八話
バシュっと軽い衝撃と共に、俺の視界が切り替わる。
いつもの事だ。
えっ!?
はいぃぃぃ!?
ちょっ!
周囲にドガンっと、大きな音が響く。
それに、メシャと生々しい音が続いた。
おっふぅ!
いや……あの……これ。
これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
背骨ぇぇぇぇぇぇぇ!
あの! これ!
俺の背骨ぇぇぇぇぇぇ!
『ああ、もう。五月蝿い。今、回復しておる』
顔面の皮膚もぉぉぉぉぉ!
【今、復元してますよ……】
あの!
これ!
痛ぁぁぁぁぁぁぁい!
【慣れて下さい】
無理じゃ! ボケ!
次元の狭間から弾き出された俺は、金属の大きな箱(角)に背中から激突し、体が曲がっちゃいけない方にくの字に曲がった。
そのまま、反動で顔面から地面に……。
いや!
ここで、へこむと立ち上がれない気がする!
星に……この大地にキスをしたんだ!
【格好よくないですよ……】
ぬうう!
噛み締めた歯にジャリッと、砂の感触がする。
****
『ほれ、終わったぞ』
立ちあがった俺は、体の埃を払う。
【今回は短かったお陰で、魔力が残っていてよかったですね】
そーですね!
ええい! もう!
なんだよ? この金属のでっかい箱は?
俺が持ち上げると、ギギィィと錆びている箱の蓋がきしむ。
中は……ゴミでした。
ゴミ箱かよ。
無性に腹が立った俺は、その金属の箱を蹴りつけた。
「あら? いけないわね~」
腹いせにゴミ箱を蹴った俺が、振り向くと……。
色気たっぷりのお姉さんが……。
ウェイブのかかった髪と、泣きぼくろに真っ赤な口紅。
何より、大きな胸とパックリ開いた胸元がまた……。
『そこよりも、気にする所があるじゃろうが!』
灰色でなかなかセクシーな……ライダースーツ?
『違うわ!』
「どうしたの?」
あ! 次は、スレンダーポニテ美人が!
こっちも、ぴちぴちのライダースーツ!
「彼が、公共物を蹴りつけてたのよ。ほら、私達も一応取り締まる立場じゃない?」
おおぅ?
もしかして……。
「壊れてないみたいだから、逮捕はしないけど……」
警察か軍関係の人でつか?
「少~し。職務質問は、させてもらおうかしら?」
やばくね?
【異世界から来たなんて言えば、即不審人物として逮捕でしょうねぇ】
で……すよね~。
「こんな怪しい奴、掴まえて絞ればいいのよ」
ノン!
いきなり逮捕って!
どんだけだよ!
もう!
やってらんね~……。
「あっ! ちょっと!」
もちろん逃げます! 逃げますともさ!
ビルの裏路地らしい場所を、俺は疾走する。
「待ちなさい!」
待てって言って待つ奴は、馬鹿だ!
もしくは、逃げたりせん!
この馬鹿女どもが!
へっ! ば~か! ば……。
おおう!?
【これは、意外ですね】
『ついてくるどころか、距離をつめてきておる』
うそ~ん!
今の俺、そこそこ速いよ!?
「足には、自信があるみたいだけど!」
「私達! 特防なのよ! 諦めない?」
特防ってなに!?
****
はいはい……。
俺は、よく選択を間違えます。
ポニテが銃で、五センチほどのゴム弾を撃ってきました。
避ける為に……。
跳べばよかった。
走る軌道を変更した俺は……。
「で? 名前は?」
「それよりも、怪我はないの~? 凄い音したわよ~?」
再び地面に据え付けられた、大きな金属のゴミ箱に激突し、只今護送されています。
つ……掴まってまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ちょっと抵抗したら、両手に頑丈な手錠をされました。
ああ~。
ちょっと懐かしい。
『久し振りじゃな。前科持ち』
「な! ま! え!」
「レイ」
「フルネーム!」
「レイ:シモンズ……」
ちょっと、このポニテ怖い。
「あら? 海外の方? パスポートと、滞在許可書は? 身分証明書でもいいわよ?」
ありませんけど、何か?
「早く出しなさい!」
「ないです……」
「持ち歩かないと、法に触れるのよ?」
「家に置いてあるならあるで、住所!」
「……ありません」
駄目だ。
もうこれは、脱獄以外の道が残ってなさそうだ。
【あまりいい事ではありませんが、仕方ないですね】
相も変わらず、俺の人生には仕方ない事が多いな~。
あ……。
目に水分が……。
「何? 男が泣きそうにならないでよ!」
えっ!?
ちょっ! 違っ!
「逃げたのを考えても、不法入国……かしら~?」
やべ!
この泣きぼくろも、目が笑ってない。
こっちはこっちで怖い。
「返事は? へ! ん! じ!」
「はい……」
不法入国には違いないんだけどね……。
異世界からの……。
てか。
あれ?
言葉通じてる!
『遅っ! 今気付いたのか?』
あ~……うん!
知ってる、知ってる。
喋る前から、気付いてた。
【もう少し、上手く誤魔化せませんか?】
ちょっ……。
何を言ってるか分からないです。
【はぁ~……】
「で? 出身の国は? 何時こっちに来たの?」
やべ~な。
適当に嘘付くにも、国なんてわかんね~ぞ?
うん?
魔……力?
『う~む。あまり感じた事のないタイプじゃが、魔力の一種の様じゃな』
あれ?
えっ? 何?
目の前の怖い美人二人が、何かを感じ取ったように俺から目線を逸らし、気配を探っている。
嘘?
たまたま、タイミングがあっただけ?
【でも、二人が向いてる方から感じますね】
え?
感知できる感じ?
「おい! 出たぞ!」
ワンボックスカーを運転していた男が、二人に叫んでいる。
「分かってるわ」
「近いわね~。護送中なのに」
ああ。
やっぱり感知できるんだ。
運転席のモニターに、何か情報が映し出されている。
文字は流石に読めないか……。
「今動ける特防は、俺達と風見だけだとさ!」
「仕方ないわね~」
「向かいましょう!」
「今日は楽出来ると……思ったんだがな!」
そう叫んだ男が、車の速度を上げる。
****
魔力に近づくと、悲鳴が聞こえ、火の手が上がっていた。
でっかい犬?
『イタチ科の動物ではないか? いや、げっ歯類か?』
【魔方陣から、四本の首だけがのびてますね】
真っ黒い目が六つある首だけの獣が、人々を襲っていた。
モンスター?
そこそこ魔力が強いね~。
あ……食われた。
【助けます?】
う~ん……。
あの怖姉さん達が、頑張るんじゃない?
それよりも、この隙に逃げよう。
【あれ? 今回はやる気がありませんね】
知らない奴の為にまで、命はかけられません!
車の外に、三人が飛び出すと同時に、バイクに乗った男がその三人に話しかけている。
「遅いぞ!」
「五月蝿いわね! これでも、急いだのよ!」
「フォーメーションは、何時も通りでいいですねぇ?」
「行くぞ!」
銃や刃物など、物騒な装備をして四人がモンスターに向かう。
車の扉開けっぱなしだ……。
今だ!
魔剣で手錠を斬り捨て、俺は車外へ出る。
「金剛結界! 発露!」
うおおぃ!
デカ乳が、かなり強力な結界を発動しやがった。
なるほど……。
『無防備すぎると思うたが、これは普通の人間では出る事は出来んな』
あれ?
一般人も結界の中に、閉じ込めちゃってますよ?
パニックになってますよ?
いいんですか?
どうしよう?
俺が逃げる穴で、逃がしてやるべき?
『ほう……。あれは、ゴースト系のモンスターの様じゃな』
首だけの獣は、生き物以外をすり抜けて動いていた。
うん? 魔力?
感じは違うけど、多分この世界の魔力だよね?
怖姉さん達が使ってる銃の弾や、剣に魔力がこもってる。
【あの方がたからも、魔力を感じますね】
おお!
そう言う事か。
あいつ等、この世界のモンスター退治の専門家か何かだよ。
『そう見て、間違いあるまいな』
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ああ?
結界の端で固まっている中の、女の人が狂ったように叫んでいる。
目線の先は……。
おっと……乳母車。
モンスターの射程範囲内だな。
【あの四人は……。まだ、あの子供に気付いてないようですね】
あ~あ……。
「あれは!」
「子供!?」
首が一つ、乳母車に大きな口を開けて襲い掛かる。
「しまった!」
はい。
アッパァァァァァァァァ! カット!
魔力を込めた拳で、俺は獣のジョーを下から打ち抜いた。
そのまま、乳母車を押して退避!
「ああ! 英雄!」
俺が運んだ子供を、母親が抱き締めている。
まあ、これくらいはサービスで。
うん?
あれは、刀……かな?
男が持った刀とポニテが持った槍の刃に光の文字が浮かび、首を斬り捨てた。
『魔剣か、聖剣の一種じゃろうな。かなりの魔力じゃ』
のんびりしてたら、また掴まるな。
逃げよ!
見る間に、首は四本とも倒されていた。
それでも、結界を解かないのは俺への対策かな~?
「あなた! そのち……」
はいはい。
結界をさっくり切り裂いて……。
ふははははっ!
「ちょっと! 待ちなさい!」
嫌じゃ! ボケ!
今回は、全力で走ります。
ふははははっ!
あれ?
誰かに見られてる?
【そうですか? 気配は感じませんが?】
気のせいか……。
****
人込みを抜けた俺は、薄暗い路地裏に隠れる。
その路地裏は、袋小路に見える。
見えるんだけども。
なんだこれ?
『空間がゆがんでおるな』
【魔力も感じますね】
あ……そぉい!
すき間のある空間を、殴りつけてみました。
すると、目の前に階段に続く石畳が……。
えっ?
また巻き込まれる?
何でそんな事するかって?
それは……。
分かりませ~ん!
無意識に体が動きます!
誰か、助けて下さ~い!
『ただ、考えなく行動しとるだけじゃ。馬鹿者』
なんだ?
魔力が満ちてるな。この空間。
【広大な森? これは、別の空間につながってますね】
なんだろう?
でも、悪い感じの魔力じゃないよね。
少し長めの石で出来た階段を上る。
上まで昇り切ると、そこには木造の建物が。
なんだここ?
「人間がこの神社に来るのは、久方ぶりじゃ」
建物の陰から、着物を着てほうきを持った女性が現れた。
亜人種?
いや……。
【潜在的な力は……かなり強いですね】
天使や悪魔の類か?
「ほう! お前、面白い霊力を持っておるな」
霊力?
『魔力の事ではないか?』
ああ。
「あんたは?」
「わしは、ここの土地神じゃ。で? 願いは?」
「幸せが欲しいです」
『迷いなく返事をするな! 何かの取引だったら、どうするつもりじゃ!』
だって!
言えって言ったもん!
このね~ちゃんが、言ったもん!
「幸せ? ま……また、大雑把な願いじゃな。ここは、もっと強い思いがなければ導かれないはず……」
何言ってるのこいつ?
「あああ!」
うん?
「お前! 無理やり入りおったな!」
まずかった?
頭から耳の生えたおねいさんは、印を結んで呪文を唱えて空間を元に戻した。
てか……。
『何と言う魔力じゃ』
このレベルは、久し振りだな。
「この! この罰あたりめ!」
来るか?
あれ?
強い敵意や、殺意がない?
「ふん!」
おふぅ!
おね~さんの拳が、俺のアゴを物凄くいい角度でとらえた。
倒れこみそうになる所を、必死で踏ん張る。
倒れん! 倒れんよ!
ただ、俺の両ひざは生まれたての小鹿のように、ブルンブルン左右に揺れている。
「全く! 願いを叶えてやらんぞ?」
あれ?
願いは叶えてくれるの?
「で? お前の幸せとはなんじゃ?」
そりゃあ! 女……。
で、いいのか?
金?
元の世界?
名声とか栄誉とか……。
【煩悩の塊ですね……】
「なんかこう……。いい感じに幸せが欲しいです!」
『アバウトすぎるわ!』
「……分からん」
なんですと~?
『当然の反応じゃろうが。何時も言っておる、彼女でいいじゃろうが』
だって!
この世界にどれだけいるか分かんないし、お金あったら大人の店いけるじゃん?
何より、元の世界戻れば普通に働けるし!
名誉は、ここで貰っても仕方ないけども!
「なんじゃ? 願いもなく、ただ入ってきただけか?」
待って! 何かは欲しい!
「ちょ! 考える時間を!」
おねいさんは、両手と顎をほうきで支えため息をついた。
【女性と一夜を、とかでいいんじゃないですか?】
だって!
【なんですか?】
このおね~さんも美人じゃん!
ちょ……童貞とか……口に出すの無理。
お金!
いや……でも、次の世界じゃ使いないだろうしな。
「ふぅ~。折角、五十年ぶりの人間じゃからわしも張りきったのに……」
あわわわわ……。
『焦るな馬鹿。女に見られているだけで、胃に穴をあけては魔力がもたん!』
馬鹿って言うな!
えっと! えっとぉぉぉぉぉぉ!
「まだかのぅ?」
あ……あああああああ!
「あの! 元の世界に戻りたい……です」
「元の?」
あれ? 首を傾げてる。
神様って、何でも分かるんじゃないの?
****
「まあ、飲め」
「はぁ」
神社とか言う建物内で、俺は出された茶をすする。
この梓さんは、何とかって言う狐の神様なんだって。
人を災厄から守ったり、悪い気を祓ったりするのが能力らしいです。
ジジィ祓ってもらえるかな?
『なっ!?』
まあ、俺の役には立たないだろう。
使えね~!
「ほぉ。嘘は言うておらんようじゃな。わしも生まれて四百年以上たつが、こんな事は初めてじゃ」
出していた二本の剣を、腕の中へ戻す。
「まあ、後願えるのは……。時間まで暮らすとこないから、庭でいいんで住まわせて下さい」
「いいぞ。それも、ちゃんと建屋内に床を用意しよう」
「有難う御座います。ところで……」
俺の言葉をさえぎる様に、梓さんは掌を俺の口の前に突き出した。
「わしは神じゃから食事は少量で済むが、この空間はここだけで完全な循環出来る環境になっておる」
読まれた。
「魚もとれるし、野菜も作っておる。鳥や獣も住んでおるぞ」
よし!
「狩りに行ってきます!」
「まあ、食べられる以上の獲物は捕るでないぞ」
「へいへい!」
三日ぶりのおまんまじゃぁぁぁぁぁぁ!
****
三時間ほどで、日が暮れました。
「お前……。食えるだけと言ったじゃろうが!」
俺が捕まえた、小型のイノシシと二羽の鳥を見て、梓さんに文句を言われた。
「そのつもりですが?」
「なんじゃ? 燻製にでもするつもりか?」
「いえ? 今日食べますよ?」
「お前……」
「あっ! 台所借りますね! この野菜いいですか?」
ざるに、まだ泥のついた野菜が用意されていた。
「ああ……」
さあ! レッツ! クック!
****
ぷひぃ~……。
「お前……」
「はい?」
「すごいな」
もちろん、命に感謝して全部食べました。
『久々の満腹じゃな』
【ええ、前の世界も食事に苦労しましたからね】
「まあ、ここしばらく食べてなかったもんで」
あれ?
あれれ?
目の前がそのまま真っ暗になった俺は、そのまま倒れ込む。
寝るのも久しぶりでした。
****
「……お……おっぱ!」
上半身を起こした俺は、寝汗をぬぐう。
なんだ、夢か……。
『アホの子らしい夢じゃ』
辺りは真っ暗になっており、俺には布団が掛けられていた。
食器や鍋は、片付けてくれたのか……。
うん!
梓さんにお礼を言わないと!
『お前! 覗く気か!』
【相手は、神様ですよ?】
出来ればネグリジェ希望!
魔力を感じる部屋へ、気配を消して……。
シュタタタ……シュパンっと!
う~ふ~ふ~ふ~ふ~。
音も気配もなく、目的の部屋の引き戸を……。
うん?
マットの上で、少し大きな狐が丸まって寝てました。
あの金髪は、狐の色だったんですね。
「なんじゃ?」
梓さんが、首を持ち上げた。
気を抜いて、気配を出しちゃいました。
ノンッ!
「えと……あの……」
「ふふふっ。まさか、神に夜這いをかけるとはな」
読まれた!
【あ~あ】
『また、宿なしかのぅ』
「いえ! ちが……」
「種族が同じなら、答えてやらんでもないが……。まあ、今日は我慢する事じゃな」
そう言うと、梓さんは顔を自分の毛皮の中へうずめた。
助……かった?
ふぃ~。
『アホ……』
その後俺は……。
元の場所で、そっと眠りました。
****
「ほれ! 頑張れ! 頑張れ!」
翌朝から、神社のぞうきんがけをしています。
昨日の件があるから……。
もちろん逆らいません!
『情けない』
「うん? 早……早いな! お前は!」
舐めんな!
家事は、基本的に得意です!
「俺、猟に行ってきます」
「う……うむ」
森の中で獣の通ったあとを確認する。
水場に、フン……。
新しさから見て、今日はこのコースか?
獣が通るであろうコースの風下にある木の上で、気配を消して身をひそめる。
といや!
下を通る鹿の群れを目がけて、ダイブする。
そして、そのまま鹿の頭をちょっとヤバいレベルで殴り付けます。
ゲットォォォォォォ!
【サバイバルだけで、生きていけますよね】
『都会育ちの野生児じゃ』
それもう、野生児じゃなくね?
さて、持って帰ろう!
これは流石に、三日はもつな。
「また、大物を……」
「ああ、これは流石に何日かかけます」
「そうか……」
「大丈夫ですよ。捕りつくしたりしませんって」
お昼御飯は、鹿のお肉~。
『剣のお陰かも知れんが、捌くのも早くなったのぉ』
ふん! ふん! ふ~ん!
【気質は、商店街の精肉屋さんが向いてるかも知れませんね】
大体の世界で、生きていく自信あるよ~っと。
【たくましい事で】
こんな感じで、仕事が午前中に終わってしまいました。
「うん! いい味じゃな! これは、異界の料理か?」
「そうですよ~。この間行った世界にあった、何とかソースの何とか風です」
「全く分からんが?」
名前は忘れました。
「まあ、よい。これから、毎日が楽しめそうじゃ」
…………。
「あの……俺って、五十年ぶりの訪問者なんですよね?」
「そうじゃが?」
「なんで、人間の願いを? 人間からの見返りはあるんですか?」
貢物を貰うとか、信仰して貰うとか?
『生贄や魂の可能性もあるのぅ』
何? 俺、食われるの?
「わしは、人が好きなだけじゃ。何も見返りなど求めんぞ?」
まあ、人から貰える物くらい、神様は必要じゃないよね。
「じゃから、強い願い……。それも、わしで叶えられる場合のみあの門は開くようになっておる」
無理やり入った俺は、かなり特別か。
「神様って、日頃何してるんです? 人来ないんじゃ、暇ですよね?」
「わしにはわしに与えられた仕事があるんじゃ」
与えられた?
「もしかして、世界の意思に?」
「ほぅ。流石に世界を旅するだけあって、物知りじゃな。その通り、わしら全ての神の……親になるのかのぅ? 御方様の意思に沿っておる」
その辺の仕組みは、どの世界でも大体一緒なんだな。
『まぁ、全て同じような仕組みなんじゃろう』
「で? 仕事って?」
「お前、世界を旅するくらいじゃから、空は自在に飛べるか?」
蹴れますけどね。
「無理です。多少とび跳ねたりは出来ますけど」
「それで、よい。どうじゃ? わしの仕事に同行せんか?」
「はぁ。で?」
「荒神を狩る事じゃ」
はい?
ちょ! くわしく!
「うん? 荒神と言うのは……」
何?
暴走した神様を倒すのが仕事?
正義のヒーローみたいな事してるんだな。
「わし等の様な土地神が、荒神に変わるのは色々な要因がある。人に対する憎悪などもその一つじゃ」
悪魔化した天使みたいなもの?
【それに近いんでしょうね。要因は、悪魔と違って人間への怒り等なんでしょう】
世界の意思に、完全統治されてないのな。
『そこはわし等の世界と違うのじゃろう』
で? その神様退治について来い?
死んでしまうわ!
「神は、死ねばその霊力が全て御方様へと返還される。じゃから、わしは始末屋と言った所じゃ」
「でも、俺人間ですし……」
「ああ。別に手伝ってほしいと、言っておるわけではない。ただ、一度見せたいなと思っただけじゃ」
まあ、見るだけなら……。
****
「五行相克! 我に従いし火よ! 敵を焼き尽くすべし!」
<ホークスラッシュ>
「こちらに追い込め!」
へいへい。
<ホークスラッシュ>
「よし! 狐火<焔>!」
え~……。
なんだかんだで、手伝ってます。
目の前で、でっかいイノシシが燃えてます。
【もう、巻き込まれるのがスタンダードですね】
そうですね。
ふっ……ざけんな!
『おい』
分かってる。
こちらに向かって、体が溶け始めたイノシシが走り出した。
止めを刺すか。
「やめよ!」
ああ?
梓さんの剣幕におされて、俺はイノシシを回避する。
何だよ?
「滅!」
梓さんの技で、イノシシは消えて無くなった。
「あの……」
「馬鹿者!」
おこらりた……。
何で?
「お前が強いのは分かった! じゃが! 神に手をかけてはいかん!」
はぁ?
結構、殺しまくってますけど?
「お前はかなり特殊じゃが、神を殺せば多かれ少なかれ呪いを受ける!」
はい?
「手伝ってくれるのは助かるが、止めはわしに任せよ」
いやいやいや!
「呪い? もしかして、それって不幸になったりします?」
「まぁ、そう言う事もあるじゃろう」
うっ……そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!
『まさに、自業自得と言う事か?』
【ちょっと、予想外ですね……】
おま! これ!
とりえしつかないから、こんなになってるんじゃん!
ちょ!
マジかよ!
そりゃ、不幸だわ!
当然ですよ!
だって、やりまくり!
も~!
早く教えてよ~!
そう言えば、師匠も何か不幸に見舞われてたぁぁぁぁぁぁ!
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
はぁ。
「なるほど、お前。手をかけた事があるな?」
「うぃ」
「ならば、わしが少しずつ祓ってやろう」
ああ!
そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
梓様!
俺! あんた! 好き!
「抱きつくな!」
「ごめんなさい。でも、殴るのは……」
「当然じゃ! これでもわしは、メスじゃ!」
そこは、狐扱いなんだ。
女じゃないんだ。
あれ?
「車がこっちに来ますね」
「引き上げるぞ! 人間の荒神退治どもじゃ」
梓さんに腕を掴まれて、浮かび上がる。
あの服装は……。
【特防と言ってた人達ですね】
そう言えば、昨日の獣とさっきの荒神ってのの気配が似てたな。
「全く、御方様の意思が分からん以上、仕方がないが……」
「呪い受けてるんですかね?」
「多分な」
ふ~ん……。
この日から、俺の呪いは梓さんによって緩和される。
でも……。
つくづく、世界ってのは残酷だ。
神様……世界の意思なんかに……。
人間ごときが、関わるものじゃない。
俺じゃあ……。
俺なんかじゃあ……。
これが、俺に対する罰ですか?
多くの命を奪った俺への……。
あ~あ……。
ちくしょう……。
やってらんね~……。