エピローグ③
ここは、ある世界のある大陸のできたばかりの国。
その名をエデン(楽園)と言います。
本当に、最近建国されたばかりの国です。
オリビア:プラム……。
間違えました。すみません。
オリビア:シモンズが、いろいろな人や国の助けを借り、建国しました。
飛ぶ鳥を落とす勢いで、国が大きく成長しています。
この国は、犯罪には厳しい労働の処罰がある代わりに、どんな人も受け入れます。
老人、子供も当然ながら、亜人種でも変わりありません。
条件は、働く事。
建国して間もない上に、拡大中ですので仕事は腐るほどあります。
自分に可能な限りで、無理をさせることは絶対にありませんが……。
大工の仕事や店舗の従業員、果ては草むしりなんて仕事までまわってきます。
この国の人は、皆いい顔をしています。
人間関係に悩むことがないように、細心の注意がされていますし、病院や教育といった国の基礎がしっかりしています。
オリビアの方針に従い、泣いている人を一人でもなくそうと国民全体で動いています。
この国で、差別なんてすれば……。
少しキツイ重労働が待っているようですね。
そんな国民はいないようですが……。
この国の一番重要な資金源は、観光です。
オリビアの義理ではありますが、両親が運営にあたるサーカスに、異国から集めた遊具に動植物。
ゆったりと出来る、保養地や海も客を多くよんでいます。
そして、極めつけはチケットを取るのも難しいはずの、大陸一と評判の歌姫が、この国だけで月に一度はコンサートを開いてくれます。
話は変わりますが、この世界では食物連鎖にモンスターが深く関わりすぎて、容易には消すことが出来ません。
その為、世界中でその犠牲者も減りはしていないのです。
これはどうすることも出来ません。
しかし、この国では被害者が一年前から一人も出ないのです。
それどころか、不思議なことにモンスターがほとんど近づいてこないのです。
セシル率いる強力な軍隊のおかげ?
他国へ要請すれば、どの国の軍も借りることが出来るから?
私が手を貸した?
実は違います。
軍のトップにいるセシルですが、マリーン、ライブ共々、オリビアの手の回らない事務処理や、他国との交渉で飛び回っていますよ。
幾度か、Bランクのモンスターが接近したことはありました。
それに気が付いて城門を飛び出した、マリーン達実力者でしたが……。
金色の羽をはやした謎の影が、モンスターを消し去ってしまいました。
いつも、いつも……。
この国は、なぜか世界の意思と、天使に守られているんですね。
理由は……必要ありませんよね?
そんなこんなで、この国はいつも人でにぎわっています。
いますが……今日はまた一段と……。
なるほど、三日後にカーニバルがあるんですね。
レーム大陸から始まったカーニバル。
今年はエデンが主催のようです。
どおりで人が多いはずです。
中でも、広場に設置され名物になっているモニュメントは、その前で写真を撮りたい人達で……。
すし詰めですね……。
写真……撮れないんじゃないですか?
空に向かって刃を構える彼と、それを支えるように両隣には二人の女性。
オリビアと梓です。
この像には不思議な事が何点か……。
もうすでに気が付いた人もいますかね?
この像には、最高神が再現されています。
そして、梓以外誰も知らないはずのもう一つの刃が、彼の腰に再現されているのです。
もちろん、梓の指示ではありません。
この情報は、私や梓といった完全な時空の力がある者しか、知らないはずなんですが……。
私も知らない間に建造されていました。
立札には……。
ある日、大量の金属を担いだ男性が、自分でそれを溶かしながら一晩でこの像を作った……。
男性は名乗ることなく、去っていたそうです。
これは……。
彼でしょうね。
無くなってしまった未来も、時空の力があれば見えるでしょう。
また、人ごみの中には……。
時間の監視は、今日お休みなんでしょうか?
老人と喋らない女性が歩いていますね。
この世界へは入れるように……梓が手を回したようです。
たまの休暇もいいでしょう。
二人も立派な功労者です。
****
お昼休みに出たはずの……。
オリビアが、町の中に見当たりません。
どこでしょうか?
「やはり、ここにおったか」
「あ、ルー様」
「二人の時は、梓でよい」
「はい。梓さん」
なるほど、そうですよね……。
二人は、自作のお弁当を作りある場所の前にきています。
そこは、誰にも触れさせないように、結界で囲った場所。
その結界の中には、岩に刺さった一本の刀があるだけです。
二人がここに来た理由……。
ちょうど一年なんですよ。
ちょうど……。
「この前の約束を覚えておるか?」
「はい」
「では、今日はあやつに出会ってからの話を聞かせてくれ。この前は、お互いに時間切れじゃったからな」
この二人は、親友になってしまったようですね。
同じ男性を、命かけて愛したからでしょうか?
彼の背中を押したオリビアを、梓も認めたようです。
オリビアだけが、梓からすべての話を聞きました。
お互いが認め合った、たった一人のライバルで親友なんですね。
とてもうらやましい関係です。
もし、彼がいれば……。
私は彼とそうなれたでしょうか……。
彼の存在が大きすぎて……。
私の心には、まだ穴が開いているようです。
「俺達も混ぜてもらえますか?」
彼の師と、彼の妻である魔法生命体も駆け付けたようです。
今日は、大事な日ですよね。
****
うん?
あっ!
まずいです!
「なんじゃ!?」
「これは、マスター?」
「見たことがない魔力だ……。だが、主神級かそれ以上!」
突然、それに巨大な戦艦と、ロボット……でしょうか?
強大な力を持った何かが、転送してきました。
まさか……私の外から!?
そんな馬鹿な……。
その戦艦に追われるように梓達に向かっていた、小型の戦闘機が地面に不時着しました。
ハッチが開きますね。
中からは、二人の女性……。
見た事のない服装です。
まるで、宇宙服のようですね。
「アシュリー! 怪我はない?」
「うん……大丈夫」
体の小さなアシュリーと呼ばれた女性が、もう一人の女性に助け出されています。
うん?
見たこともない、高度な機器を取り出していますね。
少し不穏な空気です。
{ふははは! 諦めろ、ゴミ虫が!}
戦艦から、声が響きます。
感じのいい人ではなさそうですね。
「くっ! お前達なんかに負けるか! 死んでも、投降なんてしないわ!」
「ダリア……」
梓達は、それのやり取りを注意深く見ていますね。
{二人だけでか? 人間とはそこまで頭が悪いものか……}
「うるさい! 仲間が……仲間がきっと助けに来てくれる!」
真幸はすでに刀に手をかけ、臨戦態勢です。
{あの場所に残った馬鹿共の事か? くくく……これは笑わせてくれる!}
「何がおかしい!」
「そうよ!」
{あの場所には、我らが軍の半分が集結したのだぞ?}
「うるさい!」
{まさか、誰か生き残れるとでも思っているのか? ゴミ虫?}
「くっ……」
涙ぐんで、黙ってしまいましたね……。
どうやら、ダリアとアシュリーという名の二人は、絶望的な戦いを挑んでいるようですね……。
感じた事のない魔力ですが、二人も人間にしてはかなり強い魔力を持っています。
戦士なのでしょうか……。
ただ、敵はその何億倍の力を持っているでしょうか……。
真幸がいれば、何とかなるでしょうが……。
事情が把握できない四人は、動けずにいますね。
これはまずい……。
私の中に、また争いが?
何てことだ……。
****
「ダリア! 転送ゲート反応が!」
{ふはは! 私の軍が追いついたようだな! さあ! どうするんだ? ん~?}
おや?
そんな……。
「あれ? でも……ゲートが小さい?」
「アシュリー? えっ? これって……」
{総帥……このような反応が……}
戦艦の中の会話が筒抜けですね。
中の人……神は、あまり賢いとは言えないようです。
[聞こえるか? ダリア! アシュリー!]
彼女たちが見ていた機器の画面に、男性の顔がうつりました。
通信機能もついているんですね。
「ドノヴァン! よかった……。逃げ出せたのね?」
男性の顔が……。
[違うんだ]
「えっ?」
[重軽傷者は多数だが……死者ゼロ!]
「うそ……」
[うそなもんか! やってくれたんだよ! あいつが!]
{馬鹿な! 我が軍が人間などに……}
おやおや。
盗聴とはいただけない趣味ですね。
{総帥……その軍から、最後と思われる通信が……}
向こうにも、何か情報が届いたようですね……。
{そんな……何かの間違いだ! 救難信号だと?}
「あいつって……まさかあいつなの!?」
[そうだ! それで……お前の兄さんの形見だった、ブレードが壊れてしまったんだ。すまない]
「そんな事はかまわないわ……」
[よかった……。あいつの出力に耐えられなかったみたいでな。そっちで怒られると……]
「うそ……うそよ! だって……あいつは私達よりも、ずっと弱かったじゃない」
[戦っているところを見れば、納得するさ]
「それって……」
ゲート呼ばれた丸い光から、人影が浮かび上がります。
[こっちには、もうほとんどエナジーが残っていなくてな。話し合った結果、あいつ一人をそっちに送った! 大丈夫だ! 奴ならやってくれる!]
ゲートから、ぼろぼろでドロドロの服を着た青年が出てきました。
「あ~……勘弁しろよ、まったく。こっちは三か月もろくに飯食ってないのに……」
青年は、気だるそうに頭をボリボリとかいています。
そして、ため息をついて……。
「やってらんね~……」
ええ……。
そうです!
彼です!
よかった……。
本当によかった……。
生きて……生きててくれた。
彼の魔力から、情報が私に流れ込んできます。
よかった……。
彼の声を聞いたオリビアは、振り向かずうつむいて涙を堪えます。
梓は逆に空を見上げながら……。
二人の間を、当たり前のように通り抜けた彼は……。
梓が張った結界をデコピンで壊しました。
本当に変わらずむちゃくちゃなんですから……。
「お昼ご飯……ちょうど持ってきてますよ、あなた」
「わしも、手作りの稲荷寿司を用意してある」
真幸とアリスはただ黙って笑っていますね。
「そりゃ、楽しみだ。あの馬鹿殴った後で、もらうよ」
「はい」「うむ」
ダリアと、アシュリーが何かの計器をみて驚いていますね。
「うそ……位相が元に戻ってる」
「じゃあ、まさかここがあいつの故郷なの?」
「あの二人も話しかけてたし……たぶん」
ここは、情報を読んだ私から、少しだけ補足をしておきます。
ありえない事だらけですからね。
無限で分解された彼は、私以外の私と似た存在が作った世界へ紛れ込んでしまったのです。
本当に偶然が重なり……。
その世界には、物質を分解して転送する装置があったんです。
つまり、分解した物質をもとに戻す機能も持っていました。
迷子の彼は、偶然にもその装置で復元されてしまったのです。
ただし……。
毎度ながらの、艱難辛苦。
唯一の救いは言語が、同じだった事だけでしょうか?
その世界では、戦艦に乗る側の神が、自分たちで作った人間を奴隷として扱い、虐げていました。
挙句の果てに、別世界を見つけたので人間たち全員をその移動エネルギーにすると、殺し始めてしまうような世界。
牢屋に投獄され……。
とてもひどい扱いを受けていたようですね。
ダリア達反乱軍に助け出されても、肩身が狭く、これまた蔑まれて、殴られて、蹴られて……。
その世界では、不器用な彼は力がうまく使えなかったようです。
その上、無限の影響でほとんど魔力が残っていない状態。
それでも……。
彼はいつもの通りです。
なんだかんだと文句を言いながら、戦場を駆け抜けます。
彼が戦うのは、力があるからというだけの理由ではないのですから……。
必死に、命の瀬戸際で人に手を差し伸べます。
本当に……。
本当に何も変わらない彼です。
{馬鹿な! お前が何故生きている!?}
「死んでないからに決まってるだろうが! お前は馬鹿か?」
「ダリア見て! この数値!」
「そんな……まさか、あいつの言っていた言葉は……。全て真実だったのか?」
彼は、その世界でも命からがら活躍しました。
しかし、強さ=数値……という、魔力をはかる計器のせいで、ある誤解をされていたんです。
異世界人の彼は、位相というバイオグラフのような線がずれてうつりました。
その上、魔力もその世界ではうまくはかれていないようです。
まあ、彼自身が百分の一も力をうまく使えなかったせいですが……。
この事から、位相がずれているのでダメージが少ない、特異体質なだけの馬鹿。
これが、彼のその世界での評価です。
もちろん……。
それは、間違いですが。
{馬鹿な! こんな数値が……。貴様! いったい何者だ!?}
「ただの人間だよ、この野郎」
元の世界で、魔力が戻ったようですね……。
それ以前に、半分と言っていた軍と戦った時には、かなり強さも増していた事でしょう。
戦いながら強さを増していたでしょう。
{それほどの力を持ったお前が……何故だ?}
「お前らが気に入らね~んだよ! くそったれ!」
{この……この! ゴミ虫が! 何の価値もないお前達が、私に逆らうなど言語道断だ!}
「その何の価値もない俺に……殺された奴は、それ以下って事だよなぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼は久しぶりに、自分専用の刃を抜きます。
{こ……攻撃準備!}
「おおおおおおおおお!」
彼は大地を蹴り、空を蹴り、敵に向かい走り出しました。
****
「マスター? フォローは?」
真幸は、刀を抜くと……。
飛んでくるロボットの破片を、衝撃波で切り裂きます。
「必要ないだろう。それよりも、瓦礫でけが人が出ないようにそっちのフォローだな」
「まったく……不器用なお弟子さんです」
アリスは、飛んできたエナジー砲を障壁で空へはじきます。
「何? あの二人……」
「それより見て! あいつの数値……」
「すごい……でも……」
「うん……。まだ、勝てる可能性は二割くらい……。厳しいわ」
その会話を聞いた、梓とオリビアがアシュリーとダリアに話しかけます。
「どうじゃ? おぬしら? わしと賭けをせんか?」
「はっ!?」
そうなるでしょうね。
「私達は、彼の勝利に賭けます」
「わしはこう見えても、この世界の神でな。負ければ、それ相応の代価を渡すぞ?どうじゃ?」
ほら、混乱してますよ?
「でも、私達は負けません。この世に絶対はありませんが、絶対に!」
オリビアは……。
彼の特性に気が付いているのでしょうか?
梓が教えたのかな?
「巨大な敵に、理不尽な力……条件をそろっておる」
「そうですね、梓さん。でも、一番の条件は……」
二人は顔を見合わせて、同時に声を出します。
「「ここに泣いている女性が(おる)いる」」
異世界の女性は、きょとんとしてますね。
「どうじゃ? 賭けにのるか?」
異世界の二人は梓の圧力に、反射的にうなずいてしまいました。
「よし! お前達が負けた時は、笑顔を頼むぞ? それも、飛び切りの笑顔じゃ! いいな!」
そういうと、オリビアと梓は戦いに目を移します。
「さあ行け!」
「私の……」
「わしの……」
「「愛しい……」」
「「最強のダメ男!」」
少し皮肉のこもった呼び方ですが……。
彼女達の言葉には、好意とまだ戦っている彼への思いが詰まっていますね。
それと、一年も帰ってこなかった、怒りも少々。
****
空中では巨大なロボットが、爆散します。
その粉塵から、二人の彼が飛び出しました。
彼お得意の、残像でしょうか?
{な! うて! 両方だ! 撃ち落とせ!}
二人の彼に向かったエナジー砲は、彼の二つの残像をすり抜けます。
町に向かったその力は、真幸とアリスが弾き飛ばしました。
彼は……。
ああ、彼の技は詭道が基本でしたね。
粉塵の中から、刃を構えた彼が飛び出してきます。
もちろん、驚くほどの速度で……。
{う……うわあああああ!}
「逝ってこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
END4:やっぱりか! ……おかえり




