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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十三章:時空と真実編
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十二話

「ん? これは……」


俺の頭に、これから向かう場所の状況が伝わってくる。


俺が、この世界から消えて少し後の世界。


俺がいなくても、師匠たちは必死に戦った。


自分達よりも強いユミルと……。


そして、もうすぐ最後の時が来る。


限界を超え、仲間の神達から魔力を上乗せされた最高の一撃を、師匠と双子神はユミルに放つ。


でも、その一撃は……。


死神達に威力をそがれ、少しだけ……。


本当に少しだけ届かずに、敵を倒すことができなかった。


死神の邪魔がなくても、成功率は五十パーセントではあるが……。


魔力の尽きた皆は……。



でも、それはもうない。


俺がさせない!


握った刃の先を、見えてきた出口に向ける。


そして、すべての魔力を体にまとわせた。


五十パーセントを九十九パーセントにすればいい。


今の俺にはできる。


****


「おおおお! 次元斬!」


「ゲイボルグよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「 消し去れ! ビッグバンエターナル!」


今だ……。


<シャイニングアロー>!


みんなの攻撃に、自分の一撃を重ねる。


俺の突きは、まっすぐにユミルへと向かう。


「お前は!?」


もう、お前なんかに負けるかよ。


さあ、消えろ! くそったれ!


「あ……ああ!」


「レイよ! レイだわ! 姉さん!」


「ええ! あいつ生きてたのよ!」


(マスター!)


「ああ!」


ユミルは、驚愕したまま消えてなくなった。


それと同時に、ユミルが浸食を進めていた魂の故郷の結界が修復を始めた。


ここからだ!


最後の仕事!


****


人一人がぎりぎり通ることができるその穴に、俺はまっすぐに飛び込む。


「ぐ……がっ……くっ! そ!」


そこは、神を拒む最後の結界。


梓さんを拒んだ神様が、神以外の魂を取り込むためだけの場所。


この結界のせいで、梓さんは創造主に会うことができなかったんだ。


ここは、神を拒む。


逆に言えば、神でなければ侵入できる空間。


だから、俺が必要だった。


もちろん、ただの人間や動物では外壁の結界で魂にならない限りたどり着けない場所。


言い表すとすれば、世界の胃袋……かな?


戻ってきた俺は、この場所に梓さんが通れる穴をあける。


俺が、望めばそれだけのはずだった。


でも、俺はもう決めた。


俺は、それを選ばなかった。


その結界は、生身の俺を……。


分解し、魔力に戻そうとする。


生きながら食われる……よりも苦しいかもしれない。


俺の体が先端から、どんどん分解されている。


それを、自分の魔力の内圧で押しかえし、回復と復元をする。


さらに、周りの魔力を俺自身も吸収する。


走る俺の体で、死と再生が繰り返されていく。


気が狂いそうなほどの苦痛……。


きっと、十六歳の頃俺がここにきていれば、今と同じ魔力があってもすぐに気を失い分解されつくしていただろう。


地獄のような戦場が、痛みに対する耐性を高めてくれた。


もし……もしも、俺が地獄を生き抜いていなければ、耐えられなかったであろう苦痛。


でも、今の俺なら耐えられる。


歯を食いしばれ!


走り抜けろ!


こんな痛み、くそくらえ!


俺は、あいつらを守るんだ!


守って見せるんだ!


「おおおおおおおおぉぉぉ!」


****


ドプンと、走っていた俺の体が突然何かに落ちた。


「うおっ! と……」


無限に続くとも思えた結界が、唐突に終焉を迎えたようだ。


「これは……凄いな魔力濃度が凄すぎて、魔力が完全に液体化してる」


すでに、魔力感知も糞もないが……。


視界に黒い物体が動いているのが見える。


真っ黒でぶよぶよに全身が膨れ上がった、巨大な胎児……のような神様。


すでに、浄化しきれない悪意が全身をむしばんでいる。


ここまで……。


たかが人間のためにここまで……。


「おおお……お……おお……」


見開いた目から、どす黒い血を流しながら、救いを求めるように……。


神様は俺に手を伸ばす。


わかってる。


「ありがとう、神様」


俺ができることは……。


あんたを殺すことだけなんだ。


許してくれなんて言わないぜ。


その罪を全部背負う。


今、楽にしてやるからな!


全身の全てを高める。


「次元流……」


そして、周りから取り込めるだけ魔力を吸収する。


「最終技……」


俺の魂にも……。


思いにも……。


刃にも……。


一片の曇りもない!


俺の全てをくれてやる!



体も!


魔力も!


魂も!


想いも!


未来も!


過去も!


記憶も! 全部だ!


だから……みんなの未来をくれよ!


真っ白な未来を!




無限インフィニティ!!!!>




俺の全てを乗せた斬撃は、神様に直撃する。


触れたその場所から、光の球体が広がっていく。


それは、とてもゆっくりと……。


灰色だが、黄金の光を放つそれは俺と神様を徐々に飲み込んでいく。


俺が導き出した、これが答え。


不老不死の神様を、殺すための力。


全てを無へとかえす技。


次元流の始祖であり、継承者の俺はこの答えにたどり着いた。


剣技でありながら、剣技ですらない技。


斬るという行動は、技を発動させるきっかけでしかない。


自分自身の全てを分解し、敵を対消滅させ無へと消し去る。


自身と相手の体を分子や原子に戻し、ぶつけることで消飛ばす。


もちろん、意志の力も魔力もすべて分解し、消滅させる。


全てをぶつける技だからこそ、迷いや未練があれば失敗する。


失敗すれば、俺が消えておしまい。


でも、そうはならなかった。


俺と一緒に、神様も……悪意も無へと消えていく。


ゆっくりと……。


いや、違うな。


そう感じているだけで、実際は一瞬だろうな……。



あれ?


俺と神様が、完全に光に飲み込まれた。


後は光が収束して消えるだけ……。


のはずなのに……。


もう眼なんてないはずなのに……。


あれは、誰だ?


神……様?


これは、神様の記憶!?


そうだ! 過去で見たあの場所だ。


何もない空間……。


広いだけで本当に何もない空間。


時間も空間もない。


あるのは、のちに魔力と呼ばれる純粋な力だけ……。


それは、自然と集まりどんどん離れ離れだった魔力を取り込む。


雪だるまのように膨れ上がったそれに、いつからか意思が宿る。


目的もなく、ただそれは存在した。


その世界には、ほかの存在はないのだから……。


ただ、なんとなく何もない世界を漂う。


何をすればいいかもわからない世界。


本当の自由とは、不自由なのかもしれない。


そこに、小さな何かが流れ着いた。


うれしい!


その感覚が生まれた。


神様は、小さいが同じ存在のそれを歓喜で迎えた。


ただ、それは何も反応してくれない。


それどころか、魔力が徐々に弱まり今にも消えそうだった。


だから、必死で魔力を注いで回復させた。


その際に、梓さんの記憶に触れた。


そして、自分の抱えた感情が孤独であり、さびしいというものだと知った。


だから、世界を作った。


星を、大地を、海を、植物を、動物を……。


人を作ったんだ。


それが、悪意を内包した欠陥品だとしても……。


神様……。


本当に人間を愛してくれたんだな……。


俺はそんなあんたを……。


殺すことしかできなかったよ……。



(大丈夫だよ)


えっ?


(私はもう十分だよ)


でも……。


これでいいのかよ?


(うん)


どうしようもないけど……。


人間のために、苦しんだだけじゃないか。


(満足してるよ。心配しないで)


最後には、こんなだぜ!?


(うん! 感謝してるよ! レイ!)


お人よしの神様……。


(君ほどじゃないよ。あ……でも)


うん?


(消えていく君に何もしてあげられない。代わりに、これを)


神様が差し出した光を受け取る。


もちろん、俺の手も神様の手もないし、見えてるわけじゃない……。


神様が男か女かすらわからないけど……。


何故だか、そう感じる。


その光は……。


世界だった。


俺の意識は、一瞬。


ほんの一瞬だけ、世界とつながった。


世界は、素晴らしい命に満ちていた。


こんな素晴らしい世界……。


へへっ……。


やらせね~よ。




やらせるもんか!!




この世界を悪意なんかに壊させない!


俺の大好きな世界なんだ!


世界とつながってみたもの……。


それは、俺が追い求め手に入れられなかった……。


そう思い込んでいた愛だった。


世界と、意識ごとつながった俺は、世界に愛が満ち溢れていることを知る。


俺は、こんなにも人に愛されていたんだ。


俺を思ってくれる人々の心が、俺に流れ込み……。


胸の穴を満たしてくれた。


ああ……。


幸せだ。


俺はなんて幸せ者なんだ。


馬鹿だな~……俺って。


こんなにも愛されてたのに、気付きもしないなんて……。


大馬鹿で、幸せ者だ。


最後に……。


絶対叶えろなんて言わないけどさ……。


一生のお願いってやつを、してもいいかな?


もう、忘れてくれとも泣くなとも言わないよ。


もし、俺のことで泣いてくれる人がいれば、泣いてくれよ。


俺はもう何もできないけど、それを素直に受け止められる。



だからさ……。


その後……。


そのあとでいいから、笑ってくれよ。



俺はみんなの笑顔が欲しいんだ。


ちょっとでいい。


一瞬でいい。


だから、死ぬまでに心から笑ってくれよ。


これが、俺からの一生のお願いってやつだ。


頼んだよ。


俺の一生は……幸せでした。




ありがとう。




さよ……う…………な………………ら……………………。




俺の別れの言葉を言い終えると同時に、俺は再び世界と切り離された。


膨れ上がっていた光の球は、収束しやがて消え去った。


そして、神様と俺という存在も……。


俺がしたことは、世界から運命という未来を消し去ること。


時間や魔力の法則なんかは、梓さんが補完してくれるだろう。


何も決まってない未来だから、不幸や残酷なことがいっぱいかもしれない。


これを、善行と人は呼ばないかもしれない。


でも、これで未来が真っ黒じゃなく……。


真っ白にできた。


うん!


俺にしては上出来だ。




じゃあね、世界。




バイバイ……俺。




愛してるよ、みんな。




本当に、今までありがとう。

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