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9.最終試験

前回のあらすじ


遺跡探索を進めるココとルイード。ココの魔法を併用したこともあり、順調に遺跡の最奥までたどり着けたココだが、その最奥の間にいるはずだった守護者がいなかった。そして、ココの前にルイードが立ちはだかった。

「最終試験? どういうことですか?」


困惑しながら、僕は師匠に尋ねる。僕に剣を向けた状態のまま、師匠は答える。


「俺が死んだ理由が、ココの守護者と相打ちになったからっていうのはいったよな?」

「えぇ」

「そんで俺は魔獣・リヴィングデッドとしてよみがえったわけだが……そん時にちょっと特殊なことになっちまってな」

「特殊なこと……ですか?」


僕の言葉に、あぁと答えながら師匠は続ける。


「簡単に言うと、俺がこの遺跡の守護者に選ばれちまったんだ」

「……っ!」


師匠の言葉に息をのむ。遺跡の守護者になる……ただその一言が重くのしかかる。師匠がこの遺跡の守護者であるということは……


「わかったか? お前が宝物庫にたどり着くためには、俺を倒さなきゃならねぇ」

「……っ!」

「守護者になったら、この遺跡を攻略しようとして来る(やから)と戦わなくちゃならねぇ。そんでそのうちいつか倒される……まぁそんな考えを持ったまんま、これまでこの遺跡でぶらぶらと過ごしてたんだが……そんなとき、お前が来たんだ」


師匠の話を黙って聞く。師匠はふっと自嘲気味に笑いながら、続ける。


「はじめはやっと遺跡に挑戦する奴が出てきたかと思ってちょっと覗きに来ただけだったんだがな……初めて見たお前の戦いぶりは、筋はいいけど型とかはむちゃくちゃでもうまさに磨けば光る原石ってやつだった」

「そんで思ったんだ、あいつを育ててみてぇって。それに自ら育てたやつに送られる……そんなのも悪くないと思ったんだ」

「お前は期待通りに成長してくれたよ。階位も上がって、さらには魔法まで使える……かなり強くなったよな」


だから、と師匠は続ける。


「俺が教えた俺の剣で、俺を送ってくれ。そんで、俺を超えろ。それが弟子を卒業する条件だ」

「……」


その言葉を受け、僕は立ちつくす。立ち尽くしながらも、考える。師匠は自分を超えろといった。自分を倒せといった。師匠がリヴィングデッドであるための未練が、弟子を持つことといっていたが、実際は嘘だったのだろう。本当は何か別のものだったはずだ……だが、守護者としての存在意義のせいでこの遺跡から出ることもできず、未練を解消できないまま長い時を過ごした。そして僕と出会い、僕を育て上げることにした。そうして、自分の弟子()に倒してほしかったのか。……だからイルが攻略をするとか言い出した時に、いきなり攻略をすると言いだしたのか。……つまりは、


「……これでお別れですか」

「あぁ……そうなるな」


その言葉を聞いて、ふぅっと息を吐く。そして、剣を抜きながら、師匠に伝える。


「わかりました師匠……僕はあなたを倒します」

「……そうか」


それを聞いて師匠は、いったん下げていた剣を構え直す。そうして、剣を構えた僕に伝えてくる。


「魔法を使うななんてことは言わん。これは師匠と弟子の戦いじゃない。遺跡の守護者とお前の戦いだ。……全力でぶつかって来い!」

「はい!」


その言葉を皮切りに、僕と師匠は駆け出す。それと同時に《閃華》を使い、一気に距離を詰め、お互いを貫こうとする。僕も師匠も、その突きを避けるが、師匠は前と同じように剣の軌道を変え、僕に当てようとして来る。それを僕も前と同じように剣で受け、お互いにしばし硬直する。


「……っとぉ!」


師匠は前と同じように、パンチを繰り出そうとしてきたがその前に僕が作り出した炎の球が、師匠に襲い掛かる。師匠はそれを紙一重でよけ、そのまま距離を取る。僕は炎をそのまま師匠に向かわせるが、師匠は剣を振って、炎を振り払った。僕は再び《閃華》を使い、師匠との距離を詰める。そして放った突きを師匠は避けるが、今度は僕が剣の軌道を変え、横薙ぎに師匠を斬る。その一撃は師匠の頬を掠め、傷つける。しかし痛覚がないのか、師匠はそのまま剣を振りぬいてくる。それを後ろに飛んで避け、またお互いに距離を取る。


「……いいねぇ、よくここまでたどり着いてくれたよ」

「……ありがとうございます」


そんな言葉を交わし合いながらも、僕と師匠は同じように剣を鞘に納める。奥義の構えだ。そして大した合図もなく、互いに同時に飛び出し、剣を抜き放つ。

炎をまとわせた僕の焔一閃()と師匠の一閃()がぶつかりあう。その結果、ガキィンという甲高い音を鳴らしながら、お互いの剣が宙を舞う。剣が宙を舞っている間に僕は師匠へ向けいくつもの炎の球を撃ち出す。師匠はそれを紙一重でよけながら、剣の落下地点へと向かう。僕も炎を撃ち続けながら落下地点へと急ぎ、剣を回収する。そうして、しばしの静寂が場を支配する。


「互角……ってところか? いや、お前の剣がまともなもんだったらさっきの打ち合いで終わってたかもな」

「そうかもしれませんね……ですが、そんなことを言っても仕方ないでしょう」

「……そうだな」


そう、言葉を交わした後、僕と師匠は再び剣を鞘に納め、奥義の体制をとる。


「……次で決めようぜ」

「……わかりました」


そう答え、剣を構えてしばし固まる。再び静寂が訪れた。……そして、ガラッと炎によって破損した壁の一部が崩れる音がし、それと合図に、僕と師匠は飛び出す。先ほどと全く同じタイミング、速さ、角度で僕は剣を振る。このままでは前回と同じと思ったが、強化された《空間把握》が教えてくれた。このままでは負ける、と。


「(このまま負けるのか? 師匠に勝つことができずに? ……いや、師匠ならまだ早かったかと笑い飛ばしてくれるか。まだ師匠と別れなくて済むなら……それも悪くないのかもしれない……いや)」


頭に浮かんだことを即座に否定する。


「(何をばかなことを言っているんだ。師匠は自分を超えろといった。なのに僕は負けてもいいというのか? ふざけるな)」


それに、と胸中で付け加える。


「(僕はまだ全力を出せていない! この《焔一閃》には……いや、この炎にはまだ先がある! 思い出せ! あの時の黒い炎を! あのすべてを燃やしつくような黒い炎を! 出せないというなら、限界があるというなら今超えろ! 僕自身、すべてを出し切れ! 燃やし尽くせ!)」


そう願ったとき、腕輪が発光した。腕輪の中心の宝石にⅣという文字が浮かび上がる。そして、自分の体が今までの比ではないくらい軽くなった気がした。


「(これが壁を超えるってことか……)」


そのことを理解しながら、思考を続ける。今なら出せる。そんな気がした。


「あぁああああああああああああああああああああああっ!」


気合とともにそのまま剣を振りぬく。師匠の剣とぶつかる。そして、黒炎(・・)をまとった僕の剣が、師匠の剣を切り飛ばし、そのまま師匠の体を切り裂く。攻撃を受けた師匠はふらふらと下がりながら、僕から距離を取る。


「……出せた」

「……よくやった」

「っ……師匠!」


師匠の体には黒い炎が燃え移り、今もその体を燃やしていた。黒い炎を宿していた僕の剣に至っては、すでに灰になって散っている。師匠は何でもないようにそれを見て、そして、懐から何かの袋を取り出し、僕の方へ投げてくる。それを受け取り、中を確認すると、折りたたまれた紙とペンダントが入っていた。


「これは……」

「俺が身に付けてたやつと、お前からもらった紙に書いた手紙だ……すまんが、それをナザックにいるカロルかユリアのどっちかに渡してくれねぇか?」

「……その人たちって」

「あぁ、家族だ。息子と嫁な。……いまじゃ中年と婆さんになってるだろうがな」


そういって笑うと、師匠は僕をしっかりと見て言ってくる。


「よくやったココ、これでお前は、俺の弟子を卒業だ。今までよく頑張った」

「師匠!」


そう言ってくる師匠の体はもうほとんどが焼き尽くされ、灰になっている。


「師匠として最後にいえることは一つだ……何をやってもいいが、後悔だけはするなよ。俺みたいに生き返っちまったら笑えねぇからな」

「師匠……今までありがとうございました」


そう、消えていく師匠に礼を言う。それを見て師匠はわずかにうなずき、目を細める。


「……じゃあなココ、達者で暮らせよ」

「……はい、さようなら」

「あぁ……さよならだ」


そういって、僕の師匠、ルイード・クルスは、再びこの世を去った。

アオイです。

ええと、不慣れななりに頑張って戦闘描写を書いてみたんですが、どうでしたかね?短かったですかね?物足りないと感じる方もいるかもしれませんが、これが今の私の限界なので、温かい目で見守ってくれると助かります。

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