外伝:それは、あるかも知れない未来の一つ
「違うと言っておるじゃろうが!」
「間違ってないじゃん!」
「じゃから……」
「俺が正しいだろうが! クソジジィ!」
「こ……の……くそガキが」
大量の本が並んでいる部屋で、マリーンが顔を真っ赤にしていますね。
「ダメですよ、ちゃんと賢者様かマリーン様と言いなさい」
「え~……だって~」
「だってじゃありません。はい! 謝って」
「ライブもうぜぇぇ……」
マリーンとライブがため息をつきます。
「わし……もう、こいつの教育係嫌じゃ」
「本当に、ダメな部分ばかり似てきますね」
「なんだ!? 馬鹿にしてるのか!?」
目の前の少年に、二人は手を焼いているようですね。
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「こら! レオ! 静かにしなさい!」
「姉ちゃん! だって……」
「だってじゃない! なにより、五月蝿くて私に迷惑よ」
「まぁ、レーちゃんの言う事も分かるけどね」
「だろ?」
「でも、ちょっと騒がしすぎるかな?」
「うっ……」
少年は、本を読んでいた少女二人の顔色を伺い、仕方なく自分の席へ戻りました。
「でも、信じらんないんだよ」
「まだ言いますか? あなたは?」
「しつこいガキじゃ」
本を読んでいた金髪の少女が、少し悩んだ後、弟のフォローに入ります。
「嘘だとは思わないけど……。信じられないのよね……」
「も~……。アイちゃんまで」
青い髪の少女は、困ったような笑顔をしています。
「でも、沙織は信じられる?」
「そうだよ!」
三か月違いの姉弟が、青い髪の少女に問いかけます。
「う~ん。確かに、日頃のおじ様を見ていると……」
「ほら見ろ! さっちゃんも言ってるぞ! ライブ!」
「え~……本当ですから」
「説得力ないわよ? ライブ?」
「アイさんまで……」
「若造」
「なんです? 賢者様?」
「馬鹿の歴史は……なかったことにするんじゃ! うん!」
「ちょ……賢者様」
彼の事ですね?
文武共に優秀な三人の子供達……。
その子供達に、この事だけはエデンきっての知識人である二人が、うまく説明できていないようです。
まあ……。
仕方がないんですがね。
「これを何とか伝えるのも、私達の仕事ですよ。賢者様」
「どうしたもんじゃろうな……」
頭を抱えて唸っていたライブが、何かを思いついたようです。
「あなた達三人の、信じられない理由を並べてください」
「なるほどな。一つ一つ誤解を解くわけじゃな?」
「そうです。さあ」
三人が、迷いなく不信の原因をあげていきます。
「年中、ママと母さんに怒られてるじゃん」
「大事な会議の日に、みんなの分まで食事を作って、遅刻って……。国のトップとしてどうなの?」
「あ~……。おじ様は、よく辞表をだそうとしますよね?」
「沙織の言う通りよ。酪農がしたいとか…….居酒屋になりたいとか……」
「俺は、父さんから責任感を感じたことがない」
「でも、おじ様よく働きますよ?」
「使用人とか……どうでもいい仕事ばっかりね……」
マリーンとライブは黙って聞いていますが……。
「レオに剣を教えてるのも、真幸おじさんだし」
「そう! それだよ!」
「お父様は、おじ様の師匠でもあるから……」
「さっちゃん! それも限度があるって! 一回も教えてもらってないんだよ、俺」
「父さんが、現在継承者のはずなのにね……」
「そりゃ、父さんが弱いとは思わないけど……」
それからも、三人は彼の事を……。
「どうするつもりじゃ?若造?」
「え~……」
正確に否定しています。
身内だけに容赦がないですね。
「何一つとして、間違えておらんぞ? 誤解ではなく、真実じゃ」
「どうしましょう? 賢者様?」
「自分の発言には、自分で責任を持て」
「はぁ~……」
「お前も、奴のオフ状態をよく知っておるじゃろうが」
「ええ……誰よりも、ダメな人ですからね……」
「この国にいる間は……」
「ほぼオフ状態ですよね……」
二人は、再び大きなため息をつきます。
「わし……」
「賢者様?」
「わし! 引退する! うむ! 無理じゃ!」
「ちょ! 賢者様ぁぁぁ!」
「ライブ~?」
「ああ……え~……少し、考えさせてください」
「わかったわ。自習でいいのね?」
「はい」
金髪の少女は、すでにかなり威厳がありますね。
当然かもしれませんが。
三人は、それぞれが経済や魔法の自習を始めます。
十三歳。
同じ年齢の三人は、どう考えても年齢に不相応な本を読んでいます。
学園にも通っていますが……。
彼らに、学業としてそれは必要ないのかもしれませんね。
ほとんど、人間関係の勉強の為だけに通っていると、言えるでしょう。
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「賢者様? どう思います?」
「何がじゃ?」
「レオの事です」
「う~む」
「沙織さんはあの方と、アリスさんのお子さんです」
「もうすでに、普通の神に負けんじゃろうな」
「アイさんも、最高神の子供……」
「将来は、主神級……以上かもしれんな」
「レオだけ、両親の魔力が強いだけの……」
「普通の人間じゃな」
「気が付いていないなんて、言いませんよね?」
「魂に何らかの力を秘めておるな……」
「魔力もすでにAランクを超え始めています」
「今は何とも言えんが……」
「ええ。心をしっかり育てないと、大変なことになりかねませんね」
「親も面倒なら、子も面倒な奴じゃ」
「まったく……」
きちんと勉強をする三人を眺めて……。
愚痴を言っていますが、なんだか二人はうれしそうですね。
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おや?
その部屋に、兵士らしき人物が走りこんでいきますね。
どうしたんでしょうか?
「大変です! 代表が! 代表がぁぁぁぁぁ!」
「どうしたんじゃ?」
「どこにもいません!」
「ちょ! これから……」
「はい! 各国首脳との会議です!」
「あの馬鹿!」
「若造! 探すぞ!」
「どこをですか!? 気配を消されたら……」
それを聞いていたレオが、呟きます。
「確か……父さん昨日、新作のゲームが発売って言ってた」
「それじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
こんな光景を毎日見ていれば……。
不信感も出てきますよね……。
少しだけ補足をしておくと、態度はよくありませんが、彼もちゃんとこの国をいい方に導いています。
人が思いつかない、人の為になる法を作り……。
皆が笑顔になれるように、頑張ってはいるんです。
馬鹿なことも、よくしますが。
「賢者様! 私は街中のゲームを販売している店、すべてに手配をかけます!」
「わしは、兵を引き連れてあぶりだす!」
彼はいったい何をやっているのでしょうねぇ。
彼らしいですが。
「待った!」
「なんです? レオ?」
「父さんは、そんなに甘くない!」
「ぬう! 確かに……」
三人は、彼の思考を読み解こうとします。
「母さんとママが、今日はいるんだ……」
「見つかれば引き戻すでしょうね」
「奴は人をだます天才じゃ……」
「下手に街中に出てないと思うんだよ」
「「「う~ん……」」」
そこに、彼の娘が口を挟みます。
「父さんなら、まだ城の中じゃない?」
「姉ちゃん?」
「人が出払った後の方が、動きやすいわよ」
「父さんを探すために、みんなが城を手薄にする」
「その間に、隣町まで走る……」
「それじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「オリビアさんと梓さんを呼び戻します!」
「あっ! 俺も行く!」
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男性三人は、部屋を飛び出していきました。
「はぁ~……父さんが、世界を救ったなんて信じられないわ」
「ふふっ」
「沙織もそう思うでしょ?」
「実は、私……。おじ様のすごいところ、一度だけ見たことあるのよ」
「えっ? 嘘」
「お父様とお母様の仕事について行った時に、一度だけね」
「で?」
「うん。あっちのおじ様なら、信じられるよ。誰が見ても」
「そっちじゃぁぁぁぁぁ!」
「早く! 早く取り囲んで!」
中庭から、マリーン達の声が聞こえます。
彼が見つかったようですね。
皆から必死に逃げています。
「待たんか! アホの子!」
「止まりなさい! ダメ人間!」
「待てよ! 父さん! こ……このやろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その光景を窓から見つめる金髪の少女が、ため息をつきます。
「私には、信じられそうにないわ」
「ふふふっ」
中庭の壁に、息子からのタックルを受けた彼が……。
顔面からですか?
痛そうですね。
歯も折れています。
まあ、すぐに回復するでしょうが。
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その後、オリビアと梓が彼の前に……。
もちろん彼は正座で、泣きそうになりながら空を見上げています。
今日は快晴です。
いい日になるでしょう。
雨の日も雪の日も、いい日は続くはずです。
これから先もずっと、ずっと……。




