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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第九章:異世界と狭間編
7/77

七話

はぁ~……。


平和だね~。


『平和なのか?』


かなり。


今日も平和な日々を送る俺は、瓦礫を片付ける。


「あっ! それは、向こうの倉庫によろしく~」


「分かった」


馬鹿の指示に従って、荷台に乗せてコンクリート片を倉庫に運ぶ。


「アスファルトと分離しとくか?」


「うん! 頼むよ」


いや~……。


平和で暇だと、やっぱり違うね~。


【平和で暇?】


なんですか? さっきから?


何か含みがある言い方だな?


『三日に一度は夜襲を受けるこの状況を、人は平和とは言わん!』


だって、俺関係ね~もん!


【一也君と幸子ちゃんの事は?】


あっ!


そうだな。


でも、会社なんて潰していいと思えないしな~。


それもロンドって、この国の中心なんだろ?


『お前は本当に、力任せ以外まるで駄目じゃな』


どうしようもないじゃん!


もう、フィーと馬鹿息子に任せるしかないって!


俺にはどうしようもね~の!


【まあ、そうですよね】


そうだよ。


まだ、任せられる相手が見つけられただけいい方だよ。


「よし! 大体終わったね!」


「そうだな」


「ちょっと一服しようか!」


馬鹿から差し出された、缶コーヒーを飲みながら汗をぬぐう。


空には照りつけるような太陽。


今日も暑くなりそうだ。


「いや~! レイくんが来てから、片付けが楽で助かるよ~!」


「まあ、単純に労働力は二倍だからな」


「そうだね~。あははっ!」


この馬鹿息子の会社は、社員が佳織に由香と馬鹿以外いない。


ロンドに逆らおうって人間の方が危篤だし、工場内は自動化が進んでいてほとんど機械が勝手に製造や生産をしてくれるそうだ。


そこまでできるのは、機械工学の天才である馬鹿息子のお陰らしいが。


てか、また天才かよ。


なんで俺は、いく世界いく世界で天才とからまないといけないんだよ!


俺嫌いっつってるじゃん!


何の嫌がらせだよ!


も~!


やってらんね~……。


「そう言えば、今日のお昼は?」


この馬鹿は、食べる事と寝る事以外考えてないのか?


「俺の故郷でよく作ってた、鳥肉の料理を用意してある」


「そっか! レイ君の料理は独特で、毎回楽しみなんだよね!」


異世界の料理ですからね。


ある意味、超プレミアですよ。


「そりゃ、よかった」


「でも、レイ君短い間でよくそこまで喋れるようになったよね? 凄くない?」


き……気に入らん!


【何がです?】


そうだな……。


先に、言い訳からにしよう。


【誰にです? 必要ありますか?】


俺の仕事は、基本的に掃除と料理だ。


ついでに、夜襲の対応もしている。


【逆じゃないですか?】


なので……。


暇!


超暇!


掃除や、料理なんて俺が本気出せば、午前中に終わってしまう!


残った時間は、馬鹿用に用意されたトレーニングルームで体を鍛えるくらい。


なので、必然的に馬鹿と一緒の時間が長くて……。


【自分が劣っている所を素直に認めるのも、人としても器ですよ?】


馬鹿から言葉を覚えました!


ああああぁぁぁぁぁぁぁ!


だって! この馬鹿! 一日中なにか喋りかけてくるんだもん!


そりゃあ! 覚えますよ!


『馬鹿同士、惹かれる物があるんじゃろう』


俺、馬鹿違う!


懐くな! 馬鹿!


【いいじゃないですか。結果として、言葉に不自由しなくなってるんですから】


いやいやいや!


馬鹿に言葉教わるって!


結構な屈辱ですよ!


はぁ~……。


俺が溜息をつくのと同じタイミングで、ドンっと大きな音が、トレーニングルームから聞こえてきた。


なんだ?


「なんだろうね? 見に行ってみる?」


「ああ」


****


「プログラム:リンフォース! ロード!」


なんだあれ?


フィーの髪が発光して、高速で動いてる。


『服は……形状変化か? 鎧のように変化しておるな……』


【通常時のあなたに、近いほどの速度ですね】


「OKだ! フィーネ! 調整するから、戻って来い!」


馬鹿息子的には、成功なのか?


髪の発光現象がおさまると共に、鎧が元のメイド服へと戻る。


「アニキ! すごいだろ! このプログラム俺が考えたんだぜ!」


俺を見つけた一也が、駆け寄ってくる。


「昨日の夜襲は、レイのお陰で何とかなったがフィーネの強化が急務だったんだ。一也の発想で、エクスプロージョンをリプログラムした」


馬鹿は、自信満々に胸を張る。


一也のお陰じゃね?


「これで、フィーのリスクは減るのか?」


フィーが、以前爆散する原因となったエクスプロージョン。


超振動だったかな?


全身のリミッターを外して、なんやかんやの力を上乗せさせる、一撃必殺のパンチ。


威力は桁外れてるが、使ったフィー自身もただでは済まない。


蜂の一刺しってやつかな?


「そうだ。リミッターを任意の数値で抑えて、戦闘力だけを一時的に向上させるプログラムなんだ」


「へ~」


「もちろん、リスクが無いわけじゃあない。十分以上は体がもたないし、この状態でエクスプロージョンを使ってしまうと……多分」


今度こそ本当に死ぬか……。


「レイ! 私もこれで、レイの助けになれます!」


うん?


「アニキ……。フィーは、昨日の事気にしてるんだよ。さっきまで、かなり落ち込んでたんだぜ?」


一也が耳打ちしてきた。


昨日の夜襲で、フィーとスージーは鎧女……レミに苦戦した。


まあ、レミはもともとの高周波ブレードが二本だったのに六本になってたし、速度とパワーも跳ね上がっていたんだから、仕方がない。


背中から伸びた六本の光るブレード……。


女の子だけどパッと見、虫みたいに見えたなぁ。あれ。


紅蓮が来ていなかったので、警備部を殴り飛ばした俺が、その鎧……レミを蹴りつけた。


「なんとか、レミ姉さんを元に戻す事ができれば……」


因みにレミは、フィー達の姉にあたるそうだ。


何でも、つけている鎧がよろ……レミをコントロールする機械にもなっているらしい。


俺が蹴り飛ばし、背中の部分に亀裂が入ると涙を流しながら怒ったり、叫びだしたりと発狂状態になった。


去り際、妹達に残した言葉はごめんと、自身を壊してほしいだった。


「スージーの方は?」


「ああ。まだ、工房で修理中だ。戦闘力向上はその後だが……」


「だが?」


「スージーに、これ以上の戦闘力向上は無理だと思う」


なんで?


「前から気になってたんだけど、レミやフィーよりも新型のスージーの方が戦闘力低いんだ? 普通逆じゃないの?」


「親父は四体を、自衛のために作ったんだ。その為に、戦闘力を徐々に抑止した機体になっている。つまり……」


はぁ?


よく分からん。


えっと……。


フィー達の一番上がアステルって名前で、他と違って全身が機械式で戦闘力が一番高い。


レミは、生体部品を使って作ったが、戦闘力が低くなり過ぎた。


今は、あの鎧でパワーアップしてるだけ。


フィーは、生体部品を使って、なお且つ戦闘力が高い。


スージーは、その時開発された新型兵器超振動ブレードを搭載する代わりに、身体機能は低め。


簡略化すると、こんな感じでOK?


【多分……】


何がしたかったんだ? 馬鹿息子の親父は?


中途半端に四体も……。


「そう言えば、レミを超振動ブレードや最新技術で強化するのは、なんでだ? 新型を作った方が早いんじゃね~の?」


「技術情報を、親父が危険と判断して封印したんだ。俺も、設計書通りに体や部品を作る事は出来るが、ブラックボックスが多過ぎて手出しできない部分が多い」


あら?


この馬鹿息子、意外に役立たず。


「レミ姉さんは、必ず私が……」


助けたそうだね~。


『当然じゃろうな』


ぶっ壊していいなら、すぐにでも斬り捨てるのに……。


【ここは我慢です】


手加減苦手~!


****


俺達は昼ご飯を、スージーを除いた七人で食べる。


え~……。


胃が痛い……。


『馬鹿のくせに、空気を読むな! また胃を回復せねばならん!』


だって~!


てか、馬鹿って言うな! クソジジィ!


「あはは! 美味しいね!」


黙れ! 馬鹿!


ちょっとは空気読め!


馬鹿息子、由香、フィーの三角関係によるギスギスした空気。


そして、スージーを心配して食が進まない幸子。


幸子を気遣う一也と佳織。


何て言う空気だ!


俺も馬鹿になりたい!


胃が……。


俺のストマックがぁぁぁぁぁぁぁ!


あばばばばっ……。


【食事が鉄臭くなりましたね……】


『今、回復しておる。全く、このチキンは……』


「あっ! これも美味しいよ! レイ君!」


あばばばばっ……。


****


死の足音が聞こえた俺は、後片付けを佳織に任せ、早々に仕事へ戻る。


よ……レミに切り裂かれた場所に、コンクリートを流し込む。


しかし、コンクリートをこんなアイスクリームみたいにスパスパと……。


ジジィとどっちがキレ味いいんだろうな?


『魔剣は、刃の表面を高速で魔力を流動させておる。物理的な切れ味のみなら、むこうが上じゃろうな』


「あれ? もう仕事してるの?」


馬鹿が、膨らんだ腹をポンポン叩きながら出てきた。


よくあの状況で、食いに走れるな。


【空気を読まない……読めないと言う事は、ある意味武器になるんですね】


『お前以上に、空気が読めん奴がおるとわ……』


えっ?


【確かに】


いや、あの、えっ?


『こ奴も、女とは縁が薄いかも知れんな』


【いえいえ、佳織さんといい感じに見えましたが?】


そうだね~。


『それに比べて……不憫じゃ』


えっ? いや。


【不憫ですね】


なんだか、俺の悪口言ってません?


『気のせいじゃ』


「あれ? もう、終わってるじゃないか。相変わらず仕事が早いね~」


お前が遅いんだ! 馬鹿!


「これ……固まるまで何も出来ないね~」


「そうだな」


「あのさ……言いたくなかったらいいんだけど……」


ああ?


「レイ君はもしかして、もうすぐ何処かに行こうとしてない?」


おおぅ?


フィーから聞いたのか?


「分からないけど、何となくそんな気がするんだ。僕の母さんもそうだったから……」


うん?


「僕の父さんが病気になって働けないから、小さい頃貧乏だったんだ。母さんが毎日遅くまで働いてたんだけど……」


身の上話?


「妹が三歳の時に、家を出て行ったんだ」


何気にハードじゃね?


「その時の母さんに似てるんだ。なんか、何時も悲しそうな目をして、みんなと一定の距離を置いて……文句を言わない」


『感じとっておったか』


「母さんが出て行ってすぐに、父さんが死んで……。妹の為に、肉体労働だけど毎日必死に働いたんだ」


あれ? 妹は?


「妹が七歳で、父さんと同じ病気になってね……。頑張って、頑張って……寝ないで働いてお金作ったけど……。治らない病気だったんだって……」


…………。


馬……瞬は、下を向き足元の石を蹴る。


「もし、いなくなるなら、一也君と幸子ちゃんを僕に預けてくれないかな? 絶対に頑張るから」


ふ~。


「ああ……。任せ……た!? お前! あの! ええっ!?」


「ああ! 貧乏だった時、よくおやつ代わりだったから……」


足元に居た蟻を、掴んで食いやがった!


「知ってる? 酸っぱくておいしいんだよ?」


お前、さっき腹いっぱい食っただろうが!


こいつに任せて、本当に大丈夫なのか?


「あっ! ちょうちょ!」


ちょ? どこ? お前には、何が見えてんの?


う~ん。


よし!


フィーに任せよう! うん!


『それがいい!』


【そうするべきですね!】


****


俺が大きく溜息を吐いた所で、事務所内から佳織が下りてきた。


「あっ! ねぇ? 買い出しに行くから、荷物持ちについて来てくれない?」


「俺か?」


「そう! ねっ? いいでしょ?」


佳織は、何時も馬鹿と一緒に行くのに……。


「なんで今日は俺なんだ?」


「あの……料理するのレイなんだから、食材を見ながらがいいかなと思って……」


嘘だな。


何か魂胆が?


まさか! 本当は俺の事が! とか!?


【ありませんよ】


はいはい……分かってますっ!


ちょっとした冗談でしょうが!


「ね? 行こうよ!」


う~ん……。


馬鹿はまだ追いかけてるし……。


「分かった」


まあ、少し付き合ってやるか。


そう……。


やる気のない俺は、いつも気を抜いてしまう。


****


街中では、馬鹿息子に作ってもらった偽造チップで識別を誤魔化す。


「それ買うの?」


「いや……。見た事ない野菜だから……」


「えっ? そうなの? パクチーって言って、香りに癖があるわよ?」


ハーブとかの一種かな?


一通り買い出しを済ませた俺達は、近くにあった公園のベンチに座る。


佳織は何かを言いたそうにしているが……。


何かもじもじしたまま、そこそこの時間がたった。


食材が痛む。


「で? 話があるんだよな?」


「えっ!? ああ、うん」


「何でも言ってくれ」


「瞬が言ってたんだけど……。もしかして、もうすぐ何処かに行くつもり?」


なるほど……。


「だったら?」


「一也と幸子を……」


「OK。お前等二人に、任せたぞ」


「えっ!?」


何回ビックリするんだ?


「ば……瞬からもうすでに頼まれた。逆に、俺からも頼むよ」


「そうなんだ。でも、なんで?」


実は異世界から……。


信じないだろうな~……。


『しかし、この場合誤魔化すのは、どうじゃろうな?』


仕方ない。


「信じ難いだろうけど、嘘はつかない。実は……」


言ってみた!


「嘘……を言ってる目じゃないわね。まさか、本当に異次元が存在するなんて」


おお! 意外に物分かりがよかった。


「俺からすると、こんなに文明が発達した世界がある方が、ビックリだったりする」


「わかった! あの二人は、私が命に代えても立派に育てる!」


まあ、馬鹿や三角関係に揉めてるフィーよりはいいよな。


「瞬との子供が出来ても、邪見に扱わないでくれよ。頼んだぞ」


俺の言葉に、佳織は顔を真っ赤にして……。


殴られました。


手を上げるなよ!


【なんだか久し振りですね】


出来れば、一生ない方がいいです!


『無理じゃ』


ちょっ! おま!


****


「なっ!」


「なに? これ?」


両手いっぱいに食材を抱えた俺達が見たのは、半壊して煙が上がっている工場だった。


やられた……。


タイミングがよ過ぎる!


監視されてたんだ!


食材を投げ出し、建屋内に走り込むと、由香が一也と馬鹿を手当てしていた。


「アニキ! さ……幸子とスージーが……」


「ごめん。ごめん。ごめん。ごめん……」


顔を腫れあがらせて、動く事も出来そうにない馬鹿を責める事なんかできない。


「瞬! 大丈夫なの?」


「二人とも、深刻な怪我は避けられています」


無事なのは、由香だけか……。


「状況を教えてくれ」


抑えろ……。


「貴方達が出掛けてしばらくしてから、レミと紅蓮が率いるデザインヒューマン達が、押し寄せてきたの」


夜襲のみなんて、俺の都合のいい思い込みだよな。


クソったれ!


「フィーネと瞬も頑張ってくれたけど……」


由香は、まだ震えている。


状況から考えて、よく無事でいてくれた。


「ロンドは、データのあるフィーネよりも、紅蓮を倒した貴方を危険と判断したみたいで……」


抑えるんだ……。


「幸子ちゃんと、修理中だったスージーを連れ去られた」


由香が、震えた手で差し出した紙を受け取る。


「悪いが読めん」


「あなた一人で、指定した場所に来いって書いてあるの」


街中で泥棒を続けたおかげで、地図の場所はわかる。


「ば……恵一とフィーは?」


「二人を助け出す為に、急いでフィーの修理をする為に工房に……」


ふ~……。


「じゃあ、行ってくるわ」


「あっ! フィーネの修理がもうすぐ!」


もう、抑えるのも限界なんでね。


「必要ない」


「あっ!」


****


高度に発展した街を疾走した俺は、広大な敷地のロンド生産工場へと向かう。


気配のする、事務所のある建屋らしき場所の入り口を蹴り壊して中へ飛び込む。


「待ってたぜ! 大将!」


「何処だ! 二人は……何処だ!」


俺はゴリラと、部下らしい男達二十人に叫ぶ。


すると、ゴリラは握っていた赤いカプセルをこちらに見せつけてきた。


「俺達デザインヒューマンの平均寿命は、約二五歳。俺はもう三0歳を超えちまっててな」


知るか! そんな事!


「最後はやっぱり、強い奴とやってから逝きたくてな! これを使うともう元には戻れねぇぇが、俺はもうそれでいい!」


知るか! くそゴリラ!


「二人は何処だ!」


「奥に居るよ! だが、奥に行きたきゃ! 俺を倒してからだ!」


そう言いながら、ゴリラ達はカプセルを飲みこんだ。


「ぐああああぁぁぁぁぁ!」


ゴリラ共は、全身の筋肉が不自然に膨張し、目があり得ないほど血走り、皮膚が黒ずんでいく。


「ぐうぅぅぅ」


理性のありそうな表情じゃないな。


「ぐがぁぁぁ!」


はぁ。


『殺してやるのが……』


【救いになるんでしょうかね?】


「ふぅぅぅ……。はぁ!」


苦しむ事もなく殺してやるのが、せめてもの情けだ。


魔剣を呼び出したい俺は、一瞬で二十一人を永遠の眠りにつかせる。


そして、そのまま、気配のする部屋へと走る。


幸子がいると思われる、部屋の扉……。


中から、魔力の気配は一人分だけ。


いるとすれば、アンドロイド……。


レミが待機してるのか?


どうする?


ええい!


観音開きの大きな扉を、俺は蹴破った。


「レイ兄! 駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!」


幸子の叫び声に混じって、ピッと言う小さな電子音がした。


俺の全身が粟立つ。


ヤバい!


全力で、俺を潰しにきた。


それからの俺の動きは、多分幸子には認知できないだろう。


金属の拘束具で動けなくなっている幸子とスージーを、拘束具を切って自由にする。


その間も、一桁しかない電子パネルの数字は進んでいく。


「スージー! 幸子を頼む!」


片腕のないスージーに、幸子を抱える様な形を取ってもらい、全力で屋外へと投げた。


次の瞬間、爆発の光が俺の身体を包んでいった。


****


「あぐっ!」


幸子のクッションになったスージーは、苦痛に顔を歪ませた。


整体部品が多く使われているスージーには、痛覚のあるのかもしれない。


「あれ? あれ?」


気が付くと建物の外にいた幸子は、不思議そうに周囲を見渡す。


「大丈夫? 幸子?」


「レイ兄は!?」


「……あの中……」


「そんな……」


スージーの言葉で、幸子は爆発した建物を呆然と見つめる。


「幸子! スージー! よく無事で……」


建物の爆発がおさまった所で、修理を終えたフィー達が駆けつけた。


「みんな! レイ兄が! レイ兄が!」


「まさか! あの瓦礫の中なのか!?」


「私と幸子を逃がして……」


「いやぁぁぁぁぁぁ! レイ!」


わなわなと震えながら絶叫したフィーの前に、髪の長い女性が姿を見せる。


「うふふっ……。今日、世界は生まれ変わるのよ」


「アステル……姉さん!?」


****


『生きとるな?』


はいはい。


【次元の狭間には飛ばされてない様ですね】


まあ、瓦礫に生き埋めですけどね。


『あれじゃな。お前はもう、爆発のプロじゃな』


ああ……。


巻き込まれる……な!


なりたくもないわ!


おい! 若造!


【はい!】


障壁で瓦礫を固定してくれ! 掘削作業を開始する。


****


「くう!」


「駄目だ……。リンフォースモードでも、今のレミには及ばない……」


スージーが戦闘不能である為、フィーは一人でレミに立ち向かった。


しかし、リンフォースモードを用いても、全く歯が立たない。


「フィーネお姉さま……」


「出来れば……出来れば! アステル姉さんに使いたかった……。でも!」


仲間達の顔を一望した後、フィーは覚悟を決めた強い視線をレミへと向ける。


「フィーネ! 駄目だ!」


「プログラム:エクスプロージョン! アクシ……えっ?」


「はい、ストップ」


俺に腕を掴まれたフィーが……。


うん。


ビックリし過ぎて、涙を流してます。


勘弁……。


まあ、なんとか間に合ったな。


【ぎりぎりでしたけどねぇ】


「レイ!」


俺は六枚のブレードが振り回される危険地帯から、フィーを抱いてみんながいる場所まで後退する。


「あれ? ば……恵一は分かるけど、由香まで来たの? それは、ショットガンってやつ?」


恵一は、何とかモード調整でついてくるしかなかったんだろうけど、由香は危ないだけじゃねぇぇの?


銃なんか、絶対効かないぞ?


「レイ兄!」


抱きついてきた幸子の頭を、俺は軽く撫でる。


「お兄ちゃん……どうやったの?」


「いろいろ頑張ったんだ」


ポカンとしているスージーに、笑って見せる。


「まさか、生還するするとはな。よほど運がいいらしい」


…………。


誰?


てか、足元に倒れてるおっさんは誰?


えっと……。


フィーと幸子は……俺に泣いて抱きついたまま。


「由香! 簡潔に説明!」


「あ……あの女性がアステルです。足元に倒れているのが、現ロンド社長で、アステルに操られていました」


うん?


何? その設定?


「つまり、あのアステルってのが元凶?」


「はい! 正確には、アステルのボディを乗っ取った、悪意のこもった何か……バグやウイルスではないかと思われます」


「最後! あの社長のおっさんから、生気を感じないが?」


「社長本人はすでに殺害されています。あそこに居るのは、そっくりに作られた傀儡用のアンドロイドだそうです」


うん!


分かりやすい!


ようは……。


みんなが苦しんだのは、あいつのせいって事か……。


「フィー、幸子、そろそろ放してくれ」


「うん……」


さてと……。


「ここは、俺にかけて貰おうか……。損はさせないから」


すっと上げた両手を振り下ろすと、俺の両手には剣が握られている。


「ぐぁぁぁぁ!」


アステルが指を鳴らすと同時に、レミが俺に向かって走り始めた。


おい。あのブレードどう見る?


『受けとめるのは、少々リスクが高いのぉ』


あの鎧をどう見る?


【通常の斬撃では、上手く切れないかもしれませんね】


なら、やるぞ!


【はい!】

『抜かるなよ!』


当然だ。


普通の人間には、光の残像しか残らないレミの振るう高速の斬撃中へ、俺は真っ直ぐに飛び込む。


精神を……。


心を研ぎ澄ませ……。


体の反射を超えろ。


大地と……。


大気と一体に!


剣の導くままに!


そして、それを制御化に置くんだ!


「えっ!? あの……フィーネ姉さん。あれ……見える?」


「何とかギリギリだけど……。これが……」


「おい! フィーネ! 奴は何者なんだ!? あれはエスパーの超能力なのか?」


ブレードの風を切る音と残光だけの、静かで激しい戦いが続く。


「いえ……。レイは異界の戦士……。凄い」


「姉さん達と違う私は、もうお兄ちゃんの姿がコマ落ちし始めてる」


すき間なく振り抜かれるブレードを、紙一重で避ける。


自身の速度を引き上げ、集中力を増していくことで、徐々にブレードの形がはっきり見え始めた。


『うむ! 軌道予測も完璧じゃ!』


【いけます!】


<スペースリッパー>


二本の剣で、細かく丁寧に……。


空間を切り裂く。


ブレードを避けながら、俺はそれをコツコツと積み重ねた。


遅い……。


遅い!



ブレード一振りに対して、三回切りつけられる速度に達する頃、俺の仕事は終わった。


さあ、締めだ。


<カノン>!


懐からブレードを避けて抜け出し、距離を置いた俺は、レミに衝撃砲を放つ。


かなり大きな衝撃の音が、周囲に響く。


衝撃砲の軌道上にブレード六枚を重ねて、盾にしようとしたレミが吹き飛んだ。


それと同時に、俺が細かく入れた切れ目で、レミの鎧がバラバラに……。


「ぐあ!」


倒れ込んだレミを抱えて、俺はみんなの元へと後退する。


****


「レミ姉さん!」


「あ……あああ……。私は……」


ふぃ~。


正気に戻った。


「想像以上ですね。でも、これでどう?」


アステルがパチンと指を鳴らすと、フィーとレミにそっくりなアンドロイドがそれぞれ六体ずつ、建物の屋上から降ってきた。


「馬鹿な! コピーは無理だったはずじゃ!」


五月蝿い! 馬鹿息子!


「ええ! 人間であるお前達には、無理だろうね!」


コピー共の瞳に……意思の光はないな。


「フィーネ! 逃げましょう!」


「レミ姉さん……」


「大丈夫! 本当のアステル姉さんは、ここに居るの! 四人でなら」


レミが胸の谷間から、チップをとりだした。


何処にしまってるんだよ。


聞いておく事は……。


「お前らって、切られて爆発する部分はある?」


「えっ? あなた……」


レミや由香達は目を丸くしているが、フィーだけは返事をしてくれた。


「心臓の部分に、炉があります!」


「了解」


もう、この世界にどれだけいられるか分かんないしね。


何より……。


「かかれ!」


自分に真っ直ぐ歩いてる俺に、アステル?は十二体を差し向けた。


何より……。


俺の怒りが、もう限界なんだよ!


行くぞ!


【はい!】

『うむ!』


****


向かってくる十二体の、心臓部分を避けて切り裂く。


「これは……驚かせてくれるものだ」


アンドロイドの疑似血液が、俺の周りを囲うように飛び散る。


生憎、殺さない様に手加減してただけなんでね……。


こっからが、本番だ!


「貴様は何者だ?」


「只のしがない……漂流者だ!」


俺の全身から、二色のオーラが立ち上る。


「断罪の時間だ! クソ機械!」


「舐めるな! 人間が!」


「お前の死をよこせ……」


ヤバい!


真っ直ぐ突っ込んだ俺は、発光するアステルを見て空中を蹴り軌道を変えた。


アステルの体から放射状に放たれた真っ赤な光は、電撃を纏ったバリアのように安定する。


あれは、ヤバい!


魔力とは違うが、強力な力を感じる。


なんだ?


本体と同じ真っ赤なバリアを纏った一メートルほどのひし形をした金属片が、アステルもどきの背中から飛び出してきた。


「レッドデスピアーシステム! とくと味わえ!」


飛んでくるひし形を避けたその場のアスファルトが、綺麗にくりぬかれた。


威力はブレード以上。


それも、空中で軌道を変えやがった。


「さらに、これでどう言った顔を見せてくれる?」


背中からさらに飛び出したひし形は……三十六枚。


それらは、超高速で空中を旋回し始めた。


俺は自由自在に飛び交う、ひし形の結界に囲まれた。


本体の防御も完璧か……。


回復を続けるが、避け切れなかった箇所から血が飛び散る。


それをみて……。


クソ野郎は、下卑た笑みを浮かべている。


「人間など! 我らの奴隷として生きていくのが、ふさわしいのだ!」


それを聞いた俺は、ある気分の悪い顔を思い出す。


俺の世界を我が物顔でいじくりまわした。


クソ機械!


こんなクズのせいで、フィーは死を覚悟して……。


こんなクズの為に、なんで一也と幸子が泣かないといけないんだ!


『むう?』


俺の思考が、殺意で一色に染まり、真っ青な炎がともる。


冷たく全てを焼き尽くす炎が……。


それを切っ掛けに、俺の全身に溶け込んだ青生生魂[アポイタカラ]が起動する。


『来た! 集中するぞ!』


【はい!】


徐々に……。


徐々に……。


思考が加速した俺の目に、ひし形の動きがゆっくり映り始める。


そして……。


『なんじゃ!? これは!』


【魔力以外でも!? こんな事が……】


俺にとっては未知の力のはずだが……。


俺の第六感が、ひし形と本体が放つ力を感知し始めた。


目に見えない部分の力を、俺の本能が識別し回避の軌道を導き出す。


【こんな事って……】


『科学の力まで、軌道と強さを全て予測したじゃと!?』


どれだけ避け続けたかは分からないが、ついに俺のイメージは科学の力を視覚化してみせた。


どうする?


力……。


科学の物理的な力……。


若造!


【はっ! はい!】


ある考えの元、俺は小さな障壁をひし形の軌道上に出現させた。


予想通り、ひし形は弾かれ軌道がそれた。


まずは一つだ。


そして……。


ジジィ!


『分かった!』


通常より魔力を多めに流した魔剣を、ひし形の中心へと突き出す。


カシュンと、金属が切断された独特の音が聞こえる。


これで……そろった!


俺は魔剣に刺さったままのひし形の金属片を、剣を振るう事で投げ捨てる。


予想通り、それは空中で爆散した。


金属片も常に真っ赤な力を放出しているが、完璧に均等ではない。


僅かに揺らぎが発生する。


その部分なら、魔力を少し多めに込めれば貫ける。


「何故当たらん!」


お前が遅いからだよ……。


音速の金属片を操れるお前は、目にも自信があるだろうが……。


お前が認識した時に、俺はもういない。


「おおおおおおぉぉぉ!」


そのまま、俺は全ての金属片を破壊した。


「馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な!」


馬鹿はお前だ。


「異世界の人間ってのは……。あんなにも俺達と違うのか?」


「いいえ。彼の体はよく鍛えてありましたが、人間のそれです。私達と変わりません」


「レイ兄は……自分の世界で神様と喧嘩して、追い出されたって言ってた」


「神がいたとして……。それに、立ち向かえる力があるって事?」


「きっとそうです。レミ姉さん……。レイは、私達を救いに来てくれた救世主……」


うん?


クソったれのパワーが膨れ上がった?


「地獄に落ちろぉぉぉぉぉ!」


両手を真っ直ぐに俺に伸ばしたクソったれの掌から、真っ赤な光弾が向かってくる。


へっ……。


地獄か……。


もう落ちて、もがいてるんだよ!


この世界全てが、俺の地獄だ!


<スペースリッパー>


三発の斬撃は俺の目前にある空間をゆがめ、光弾の軌道を変える。


流石に魔力じゃないから、強い力で跳ね返されて空間ごと斬るのは無理だったが。


十分だろう。


今だ!


敵の意識が軌道を変えられた光弾に向かい、俺から逸れたのを感じ取る。


こいつのコアも、胸部!


既に感知できるようになった俺には分かる!


魔剣を戻した俺は、胸部に出来た揺らぎに聖剣の切っ先を向ける。


そして、全身全霊で体ごと突きを繰り出した。


切っ先が接触する寸前で、通常より魔力を込めた五センチほどの障壁を聖剣の先に発生させる。


曲りなりにも、神を名乗った馬鹿が作った、最強の聖なる障壁だ。


壊せるもんなら! 壊してみやがれ!


放射状にのびる力に、垂直に障壁を押し込んでいく。


「おおおおおおお!」


押し返してくる力に、空を蹴り続け無理やり突き進む。


相手の体と、障壁の距離が二センチほどになった所で、体が耐久力限界を迎えた。


左肩が外れ、最後に蹴り出した右足の骨が砕ける。


今だ!


<ペネトレイトアロー>!


聖剣を戻し、聖剣があった場所に魔剣を真っ直ぐ突き出す。


支えになっていた左腕が無くなる事で、右手に握った魔剣が引き絞った矢のように障壁を突き破り相手の体を貫いた。


敵の炉が、障壁と魔剣の魔力の爆発に誘爆をおこした。


****


広大なロンドの敷地で、消滅の力を持った球状の光が広がって行く。


ある一か所を除いて……。


「レイ……」


「レイ兄」


「お兄ちゃん」


折れていない左足で空気の壁を蹴った俺は、皆を守る為に障壁で爆発を防いだ。


ふぅぅぅ……。


『かなり際どかったのぉ』


まあ、終わりよければってやつだ。


【そうですね】


おっと……。


ボロボロになった俺を、またあの感覚が迎えに来た。


自身の体重……重力が無くなったように、ふわりと浮きあがる感覚。


「これで、お別れだ。別の世界に飛ばされそうだ」


「そんな! 嫌だよ、レイ兄!」


「一也に宜しく言っておいてくれ。これからは、瞬と佳織が父さんと母さんだ」


「レイ! 私……私も連れて行って!」


おいおい……。


「やめとけ。ここは……俺の立っているここは、一切光のさしこまない地獄の底だ」


「嫌ぁぁぁぁぁぁ!」


フィーの叫びを聞きながら、巨大な掃除機にでも吸い込まれるような感覚に襲われた。


皆に背中を向けたまま……。


俺は世界をずれる。


『フィールドを張る』


【復元を続けます】


これでいい……。


俺には、これくらいがちょうどいいんだ。


さあ、今からまた拷問タイムだ。


はぁ~……。


やってらんね~……。

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