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魔界の魔王様は幼女です

魔界歴2514年、首都リンベルグの中央に位置するリンベルグ城で、1つの魂が終わりを迎えようとしていた。その魂の持ち主は魔界の王でありこの城の主である魔王リベリアーデ12世。彼女はじきにやって来るであろう終わりを、ただ1人で静かに待っていた。


「アルフレッドはいるか?」


死を迎えるにはあまりにも静かで落ち着いた声は、しんと静まり返った城内に、やけに良く響いた。


「此方に・・・如何なされましたか魔王様」


何処からともなく現れたアルフレッドと呼ばれる男は深々と頭を下げると、いまだ背を向けたままのリベリアーデをしっかりとその視線に捉える。その瞳に映るのは魔王の艶やかな黒髪。黒こそが闇の眷属の象徴でありその黒が深ければ深いほど魔力は強大であることを意味する。その黒もじきに見られなくなると、アルフレッドは眩しそうに、その瞳にそれを焼き付けた。


「あと数時間もないうちに、妾は闇へと還る・・・それに関してはなにも言うことはないのだが・・・」


リベリアーデはそっと自分の腹に手をやり愛しげに撫でる。アルフレッドからはその顔は見えないが、リベリアーデの顔は魔王とは言い難い安らかな笑みが浮き上がっていた。


「次代の魔王であるこの娘の顔を、見ることが出来ないのが口惜しい」

「魔王様・・・」


魔王の死と誕生は同時であるから、2人が一瞬でもお互いを見ることは出来ないのだ。だからリベリアーデ自身、自分を産み出した母と呼べる人のことはなにも知らないのだ。きっと産まれる娘も自分と同じように自らの娘を見ることなく消えてしまうのだろうと思うと、些か気の毒に思うのだ。


「妾の代わりに、娘に良くしてやっておくれ」

「勿論でございます。貴女様も次期魔王様も、我らにとって最も大切なお方にございます」

「すまないな・・・下がってよい」


アルフレッドは最期にもう一度、敬愛する魔王をしっかりと見つめ部屋から消えた。



「なあ我が娘よ・・・妾はお前になにひとつしてやれることがない・・・名も、リベリアーデと決められているからな。母失格であるな」


満月の光によって鏡のように反射する窓ガラスに映るリベリアーデの体から、闇色の淡い光りが放出され空中に消えていく。それこそが闇の魔力でありリベリアーデの体を構築しているものであった。それが体から抜けていくということは、もう時間が残されていないことを意味する。


「腹の中に現れた頃から分かっていたがお前には妾より闇の力が強い。きっと立派な魔王になれるだろう・・・先代達とともに常闇から見守っているよ」


初めからこうなることは分かっていたはずだったリベリアーデに、一筋の涙が零れた。リベリアーデはそれに触れるとふっと笑った。


「これが寂しいというものなんだろうな・・・妾の娘、願わくばそなたが闇に帰するその時まで、幸せであってほしい。そしていつの日か、妾にそなたの話を聞かせておくれ・・・」


「また会うその日まで暫しの別れだ」と娘がいる腹を護るように抱き締めると、リベリアーデの体は強い光を放ち・・・そして消えた。そこにはもうリベリアーデの姿はなく、残ったのは・・・



「ふぇぇぇん」


白い肌、真っ黒な髪と瞳を涙で濡らした赤ん坊だけだった。その泣き声を聞きつけ部屋を訪れたのは先程先代リベリアーデと最期の別れをしたばかりのアルフレッドであった。


「・・・・初めまして小さな魔王陛下。私が貴女様の母上の代わりに、貴女様を立派な魔王様に育てますから安心なさってください。今はただ・・・お眠り下さいませ」


人の温もりに安らぎを得たのか、赤ん坊はすぐに泣き止みゆっくりと眠りへと誘われた。その顔を優しい顔で見るアルフレッドの瞳から、遠慮がちに涙が溢れ出た。


「貴女様はお母上によく似ていらっしゃいます。きっと美しくおなりになるでしょう・・・リベリアーデ様、私もいつか・・・貴女のもとへ行けるのでしょうか」


リベリアーデの面影をもつ赤ん坊に知らずに口走ったアルフレッド。それは魔王という女に恋をしていた、ただの男の悲痛な叫びでもあった。誰にも知られてはいけない想いを、赤ん坊にだけ明かす。それが唯一、アルフレッドの心を解放する手段だったのだ。


「この想いはまたあの方に会ったときにぶつけることにいたしましょう。もう彼女も、魔王ではないのですから・・・私がいなくなるまでに、貴女には立派なレディーになっていただきますから、覚悟してくださいね?」


胸に抱く赤ん坊に控えめな声でそう言うと、アルフレッドは彼女に与えられた部屋へ向かって歩き出した。その後ろ姿はやけに楽しげに見えたそうだ。









そしてそれから3年の月日が流れ・・・



「リベリアーデ様!廊下は走ってはいけないと何でも言っているでしょう!」


母親のように叱りつけるのは勿論アルフレッド。


「はしってはいないのでしゅ!はやくあるいているのでしゅ!」


と言い訳するのは現魔王であり3歳になったばかりのリベリアーデ13世である。幼女ながらその美しさは特出していて、国民からは美幼女陛下と崇められるが、本人はまだ3歳児だからかあまり容姿に拘らずお転婆で主にアルフレッドをやきもきさせるのが日常である。


「はぁ・・・口ばかり達者になってしまって・・・兎に角、広い廊下で床は絨毯で転んでも痛くないからといって走ってはいけません。誰かにぶつかったらどうするのです?リベリアーデ様だけではなくぶつかったら人も危ないのですよ?」

「・・・あい」


少々お転婆であるリベリアーデだが、アルフレッドに厳しく躾られた為か、自分の悪いところは認めて素直に反省できる娘に成長した。まあこんな風景がよく見かけられる点で言えばあまり成長したとは言えないこともないのだが・・・


「そうでした。リベリアーデ様、そろそろリベリアーデ様専属の侍女と騎士を見つけなければいけません。私が選別してもいいですがどうされますか?」


アルフレッドが先代リベリアーデ12世の専属騎士兼執事であったように、このリベリアーデにもそれが必要になる。アルフレッドの代わりにリベリアーデを良き魔王へと導く者が・・・


「わらわがじぶんでさがしゅのでしゅ!アルフレッドはみているのでしゅ!」

「御意に・・・」


立派に成長されたと心で涙を流しつつ、早速手配をしなくてはと頭を働かせるアルフレッドであった。



後にリベリアーデは信頼し得る最高の侍女と最強の騎士を手に入れるのだが、それはまた別の話である。








end?





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