九話
う~……。
わっしょい!
『なんじゃ? その掛け声は?』
いや~……。
飽きたから、新しくしっくりくるような掛け声の模索を……。
ほれそい!
【もう、訳が分かりませんね】
どっぽん!
『あの方に失礼にあたるから、もう止めろ』
う~ん。
ふっ!
大きな蜘蛛の行く手を阻むように、俺は衝撃波を放つ。
まあ、普通が一番いいな。
面白くない。
『不謹慎な奴じゃ』
「いいぞ! 狐火<紅蓮>!」
だって、今回は……。
たかだか、Cランク程度ですよ?
俺が斬った方が、早いんじゃね?
「滅!」
【そうでしょうが、呪いを受けるのは避けないと】
まあね~。
でも、梓さん明らかにSランクのパワーがあるのに、わざわざ相手に合わせて力を落とさなくても。
『そういう制限がかかっておると言っておったが、基準が分からんのぅ』
【まあ、貴方とは根本的に違いますからね】
まあ、弱い人間の俺はBランクの相手でも攻撃をもろに食らえば、即死ですから……。
全力で殺す!
てか、雑魚に殺されるのだけは、ノーサンキューだ!
【強敵なら、殺されてもいいんですか?】
「御苦労じゃった! さあ、帰って夕飯にするか!」
「うぃ~っす」
梓さんは、俺の腕を掴んで空を飛ぶ。
まあ、強い敵なら殺されても仕方ないしね。
『なんじゃ? また自殺癖か?』
違うわ!
殺されるにしても、勝てなくて殺されても仕方ないと思える相手の方がましってだけだ!
死にたいわけじゃない!
【それなら、いいですが】
大体、人間が勝てる相手なんて限界があるんだよ。
集団で、Aランクが精一杯ですよ!
Sランクとガチンコなんて……。
無理! 無理! 無理! 無理! 無理! 無理!
普通死ぬから!
馬鹿か!
師匠みたいに神にでもなるしか、勝てないっての!
全力で、殺そうとするな馬鹿!
ふぃ~。
やってらんね~……。
「また眉間にしわが寄っておるぞ? 考え事か?」
「えっ? ああ、少し」
「そうか……」
あれ? 梓さん?
笑ってるのに……。
なんで?
****
神社へ戻った俺は、夕食の用意をする。
「うむ! 今日もうまそうじゃな!」
「そりゃどうも」
「どうじゃ? 今日は、これでも?」
梓さんは、一升瓶とぐい飲みを二つ出してきた。
そういえば、最近飲んでないな。
「いいですね」
「まあ、一献!」
ぐい飲みに注がれた酒を、一度置くと梓さんにも酒を注ぐ。
では……。
おおう!
これキツイ!
【ちょうどいいんじゃないですか?】
まあ、そうだけど。
七割くらいアルコールじゃね~の?
『味は……悪くないな』
甘い?
うん。
飲みやすくて美味いな。
「お! いける口か! もう一献じゃ」
「どうも」
「しかし、あれじゃな。死神の剣とは、凄まじい物じゃな」
「先日説明した通り、師匠は世界の意思……星そのものの生命力を吸収した人ですから」
「御方様と同等の存在か……。わしとは、次元が違い過ぎるわ」
「まあ、俺も魔剣と聖剣なしにはまともに使えませんよ。極める事が出来るのかすら、自信ありません」
「今でもお前は、十分人間離れしとるがな」
むう……。
人間じゃない奴に、人間じゃないとか言われたくないな。
「お互いが本気でやったとして、わしすら降すかも知れんな」
「さぁ、どうでしょうね。無理でしょうけど」
「ふふふっ……」
食事を済ませても、久々の宴は続く。
俺は食器を片づけ、簡単なつまみを作る。
そして、梓さんは納屋から一升瓶を三本持ってきた。
「レイは人間にしては、本当に酔わんな?」
「体質みたいです。まあ、多少顔は赤くなりますけどねぇ」
「そうか。で……何処まで話した?」
「酔いましたか? 初めて洋服を着た人間が、ここに来た時の話です」
「そうじゃった! あれは、面食らったものじゃ。その男の依頼が、妻にとりついた狐を祓ってほしいと言ういらいでな」
狐に? 狐?
梓さんは、話の合間に酒をグイッと飲み干す。
「ぷはっ! 多分、今のお前と同じ顔を、わしもしておったじゃろうな」
「で? どうしたんです?」
「眷族が、自分を敬わないと怒っておってな。荒神になるほどではなかったが、話し合いで退散して貰った」
「へ~。よく納得しましたね」
「少なくとも、その男が死ぬまでは神棚に、油揚げを欠かさず祀る事を約束させた」
また、現金な神様だな。
てか……油揚げって何だろう?
言葉の雰囲気からして、揚げてあるっぽいな。
【とても和やかな雰囲気ですね……】
『そうじゃな(出来れば、このまま……)』
そして、宴は続く。
既に、二人で一升瓶を十本ほど飲みほした。
トイレが近くなってくる。
「へ~。梓さんって昔、普通の狐だったんですか」
「そうじゃ。兄弟達と母について、山で暮らしておった」
「ほう」
「そこで、土砂崩れに巻き込まれてな……。わしだけ助かったが、怪我をしたんじゃ」
「えっ? 野生動物の子供が一人で怪我って……死ぬんじゃないですか?」
「そのはずじゃったが、一人の人間の男に助けられてな。その男は猟師をしておった。山小屋で一人暮らす、少し変わった奴じゃったな」
それで、人間が好きなのか?
「ちょっと、こちらに来て座れ」
「なんですか?」
おおぅ!?
梓さんは、隣に座った俺のひざに頭をのせた。
あんた、自分が美人なの自覚あります?
てか、種族違うから駄目じゃなかったの!?
俺の手をとった梓さんは、そのまま自分の頭へと導いた。
「猟を手伝うと、こうして膝の上に置いて撫でてくれたんじゃ……」
いやいやいや!
その時、只の狐でしょ!?
今は、おねいさんですからね! 美人の!
「あの……」
「その男は、ある日落雷による山火事に一人で立ち向かったんじゃ。斧一つで、火が広がらない様に木を切り倒してな」
あ……。
また、あの顔……。
「わしも、後ろ足で必死に砂を蹴ってな……。本能が火から逃げろと言うのを、その時は無視できた。ただ、その男ともっと一緒に居たかった。その男の為に、力になりたかった。まあ、大した役にはたたなんだろうがな」
その結末って……。
「村を守りきったわしらじゃったが、煙を吸い込み過ぎておってな……。次にわしが目を覚ましたのは、わしを抱き抱えて丸まった男の焼死体の懐じゃった」
はぁ~……。
「わしは、悲しくて……悲しくてなぁ……。只悲しくて、その場で泣き続けたんじゃ。その声が、御方様に届いて今のように、人を守る使命を貰ったんじゃ」
生き長らえるのは……。
本当にいい事だったんですか?
「神になって知った事じゃが、その男は猟をしている最中に、誤って自分の妻を撃ち殺してしまったそうじゃ」
人生ってのは、残酷だよな……。
「だから、一人で山小屋にこもった。贖罪の為か、最後は村を守って……。ちなみに、妻の名前は梓だったそうじゃ」
運命ってのは残酷だ。
「男が最後に名を呼んだ梓は……。わしだったのか、それとも……」
俺は、梓さんの頭を撫でる。
優しく……。
優しく……。
うおっと!
「なんです?」
梓さんの手が、俺の頬に触れていた。
そして、顔をこちらに……。
「お前の雰囲気がな……。何故か、その男と重なるんじゃ」
…………。
「瞳の奥に……。常に、悲しみが潜んでおる。それに、お前は確かによく笑うが……」
あらら……。
「嘘の笑顔を見るのは、わしの心も痛くなってかなわん」
さすが、神様。
「どうじゃ? 少しだけ、わしに話してみんか?」
「いや……。そんな大したことは……」
「人の身で、あれほどの呪いを受けてか?」
う……。
「あれほどの剣が身につくほど、戦い続けてか?」
はぁ~……。
「そこしかない、自分の世界から追放されてもか?」
ああ……。
そんなに、泣きそうな顔しないでくださいよ。
「話しますから、泣かないでください」
「うむ」
本当に大した事じゃないんです。
「何から話しましょう……。俺の両親は……」
色々な部分を省略したが、正直に話してみた。
俺の、ゲロすっぱ苦い人生を……。
真っ黒で、真っ赤に染まった二十数年を……。
「あれ? 約束破っていいんですか? 神様が」
「五月蝿い! お前は……お前は何故笑える?」
「これが俺だからです。それ以上の理由はありません」
「お前は……」
涙を流しながら起き上がった梓さんに、力いっぱい抱きしめられていた。
ははっ……。
ちょっと、苦しいな。
「お前! ここでずっと暮らせ!」
はい?
「いやいや……」
「御方様に相談してやる! 御方様なら、お前をとどめる事も可能かも知れん!」
世界の意思か……。
どうだろうな?
「お前がつがう相手が欲しいなら、なってやる! 種族の違いで、子はなせんかも知れんが! わしなら、お前の好みのメスにも変化できる!」
また、すごく強引なプロポーズだな。
今のままで、十分魅力的ですよ。
でも、ちょっと嬉しいな……。
俺は、あんまり人から受け入れて貰えないから……。
「もし、可能なら……」
「よし! うん!」
この人は……。
顔を真っ赤にしながら、ぐい飲みに入った酒を一気に飲み干した梓さんは、再び寝ころぶと頭を俺のひざの上に乗せる。
「撫でろ!」
はい?
「早く! 撫でまわせ!」
どんな愛情表現なんだか……。
梓さんの頭を撫でながら、俺もぐい飲みの酒を飲む。
うん?
また、なんとも色気のない……。
狐に戻った梓さんは、俺のひざの上で丸くなっていた。
眠ってる間に悪戯は、無理そうだ……。
俺は、酒を少しずつ飲みながら、囲炉裏の火を眺める。
そして、そのまま眠ってしまった。
次元の狭間に居る間みたいに、出来ない状況以外で修練しないなんて……。
どれくらいぶりだろう……。
俺が求める物……。
それが、欲しいから力が欲しかったのか?
よく分かんなくなって来たな……。
****
「ペチペチ……」
うん?
なんだ?
俺の頬を、何かがペチペチと叩いて……。
まだ、眠い……。
「ガブッ!」
目を開かない俺の腕に、激痛が走る。
「痛!」
「起きたか!」
起きたかじゃない! お前が、起こしたんだろうが!
狐のままの梓さんが、俺の腕を噛んだ姿は見えていた。
「さあ! レイ! 早く朝飯の用意じゃ! わしは、水浴びをしてくる!」
朝からテンションが高いな~。
てか、変な格好で寝たから、体いて~……。
「用意できましたよ~」
「うむ! 今行く!」
食事を二人分用意した俺が、梓さんに声をかける。
あれ?
何かの本を読んでる?
食事中に珍しいな……。
おおぅ!?
「あの……それって……」
「これは、外の世界から持ってきた物だ。わしは、神になる前もつがう相手を見つけていなかったのでな」
いやいやいや。
『ある意味、斬新な光景じゃな』
【逆なら分かるんですがね】
五月蝿いわ!
朝から何してんの? この人は?
「何故? そんな物を?」
「人間の求愛行動を、学ばんとな」
朝飯食いながら、女の人がエロ本ガン見って!
どんな光景だよ!
「お前はMか? Sか?」
はい!?
【Sで!】
『ドSじゃ!』
「……ノーマルです」
【『嘘付き!』】
黙れ!
「そうか……う~む。難しい記述が多いな」
そんなに、それを真面目に読まないでよ!
なんかこっちが恥ずかしい!
「人間の求愛とは、いろいろ難しいものじゃな」
「はぁ……」
なんて答えればいいか、分かんね~よ。
「お前は……レースクイーンとスチュワーデスとメイドの、どれが好みじゃ?」
はい?
メイド以外分からないですが?
「レースクイーンとスチュワーデスって、何ですか?」
「知らんのか?」
「はぁ……」
「車のレースを彩る女性と、飛行機の乗務員の事じゃ」
『これは、分からんのぅ』
「俺の世界には、車も飛行機もなかったんで知らないです」
「この職業の服装は独特で、それに男性は興奮すると書いてあるぞ?」
そんな特殊な趣味は持ってない!
見た事もないそんな制服よりも、裸がみたい!
「メイドなら分かりますけど、俺は仕事の服で興奮はしませんよ」
「しかし、このレースクイーンの制服は、なかなか露出が高いぞ?」
ちょ! それ見せて!
『落ち着け、煩悩』
「ブッ! ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ!」
「汚いな」
痛い痛い痛い!
吹いた勢いで、鼻の奥に異物が入った!
「これが、レースクイーンの制服じゃ」
そう言えば、この人自在に服装変えられるんだった。
「どうじゃ?」
えらく胸元が開いてて、股間が食い込んだ水着ですね!
この場合の選択肢!
一.抱きつく。
二.襲いかかる。
三.包容する。
四.押し倒す。
あ……あれ?
選択肢が、選択になってなくね?
てか、この選択肢いらなくね?
『あれじゃ』
何?
『お前が昔よくやっていたゲームなら、ひとつ前の選択肢を間違えておるんじゃろう』
それってつまり?
『どれを選んでも、バッドエンドじゃな。セーブポイントからやり直しじゃ』
セーブポイント……。
そんな事出来るの?
『現実じゃから無理じゃ』
それもう! バッドエンド直行じゃんか!
もう、ここで終りのお知らせじゃんか!
なんてこったぁぁぁぁぁぁ!
【あの?】
何!?
【普通に返事すればいいだけですよ】
ああ! その発想はなかったわ!
「どうじゃ? 駄目か?」
「いえ……。いいと思います」
「そうか! では、これは?」
「なんですか? それ?」
「これがスチュワーデスじゃ!」
ん? いや……普通のレディーススーツじゃん。
「それは、別に……」
「そうか……」
元の姿に戻った梓さんは、食事を続けながらさらに読書を続ける。
あの本……。
【何ですか?】
後で、見せてくれないかな~……。
【字は読めませんよ?】
画像だけで十分です!
『お前、この土地神に嫌われたら目も当てられんぞ? 煩悩?』
うぬううううう!
はぁ~。
我慢……。
でも! ちょっとくらい……。
【その思考で、いったい何度失敗したんです?】
はううう……。
はぁ~。
我慢……。
****
「レイよ!」
「なんですか? うわっと!」
食事の片づけを済ませて、境内を掃除していると、梓さんが木刀を投げ渡してきた。
「何時も、お前は一人で修練をしておるな?」
「まあ」
「今日は、わしが稽古をつけてやろう! これでも、わしも四百年ほど剣術を修めておる」
う~ん……。
「お前も、お前の剣も舐めておらん! じゃが、稽古相手くらいは必要じゃろう?」
ああ……。
元々優しかったけど、今日は気持ち悪いほどだな……。
気を使わせちゃってるかな?
【いい方ですね】
『姉さん女房も、いいものじゃ』
「じゃあ、お願いします」
「よし! 何処からでも、打ち込んでこい!」
梓さんは、正眼に構えている。
まずは、軽く。
「行きますよ」
ポコッっと軽い音が、聞こえた。
「痛!」
うん?
「これくらい、避けるなり受けるなりして下さいよ」
俺は、かなりゆっくり……。
ほとんどスローで剣を振り下ろしただけなのに……。
「も! もう一度じゃ!」
次は、もっとゆっくり……。
「痛! 何じゃ? お前の剣は!?」
んん!?
「ゆっくりと、来るのが分かっておっても回避できん。それが、死神の剣というものなのか!?」
どうなってるんだ?
本当に、人間でも回避可能な速度なのに。
訳が分かんない。
「分かった! 次はこちらからじゃ! これでも、人間の剣術をいくつか皆伝しておる!」
「じゃあ、お願いします!」
「チェストォォォ!」
木刀のぶつかる音が、絶え間なく続く。
それだけを聞くと、いい勝負をしてそうに思えるだろうが、そうではない。
梓さんは速い……。
速いんだけど、軌道が全部予測できる。
振り抜く前に、木刀の切っ先で止める事が容易だ。
ぶつかる音も、俺が梓さんの木刀を切っ先で止めているだけの物だ。
「はぁ! はぁ! はぁ!」
梓さんは息を切らしてきたが、俺は最初に立った場所から動くことさえしていない。
これじゃあ、修練にならないよ。
「あの……。梓さん?」
「お前! お……お前の練度は、どうなっておるんじゃ!」
はい?
「達人のレベルすら、凌駕しておるではないか!」
そんな事、言われても……。
「少し本気を出すぞ!」
梓さんは、全身に魔……霊力を纏う。
それにより、速度、剣の威力等全てが向上した。
普通の人間だと、目にも止まらずに瞬殺だろうなぁ……。
「避けるなぁぁぁぁ!」
そんな無茶な。
「そんな威力を木刀なんかで受けたら、折れちゃいますって」
「何故!? これだけ本気で動いているわしの懐に、自由に出入りできるんじゃ!」
だって~……。
『まあ、この土地神もミルフォスには及ばんが、かなりの戦闘力があるからのぅ』
【プライドボロボロじゃないですか? 涙が滲んできてますよ?】
これでも、手加減してるのに……。
ガンっと、木刀が石畳にぶつかる。
「もう、知らん!」
梓さんは地面に木刀を叩きつけ、そっぽを向いてしまった。
ちょ……。
「勘弁して下さいよ」
急いで駆け寄った俺は、必死に梓さんの頭を撫でる。
あんた、いい年した神様でしょうが。
「う~……。お前は、本当に人間か?」
「まぁ、一応」
「こ! こ……こんな撫でたくらいで、わしは……」
そう言いながら、目を閉じて受け入れてますよ?
うん?
殺気!?
「隙ありじゃ!」
ぼべら!
梓さんの拳は、綺麗の俺のテンプルにヒットした。
脳が揺れる……。
倒れん! 倒れんよ!
【足腰がくがくですよ?】
てか! この人は、どんだけ負けず嫌いなんだ!
「やーい! やーい!」
俺から逃げるように距離を置いた梓さんが、満面の笑みでとび跳ねながら叫んでいる。
子供か!
昼飯に入れる塩を、砂糖に変えるぞ! コラ!
【心の狭い事で……】
いやいやいや!
これは怒ってもいいとこだって!
見ろよ!
足がまだ、震えてるって!
『昔、散々殺されかけたのよりは、マシじゃろうが』
そう言う問題じゃないの!
境内を逃げる梓さん。追いかける俺。
お互いの事情を知り……。
甘えて……。
甘えられて……。
俺に訪れた、本当に久し振りの安息。
ただ毎日を生き抜く為の、仮初めの平和ではなく……。
本当の幸福を感じられる時間。
自分を受け入れてくれる……。
自分が居ていい場所。
嬉しくて……。
只、嬉しくて。
俺は、あの時決めたはずなのに……。
覚悟を決めたはずだったのに……。
弱くて、馬鹿で、情けない俺は、都合よく忘れてしまう。
俺にとって、それは最悪の罪だ。
いや……。
俺の存在そのものが罪……。
世界が残酷ってのは、誰よりも知っているはずなのに。
本当に、俺って奴は……。
きっと俺は、あの時死ぬべきだったんだ。
ちくしょう……。
やってらんね~……。




