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ラピスのお願い

俺は目を覚ました。


古ぼけた天井が見えた時、あれ? おかしい……と思った。


本来なら、一定時間蘇生されない場合強制的に最後に寄った街の教会に戻されるのだ。HPは1だが、デスペナルティは特にない。


起き上がると、質素な内装の宿屋のような場所だとわかった。俺の横たわるベッドのそばに、木のイスに座って本を読んでいるラピスがいた。ラピスは俺に気付くと、髪より少し紫がかった瞳に優しい色をたたえた。


「起きたか。体の方はどうだ?」


妙だ。

だるい。非常にだるい。

VRで状態異常になったとしても、痛みやだるさなんてマイナス要素は再現されないはずなのに。

でも、NPCにそんなこと言ったってわかるわけないし、何よりカッコ悪い。


「心配ない。俺は死にたくても死ねないのさ……この瞳に宿る紅き龍が居る限り」


『紅き龍』設定は、機に臨み変に応じる。ぶっちゃけ適当だ。

アルビノってカッコよくね? とアバター作成時に銀髪赤目にした時は、特に考えていなかった設定の一つである。

ログインしながらも、広場で一人悶々としてる時間が長かったので頭だけで考えたそういうブレぎみな後付け設定が結構あるのだ、ブラッドという奴は。

だって、披露する機会あんまりなかったからさ。

ラピスは目を見開いて言った。


「お前……竜眼ドラグナーアイの持ち主なのか?」


まさか乗っかってくるとは思わなかった。何だ、竜眼って。でも、何か中二的コミュニケーションがはかれそうなので、更に乗っかる。


「フッ……その通り。全てを暴き尽くし喰らい尽くす魔眼!」


そう言い放った瞬間、キィン、と耳鳴りがして視界が急に赤く染まった。

うわあああ⁉︎

と、声を出しそうになるのを堪えて頭を抱える。


「ど、どうした⁉︎」


耳鳴りがおさまり、俺はラピスの顔を見た。ラピス・エーデルシュテーン。エーデルシュテーン皇国国王トパゾス・エーデルシュテーンの一人娘。クラス…プリンセス。LV20。STR…


頭の中に次々とラピスの情報らしきものが入り込んでくる。ついには、今日のパンツの色と柄まで強烈なイメージと共に頭に入り込んでくる始末。


「ローブとお揃いのピンク、好きなブランドのアウロラオーラのレースをあしらった高級品……」

「なっ……⁉︎」


衝撃のあまり口走った言葉に、ラピスの顔が真っ赤になる。次の瞬間、思い切り頭をはたかれた。


「痛ッ⁉︎」


魔術師系かと思ったら、意外とSTRちからあるみたいなのよね、ラピス。プリンセスは魔術特化の勇者みたいな位置づけだと記憶している。世界設定に影響を及ぼすから、そうそうなれる職業でもないけど。

ラピスにはたかれると、視界は元に戻り情報の垂れ流しもなくなった。


「暴走だ。気をつけた方がいい」

「暴走……?」

「君は、鑑定たんだろう。私の全てを……」


降って湧いてくる中二っぽい展開に目頭が熱くなりそうだった。暴走とか、カッコいい。喋っちゃったの下着の色だけど。


「ああ。見えた。君の正体……」


エーデルシュテーンは、大きくはないが貴重な鉱石の発掘による貿易で栄えている国だ……と言われている。セレスはまだ発展途上のVRMMOで、俺たちのいる天界セレスティアルも全ての国や地域は実装されていない。


「エーデルシュテーンは良い国だと聞いているよ。そんな国の姫君が、どうしてこんな所に……?」

「……それは……」


ラピスの顔が曇る。

これは、RPGにありがちな『負けイベント』を含む新たなクエストなのではないか?

そういえば、URモンス追加のお知らせに、「新たな形の冒険が…⁉︎」と書かれていた気がする。


エーデルシュテーン実装? また新しい世界が広がるんだ‼︎


ラピスの暗い顔を見ながら、心の内でそんな期待が押し寄せる。世界を守るクリスタルが砕けたのに、新しいジョブに就けると浮かれてしまうみたいに。


「エーデルシュテーンは半ば壊滅状態に陥ったのだ……あの、忌まわしい竜のせいで‼︎」


ラピスの少し釣り気味のまなじりに、涙がにじんだ。


「ご、ごめん……」


そのあまりのリアリティに、俺は自然と謝罪の言葉を口にしてしまう。ラピスは首を思い切り振った。


「お前のせいではない! 全ては、天界セレスティアルの大地を蹂躙した我が国の責なのだ……」

「エーデルシュテーンの責……?」

「ああ。先頃我々が発掘した翠玉には、あの猛毒を吐く巨竜……エメラルドザウルスが封じられていたのだ」


あの、翠緑色のブレスを思い出す。あれは、やはり猛毒だったか。理不尽な状態異常をふっかけてくる敵は多い。URとなれば、その毒も強烈なのだろう。


「都であるオニキスは毒の海と化した……。私は、必死で戦いながら奴をゲートにまで追い込み、強制的に迷宮に転移させた……それしか考えが思い浮かばなかったのだ。そこで、出会ったのがお前だ」


ラピスは、俺の顔をまじまじと見つめた。


「竜眼のお前なら……あいつにも対応出来るかも知れん」


それで、竜を倒すクエストに入るわけか……。竜眼という俺の新しい設定が組み込まれたのは、どういう仕組みなのだろう。


「私情を差し挟んでいるのは承知している。しかし……ごく浅い階層にあの竜がいれば、数多の冒険者たちは屍になるだろう」


ラピスは深く息をついてから、言った。


「……ブラッド、私の依頼……引き受けてくれるか?」


俺は、答えた。

「……無論だ」と。

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