魔王なオレと獲物な彼女。
魔族な彼女と魔王な彼氏様の目線のお話です。
魔王様鬼畜過ぎです。
よろしくお願いいたします。
最初は好奇心だった。
オレが魔界から出たのは手強い反逆者の処刑のためだった。
逃げるあれを消滅させて…見上げた月は妙に綺麗で…もう少しここにいようと思った。
風にヒラリと飛んできた求人広告の一文にひかれて面接してみようと思ったのもあったが。
『お年寄りと一緒に笑うのが一番の仕事です、資格不問なので一緒に仕事をしませんか?』
なんて面白い、笑うのが一番の仕事だと。
その日のうちに面接してすぐ採用が決まった。
オレの外面は人界でも通じるようだ。
もちろんアルバイトだが。
「イーちゃん、お茶ちょうだい。」
喜代さんが言った。
「はい、サービスしとくよー。」
オレはニコニコお茶を注いだ。
天下の魔界の魔王にお茶くみをさせるとは面白い職場だ。
『味噌だま』はアットホームなデイサービスで毎日が笑いにたしかにみちあふれてる。
お年寄りと言う生き物は人間族の宝だな。
なんと言っても行動が面白い。
「イーちゃん、車イスおして?」
糸絵さんがふくふくしい顔で小首をかしげた。
「糸絵さん、自分でこがなきゃダメだよ、運動!」
風呂場の処置から出てきた看護師の内海さんが言った。
「イーちゃんとデートしたいんだよね♪」
介護士の初山さんが風呂場から出てきた寅雄さんの髪を乾かしながらニコニコ言った。
「糸絵さんは乙女なんだね。」
介護士の矢城さんがシズさんを手引き歩行でトイレ介助から戻って来たので座りやすいように椅子を引いた。
「私だってイーちゃんならデートしたいよ!」
フサさんが塗り絵から顔をあげていった。
オレはモテモテだ。
魔界でもモテてたがそれは欲望がからむ生臭いものだ、あかるい好意はやっぱり嬉しい。
「イルギス君、ハーレム状態だね。」
事務所から市川施設長が出てきていった。
「そうですね。」
オレは麦茶をコップついで寅雄さんにわたしながら言った。
その夜は職場の男子会と言うことで居酒屋に行った。
ヘボい店だが居心地はいいな。
女性陣は色々忙しいんだそうだ。
「イルギス君、君の歓迎会も兼ねてるから好きなもの頼んでね。」
市川施設長が微笑んだ。
寂しいワイ字ハゲが薄暗い居酒屋の照明でも輝いている。
お父さん臭いと、この間娘に言われたと落ち込んでいた。
ひどい娘だ実は魔族なんじゃないだろうな。
「生中一杯!」
遠慮なく頼んだ。
「オレは里の穂馬!イーちゃんツマミなににする?」
介護士の矢城さんがメニューを示して言った。
魔界のパーティーだと大体女がまとわりつくがこういう男だけのパーティーもいいな。
「うーん、刺身と唐揚げの盛り合わせかな♪」
オレは遠慮なく頼んだ。
人界の飯は意外とうまいからな。
「天ぷらの盛り合わせもよろしく!」
看護師の木内さんも言った。
「かしこまりました。」
注文をとりにきた女にはじめて意識をむけた。
魔族だ…それも極上の下級人型魔族。
そうそうこんな純粋な下級人型魔族なんていないぞ。
くく、いいだろう、機会があったら妾にしてやろう。
だれも手をつけてないようだからな。
極上の下級人型魔族というのはもちろん無駄に顔が派手すぎないこともあるが、体型も無駄に出っ張ってない方がいいということだ。
自分の特徴を子供に引き継がせるのだからな。
その点この女は合格だ。
無駄に出っ張ってない身体。
大人しい顔立ちそこらにあるような茶色の肩までの髪はきちんとまとめ緑の目すら平凡だ。
ああ、こいつを組しいたらどんな顔をするだろう?
男子会が終わって月を見ながらほろ酔い加減でさ迷っていたら、例の女がコンビニに入っていくのが見えた、思わず追った。
「肉まんとおでんください!」
すごく嬉しそうに例の女が言った。
「はい、おでんは何にいたしますか?」
大したことのないバイトの女がオレにきをとられながら言った。
「白滝とサンマつくねと大根とはんぺんでお願いします。」
例の女はうきうきしながら言った。
オレの方をちらっと見たがその後まったく注意を向けない。
「ありがとうございました。」
電子マネーで支払いを済ませた例の女が出ていったのでオレは近くの棚から急いでどら焼をとってレジにおいた。
コンビニの店員の女うっとり見るのすら今はうざい…いっそ消してやろうかとも思ったが面倒なのでやめた。
月夜の田舎道を例の女が足早に歩いている。
そうだ早く逃げないと本気で食らうぞ。
あの極上の身体をむさぼったらどんな味がするんだろう?
「魔族だよね、君。」
暗闇から気配を消してあえて声をかける。
とたん、例の女よろけた。
役得とばかりに支えると思った通りの抱きごごちのよさだった。
緑の目がオレを見上げる桜色の唇がオレにむさぼれたいといっている。
オレが抱き込むより先に例の女は素早く逃げた。
「な、なんの話ですか?」
例の女がここちよい高さの声で言った。
さっきもおもったが無駄に高くなくていいな。
「警戒しなくていいよ、オレも魔族だから。」
オレは女受けのいいように微笑んでみた。
「私は単なる人族ですよ。」
例の女が乾いた笑い声で言った。
語るに落ちたな?
通常の人族は人族とは言わない。
ああ、うまく抱き締めて…どこかにさらって食べたい。
「隠さなくていいよ、それよりおでんこぼれてるよ。」
油断を誘うためにおでんが落ちたことをいうと例の女はこの世のおわりのような顔をした。
がさがさとしゃがみこんでコンビニの袋をのぞいたあとペットボトルを取り出した女が言った。
「今日のご飯お茶だけ?」
とても悲しそうだ。
「私は悲しいので帰ります。」
例の女がそう言ってコンビニの袋を回収して悲しそうに肩を落としてとぼとぼと寂しい田舎道を歩きだした。
完全にオレは無視だが…まあ、いいもう少し情報収集してから追いつめてやろう。
待った方が獲物をいたぶる楽しみが増えるからな。
次の日『全国魔族連絡会』に顔を出した。
「あの…その、個人情報なんですけど…。」
コボルト系魔族がおずおずと言う。
オレの金髪碧眼の人型魔族姿をみて高位の魔族と察したようだ。
うるさいのでにらみつけると怯えたように書類を差し出した。
ミゼル・キッアル。
なるほど…魔界でも生粋人型魔族が多い所出身だ。
よく、人界入界許可が出たな。
あんな極上の下級人型魔族なら囲い込んで保護するのが当然だろう。
あの辺の下級貴族は…ああ、悪趣味のヤイルザか、極上下級人型魔族の宝庫だと言うのにわざわざ混ざりものの胸がでかい女が良いと言う。
だからあんな極上の下級人型魔族を見逃したのか…。
くくく、それならオレがむさぼりつくしてやる。
何か弱みはないか?おお、これはいいな。
その日はもちろん待ち伏せした。
おはなさんにデートだというと頑張ってねと可愛く手をふってくれたので頑張るしかない。
思った通り深夜、例の女『ミゼル・キッアル』が足早に街灯の薄暗い道を歩いている。
「今日は食事にいこうか?」
オレは声をかけた。
雰囲気のいいホテルは予約済でルームサービスで食事をした後『ミゼル』をむさぼり食おうと言う算段だ。
「なんであなたがまたいるんですか!」
『ミゼル』がまた逃げようしたのでオレは腕をつかんだ。
逃がしてやる気はない。
「逃げると全国魔族連絡会に報告するよ、無許可でバイトしてるんでしょう?」
弱点をいってやると不自然に視線をさまよわせた。
よし、これで脅してホテルに連れ込めば、あとは…。
「どうすればいいんですか?私お金ないからファミレスでおねがいします。」
『ミゼル』がビクビクしながら言ってるのがわかる。
ファミレス?おもしろいな…そんな安い所でいいのか?
「ファミレスね。」
まったく面白い奴だ。
ファミレスとやらにははじめて行った。
コンビニは仕事に行く関係上良く利用しているが…。
ハンバーグはまあまあの味だった。
それより、ミゼルがスプーンでソースをなめる様が妙に色っぽくてその唇をむさぼりたくなった。
ついでにおごってやったらすごく感謝された。
このくらいで面白いやつだ。
その後、ほぼ毎日押しかけた、ミゼルにオレを印象付けるともにミゼルにオレの所有だという魔力を付ける必要もあるしな。
コンビニでかったちょっとしたプリンやどら焼きでさえ喜ぶ姿に奇妙な満足感を覚える。
膝の上に乗せて睦屋のプレミアムショートケーキ食べさせたときも恥ずかしがってるのがわかってかわいくてもっとやりたいと思った。
「イーちゃん最近幸せそうだね。」
糸絵さんが言った頃オレは気がついた。
獲物から彼女になってるな、最初は手を出す気満々だったのにな。
嬉しさと愛しさが込み上げる。
そういえばまだ、おれのものにしていなかったな…待ってろよ。
くくく、もう逃がしてやれない。
その日はミゼルの安アパートでミゼルを膝の上に乗せてしつつテレビをみながらくつろいでいた。
ソファーがないから長座蒲団の上だが…。
いい加減ミゼルを他のものに見せるのが苦痛になった。
居酒屋なんか酔っぱらいの宝庫じゃないか!
「ミゼル…そろそろ魔界に帰って結婚しようか?」
オレはミゼルを膝の上に乗せながら言った。
魔界なら囲いまくれる。
「ええ?無理なんじゃないの?」
ミゼルがテレビに視線を向けたふりをしていった。
たしかに下級人型魔族を正妃にする魔王などいないかもしれないが…ここにいるぞ!
下級人型魔族の特徴は長い寿命と相手の属性をそのまま子供に受け継がせること利点で必ず正妻とは別に囲うことが高位の魔族では慣例となっている。
跡取りは下級人型魔族の子供というのが常識だしな…魔王は少し違うが問題はない。
「ミゼルはオレの事信じられないの?」
オレはたまらずミゼルの細い首元をなめた。
「信じてるよ。」
ミゼルが気のない返事をした。
「どうすれば信じてくれるのかな?」
ついにミゼルを押し倒した。
ああ、なんて柔らかいんだ。
「ああ、パンケーキ食べたい。」
ミゼルが言った。
これから食べられるくせに。
「…ミゼル逃がさないよ。」
オレはそう言ってミゼル覆い被さった。
ああ、なんて甘美なんだ…もうはなれたくない。
もう、放すものか。
オレはすぐに行動した。
まず、デイサービスのバイトをやめた。
お年寄りのほとんどがなごりおしんでくれた。
魔界に戻ると高位魔貴族に気がつかれないように行動を起こした。
まあ、反対するやつは消してやるが。
全国魔族連絡会を通じてミゼルを魔王宮呼び出した。
ついでにミゼルに似合う衣装を用意する。
まあ、すぐに脱がすのだがな。
魔王宮の謁見の間にひれ伏したミゼルは嗜虐心をくすぐるほど震えていた。
あの薄桃色のチャイナドレス似合うな。
もっとミニ丈で作らせよう。
そんな妄想をしながら声をかけた。
「面をあげよ。」
オレが声をかけるとミゼルがびくっとして顔をあげた。
そのまま口をあんぐり開けた。
あの中に…くくく、まってろよ。
「他人のそら似?」
ミゼルが極小さい声で呟いた。
「聞こえてるよミゼル、本人だから。」
そうに見るのか?いい度胸だ。
すぐに思い知らせてやる。
「そ、そうなんですか?」
ミゼルのふるえが激しくなった。
「ミゼル、これでわかったよね。」
怯えても無駄だ、もう、離さない。
「え…あの殺されるのですか?」
ふるえながらミゼルが聞いた。
殺されると思ったのか。
「殺される?相変わらずミゼルはおもしろいね、こっちにおいで。」
相変わらず面白いやつだ。
手招きするとおずおずとよってきた。
もちろん捕獲した。
「捕まえた、もうはなさないからね、死ぬまで。」
もう、誰の手にも触らせるつもりはない。
「あの?その死亡予定はいつですか?」
振るえながらミゼルがオレを見た。
そんなにオレがこわいのか?
死ぬ最後の瞬間まで離す気はないが…。
「もちろん寿命がつきるその日でいいんだよ、私の魔王妃。」
ミゼルをいつも通り膝の上に抱き込んで言った。
ああ、なんて気持ちのいい身体なんだ…無駄に魔力にあふれてない…。
ミゼルがキョロキョロ辺りを見回した。
なるほど…『魔王妃』を探しているのか…。
自分こそ魔王妃と思わないつつましやかさなところこそ極上な下級人型魔族の証だな。
「ミゼル、君が私の魔王妃だからね。」
そういいながらミゼルの甘い唇をむさぼった。
茫然自失か?まあ、いい分からせてやる身体にな…くくく。
「ええ?私が魔王妃様?」
怯えたようにミゼルが言った。
…まあ、分不相応な地位は身を滅ぼすと教えるらしいからな…。
下級人型魔族の学校では…この魔界でのんきな事だ…。
「うん、だからどっかのだれかの愛人になるの禁止。」
愛人にした男は虐殺してやるが…耳たぶもアマガミする。
「愛人になる予定はないですが、魔王妃様になる予定もないです。」
振るえながらもはっきりとミゼルが言った。
「ミゼルの意志は関係ないから。」
オレははっきり言い切った。
ますますおびえてるな…ほんとうに嗜虐心がそそられたぞ…はやく囲い込みたい。
「魔王様、高官方が謁見を賜りたいともうしております。」
取り次ぎ官がオレの前で礼をしていった。
ふ、くそ古だぬきどもがやってきたようだな…。
「ミゼルを見にきたようだな、通すがよい。」
ふん、みせつけてやるか。
ミゼル抱き込んで口づける。
「あの…。」
解放すると戸惑った様子でミゼルが言った。
「ん?何?」
オレはその不安そうで半開きにした口に煽られて再び深く口づけした。
古だぬきどもが入室してひれ伏してるのを確認したが無視して角度をかえてミゼルの口腔内をむさぼる。
いやな気が押さえ切れてないぞ古だぬきどもめ!
「魔王様そちらの女性は誰ですか?」
橙の君が言った。
こいつの実力者だが…大した事はない。
…だが…こやつの娘がな…まあ、いいが…。
「私の彼女だけど?」
逆らったらこいつごときはいつでも消せるが…こやつの娘は…。
まあ、いいなんとかなるだろう。
ミゼルの柔らかい尻をなでながら思った。
「魔王様の彼女様はお側室様と言うことでございますね。」
橙の君が愛想笑いを浮かべた。
「魔王妃のミゼルだ見知りおけ。」
そういうことだ…他の古だぬきどももおぼえておけよ。
「さようでございますか。」
感情がこもらない声で橙の君が言った。
そのくらいで魔力を漏らすとは古だぬきどももたいしたことないな。
しょせんお前らはその程度だ…そんなやつらの娘など魔王妃にすえぬ。
まあ、ミゼルに会う前に味見した女もいたがな。
「結婚式の準備を致しますので彼女様をこちらへ。」
橙の君が言った。
ミゼルを害するつもりらしいがそうはいかない。
まあ…こやつの娘が許さないだろうが…。
「ミゼルは手元におくからよい。」
オレはそう言って今度はミゼルの胸元に顔を埋めた。
橙の君の怨念がましい魔力を感じる…古だぬきのくせに隠せないのか?
「さて、いこうか。」
ミゼルを抱き上げて立ち上がった。
準備は万端に整っている。
連中の襲撃にそなえて結界もはってあるしな。
「ど、どこに?」
ミゼルがうろたえた。
「私の部屋だよ、準備が整うまで愛を確かめようか?」
オレは微笑んで玉座の脇の扉を開けた。
ミゼルはますますふるえ出した。
ミゼルを抱いたまま自室への廊下を歩きだす。
護衛官が静かに付きそってるが…邪魔でしかないな。
無駄に重い扉を弾き飛ばすように開いてすぐ閉めて護衛官を閉めだす。
ついでに魔力で封鎖する。
「魔王様!魔王イルギス様!開けて下さい!」
あわててる気配がするが…消されないだけ良いと思え。
「どこから食べようかな。」
どこもかしこも柔らかそうだ。
そう言うとミゼルが怯えた。
オレはミゼルをベッドに落とすようにおろして覆いかぶさって口づけた。
くくく…やっぱりすく脱ぐことになったな…。
今度はどんな服を着せようか?
「帰りたいです…。」
涙ぐみながらいうミゼルにオレの理性はきれた。
ああ、なんて軟らかい…。
もう、一生放さないからな。
あの反逆者のおかげで宝物を見つけられた。
家族は殺さないでいてやろう。
まあ…逃亡先で生きていればだけどな。
なんて甘い身体なんだ…。
あの日会えたのはオレの幸せお前の不幸だな。
「ああ、窯焼きチーズケーキ…。」
ミゼルがうわごとを言った。
よっぽどこの間新発売の窯焼きチーズケーキが食べたいらしいな。
だがオレの可愛い魔王妃、もうどこにもだしてなどやらん。
コンビニグルメが食べたければ魔王宮に作らせてやってもよい。
魔族でコンビニ経営してるやつをしってるからな…。
それでがまんするが良い…そうでないと人界を征服してしまうかもしれないからな。
読んでいただきありがとうございます。