エピローグ②
へへっ……。
やらせね~よ。
やらせるもんか!!
****
これは、私しか知らない戦い。
そういえば、彼はよく一人で戦っていましたね。
特に、ある時期以降……。
それは、彼が小さな虚栄心や自尊心にこだわらない性格だったから。
彼は、名誉や名声よりも、平和を求める……。
そんな素晴らしい人間だったから。
神……私から渡された光を、彼は受け取りました。
それは、私だけが気が付けた情報。
真っ黒な未来の情報。
私ごと悪意を倒しても、世界は滅びる。
それも、最悪の手段で……。
それを知った彼は……。
世界に欠片として飛散しました。
ここで、いくつかの質問とその返答をしておきましょう。
彼はすべてを無に還したのに、なぜ破片を飛ばせた?
彼は何故みんなに最後の言葉を伝えた?
彼の本当のスキルって何?
彼にもっとも相応しい二つ名は?
この四つを、彼の戦いを見ながら回答させていただきます
一つ目は……。
そうですね……。
皆さんは、彼の技を覚えていますか?
その中でも、特に破壊神をして再現不可能と言わしめた……。
<ディメンションブレイカーアンリミテッド>を。
全ての力を限界まで使って放たれる、次元斬。
破壊神でも、そこまでが限界です。
彼がそれを超えた理由は、すべてを放ちつつ魔力の吸収で回復する、彼だけの力があったからです。
剣を振りぬいたところで、すでに少しだけ動く力が回復しています。
それをも次元斬に追加したのが、あの技の正体でした。
まあ、限界の限界を超えるわけで……。
一度、本当に死にかけてしまいましたが……。
ここまで言えば、分かっていただけますよね?
そう、彼はあの無限という技の最中も回復と進化を続けていたのです。
私の本体と悪意を消滅させながら、魔力を吸収し私たちに勝った破片を世界に向けたのです。
理由はもちろん、最後の一片まで悪意と戦うため。
消滅の光として、悪意を殺すために世界に飛び散ったのです。
二つ目は、彼の言葉……。
これの答えは、彼に対するみんなの評価を覚えていれば、自ずとでます。
彼は優しく、強く、知能指数も低くはありませんが……。
お馬鹿さんなんです。
敵を倒し、必要なことをきっちりやり遂げます。
ただ、どうでもいい部分をしくじるんです。
本人に自覚意識がない事が……。
一番残念かもしれません。
試合に勝ち、勝負にも勝って……。
それでもなぜか負けている。
常勝無敗のルーザー(敗者)。
もしかすると、彼にはこの二つ名があっているかもしれませんね。
少し話がそれましたが、彼は世界に言葉を伝えるつもりはありませんでした。
ただ、純粋な最後の気持ちとして呟いたにすぎません。
破片から伝わるとは思っていなかったようです。
それが伝わっていることを……。
彼が知る事は一生ないかもしれません……。
最後の些細なミス。
それでも、私は伝わってよかったと思っています。
彼の最後の言葉は、確かにとても悲しい言葉です。
でも、それ以上に皆に勇気と暖かい気持ちを届ける言葉だったから。
三つ目ですね。
彼は多くのスキルを持ち合わせていました。
吸収、融合……料理というのもスキルの一つです。
先天的なものから、後天的なもの……。
どんな人間も、気が付き開花させられるかは運次第ですが、多く持ち合わせています。
幸か不幸か、彼はそれを人より多く花開かせました。
しかし、彼の一番稀有なスキルは、そのどれもありません。
彼を彼たらしめたもの……。
それは、彼の心です。
世界中に破片として飛び出した彼は……。
悪意と戦いました。
分子も粒子も関係なく、敵を滅ぼしていきます。
しかし、彼の最後の技とはいえ……。
数に圧倒的な差がありました。
比率で言えば……。
約一対五千万……。
勝率は、一厘以下。
絶望的な数字です。
普通ならば。
ただ、知っている人も多いかもしれませんが……。
五千万倍くらいの敵に、彼は負けません。
それよりも多く、勝ち目のない戦いを続けてきたのですから。
最初にぶつかった分子こそ、負けてしまいましたが……。
彼がそこで終わるはずありませんよね?
次にぶつかった時には、対消滅します。
次にぶつかった時には、五つの敵を消滅させて消えていきます。
その次は……。
彼は負けず嫌いなんです。
特に、誰かを守るときは……。
彼のその強い気持ちは、彼を強くします。
吸収や進化という力が働いていますが……。
それを引き起こさせているのは、その強い心です。
どんなに敵が強大で、絶望的な状況でも……。
彼はたどり着きます。
ゼロが小数点をこえて、いくら並んでいても、その先に一以上の数字があれば、全力で走ります。
そして、ついにはその数字に追いついてしまうのです。
泣いている人がいる限り……。
そして、不完全な私が作ったこの世界には……。
絶対が存在しません。
どんなに埋めても、九割九分九厘が十割になることはないんです。
だから、彼はたどり着く。
敵にしてみれば、勘弁してほしい事でしょう。
ほぼ負けることが考えられない戦いの敗北の確率が、気が付くと一割、二割とどんどん上がっていくのです。
五割をこえた時点で……。
彼に勝てる敵はもういないでしょう。
それが彼に隠された、本当の特性。
それを知っているのは、この世では梓だけでしょうか?
そして、誰も知らない最後の戦いは……。
言うまでもありませんね。
世界から、内包された発芽していない悪意以外は、本当に彼が一掃してしまいました。
それが世界を覆った黄金の雪の正体。
彼の愛は、本当に世界を包んでしまったんですね。
無茶苦茶です。
でも、最高の結果を出してくれます。
そんな彼が……。
世界から全く感じられません……。
どこかで生きているんじゃないか……。
そう思って、何度も探しましたがダメでした。
何度も……。
何度も……。
おっと!
最後の回答を、また言い損ねるところでした。
話が逸れるのは、私の悪い癖ですね。
彼に送る二つ名。
それは……。
彼の特性に、名前を付けないといけませんね。
あ!
いい名を思いつきました。
彼の特性は、絶対がないから生まれる絶対。
矛盾の塊のような特性です。
だから、彼がもっとも嫌う言葉を彼に送りましょう。
奇跡(仮)と……。
彼の結果は、何の原因も無い本当の奇跡とは違います。
因果の偶然が、必然として重なる奇跡であって、奇跡ではない事。
だから、彼はこの言葉を嫌っていましたが、こう命名するのが妥当でしょう。
嫌だ!
せめて、仮はなくせよ!
っと、彼が生きていれば言うかも知れません……。
出来れば、私もその言葉が聞きたい……。
ですが、彼はもういないので、勝手にこう名付けさせてもらいます。
彼の二つ名は……。
最強の奇跡(仮)。
END3:誰も知らない最終決戦




