを置いていかないでぇ!」
そういって、彼女は強く抱き着いてくる。この様子だと契約をするまで放してくれなさそうだ。
「……はぁ、わかった。契約しよう」
「ほんとですか! 嘘じゃないですよね! 嘘だったら針千本飲ませますからね!?」
ため息交じりにそういうと、彼女はそういってくる。
「嘘じゃないよ……早いところ契約をしようか。どうすればいいの?」
「あ、そうですね。ええと、とりあえず手を握ってですね……今から私の言うことにはいと答えるだけでいいです」
そういうと彼女は手を差し伸べてくる。僕はその手を握る。
「では……汝、我、魔剣シルドヴェルンとの契約を望むか」
「はい」
「ではここに我と汝の契約を承諾する」
その言葉とともに、彼女が再び光る。そうして光が収まれば、彼女は剣の姿に戻り、僕の手に握られていた。
『これで契約完了です! これからよろしくお願いしますねマスター!』
そんな彼女の声が剣から聞こえてくる。
「……帰るか」
僕はそれからぺちゃくちゃとしゃべり始めた彼女、シルの言葉を無視しつつ、扉をくぐり、モガ村への帰路についた……。
「……それじゃあ元気でやるんだよ」
「はい、今までありがとうございました」
遺跡から帰還して数日後、モガ村の門の前で、僕はクレアさんに見送られていた。遺跡から帰還した僕は、自身の記憶の新たな手掛かりを求め、自由都市ナザックへと行くことにしたのだ。
「リッカも、向こうでしっかり頑張るんだよ?」
「わ、わかってるよ」
「どうだか」
クレアさんは僕の隣にいたリッカにも言葉を贈る。僕がナザックに行くのに合わせ、リッカもナザックに行くことにしたらしい、行先はクレアさんの従妹が営んでいる宿屋。そこで働かせてもらうとのこと。
『マスターもなかなかすみにおけませんねー』
と、現在は剣になって腰に下げられているシルが何やら言ってくるが無視する。隅に置けないって……リッカはそんな感情を持ってないと思うんだけどなぁ。
『……ダメだこの人』
そんなことを考えていると心を読んだのかーーどうやらシルは契約者の心がある程度読めるらしいーーため息交じりにそう告げてくる。
「それじゃ、気を付けていくんだよ。ココは道中リッカの護衛しっかりね」
「はい」
「はーい」
そう言葉を交わしたのを最後に、僕とリッカはモガ村からナザックへ行く予定の馬車に乗せてもらう。やがて馬車が動き出し、モガ村が離れていく。
「……さようなら」
それを眺めながら、僕はモガ村に別れを告げた。
アオイです。
……はい、なにやら前回まで続いていたシリアスがぶち壊れる音がしましたね。
とりあえずここ数日の連続連載はストップです。
キリがいいのと、ストックが切れたのが主な理由ですが……最近クローOーズというオンラインゲームをはじめましてね……簡単操作で敵をフルボッコにできるのではまることはまること……そしてそのシナリオに刺激されて異能系の話を書きたくなってきた苦しい。
と、いうわけで更新頻度は落ちますが、これからも「神が見捨てたこの世界で」をよろしくお願いします。




