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今日も今日とてソロプレイ

王都・セルリウム。


この世界最大の都で、冒険者の足がかりになる場所。


その広場で、俺は行き交う人間の、エルフの、ワーウルフの、ドワーフの、フェアリーの、町人や、騎士や、傭兵や、ならず者の、雑多な流れを見つめていた。


今日こそ……。

今日こそPTパーティを組む……っ!


人々の頭の上には、白文字で『アレス』とか、『狩魔』とか、『☨紅い風☨』とか、統一感のあるようなないような名前が表示されている。白文字の下には、赤色と青色のバー。これはない者もいる。


適当に中二過ぎない名前……アニメとかゲームの主人公のパクリじゃないヤツ……。


ぶつぶつ呟きながら、声をかける相手を探していると、「ウケるー」とか言いながら一つのパーティが過ぎ去って行った。


何がウケる、だ。俺は鼻で笑う。

 人間ウケてるときは笑うもんだ。そう言いあってる時点でお前らは、心友ソウルフレンドにはなれない!

 魂友の方が正しいのだが、某ガキ大将に敬意を払ってみた。

 心の友よ、とか一回言ってみたいものである。


少し離れたところでは、吟遊詩人――ジョシュアというらしい――が弦楽器を奏でながら、この世界の創世について歌い上げていた。二つのバーは彼の頭上にはない。NPCノンプレイヤーキャラの証である。


 夕刻まで、彼の語りは淡々と繰り返される。創世譚はフレーバーテキスト的な位置づけであり、ゲームのプレイにはほとんど支障がない。ストーリーに関係するクエストをこなすときに少し理解が深まれば面白いという程度である。


 故に聴衆は奇特な初心者ぐらいのもので、残りは町人AとかBとかそんな感じ。『中の人』がいないとはいえ、よく飽きないなと感心するほど同じ旋律、同じ語り口で物語が繰り返される。


 あと少しで夕刻が訪れようとしていた。ここでの一日のサイクルはとても短い。そうでもなければ、一日中どっぷりこの世界に浸かってしまうだろう(そうでなくてもどっぷり浸かっている層がいるのは別として)。


結局、今日もソロで狩りに行くことにする。


 『セレスティアルランド・オンライン』。略してセレス、CLOなどと呼ばれている。それがこの世界の正式名称。

本格的なVRMMORPGの先駆けであり、その中毒性は社会問題に発展するほど。確かに、リアルに絶望している人間にはとても居心地がいい。


しかし、俺にとってはここも天国とは呼び難かった。なまじリアルすぎる分、他のプレイヤーに話し掛けられないのである。時々声を掛けられても、異様なキョドり具合に皆去ってゆく。結局コミュ力がモノを言うのだ。


サラサラの銀髪。鋭い紅い瞳。肩に提げた大剣。上級プレイヤーの証である黒衣のマント。

最高にかっこいい自分……『紅龍の大剣士』ブラッドを演出しながらも、心はヘタレのまま。

ソロで死んでは街に戻されつつも頑張っていたら、スキルだけがやたら向上してしまった。体育の成績万年2の俺でも無双出来る世界は、正直楽しい。


が、しかし……寂しいんだよぉお。


と、叫び出すわけにもいかず、俺は「弱いものほど群れたがる……孤高こそ至高」と誰も聞いてないのに呟いて、夕刻前の広場を後にした。


セルリウム郊外の地下迷宮へのゲートに着いたのは、夜に差し掛かる頃だった。


 この世界は天空に浮かぶ大きな島である。大地の下には魔物が跋扈する、塔のような地下迷宮がある。最下層の大地には魔王が支配する世界が広がっている……らしい。

掲示板などの情報を見る限り、下界は未実装っぽいので何とも言えない。


地下迷宮は、夜にはレアモンスターが出る確率が格段に上がる。初心者は、中級〜上級者と組まない限り、訪れない方がいい時間帯。製作者の意図は『共闘』……なんだろうけど、ソロで潜っている俺みたいなのもいる。ソロ同士なら話し掛けやすいかも……と思ったが、成功したことはあまりないし、深い仲にはなれなかった。ソロで楽しみたい奴に仲良しこよしを求めてはいけないらしい。


セルリウムの王から授けられた宝珠のはまった腕輪を、石造りのゲートにかざす。すると、今まで攻略した階層から行きたい場所を選択出来る。


本来なら最深部に潜るところなんだが、最近、今までの階層に新たに、夜限定のURアルティメット・レアモンスターが実装されたらしいので、肩慣らしついでに一番浅い階層の『新緑の草原』へ行くことにした。


宝珠がまばゆい光を放ち、瞬間移動する。


地下迷宮とは思えないような広大な平原。


「懐かしいな……」


王都の中世ファンタジーっぽい空気にも感動したけれど、広大なフィールドを前にした時のワクワク感はハンパなかった。ちまちまスライムを狩っていると後ろから大熊に襲われて死亡、とかしょっちゅうだったけどそれもRPGの醍醐味っぽくてよかった。


さて、URモンスを探しますか。


その実態は、まだハッキリしていない。何しろ実装されたのはリアル時間で昨日のこと。情報が錯綜していて、何とも言えない。

セレスでの一日は2時間。12回夜が来る。普通の生活をしているなら、ワンプレイで一日、といったところだろう。

俺も学生なので、平日はせいぜい二日、三日が限界。今日会えたら、リアルラックはなくなるかも知れない。


グオオオオオ‼︎


突如、腹の底に響くような、大きな鳴き声が轟いた。

まさかと思い、声のした方へ走る。


大きくて緑色の、ティラノサウルスみたいな化け物ーーエメラルドザウルスと書かれているーーが女の子に襲いかからんとしていた。


こいつがURモンスター?


女の子は、こちらに気付かずエメラルドザウルスと睨みあっている。


女の子の名前は、ラピス。

蒼い長い髪をおさげにして、魔道士のようなピンクのローブを着て杖を持っていた。

HPとSPのバーはない。NPCだ。


俺は、彼女とエメラルドザウルスの間に素早く割って入った。


「この『紅龍を宿す瞳』のブラッド様に……貴様が勝てるかな?」


俺は大剣を掲げる。


「やめろ! 下手に刺激するな‼︎」


ラピスの制止を無視して、俺は大剣を大きく振り下ろした。


「クリムゾン・ドライヴ‼︎」


そんなスキルはない。『真空刃』というシンプルな技に俺のオリジナル名をつけただけである。近接タイプの大剣士が、敵と間合いをとりながら攻撃したい時に用いる技だ。


グオオオオオ‼︎


エメラルドザウルスはまた吠えた。クリムゾン・ドライヴがその咆哮でかき消される。


「なっ……‼︎」


流石URモンスター。一筋縄では……。


次の瞬間、翠緑色のブレスが吐かれた。すかさず避けた……と思ったら、強烈な嘔吐感を覚え、俺はその場に倒れこんだ。

猛毒のブレス……か?

ステータスウィンドウを開く間もなく、俺は意識を失ってしまった。

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