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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
EXtra
69/77

エピローグ④

「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」



最後のロボットを切り裂いた彼は……。


彼に、学習能力はないのでしょうか?


あれだけ自分で斬ったそれが、幾度も空中で爆発していたのに……。


気を抜けば、ろくな事がないと自分でも知っているはずなのに。


それとも彼は、あれをやらないと気が済まないとか?


爆発に巻き込まれた彼は、超高速で地面に落下していきます。


頭側から……突き刺さりましたね。


普通の人間なら、即死でしょう。


地面に突き刺さるのではなく、頭がグシャリとつぶれるでしょうが……。


流石に、彼の体は液体金属で……。



あれ?



頭を地面から引き抜いた彼の顔は、真っ赤に染まり回復の煙が……。


金属の強度が、地面に劣るはずが……。


「あ~……死ぬかと思った。ギリギリ、久しぶりに使うフィールドが間に合った……」


か……彼は。


何故、今まで生き残れたのでしょうか?


気持ちのオンとオフで、まるで別人のようです。


****


「おかえりなさい、あなた」


「うむ、よくぞ戻ったな」


笑った彼は、オリビアと梓に……。


「は……」


は?


「腹減った~……。死ぬ」


感動的な再会の場面で……。


本当に彼らしい、台無しの言葉を……。


「はぁ~、馬鹿弟子が……」


「あははっ! 相変わらずですね、マスター」


もしかして、この二人にも殴られ……ないんですね。


そうでした。


この二人は、彼を誰よりも理解した女性でしたね。


オリビアと梓が作ったお弁当は、かなりの量です。


もしかすると、彼の墓標となっていた刃に供えるつもりだったのかもしれませんね。


****


「うめっ! うっ! めっ! これ……あの……うっめ!」


とんでもない速度で、彼は食事を口に運びます。


それを両隣の二人は、ただ見つめています。


おや?


オリビアの手が、彼の刃を支える鎖をつかんでいますね。


梓の尻尾は、彼を確認するようにパタパタと背中を叩いていますね。


大丈夫。


彼は本物ですよ。


幻なんかじゃありません。


もう、消えたりしませんよ。


多分ですが。


「どうぞ」


アリスが、異界からの二人の女性に飲み物を渡しています。


「あ……どうも」


「ありがとう」


「お二人にも食事を出したいんですが……真幸、止めてくれません? 全部食べちゃいそうです」


「大丈夫だ」


彼の師は、静かに笑っています。


「えっ?」


アリスはまだ気が付きませんか?


これだけの騒ぎが、城から見えないはずはないじゃないですか。


****


城から、馬に乗った人が飛び出してきますよ。


我先に、彼のもとへ……。


オリビアから、みんなに一斉送信されたメールの内容はただ一言。



食事を。



それだけで、みんな理解しているようですね。


全員が、袋やカバンを持っています。


「お前は! お前は……まったく……お前ってやつは」


最初に到着したのは、オーナー夫婦。


お子さんは、誰かに預けてきたんでしょうかね?


持ってきた食事を地面に置き、オーナーが泣き崩れて……。


「お疲れっす。何を? 何を持ってきたんですか?」


空気を読みましょうよ……。


彼はオーナーを無視して食事の包みを、真っ先に開封しています。


ほら、泣いてるオーナーもイラッとしてますよ?



「ははっ! 僕のも食べてくれよ?」


セシルは満面の笑顔ですね。


爽やかに笑って、彼の前にカバンを置いて……。


違いました。


目には、零れそうなほど涙がたまっています。


「うっめ! これ! うまい! オーナー! これなんですか?」


無視ですか。



次は……。


大きな風呂敷を担いだ……。


「くらえ! くそガキ!」


「はっ? おぼぅ!」


弁当から顔を上げた彼に、マリーンが投げつけた風呂敷が直撃しました。


「おまっ! 殺すぞ! クソジジィ!」


鼻血が……あ!


「もう一つ! どうぞぉぉぉぉぉぉ!」


今度は後頭部に、ライブが投げつけた箱が……。


「お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



飛びかかろうとした彼を、オリビアと梓が押さえつけてますね。


「放して! 殴る! あいつら殴る!」


「ダメですよ?」


「やめんか、馬鹿者」


「……あい……」


もうすでに、尻に敷かれてますね。



****



「ご両親は、残念なことに他国へ仕事で出向いていてね」


「いや、いいっすよ」


「なんじゃ? 照れとるのか? くそガキ?」


「マジ殴れってことだよね? いいんだよね? クソジジィ?」


そうですね。


この光景です。


彼がいるべき場所。


笑顔が満ち溢れた、素敵な食事。


こんなちっぽけな、当たり前の事に彼はどれほど苦労したんでしょうか。


でも、だからこそ……。


この時間は、とても価値があるんですよね?


皆が笑顔で、彼に話しかけ……彼の話に耳を傾けています。



「なるほどな。それは、俺でも苦戦しそうだ」


「そうなんっすよ! 師匠! 術式を組み替えないと魔法使えないだけじゃなくて、体の外に魔力が出せなかったりで!」


異世界の話ですね。


「では、使えたのは強化と回復、復元だけですか? 私の障壁は?」


「ダメなんだよ。それどころか、復元も外に魔力出してるだろ?」


「確かに……。復元も使えないとは」


「強化と回復だけで、腕もげた時治すのに時間がかかる、かかる」


「ははっ。君の不運はまだまだ健在だね」


「ええ~……」


また大きな笑い声……。


なんでもない光景なのに……。


何か胸にこみ上げてくるものがある光景です。


彼の事をよく知っていれば、仕方がないかもしれませんね。


****


「えっ? オーナーが? この国の教育機関でトップ?」


「そうだ。これからは学長と呼べ。……なんだ? その顔は?」


眉間にしわを寄せた彼は、オーナー……学長から目線を外していますね。


「オリビア? オーナーって仕事しないぞ? 人選間違ってない? 子供がまともに育たないんじゃ……おふぅ!」


あ~あ……。


余計なこと言うから。


「何か言ったか?」


「オーナー……」


「なんだ?」


「よかったら、覚えておいてください」


「何をだ?」


「そういった金属製の棒で人を殴ると、このように凄惨な殺人現場が出来上がってしまいます。せめて、以前のようにモップにしてください」


血まみれで、顔を学長に向けた彼が精一杯の抗議をしていますね。


無駄なのに……。


「殺人? お前は、これくらいで死なんだろうが。それに、今のお前にはこれぐらいじゃないと、効果がないんだろう?」


「ええ~……」


「なんだ? まだ、何か言いたいことがあるのか?」


「……ナイデツ」


少し危ない光景も、笑いで包まれていますね。


彼の影響とはいえ、彼の周りには暴力的な人が多い。


まだまだ苦労しそうですね。


****


おや? 異世界の二人が……。


「では、私達はこれで……。まだ、戦いは終わっていないので……」


「御馳走様でした。そして……ありがとう」


「おっ? もう行くか? エナジーは?」


「そこの神……様から補充してもらった。その……お前には……」


複雑な表情をしていますね。


彼に酷いことをした張本人達ですから、仕方がありませんね。


「今まですまなかった。ありがとう」


「あの……このお礼はいずれ……。私じゃないかもしれませんが、きっと……」


二人は、仲間のもとへ帰るようですね。


でも、敵を倒したのは彼ですよ?


貴方達だけで、大丈夫なんですか?


「おう! じゃあ、行くか」


「「えっ!?」」


「その顔は……お前! 俺との賭けを無しにするつもりか!」


「え? いや、でも……」


賭け?


「敵を全部倒せたら、あの……シャキシャキのサクサクでうまいやつを、いっぱいくれるって!」


「カ……カロリーバーの事か?」


「そうだよ! 賭けに乗るって言ったじゃん!」


「しかし……まだ敵は大勢……」


「関係あるか! 契約不履行で、胸をもむぞ! こら!」


「なんで? なんでなの?」


ああ……。


「だから! あれをいっぱい食べたいの!」


「でも……ここはあなたの故郷でしょ? あっちに戻ると、力がうまく使えないんでしょ?」


「それ、今関係ないじゃん」


「でも、私は……私は一度あなたを、見捨てた」


「そうよ。私も、貴方に酷い仕打ちを……」


「それも関係ないし、どうでもいい」


彼は本当に……。


「死ぬかもしれないのよ!?」


「そうよ! 貴方はここに残れば……」


「なんだ? また、俺なんて必要ないっていうのか?」


優しい。


「違う!」


「死ぬかもしれないって言ってるでしょ!」


「誰が死ぬか。俺もつれてけよ」


そして……。


「なんで? なんでなのよ?」


「何回聞くんだよ? お前らには記憶力無いの? 馬鹿なの?」


人をイラつかせる天才ですね。


「わかったわよ! いいのね? 後悔しても知らないわよ?」


「誰がするか」



「わしから、少し質問をしてもいいか?」


マリーンは、異界の二人に質問をします。


「カロリーバーとはなんじゃ?」


「敵が生産してる、高カロリーの携帯食よ」


「それは、希少なものか? 味は?」


「今は希少だけど……。敵の工場を押さえれば、そうじゃなくなるわ。ビーフ味だけど……」


「なるほどな」



「私からも一つ」


次はライブですか……。


「その世界に……その敵のせいで泣いてる人は?」


「そりゃあ! お……大勢いるわよ……」


「あの馬鹿な弟は、それだけ条件がそろうと、何が何でも引き下がりませんよ」


「まあ、諦めて連れていけ」



「あ奴は、その泣いている大勢を助けるまで、死にもせんし負けもせん。神のわしが言うんじゃ。信じてみんか?」


梓のとどめの言葉で、異界からの二人はうなずいていますね。


泣くのは、少し早すぎると思いますが。



セシル達が、馬に乗せてあった食料以外の荷物を……。


「念のために作っておいて、正解だったよ。ミスリル製の肩当だ。君専用だよ」


「セシルさん……」


「魔法で、特殊な繊維を編みこんだ服とズボンだ。丈夫だぞ」


「オーナー」


「このレッグアーマーなら、少しはもつでしょう。使ってください」


「若造」


「ふん! たまたま作ったガントレットじゃ。持って行け」


「ジジィ」


用意がいい事ですね。


信じていましたか……。



おや?


もらったものを、並べて……。


彼は眉間にしわを寄せていますね。


装備しないんでしょうか?


「なんで?」


「なにがじゃ?」


「なんで、弱点を守る防具が一つもないの!?」


「贅沢をいうな! くそガキ!」


「贅沢じゃねぇぇよ! 最低限だよ! 頭も体も丸出しじゃねぇぇぇか!」


「お前どうせ死なんじゃろうが!」


「人を人間じゃないみたいに言うな! クソジジィ!」


「ほぼ違うじゃろうが!」


「うっさい! ボケ!」


あ……。


マリーンを殴ってしまいましたね……。


鼻血が……。


「この! くそガキがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「もう殴れるもんねぇ! おぶぅうお!」


マリーンが取り出した、ミスリル製の杖が彼の顎に直撃しましたね。


「この……クソジジィ! 殺す!」


「ダメです! とおおぅ!」


「……うげっ!」


ライブが、すごい速さでタックルをして……。


四の字固め……。


「てめ! 若造!」


「貴方の中で、常に見ていたんです。イメージトレーニングは完璧ですよ!」


「いたたた! こ……ジジィィィィィィィィィィ!! おぶっ!」


「ふん! ふん! ふん! 死ね! くそガキ!」


「伸びろ! そして、切れろ! 靭帯!」


「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お前ら!」


「アホは! ふん!」


「貴方です!」


マリーンは、全力で杖を振り下ろし続けています。


ライブも、全力で固めていますね。


彼は拳でマリーンの杖を迎え撃ち、足がきまりきらないように必死で力を込めて……。


彼らは、いつも全力ですね。


喜びも悲しみも……。


喧嘩まで。


本当にうらやましい関係です。


年も、生まれた場所も違いますが……。


魂を共有した兄弟。


マリーンだけは、年がかなり離れていますが……。


何もかもお互いを理解して……。


手を抜くことすら知らない、兄弟喧嘩。


この言葉が適切でしょう。



「そこまでだ」


ライブが、アレンに……。


「そこまでにしましょう」


「ぬうう」


マリーンがセシルに引きはがされました。


彼は……。


「はぁはぁ……今だ! おえ……」


真幸に襟をつかまれて、止められていますね。


「はぁ~……。いい加減にしろ」


師の言葉で、彼はしぶしぶ新装備を身にまといます。


似合ってるじゃないですか。


本当に、絵になる人です。


黙ってれば、ですがね。


****


「じゃあ……」


「おほん!」


「梓さん? なんです?」


「行く前に……その……なんじゃ」


「なんですか?」


「オリビアとの結婚は認めよう。じゃが、わしともその……な?」


あ……。


彼が青ざめていきますね。


「わしは、第二夫人で我慢しよう」


「あ……あの……えっと……」


「浮気……する?」


オリビアが、彼のシャツを引っ張り見上げています。


彼女達からの、いたずらですね。


二人は、お互いが彼の妻になることを認め合っているのですが……。


まだ戦う彼に、少しだけ何かしたかったようです。


あ~あ。


高速で、梓とオリビアの顔を交互に見ていますね。



「効果は抜群ですね。賢者様」


「アホの子の心が、手に取るように分かるのぅ。若造」


「しかし、破壊神様に梓さんにオリビアさん」


「馬鹿を殺せる三人じゃな」


「一番の幸せな場所が、地獄ですか……」


そして二人は、いつもの言葉を。


「「……不憫な」」



首がもげるんじゃないか? というくらい動かしていた彼の動きが、止まりました。


眼球がぐるぐる回ってますね。


あ……。


吐血した。



「痛恨の一撃でしょうか?」


「なんじゃ? お前はオリビアと馬鹿が喧嘩したら、馬鹿につくのか?」


「いえ。オリビアさんにつきますよ?」


「ならば、痛恨ではあるまい」


「ああ……。会心の一撃ですね」


「うむ」


「この次は……」


「まあ、いつも通りじゃ」


****


オリビアがシャツから手を放した瞬間、彼が残像になります。


「きゃ!」


そして、異界の二人を小脇に抱えて走り出しています。


彼の得意技に、逃走も含まれていましたね。


マリーンとライブは大きなため息。


「見事なヘタレっぷりですね」


「アホじゃ。アホ」


何故でしょう……。


こんな光景が、私には可笑しくて……。


「早くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! 転送ゲート!」


「い……いいの!?」


「頼むから! 土下座でもなんでもするから! ゲート! 早く!」


誰も、追いかけていませんよ?


正面に開いたゲートに、二人を投げ込んで……。


おや?


「「あ!」」


「三週間くらいで帰ってくる!」


振り返った彼は、片手を上げます。


その行為の意味を、みんなは理解していますね。


全員が、いい笑顔を浮かべています。


彼が振り返らず……振り返れずにいたのは……。


彼の弱さでした。


振り返ってしまうと、もう立ち上がれないという弱さでした。


彼は、今も強くなっているのですね。


本当に彼は……。



因みに、彼が帰還したのは半年後。


いつも通り、巻き込まれ……。


世界を三つほど救ってからでした。


それで、彼の十六歳からの旅は一旦の終了です。


でも、もしかするとまだまだ戦うかも知れません。


それとも、のんびり暮らすでしょうか?



愚問ですね。


きっと今日も、どこかの空を飛び跳ねているでしょう。


だから、あなたが悪事を働いたら、彼が斬りかかってくるかもしれませんよ?


気を付けてください。


もちろん、あなたがいい人なら助けにも来るかもしれません。


ただ、彼は一人だけですから、そう簡単には現れないでしょうが……。


彼は、無条件で都合のいい優しさを持っていません。


あなたが、一人で立ち上がれると……。


そう彼が判断すれば、少しだけ遠くから見守るだけです。


それが、あなた自身の為になると分かっているから。



それでももし、目の前に邪悪な神が出現し……。


あなたが絶望に飲みこまれ、打ちひしがれるかもしれませんね。


そんな時、灰色の髪をした青年が、目の前に現れ……。



「俺と賭けをしないか?」



と、言ってくるかも知れませんね。


その差し出された手を取るかどうかは……。


お任せします。




FIN

END5:彼はどこまで行っても、彼でした

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