外伝:チート一匹掴まえまつた
この世に……。
この世に、もしもなんて無い。
それが世界で……。
だからこその運命なんだ。
「グルル……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
最初に気が付いたのはバイスだった。
どこから紛れ込んだのか、森の奥から一匹の狼が現れた……。
足に傷を負っている。
普通の狼であれば、逃げることも出来たかも知れないが、その時現れたのはハウンドウルフ……。
れっきとしたCランクモンスターだ。
リリーナお嬢様とバイスは、急いで俺の後ろに隠れた。
俺は、魔剣をとりだそうか迷ったが、アドルフ様と人前では魔剣を出さないと、約束していた。
ジリジリとハウンドウルフが迫ってくる。
殺される!
どうする?
俺はどうなってもいいが、二人は!
アドルフ様の御子息達は守らないと!
俺は、魔剣を取り出すと、ヘルハウンドに斬りかかった。
「やああああ!」
しかし、トロル以上の速度を持つこの狼に、俺の剣はことごとく当たらない。
「はぁはぁはぁ……」
そして、戦闘力の皆無に近い俺は、スタミナの壁により追いつめられた。
十歳にも満たないガキが、魔剣を持ったとはいえモンスターと渡り合えるはずがない。
十分以上も戦えたこと自体が、奇跡だろう。
「やあ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
俺が剣を全力で振り、その勢いでよろめいた時、勝負は決まっていた。
「ガウッ!」
態勢を崩したところにハウンドウルフが飛びかかってくる。
そして俺は、師匠に出会った。
これも、運命だったんだろう。
それから一週間……。
俺は師匠から、次元流を学んだ。
****
「早く!」
「ちょ! 待って!」
俺は急いでリリーの後を追い、屋敷の門を出る。
「もう! 本当にマイペースなんだから!」
「だって!」
「あら? いいの? そんな事言って」
「え?」
「死刑か~……」
「え~……。ごめんなさい」
「ふふふっ! 素直でよろしい! さっ、行きましょ!」
彼女が本気でないは無いと、理解しているが……。
逆らえないよな~……。
このままだと、俺って尻に敷かれるよな。
てか、すでに敷かれてる。
はぁ~……。
「リリーナ! 今から登校か?」
「ああ」
「はい! お兄様。お兄様も今からですか?」
「ああ。今日は合同訓練があるから、その準備だ」
「大変だな」
「頑張ってくださいね」
「ああ。俺は大丈夫だ」
リリーナの兄で、俺達の三つ年上のバイス:マキシム。
バイスは馬上から、俺達に話しかけてきた。
「俺よりも、お前の方こそ気をつけろよ? たまに、大ポカするからな」
「あ~……努力します」
「じゃあ、お前らも気を付けてな!」
そう言い捨てると、バイスは颯爽と走り去る。
「さっ! 行きましょ!」
「ああ」
それから俺は、リリーと他愛のない話をしながら、学園へ向かった。
その日も、変わらない一日になるはずだった。
なるはずだったんだ……。
「あっ! おはよう! 朝から、仲がいいね~」
「あ……セシルさん。おはようございます」
一つ年上で、生徒会長をしているセシルさんが、今日も爽やかに俺達をひやかす。
それに対して、リリーが顔を真っ赤にしながら必死に抗議していた。
まぁ……。
まだ、正式には付き合ってないんだけどね……。
こんな時は……。
「セシルさんこそ、リアナ姫とうまくいってるんですか?」
「おっと! 生徒会の仕事があるから、お先~!」
「あっ、逃げた」
颯爽と走り去るセシルさんは、女生徒達から次々に挨拶されている。
流石は、全成績が一番の生徒会長。
「本当は真面目だって知ってるけど、あの軽い感じが私は駄目ね」
リリーが、呆れたようにそう呟いた。
「でも、格好良いよね」
「私は……私には、陰で学園の平和を守ってる……。魔剣士のほうが、格好良いと……思うな」
聞き取れなかったが、リリーが何かを呟いた。
「えっ? 何?」
「なっ! なんでもない!」
顔を真っ赤にしたリリーが、俺を置いて走り始めてしまった。
なんだ?
「待ってよ!」
何時もと変わらない一日だった。
昼休みは、いつも通り学食へ向かう。
「あれ? ファナ……。今日それだけ?」
ファナは、サンドイッチだけか……。
「ちょっと、ダイエット中なの」
スタイルいいのにな……。
体重増加したなら……胸が、膨らんだだけじゃないのか?
それにしても……。
「アルス? 食べ過ぎじゃないのか?」
「そうか? 運動部なら、普通だって!」
定食一つに、丼ぶりとそば……。
よく食えるな。
いつも通りの四人で、いつもの席に座り、おちのない話をする。
「そう言えば、昨日先輩と話してたんだけどさ」
「何を?」
「お前とセシルさんって、本気で戦ったらどっちが上なんだ?」
本気……魔剣ありでって事か……。
「セシルさんも聖剣があるから、多分セシルさんの方が上じゃないか?」
「そうかな? 私は、勝てると思うわよ?」
リリー……買い被りすぎだよ。
「私もそう思いますよ?」
ファナまで……。
「あ~……。俺は、万年二位か~……」
アルスが、わざとらしく椅子から滑り落ちる。
それを、俺達は笑う。
変化は、俺が昼下がりの授業で、睡魔と闘っている時におこった。
窓から見えていた町で、巨大な爆発が起こり、地響きで教室が揺れる。
学園のいたる所から悲鳴が聞こえ、生徒達が混乱する。
「落ち着くんだ! 机の下に!」
「揺れがおさまったら、避難だ! 落ち着け!」
教師達が、何とか生徒を誘導する。
学生の七割が庭へ避難した時に、悪夢が姿を現した。
二本の刃を振り回す、全身が茶色い金属で出来た人型……。
魔道兵機Σ(シグマ)だ。
周りの建物を切り刻みながら、悪夢がこちらへ向かってくる。
俺の全身から、冷や汗が流れだしていた。
進行を止めようとした教師たちが、一瞬で肉片にかわり、生徒達は恐怖に支配された。
混乱した生徒達は、我先にとその場から逃げ出していた。
俺は……。
「きゃぁぁぁ!」
突き飛ばされたリリーが、転んでしまった。
俺は!
「あ……ああ……」
「大丈夫だ! 俺が付いてる!」
俺に抱えられたリリーは、恐怖で震えていた。
俺の全てが、負けると判断した。
俺は、そのまま敵に背を向けて走る。
今の俺では敵わない。
考えるんだ!
勝ちへの道を、見つけるんだ!
「えっ?」
運命は残酷だ……。
魔道兵器Ω(オメガ)の、無慈悲な光が俺達に降り注いだ。
こうして、俺は何も守れずに消えて無くなった。
最悪のバッドエンドだ。
****
「……いや……あの」
「なんじゃ?」
「なんですかぁぁぁ!? これはぁぁぁぁぁぁぁ!」
「見ての通りじゃ」
ちょ! あの! これぇぇぇぇぇぇ!
「なんで、俺を器用にすると世界が滅ぶのぉぉぉぉぉ!?」
「仕方あるまい?」
ちょ! 梓ぁぁぁぁぁぁぁ!
「諦めろ」
師匠までぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「何回シュミレートしても、ミルフォスに滅ぼされるって! あり得ないって!」
「仕方が無いよ。後、シミュレート!」
「私も、仕方ないと思いますよ?」
アリスさんにメーヴェルさんまでぇぇぇぇぇぇぇぇ!
後、言い間違えたぁぁぁぁぁぁぁ!
やってらんね~……。
「でも、この試作演算装置は、成功ですね、真幸?」
「そうだな。これが完成すれば、時空の力が無い神でも、悪意の動きが予想できる」
俺以外の四人が、笑顔で話をしている。
俺は神の屋代で……。
そっと体育座りをしてみたんだ……。
「お前が器用だと、わしにもオリビアにも会えんぞ?」
そんな俺の頭を、梓が優しく撫でてくれた。
うん! それは、困る!
よく考えると、お嬢様とエンディングなんて、俺が嫌だ!
「お? 復活したか?」
あれ? 師匠が何かを入力してる。
「何してるんですか?」
「まあ、見ていろ。こんな事にもこれは使えるんだ」
画面に広い平原?
あれ?
俺と……師匠!?
《ラウンドワン! ファイ!》
はい!?
「十六歳の俺とお前だ」
おお!
戦闘シュミレーションか!
「シミュレーションだ」
よまれた!
お? おおおお!
苦戦してるけど、俺がおしてる!
「まあ、この時点での基本能力は、お前が上だからな。しかし……」
「はぁ、この頃同じ動きの相手と戦うのは、不得手だったんです」
あ! でも、勝った!
師匠の心臓に、魔剣が刺さった!
あれ? 師匠が真っ黒な雷で包まれて……。
復活した!?
そして、感電した俺の首は……ポトッてなった。
「ちょ! 師匠! チート!」
「まあ、この頃からほぼ不死身だったからな」
ずっる!
勝てないって! この頃、コアとか分かんなかったもん!
無理だって!
《ラウンドツー! ファイ!》
ラウンドツー?
「これは、お互い十七歳のデータだ」
十七歳?
あ! 十七なら、ミルフォス倒した後だし!
いけるかも!
うん! いける!
俺が、圧倒的におしてる!
勝てるんじゃね?
いけるんじゃね?
結果は……。
破壊神の力が発動した師匠に……。
瞬殺ですね? 分かります。
「無理ぃぃぃぃぃぃ! この時点で、最強になってるじゃないですか!」
「まあ、完全には制御できてないがな」
関係あるかぁぁぁぁぁぁぁ!
何やっても勝てねぇぇぇよ!
俺が主神級と戦えるようになるのは、かなり後ぉぉぉぉぉぉ!
「知っている」
よまれた!
この……。
「ん? なんだ?」
「師匠の、どチートォォォォォォ! うわぁぁぁぁぁぁん!」
「これぇぇぇぇぇぇ! またんかぁぁぁぁぁぁぁ!」
半泣きで走り去った俺は……。
追いかけてきた奥さんに、慰められました。
「あれ? 真幸……これって?」
「ああ。この年齢以降は、俺が全敗だ」
「もう少し見ればいいのに……。相変わらずの、お馬鹿さんですね」
「ふふふっ。それも、彼の魅力ではないですか?アリス様」
「私には、理解できません。あれ? 何を入力しているんですか? メーヴェルさん?」
「少し、気になっている事を……」
「うん? なるほど、他の女性と結ばれる未来か……」
「あ! それは、私も興味あります!」
「ふふふっ」
****
ぷふぃ~……。
「なんじゃ? まだ、元気がでんか?」
「師匠ずるい~……」
「ほれ! 元気をださんか!」
「へ~い……」
あれ?
三人は、まだ何か試してるのか?
おおぅ?
「駄目だな」
「こ……ことごとく、バッドエンドですね」
「どの女性と結ばれても、これですか……。彼の人生って……」
「そうだな。人生が全て、嫌な意味で一択だ」
ほほ~う。
俺に、ハーレムエンドは無しと……。
「あっ……。あの……気にするな」
「あ! あ! え……えっと、そうですよ! あの……大丈夫ですって!」
それで、誤魔化せるとでも?
もう……。
「もう?」
聞かれてもいいや……。
「何をでしょうか?」
目から、真っ赤な液体が流れそうな俺は、再び走り出す。
「この! バカ夫婦ぅぅぅぅぅぅぅ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「ああ! おぬし等! 後で、説教じゃ!」
面倒見のいい奥さんは、部下を怒鳴ると、再び俺を追いかけてきてくれました。
「待て! 待つんじゃ! 大丈夫じゃから! わしがついておるからぁぁぁぁぁぁ!」
「まさか、あいつに馬鹿と言われるとは……」
「あ~……。私達は、ルー様に怒られますかね?」
「多分……本気で怒られるな」
「ルー様は彼の事だけ、目の色が変わりますからね……」
やってらんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「やめよ! そこから飛び降りても、お前は死なん! 痛いだけじゃ!」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!




