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リプレイ第四話〜スネーク・アイ



悪魔との戦闘も無事やり過ごしたと言っても、まだ油断はできない。


各個人別にさらに能力に磨きをかける事にした。


大樹は猛勉強中。牛乳ビンの蓋みたいなメガネをかけ、打倒悪魔と書かれたハチマキを巻き、必死で遅れを取り戻そうとする姿はクラスで浮いていた。


もうツルッツルに滑っていた。


皆の〈あぁ、こいつ痛い子なんだなぁ〉と訴える視線が何とも言えなかった…。


とは言え、大樹が漢字を読める様になれば鬼に金棒。

悪魔が来ても恐くはない。


今日は日曜日。学校も休みだが、大樹は家で勉強してるだろう。


愛はと言うと…


「譲君〜見て見て!」


ジャーンと目の前に現れましたよ、こいつはあれから俺の部屋に住み着いている。


『おう、米洗ってくれたかうぉぉぉ?』


こいつは人間界の事をよく知らないのも分かるよ?


食べ物だって違うもんね。


でもね…


『なんで米が泡だらけ?』


「え?洗ってくれって言われたから…洗剤で」


痛い子がもう一人いたよ。


『もういい。俺がやるからあっち行ってろ』


相変わらず俺は施設生活。

両親に捨てられたからな。


でも、この一年間で施設の人と大分コミュニケーションが取れる様になり、今では、煮物やら野菜やらの差し入れがもらえる様になった。


……そうだ、まだ冷蔵庫に差し入れが残ってたな。


米はもう使えないし、なんとか食えるものを…


はい、冷蔵庫空っぽ☆


『愛ちゃん?なんかね、冷蔵庫空っぽなんだけど…?』


「あ、おいしかったよ」


全部食いやがったこいつ。

って言ってもたいした量はなかったんだが…。


バイトの給料日まであと一週間もあるのに…。


まぁ、初めて俺が作った料理を出した時に美味しそうに食ってたからな…。

きっと天界の食い物なんて味気無い物ばかりなんだろう。


施設とは言え、食事は自給自足。俺の手料理を誰かに食わした事はなかったから、美味しいと言ってくれたのは嬉しいがね。


「でも〈なべ〉ってのはダメねあれ。硬くて食べられたもんじゃないわ」


こいつ差し入れの煮物を入れて保冷しておいた鍋も食おうとしたのか…。


はぁ、もう昼時か。腹も減ったし今日は外食するか。


愛と初めて外出するけど大丈夫かな?


『愛、人間の姿になれ。外出掛けるぞ』


「はぁい」


光に包まれた愛は人間の姿に。と言っても姿形は変わらない。羽が消え、人間の誰からでも見える様になっただけだ。


私服は…まぁセンス良い方かな? さっき雑誌読んでたからそれをコピーしたんだろう。


天使の力って都合良いな。


『愛、あんま人間離れした事すんなよ』


「大丈夫ナリ!」


すげぇ不安。


施設から外出許可を得て、自転車にまたがる。


「これ乗るの初めてなんだけど…」


『あぁ、ニケツは俺も初めてだが…まぁケガしたって慈悲の能力で直せるだろ?』


「慈悲の能力は自分には使えないの…」


以外な所で新事実発覚!


『まぁ、大丈夫だって、行くぞ!』


施設から街まで自転車で10分。ぎこちない運転ながらも無事到着だ。


「飛んだ方が早いね」


うるせぇよ。

俺は飛べねぇんだから文句言うな。



学生の財布に優しいファーストフード店、〈マッキュ〉でハンバーグをパンで挟んだものを食う。


『いただきま〜す…ん?食わないのか?』


愛を見るとさっきから一口も食べてない。それどころか口に運ぼうともしない。


『どうした?どっか悪いのか?』


「美食家の私からしてみればですね」


なんかハンバーガーで語り出したよ。


「ボリュームが足りない」


味より量か!


『仕方ないなぁ…店員さん、メガマッ○下さい』


「かしこまりました。メガマ○ク入りま〜す」


メガ○ックとは、通常の約二倍の大きさ。これならボリューム満点だろう。


「メガじゃ甘い」


いつから食いしん坊キャラになったお前。


「ギガマッ○で!」


ギガ来たーー!


「かしこまりました」


あるのかよギガ。


これはタワーですか?

みたいな感じで運ばれてきたハンバーガー。


これには愛も満足してくれたみたいだ。


店中の注目を浴びながら、結局残さず食べちまった。


あれほど目立つなって言ったのに…やっぱ無理か。


「ごちそうさま☆次はテラマッ○に挑戦したいわね」


財布から断末魔の声がするよ…。



「譲君!あれなに?」


『ん?どれ?』


マッキュを出た時に愛が上を見上げて言った。


視線の先には、屋根の上に馬鹿でかいボーリングのピン。


あ、ここボーリング場だね。


『ここは球を転がしてピンを倒して、そのスコアを競うゲームみたいなもんだ。行ってみるか?』


「うん!」


そっか、天使は人間界は知っていても、実際にやったりはしないんだな。


愛にとっては普段俺が何気なく遊んでる物がどれも初めてで楽しいんだろうな。



ーーーーー。



『どうだ、愛?ボーリングって楽しいだろ?』


「うん☆でも私、譲君に比べるとヘタだよね…」


『俺とはやってる回数が違うから仕方ないって!それに、ハイスコアが50の人なんていっぱいいるから』


「……それ嫌み?」


愛はボーリング初経験だから3ゲームやってハイスコアが50でいじけている。


ストライクもスペアも取れなかった。



まぁボーリングを上手くなるコツは、とにかくたくさんやる事だ。ゲーム数を重ねていけば誰でも上手くなるさ。


ボーリングは経験。


ちなみに俺は男友達と来る時は最低10ゲームは投げる。


そんな事をしょっちゅうやってるもんだから、利き腕じゃない左でもフックボールを投げられるようになり、ハイスコアは202だ。


今も3ゲームの平均スコアが150を上回っているから、愛は自分に自信を無くしている。


もっと楽しませるはずだったんだがなぁ…。


「譲君ずるいよぉ!絶対〈破壊能力〉使ってるでしょ!?」


使うかよ、そんなの。


もし使ったらピン粉々じゃねぇか。


愛は負けず嫌いだからな…ボーリングは楽しくやるのが一番なのに。


「おいおい、このレーン汚ねぇな!」


「まぁいいじゃねぇか!とにかくやろうぜ!」


うわ…隣のレーンにヤンキー二人組が来ちゃったよ。


B系のダボダボのズボンにあきらかにサイズのでかいシャツ。キャップ、バンダナ、グラサンで完璧ですよ。


でも男二人って痛いよ☆



「おらぁ!」


こいつら…


「なんだよ…ストライクの音がいまいちだな…」


上手い…。


だが、マナーが悪い。

お前ら未成年だろ。煙草なんか吸いやがって。


しかもちゃんと火ぃ消せよ。ってか吸い殻が灰皿からこぼれてるから。


「ねぇ…もう辞めない?なんか隣の人達ウザいから私キレそうだよ…」


可愛いげな声で言っても内容恐いんだけど…。


『そうだな。これ最終フレームだし。あ、次俺の番か』


11ポンドの球を持ち、中指と薬指を穴に入れ、目線はピンではなく、手前のスパットを見、神経を集中。


隣の奴らに俺の自慢のフックボールを見せてやるぜ。


…と、投げようとした時、隣の奴が先に投げやがった。


こいつら…ボーリングのマナーも知らないのか?


隣同士のレーンで、投げる位置に同時に構えてしまった場合、右のレーンの人に投球権を譲るのがマナーだ。


…ん? 譲に譲る…?

上手い!!


…はい、滑りましたぁ。

ツルッツルでございます。


まぁ…皆もボーリングをやる時は注意してね☆


「おい、隣の女のスコア見ろよ。ハイスコアが50って…」


「プッ…可哀相だから笑うなよ」


その声はもちろん愛の耳にも届いた。

こいつら…もう我慢できねぇ!!


『おい!あんたらいい加減にしろよ』


俺はヤンキー二人組に絡んだ。


「あぁ?んだよテメェ!表出ろや!」


さぞかしご立腹のようですね。


『フッ、ここはボーリング場だぜ?ここは一つ、ボーリングで決着をつけようぜ?』


「…ハ?……ハハハハハ」


俺の交渉に最初はア然とした表情を見せたが、態度は一変、次は大笑いへと変わった。


「おい、俺らマジ上手いぜ?見てただろ?」


『あぁ、君ら得意そうだけど俺も自信があってね』


「ま、良いけどね。ただし、負けたらその可愛い彼女…今日一日俺らの命令に従ってもらうよ?」


ひえぇ〜なんて嫌らしい。

ってか何このベタベタな展開は…。


「…譲君、もし負けそうになっら能力使って良いからね?」


いや、ボーリングに関しては自信がある。能力になんか頼らず…


『守ってみせるさ』



「守ってみせるさ…だって!ププ。愛ちゃん?君もこのゲームに参加するんだよ?二対二だよ」


…マジですか?


『あ…愛?』

「あ…アチキも!?」


「一投交代でスコアが高い方が勝ちね☆ルールは簡単、ゲームスタート」


そう言うと勝手にヤンキーが投げ始めた。


「しゃあぁ!ストライク!!」


先制されました。


「ど…どうしよう…」


『大丈夫だ愛!一投目はお前が投げろ。残ったピンは俺が全部倒してやる!』


「う、うん」


自信なさげに投げた愛のボールは見事にガーター。


「ヒャハハ、おいおい大丈夫かよー」


今に見てろよヤンキー共。


俺が全て倒せばスペアになる。

10番ピンに向かって一直線に放たれたボールは、ピン数メートル手前で、その回転力で曲がり、1番ピンと3番ピンの間に命中。


快音と共にピンが弾け、一本も残さず、全てを倒した。…これでスペア。俺達も負けていない。



『いいか、愛。スペアの後はいっぱいピンを倒すんだ。ガーターだけは勘弁してくれ』



「よし、分かった♪」


自信満々に投げた球はガーターの溝に一直線♪


コイツ何も分かってねぇや♪


「シールド!」



ガン


コイツ、ガーターに落ちる手前でシールド張って球の軌道変えやがったぁー!



「慈悲の能力は回復だけじゃなくてバリヤーも張れるのよ♪」


完璧なルール違反☆


ヤンキー達も首かしげてら。



その後も順調にスコアを伸ばすヤンキーに対して、俺達も食らい付く。


後半の5フレームから愛もコツを掴んだのか、シールドを使わなくてもピンを倒せるようになった。


現在9フレーム目。


わずかに俺達がリード。残り後2フレーム。

このまま逃げ切りだ。


「さぁて、本気で行くかな!!」


そろそろ火が点いたのか、ヤンキー達はここでストライクを取る。


俺達も負けじとスペア。


運命の最終フレーム。


ヤンキー達はスペアを取り、ボーナスとも言える三投目に10ピン倒し、スコアが158となった。


俺達のスコアは9フレームを終わり140。

しかし、スペアを取っているので、勝利条件は、俺がスペアを取り、三投目に愛が一本でも多くピンを倒してくれれば…


愛にピンの計算は複雑で集中もできないだろうから、あえて黙っておく。


『気楽に投げろ』

「うん☆」


そして第一投目。


ストレートに投げたボールはシールドを使わずに1番ピンに命中。


……しかし


「ヒャハハハハハハハ!どうすんの彼氏!スネーク・アイだよ!」


そう、これは俺が想像していた最悪のパターン。


スネーク・アイとは、7番ピンと10番ピンが残ってしまい、スペアを取るのは極めて困難だ。


一番奥の両端のピンが蛇の目に見える事からスネーク・アイと呼ばれている。


それより最悪なのがスコアだ。


140(9フレーム)+8(スペア)+8(10フレームの一投目)=156


ここで1ピン倒しても、ヤンキーの158には負けてしまう。


ど、どうする…。こうなったら破壊能力使うか?

いや、いくらなんでも一般人の目の前でそれはマズイな。


…愛はバンバン使ってたけど。


こうなったら奥の手だ。


「ご…ごめん」


『気にするな。今日初めて1番ピンに当たったじゃねぇか。次はストライク取れるよ』


「おいおい、次はもうないよ!俺達の勝ち決定じゃん?」


『バーカ、あと3ピン倒せば俺達の勝ちだろ?』


「3ピン?目ぇ見えてる?君らのレーンには残り2ピン。しかもスネーク・アイ。どうやって勝つんだよ」


『こうやんだよ!』




俺が投げたボールは勢い良く………




放物線を描き隣のレーンへ


『しゃあぁ!3ピン倒れた!俺達の勝ちだ!』


「てめぇざけんなよ!ボーリングのマナーも知らねぇのかよ!!」


『マナーを知らないのはてめぇらだろうが!!』


俺の怒鳴り声で一瞬ひるんだヤンキー。


『いいか、ボーリングは他のお客さんに迷惑がかかるような事はしちゃいけねぇんだ。


俺が隣のレーンに投げた時、あんたら迷惑だっただろ?


その気持ちをずっとあんたらは他の人達に味わらせてたんだぞ?』


「ぐっ…負けたくせに説教かよ」


『じゃあよーく見てろ』


俺はボールを持ち、一番端っこに立つ。


10番ピンの前から投げたボールは対角線を描き、7番ピンの左側のガーターへ。


しかし勢い余って、溝からはい上がったボールは、7番ピンを弾き、90°の角度と飛んで行く。そのまま10番ピンも倒した、スペアだ。


『見たか?これがスネーク・アイ攻略法だ』


危ねー!

カッコ付けちゃったけどスネーク・アイ取れる確率は五分五分だってのに。


まぁ、普通は50%で倒せる奴なんていないけどね。



ヤンキー達はア然としていた。スネーク・アイを倒せたのを見た事がなかったんだろう。


『愛、まだ三投目が残ってる。次はストライク取れるよ』


俺はニッコリと微笑む。


実際、1ピンでも倒せば勝ちだが…


愛はこの一投で初めてストライクを取れたのだった。



ーーーーー。


「あ〜楽しかったね☆」


『そうだな。しかし、お前の罰ゲーム、最悪だぞ、あれ…』


「え?そう…?」


『あんた達がピンで私がボールね☆とりやぁぁー!…………あいつら絶対トラウマになったよ』


「乙女が体を賭けたんだから当然でしょ!」


まぁ、確かにな。

でも、いくら女の子って言っても愛は天使。


元々の潜在能力は人間と比べ物にならない。


ヤンキー達も可哀相に。

女の子に喧嘩負けましたってなったら恥さらしも言いトコだな、うん。


「人間界って楽しいなぁ」


『俺も最近、それに気付いた』


「譲君はずっと居るのに?」


まぁ、一年前までの俺の暮らしなんてクソだけどな。


愛に救われて…大樹を初め友達ができて…


この一年間は、何もかもが楽しかった。


友達と遊ぶのがこんなに楽しいなんて知らなかった。


だから初めての事で、はしゃぐ愛の気持ちも分かる。


愛には助けてもらったから、チーム内で唯一の攻撃手段を持つ俺が、今度は愛を守ってみせよう。


「私、ずっと人間界に居たい!だから、悪魔なんかに譲君を渡してたまるかぁー!」


ハハハ、頼もしい天使だこと。


『帰るぞ、乗れ』


「うん」


今日は俺もはしゃぎ過ぎたな。疲れちまったぜ。

まぁ、楽しかったからイィや!


「譲君…」


『ん?どうした?』




「晩ご飯…何?」




…しまったぁ!

冷蔵庫は空っぽだった!

せっかく和やかな感じだったのに、結局はこんなオチかよ。



『愛、戻るぞ!晩飯のおかず買わないと!』


「え?もう9時50分だよ?スーパーの閉店まであと10分!」


『間に合わなかったらおかずなしだ!』


「それはヤダァ〜!」


『だぁー!間に合わねぇ!飛べ、愛!』


「ラジャー!!」


愛がいる限り、疲れそうだな。…まぁ、暇にはならんだろうな。

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