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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第九章:異世界と狭間編
8/77

八話

バシュっと軽い衝撃と共に、俺の視界が切り替わる。


いつもの事だ。


えっ!?


はいぃぃぃ!?


ちょっ!


周囲にドガンっと、大きな音が響く。


それに、メシャと生々しい音が続いた。


おっふぅ!


いや……あの……これ。


これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


背骨ぇぇぇぇぇぇぇ!


あの! これ!


俺の背骨ぇぇぇぇぇぇ!


『ああ、もう。五月蝿い。今、回復しておる』


顔面の皮膚もぉぉぉぉぉ!


【今、復元してますよ……】


あの!


これ!


痛ぁぁぁぁぁぁぁい!


【慣れて下さい】


無理じゃ! ボケ!


次元の狭間から弾き出された俺は、金属の大きな箱(角)に背中から激突し、体が曲がっちゃいけない方にくの字に曲がった。


そのまま、反動で顔面から地面に……。


いや!


ここで、へこむと立ち上がれない気がする!


星に……この大地にキスをしたんだ!


【格好よくないですよ……】


ぬうう!


噛み締めた歯にジャリッと、砂の感触がする。


****


『ほれ、終わったぞ』


立ちあがった俺は、体の埃を払う。


【今回は短かったお陰で、魔力が残っていてよかったですね】


そーですね!


ええい! もう!


なんだよ? この金属のでっかい箱は?


俺が持ち上げると、ギギィィと錆びている箱の蓋がきしむ。


中は……ゴミでした。


ゴミ箱かよ。


無性に腹が立った俺は、その金属の箱を蹴りつけた。


「あら? いけないわね~」


腹いせにゴミ箱を蹴った俺が、振り向くと……。


色気たっぷりのお姉さんが……。


ウェイブのかかった髪と、泣きぼくろに真っ赤な口紅。


何より、大きな胸とパックリ開いた胸元がまた……。


『そこよりも、気にする所があるじゃろうが!』


灰色でなかなかセクシーな……ライダースーツ?


『違うわ!』


「どうしたの?」


あ! 次は、スレンダーポニテ美人が!


こっちも、ぴちぴちのライダースーツ!


「彼が、公共物を蹴りつけてたのよ。ほら、私達も一応取り締まる立場じゃない?」


おおぅ?


もしかして……。


「壊れてないみたいだから、逮捕はしないけど……」


警察か軍関係の人でつか?


「少~し。職務質問は、させてもらおうかしら?」


やばくね?


【異世界から来たなんて言えば、即不審人物として逮捕でしょうねぇ】


で……すよね~。


「こんな怪しい奴、掴まえて絞ればいいのよ」


ノン!


いきなり逮捕って!


どんだけだよ!


もう!


やってらんね~……。


「あっ! ちょっと!」


もちろん逃げます! 逃げますともさ!


ビルの裏路地らしい場所を、俺は疾走する。


「待ちなさい!」


待てって言って待つ奴は、馬鹿だ!


もしくは、逃げたりせん!


この馬鹿女どもが!


へっ! ば~か! ば……。


おおう!?


【これは、意外ですね】


『ついてくるどころか、距離をつめてきておる』


うそ~ん!


今の俺、そこそこ速いよ!?


「足には、自信があるみたいだけど!」


「私達! 特防なのよ! 諦めない?」


特防ってなに!?


****


はいはい……。


俺は、よく選択を間違えます。


ポニテが銃で、五センチほどのゴム弾を撃ってきました。


避ける為に……。


跳べばよかった。


走る軌道を変更した俺は……。


「で? 名前は?」


「それよりも、怪我はないの~? 凄い音したわよ~?」


再び地面に据え付けられた、大きな金属のゴミ箱に激突し、只今護送されています。


つ……掴まってまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


ちょっと抵抗したら、両手に頑丈な手錠をされました。


ああ~。


ちょっと懐かしい。


『久し振りじゃな。前科持ち』


「な! ま! え!」


「レイ」


「フルネーム!」


「レイ:シモンズ……」


ちょっと、このポニテ怖い。


「あら? 海外の方? パスポートと、滞在許可書は? 身分証明書でもいいわよ?」


ありませんけど、何か?


「早く出しなさい!」


「ないです……」


「持ち歩かないと、法に触れるのよ?」


「家に置いてあるならあるで、住所!」


「……ありません」


駄目だ。


もうこれは、脱獄以外の道が残ってなさそうだ。


【あまりいい事ではありませんが、仕方ないですね】


相も変わらず、俺の人生には仕方ない事が多いな~。


あ……。


目に水分が……。


「何? 男が泣きそうにならないでよ!」


えっ!?


ちょっ! 違っ!


「逃げたのを考えても、不法入国……かしら~?」


やべ!


この泣きぼくろも、目が笑ってない。


こっちはこっちで怖い。


「返事は? へ! ん! じ!」


「はい……」


不法入国には違いないんだけどね……。


異世界からの……。


てか。


あれ?


言葉通じてる!


『遅っ! 今気付いたのか?』


あ~……うん!


知ってる、知ってる。


喋る前から、気付いてた。


【もう少し、上手く誤魔化せませんか?】


ちょっ……。


何を言ってるか分からないです。


【はぁ~……】


「で? 出身の国は? 何時こっちに来たの?」


やべ~な。


適当に嘘付くにも、国なんてわかんね~ぞ?


うん?


魔……力?


『う~む。あまり感じた事のないタイプじゃが、魔力の一種の様じゃな』


あれ?


えっ? 何?


目の前の怖い美人二人が、何かを感じ取ったように俺から目線を逸らし、気配を探っている。


嘘?


たまたま、タイミングがあっただけ?


【でも、二人が向いてる方から感じますね】


え?


感知できる感じ?


「おい! 出たぞ!」


ワンボックスカーを運転していた男が、二人に叫んでいる。


「分かってるわ」


「近いわね~。護送中なのに」


ああ。


やっぱり感知できるんだ。


運転席のモニターに、何か情報が映し出されている。


文字は流石に読めないか……。


「今動ける特防は、俺達と風見だけだとさ!」


「仕方ないわね~」


「向かいましょう!」


「今日は楽出来ると……思ったんだがな!」


そう叫んだ男が、車の速度を上げる。


****


魔力に近づくと、悲鳴が聞こえ、火の手が上がっていた。


でっかい犬?


『イタチ科の動物ではないか? いや、げっ歯類か?』


【魔方陣から、四本の首だけがのびてますね】


真っ黒い目が六つある首だけの獣が、人々を襲っていた。


モンスター?


そこそこ魔力が強いね~。


あ……食われた。


【助けます?】


う~ん……。


あの怖姉さん達が、頑張るんじゃない?


それよりも、この隙に逃げよう。


【あれ? 今回はやる気がありませんね】


知らない奴の為にまで、命はかけられません!


車の外に、三人が飛び出すと同時に、バイクに乗った男がその三人に話しかけている。


「遅いぞ!」


「五月蝿いわね! これでも、急いだのよ!」


「フォーメーションは、何時も通りでいいですねぇ?」


「行くぞ!」


銃や刃物など、物騒な装備をして四人がモンスターに向かう。


車の扉開けっぱなしだ……。


今だ!


魔剣で手錠を斬り捨て、俺は車外へ出る。


「金剛結界! 発露!」


うおおぃ!


デカ乳が、かなり強力な結界を発動しやがった。


なるほど……。


『無防備すぎると思うたが、これは普通の人間では出る事は出来んな』


あれ?


一般人も結界の中に、閉じ込めちゃってますよ?


パニックになってますよ?


いいんですか?


どうしよう?


俺が逃げる穴で、逃がしてやるべき?


『ほう……。あれは、ゴースト系のモンスターの様じゃな』


首だけの獣は、生き物以外をすり抜けて動いていた。


うん? 魔力?


感じは違うけど、多分この世界の魔力だよね?


怖姉さん達が使ってる銃の弾や、剣に魔力がこもってる。


【あの方がたからも、魔力を感じますね】


おお!


そう言う事か。


あいつ等、この世界のモンスター退治の専門家か何かだよ。


『そう見て、間違いあるまいな』


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ああ?


結界の端で固まっている中の、女の人が狂ったように叫んでいる。


目線の先は……。


おっと……乳母車。


モンスターの射程範囲内だな。


【あの四人は……。まだ、あの子供に気付いてないようですね】


あ~あ……。


「あれは!」


「子供!?」


首が一つ、乳母車に大きな口を開けて襲い掛かる。


「しまった!」


はい。


アッパァァァァァァァァ! カット!


魔力を込めた拳で、俺は獣のジョーを下から打ち抜いた。


そのまま、乳母車を押して退避!


「ああ! 英雄ひでお!」


俺が運んだ子供を、母親が抱き締めている。


まあ、これくらいはサービスで。


うん?


あれは、刀……かな?


男が持った刀とポニテが持った槍の刃に光の文字が浮かび、首を斬り捨てた。


『魔剣か、聖剣の一種じゃろうな。かなりの魔力じゃ』


のんびりしてたら、また掴まるな。


逃げよ!


見る間に、首は四本とも倒されていた。


それでも、結界を解かないのは俺への対策かな~?


「あなた! そのち……」


はいはい。


結界をさっくり切り裂いて……。


ふははははっ!


「ちょっと! 待ちなさい!」


嫌じゃ! ボケ!


今回は、全力で走ります。


ふははははっ!


あれ?


誰かに見られてる?


【そうですか? 気配は感じませんが?】


気のせいか……。


****


人込みを抜けた俺は、薄暗い路地裏に隠れる。


その路地裏は、袋小路に見える。


見えるんだけども。


なんだこれ?


『空間がゆがんでおるな』


【魔力も感じますね】


あ……そぉい!


すき間のある空間を、殴りつけてみました。


すると、目の前に階段に続く石畳が……。


えっ?


また巻き込まれる?


何でそんな事するかって?


それは……。


分かりませ~ん!


無意識に体が動きます!


誰か、助けて下さ~い!


『ただ、考えなく行動しとるだけじゃ。馬鹿者』


なんだ?


魔力が満ちてるな。この空間。


【広大な森? これは、別の空間につながってますね】


なんだろう?


でも、悪い感じの魔力じゃないよね。


少し長めの石で出来た階段を上る。


上まで昇り切ると、そこには木造の建物が。


なんだここ?


「人間がこの神社に来るのは、久方ぶりじゃ」


建物の陰から、着物を着てほうきを持った女性が現れた。


亜人種?


いや……。


【潜在的な力は……かなり強いですね】


天使や悪魔の類か?


「ほう! お前、面白い霊力を持っておるな」


霊力?


『魔力の事ではないか?』


ああ。


「あんたは?」


「わしは、ここの土地神じゃ。で? 願いは?」


「幸せが欲しいです」


『迷いなく返事をするな! 何かの取引だったら、どうするつもりじゃ!』


だって!


言えって言ったもん!


このね~ちゃんが、言ったもん!


「幸せ? ま……また、大雑把な願いじゃな。ここは、もっと強い思いがなければ導かれないはず……」


何言ってるのこいつ?


「あああ!」


うん?


「お前! 無理やり入りおったな!」


まずかった?


頭から耳の生えたおねいさんは、印を結んで呪文を唱えて空間を元に戻した。


てか……。


『何と言う魔力じゃ』


このレベルは、久し振りだな。


「この! この罰あたりめ!」


来るか?


あれ?


強い敵意や、殺意がない?


「ふん!」


おふぅ!


おね~さんの拳が、俺のアゴを物凄くいい角度でとらえた。


倒れこみそうになる所を、必死で踏ん張る。


倒れん! 倒れんよ!


ただ、俺の両ひざは生まれたての小鹿のように、ブルンブルン左右に揺れている。


「全く! 願いを叶えてやらんぞ?」


あれ?


願いは叶えてくれるの?


「で? お前の幸せとはなんじゃ?」


そりゃあ! 女……。


で、いいのか?


金?


元の世界?


名声とか栄誉とか……。


【煩悩の塊ですね……】


「なんかこう……。いい感じに幸せが欲しいです!」


『アバウトすぎるわ!』


「……分からん」


なんですと~?


『当然の反応じゃろうが。何時も言っておる、彼女でいいじゃろうが』


だって!


この世界にどれだけいるか分かんないし、お金あったら大人の店いけるじゃん?


何より、元の世界戻れば普通に働けるし!


名誉は、ここで貰っても仕方ないけども!


「なんじゃ? 願いもなく、ただ入ってきただけか?」


待って! 何かは欲しい!


「ちょ! 考える時間を!」


おねいさんは、両手と顎をほうきで支えため息をついた。


【女性と一夜を、とかでいいんじゃないですか?】


だって!


【なんですか?】


このおね~さんも美人じゃん!


ちょ……童貞とか……口に出すの無理。


お金!


いや……でも、次の世界じゃ使いないだろうしな。


「ふぅ~。折角、五十年ぶりの人間じゃからわしも張りきったのに……」


あわわわわ……。


『焦るな馬鹿。女に見られているだけで、胃に穴をあけては魔力がもたん!』


馬鹿って言うな!


えっと! えっとぉぉぉぉぉぉ!


「まだかのぅ?」


あ……あああああああ!


「あの! 元の世界に戻りたい……です」


「元の?」


あれ? 首を傾げてる。


神様って、何でも分かるんじゃないの?


****


「まあ、飲め」


「はぁ」


神社とか言う建物内で、俺は出された茶をすする。


このあずささんは、何とかって言う狐の神様なんだって。


人を災厄から守ったり、悪い気を祓ったりするのが能力らしいです。


ジジィ祓ってもらえるかな?


『なっ!?』


まあ、俺の役には立たないだろう。


使えね~!


「ほぉ。嘘は言うておらんようじゃな。わしも生まれて四百年以上たつが、こんな事は初めてじゃ」


出していた二本の剣を、腕の中へ戻す。


「まあ、後願えるのは……。時間まで暮らすとこないから、庭でいいんで住まわせて下さい」


「いいぞ。それも、ちゃんと建屋内に床を用意しよう」


「有難う御座います。ところで……」


俺の言葉をさえぎる様に、梓さんは掌を俺の口の前に突き出した。


「わしは神じゃから食事は少量で済むが、この空間はここだけで完全な循環出来る環境になっておる」


読まれた。


「魚もとれるし、野菜も作っておる。鳥や獣も住んでおるぞ」


よし!


「狩りに行ってきます!」


「まあ、食べられる以上の獲物は捕るでないぞ」


「へいへい!」


三日ぶりのおまんまじゃぁぁぁぁぁぁ!


****


三時間ほどで、日が暮れました。


「お前……。食えるだけと言ったじゃろうが!」


俺が捕まえた、小型のイノシシと二羽の鳥を見て、梓さんに文句を言われた。


「そのつもりですが?」


「なんじゃ? 燻製にでもするつもりか?」


「いえ? 今日食べますよ?」


「お前……」


「あっ! 台所借りますね! この野菜いいですか?」


ざるに、まだ泥のついた野菜が用意されていた。


「ああ……」


さあ! レッツ! クック!


****


ぷひぃ~……。


「お前……」


「はい?」


「すごいな」


もちろん、命に感謝して全部食べました。


『久々の満腹じゃな』


【ええ、前の世界も食事に苦労しましたからね】


「まあ、ここしばらく食べてなかったもんで」


あれ?


あれれ?


目の前がそのまま真っ暗になった俺は、そのまま倒れ込む。


寝るのも久しぶりでした。


****


「……お……おっぱ!」


上半身を起こした俺は、寝汗をぬぐう。


なんだ、夢か……。


『アホの子らしい夢じゃ』


辺りは真っ暗になっており、俺には布団が掛けられていた。


食器や鍋は、片付けてくれたのか……。


うん!


梓さんにお礼を言わないと!


『お前! 覗く気か!』


【相手は、神様ですよ?】


出来ればネグリジェ希望!


魔力を感じる部屋へ、気配を消して……。


シュタタタ……シュパンっと!


う~ふ~ふ~ふ~ふ~。


音も気配もなく、目的の部屋の引き戸を……。


うん?


マットの上で、少し大きな狐が丸まって寝てました。


あの金髪は、狐の色だったんですね。


「なんじゃ?」


梓さんが、首を持ち上げた。


気を抜いて、気配を出しちゃいました。


ノンッ!


「えと……あの……」


「ふふふっ。まさか、神に夜這いをかけるとはな」


読まれた!


【あ~あ】


『また、宿なしかのぅ』


「いえ! ちが……」


「種族が同じなら、答えてやらんでもないが……。まあ、今日は我慢する事じゃな」


そう言うと、梓さんは顔を自分の毛皮の中へうずめた。


助……かった?


ふぃ~。


『アホ……』


その後俺は……。


元の場所で、そっと眠りました。


****


「ほれ! 頑張れ! 頑張れ!」


翌朝から、神社のぞうきんがけをしています。


昨日の件があるから……。


もちろん逆らいません!


『情けない』


「うん? 早……早いな! お前は!」


舐めんな!


家事は、基本的に得意です!


「俺、猟に行ってきます」


「う……うむ」



森の中で獣の通ったあとを確認する。


水場に、フン……。


新しさから見て、今日はこのコースか?


獣が通るであろうコースの風下にある木の上で、気配を消して身をひそめる。


といや!


下を通る鹿の群れを目がけて、ダイブする。


そして、そのまま鹿の頭をちょっとヤバいレベルで殴り付けます。


ゲットォォォォォォ!


【サバイバルだけで、生きていけますよね】


『都会育ちの野生児じゃ』


それもう、野生児じゃなくね?


さて、持って帰ろう!


これは流石に、三日はもつな。


「また、大物を……」


「ああ、これは流石に何日かかけます」


「そうか……」


「大丈夫ですよ。捕りつくしたりしませんって」


お昼御飯は、鹿のお肉~。


『剣のお陰かも知れんが、捌くのも早くなったのぉ』


ふん! ふん! ふ~ん!


【気質は、商店街の精肉屋さんが向いてるかも知れませんね】


大体の世界で、生きていく自信あるよ~っと。


【たくましい事で】


こんな感じで、仕事が午前中に終わってしまいました。


「うん! いい味じゃな! これは、異界の料理か?」


「そうですよ~。この間行った世界にあった、何とかソースの何とか風です」


「全く分からんが?」


名前は忘れました。


「まあ、よい。これから、毎日が楽しめそうじゃ」


…………。


「あの……俺って、五十年ぶりの訪問者なんですよね?」


「そうじゃが?」


「なんで、人間の願いを? 人間からの見返りはあるんですか?」


貢物を貰うとか、信仰して貰うとか?


『生贄や魂の可能性もあるのぅ』


何? 俺、食われるの?


「わしは、人が好きなだけじゃ。何も見返りなど求めんぞ?」


まあ、人から貰える物くらい、神様は必要じゃないよね。


「じゃから、強い願い……。それも、わしで叶えられる場合のみあの門は開くようになっておる」


無理やり入った俺は、かなり特別か。


「神様って、日頃何してるんです? 人来ないんじゃ、暇ですよね?」


「わしにはわしに与えられた仕事があるんじゃ」


与えられた?


「もしかして、世界の意思に?」


「ほぅ。流石に世界を旅するだけあって、物知りじゃな。その通り、わしら全ての神の……親になるのかのぅ? 御方様の意思に沿っておる」


その辺の仕組みは、どの世界でも大体一緒なんだな。


『まぁ、全て同じような仕組みなんじゃろう』


「で? 仕事って?」


「お前、世界を旅するくらいじゃから、空は自在に飛べるか?」


蹴れますけどね。


「無理です。多少とび跳ねたりは出来ますけど」


「それで、よい。どうじゃ? わしの仕事に同行せんか?」


「はぁ。で?」


荒神こうじんを狩る事じゃ」


はい?


ちょ! くわしく!


「うん? 荒神こうじんと言うのは……」


何?


暴走した神様を倒すのが仕事?


正義のヒーローみたいな事してるんだな。


「わし等の様な土地神が、荒神に変わるのは色々な要因がある。人に対する憎悪などもその一つじゃ」


悪魔化した天使みたいなもの?


【それに近いんでしょうね。要因は、悪魔と違って人間への怒り等なんでしょう】


世界の意思に、完全統治されてないのな。


『そこはわし等の世界と違うのじゃろう』


で? その神様退治について来い?


死んでしまうわ!


「神は、死ねばその霊力が全て御方様へと返還される。じゃから、わしは始末屋と言った所じゃ」


「でも、俺人間ですし……」


「ああ。別に手伝ってほしいと、言っておるわけではない。ただ、一度見せたいなと思っただけじゃ」


まあ、見るだけなら……。


****


「五行相克! 我に従いし火よ! 敵を焼き尽くすべし!」


<ホークスラッシュ>


「こちらに追い込め!」


へいへい。


<ホークスラッシュ>


「よし! 狐火<焔>!」


え~……。


なんだかんだで、手伝ってます。


目の前で、でっかいイノシシが燃えてます。


【もう、巻き込まれるのがスタンダードですね】


そうですね。


ふっ……ざけんな!


『おい』


分かってる。


こちらに向かって、体が溶け始めたイノシシが走り出した。


止めを刺すか。


「やめよ!」


ああ?


梓さんの剣幕におされて、俺はイノシシを回避する。


何だよ?


「滅!」


梓さんの技で、イノシシは消えて無くなった。


「あの……」


「馬鹿者!」


おこらりた……。


何で?


「お前が強いのは分かった! じゃが! 神に手をかけてはいかん!」


はぁ?


結構、殺しまくってますけど?


「お前はかなり特殊じゃが、神を殺せば多かれ少なかれ呪いを受ける!」


はい?


「手伝ってくれるのは助かるが、止めはわしに任せよ」


いやいやいや!


「呪い? もしかして、それって不幸になったりします?」


「まぁ、そう言う事もあるじゃろう」


うっ……そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!


『まさに、自業自得と言う事か?』


【ちょっと、予想外ですね……】


おま! これ!


とりえしつかないから、こんなになってるんじゃん!


ちょ!


マジかよ!


そりゃ、不幸だわ!


当然ですよ!


だって、やりまくり!


も~!


早く教えてよ~!


そう言えば、師匠も何か不幸に見舞われてたぁぁぁぁぁぁ!


きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


はぁ。


「なるほど、お前。手をかけた事があるな?」


「うぃ」


「ならば、わしが少しずつ祓ってやろう」


ああ!


そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁ!


梓様!


俺! あんた! 好き!


「抱きつくな!」


「ごめんなさい。でも、殴るのは……」


「当然じゃ! これでもわしは、メスじゃ!」


そこは、狐扱いなんだ。


女じゃないんだ。


あれ?


「車がこっちに来ますね」


「引き上げるぞ! 人間の荒神こうじん退治どもじゃ」


梓さんに腕を掴まれて、浮かび上がる。


あの服装は……。


【特防と言ってた人達ですね】


そう言えば、昨日の獣とさっきの荒神こうじんってのの気配が似てたな。


「全く、御方様の意思が分からん以上、仕方がないが……」


「呪い受けてるんですかね?」


「多分な」


ふ~ん……。


この日から、俺の呪いは梓さんによって緩和される。


でも……。


つくづく、世界ってのは残酷だ。


神様……世界の意思なんかに……。


人間ごときが、関わるものじゃない。


俺じゃあ……。


俺なんかじゃあ……。


これが、俺に対する罰ですか?


多くの命を奪った俺への……。


あ~あ……。


ちくしょう……。


やってらんね~……。

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