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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十三章:時空と真実編
62/77

十話

「はぁ! はぁ! はぁ!」


「なんで!?」


「くそっ!」


待てよ……。


いくら逃げても無駄だって、わかってるだろ?


「こんな……事!」


「ダメだ! 速い!」


俺は、地面も海も関係なく疾走する。


死神達が逃げ込んだこの世界で、そいつらを追い詰めるために。


逃がさない。


お前達がいると、計画の邪魔になる。


だから、死んでくれよ。


「くっ! くそ!」


確か……NO.五だったかな?


黒いローブをまとった爺さんが、俺の目の前に障壁を幾重にも展開させた。


主神クラスでさえ、足止めできる結界だろう。


俺には無駄だけどな……。


障壁を切り裂き、速度を落とさずに五つの影を追う。


梓さんに教えられた、未来と同じものを見た五人。


そして、絶望にのまれた五人。


平野を駆け抜け、城? 町らしき場所を飛び越えて敵に追いついていく。


五人を殺すために……。


****


「え!?」


「まさか、今の……今のは! イザベラ様!」


「ええ……あなたにも見えましたか、サリー」


「あちらに向かいました!」


「追いましょう!」


****


高速で動く俺たちを知覚できる人間は、いないだろうな……。


俺が、後方のNO.五と四を射程にとらえる寸前で、二人が立ち止り振り向いた。


「あまり、舐めた真似をしてくれるなよ? 人間」


そっちこそ。


「あの結界から生きて出てくるとは、予想外だったわ」


二人だけで、戦うのか?


「わかってるの? あの時殺さなかったのは、生贄にしないといけなかったから」


わかってるよ。


「どうやら、ほかに仲間はいないようだな。ならば、逃げる必要はない」


「そうね。今回は、結界で動きを封じるだけでは済まさないわよ」


黒い鎧を着た女が、背中からでかい鎌を取り出す。


どこに持ってたんだ?


「私達を侮ったことを、あの世で後悔しなさい」


命のやり取りで、慢心するほど馬鹿じゃないよ。


お前らと一緒にするな。


「安心しろ。苦しませはせん!」


俺を縛ろうと、爺さんが結界を張る。


ドーム状のそれは、本来瞬間的に出せる類のものじゃないだろうな。


「はあぁ!」


それと同タイミングで、No.四が鎌を振り下ろす。


それは、結界ごと切り裂く強力な一撃。


流石は、死神ってところか?


でもな……。


「そ……んな……」


二人が、俺の残像に攻撃を仕掛けている間に、俺の斬撃は女のコアを両断していた。


一瞬だけ遅れて、女が切り裂いた結界が爆発を起こす。


女が光になったのは、それと同じくらいかな?


「なんだ!? どうなっている!?」


見ての通りだ。


****


「イザベラ様! 破片がこっちに! え……あれ?」


「これは、防御フィールド?」


「動きは見えるのか? 人間?」


「貴方は……確か上級天使の……」


「ミルフォスだ。正確には、ミルフォスゾンビといったところだがな」


「意思様から、監視を依頼されましたか?」


「それもあるが……奴とは、俺自身も縁があってな」


「イザベラ様! あれ! す……凄い……」


「魔法を、発動前に……切り裂いているのでしょうか?」


「そうだ。相手は、我が主よりも強い力を持っているのだがな……」


****


遅い……。


遅いんだよ!


魔力の流れをすべて感知している俺は、集約した魔力をその瞬間斬り捨てる。


「こんな……こんな事が人……間……に」


その言葉を最後に、爺さんは光となって消える。


それを確認したように、少し離れた場所にいた三人が移動を再開した。


待てよ。


俺と戦えよ。


とんでもない速度で飛ぶ影を、海を走る俺が追いかける。


相手の時空魔法だろうか?


俺のほうが速いはずだが、距離を詰めるのに時間がかかる。


でも、少しだけ時間がかかるだけだ。


「はっ!」


何とか届いた指先を、No.二の女にかすらせる。


「ぐっ!」


体勢を崩した女が、城壁らしい壁に体をぶつけた。


それをかばうように、俺と女の間にNo.三が槍を構える。


「この! 人間ごときがあぁぁ!」


俺に向かい、槍を突き出してくる。


以前は、こいつの動きが全く分からなかった。


でも、今の俺にはすべて見えている。


「この! この! このぉ!」


必死で突き出す槍を避けていると、俺が立っている地面がえぐれていく。


流石に、現地の人間に迷惑になるか。


空中に飛び上がりながら、槍を回避し続ける。


俺に突き出される槍に、女が振るうハンマーが加わる。


そういえば、悪魔にもこんなのがいたな……。


あの悪魔たちよりは連携が取れてない。


でも、それより速くて強力だ。


ただ、今の俺には届かない。


うん?


No.二が少しだけ距離を置き、構えたハンマーが巨大化する。


あれは……。


悪意を一撃で破壊した技!


まずい!


俺の背後には、城が……。


大勢の人がいる!


槍をいなしてNO.三の体勢を崩した俺は、ハンマーに向かい刃をぶつける。


「おおおお!」


「消飛べ! 人間!」


パワー特化!?


威力を殺しきれない俺は、空中を幾度も蹴りつけ力を逃がす。


こ……の……。


何とか、人がいない場所……広場か?


首だけで周囲を確認した俺は、城下町のた広場に着地した。


流石に、地面は大きく陥没したけど……。


勘弁してもらおう。


「私の……私の力が……」


俺に真っ向から受け止められたのが、そんなにショックだったのか?


一瞬だが、NO.二が放心した。


俺にはそれで十分だがな。


NO.二の女は消え去る。


****


「ああ……レイ……レイ」


「間違いない! レイ君だ!」


「あ! セシル殿!」


「あの馬鹿は、まだ戦っているのか……」


「そうみたいだね。……転移の準備を」


「ええ!」


****


俺に追撃を加えようと向かってきていたNo.三が、空中で動きを止めた。


「い……」


い?


「嫌だ!」


は?


「嫌だ! 死にたくない! 俺は!」


なんだよ、それは?


曲りなりにも、運命を超えた神様じゃないのかよ?


俺に背を向けたNo.三が飛び去ろうとする。


もちろん、逃がすつもりは全くない。


「なんで!? なんでだよぉぉぉぉぉぉ! 俺は、死神の中でも!」


俺は、男との距離を一気に詰めていく。


「一番速いのに! なん……で……人げ……」


情けない声と共に、男は消えてなくなった。


梓さんにもらった情報で、知っている。


こいつらは、もともと全員人間。


元は、俺や師匠と同じように命を懸けて世界を救った奴ら。


その戦いの中で、神の力を得ることで死神と呼ばれるようになった……。


勇者のなれの果て。


絶望に飲み込まれた英雄達。


情けない最後だけど……。


笑えない。


もしかすると、こいつらのほうが正しいのかもしれないから。


俺のしようとしている事の善か悪かを判断するのは、もっと未来の奴らだ。


もしかすると、俺は世界最高の悪として教科書に載るかもな。


「けっ……」


さて、城門の上に浮いたNo.一。


時空を操る本当の死神は、俺と死合う準備は十分ってところか?


マントを投げすて、剣を鞘から抜く。


そして、ついて来いと言っているのだろうこちらを向いたまま、後方へと飛ぶ。


****


地面を蹴った俺は、城から少し離れた平地……。


死神の手前に降り立った。


真っ直ぐに剣を構えた死神は、こちらを見据えている。


何をしてくるかはわかっている。


死神を死神たらしめた、最高の技。


時空の一撃。


最速を超えた、時へ干渉するほどの剣撃。


どんなに速い動きも、それ以前に切られた……切れていたという事象を差し込まれれば、防ぎようがない。


神が使う運命への介入を超えた、時への介入。


止まった時の中では、物体は不変。


しかし、時を超え動く物体であれば攻撃できる。


この死神が、師匠と同じように悪意と戦えたのはこの力のおかげ……。


それと同時に、その力が真っ暗な未来を見せた。


たぶん……絶対かな?


一撃を食らって、反撃で倒すなんて甘い相手じゃない。


射程に入った瞬間、体と一緒に両腕も切り落とされているだろう。


なら……。


お互いの体を包んでいたオーラは、消えうせる。


あることに力を向けたからだ。


構えた俺達は、にらみ合う。


相手の先をとり、後の先をとらせないように……。


俺達の間を一陣の風が吹き抜けると、お互いの立ち位置が反転していた。


もちろん、構えていた武器はお互いに振りぬいた形になっている。


死神が前後で、決定的に違う点。


それは持っていた剣が両断され、剣先は少し離れた場所に突き刺さっている事だ。


時空魔法……。


それは、一部の神と運命から外れたものに許される魔法。


顕聖に知識をもらった俺は、もちろん使える。


莫大な魔力消費のために、多用できるようなものではないが、使えるんだ。


そして、時の遅延が経験の差を埋めてくれた。


俺の刃は、死神の剣とコアを正確に斬り捨てた。


「おい……」


「なんだ?」


「世界を……未来を任せたぞ」


「ああ……。お前の想いごと、俺が背負ってやるよ」


「すま……ない」


明るい声で、死神は消えた。


俺は、刃を鞘へと納める。


こいつも、こいつなりに必死で未来を考えたんだ。


そんなことはわかっている。


それでも、光が見いだせなかった。


許すなんて言うつもりはない。


でも、責めるつもりもない。


死神を殺しちまった以上……。


いや、もともとだが余計にしくじるわけにはいかないよな……。


さて……。


梓さんからの、次の入り口はまだかな?


****


ん?


魔力?


これは、転移の魔法か!?


何かが、こっちに来てる。


「おまえ……」


目の前に現れた、女の姿をしたヨルムンガンドに、反射的に身構えていた。


「久しいな、レイよ」


ああ……。


まあ、こいつは覚えてるよな。


それに世界の意思なら、自分が作った神でも天使でも再生は可能か……。


てか、今思えばちゃんと倒せたかも微妙なんだけどね。


「よう、再生怪人ヨルムンガンド」


よく考えると、ここは悪意が作った特別な世界。


死神が身を隠すには、ここが最適だったのかな?


主神クラスは、簡単には世界に入れないからな……。


「お前のことは、主……世界の意思から聞いている」


「ああ、そうかい」


「今戦えば、私が秒殺されそうだな」


可愛い女の顔で、物騒なことを……。


そういえば、この仮の姿はどっかの姫様だったっけ?


「瞬殺の間違いだ」


「確かに」


次の場所へ向かう入り口は、まだ現れない。


どうなってるんだ?


てか、まだ転移してくる奴がいる!?


なんだよ?


暴れたから、調査の兵士とかか?


面倒なのは嫌なんだけどな~……。


「あ……」


これは、なんの嫌がらせだ?


勘弁してくれよ。


目の前には、俺が会いたくて仕方なかった人たち……。


父さん。


母さん。


セシルさん。


オーナー。


アレン。



そして……。



そして、オリビア……。



よかった、ちゃんと生きてる。


よかった。


目頭が熱くなってしまった俺は、両目を閉じる。


ダメだ。


泣くのは、すべてが済んでからだ。


それに……。


それに、みんなに俺の記憶はないんだ。


たまたま、確認に来ただけなんだ。


なんで、このメンバーかは……。


もしかして、梓さんの計らいか?


俺に一目見せてくれるために?



この俺の考えは、全く別の意味に裏切られる。



さて、どうする?


みんなは、俺を知らないんだ。


無い頭で、必死に考えた。


よし!


なら!


これしかない!


「いや~、すみませ~ん。お騒がせしました~」


全力の営業スマイル!


これが、限界だ。


誤魔化すんだ!


誤魔化しきるんだ!


がんばれ! 俺!


いける!


俺ならやれる!


「実は私は、異世界の人間でして~。あ! 皆さんに危害は加えませんし、すぐにお暇しますんで~」


それだけ言うと、俺はみんなに背を向ける。


みんなを助けた感じに映ってるといいな~。


でも、俺の運じゃそれはないよな。


ヨルムンガンドが説明……。


してくれるとは思えない。


しかし、流石にいきなり斬りかかられたりはしないだろう。


これでいい……。


これでいいんだ。



「レイ……」



えっ?


嘘……だろ……。


ヨルムンガンドの声じゃない……。


俺の知ってる……聞きたくて……聞きたくて仕方のなかった。


彼女の声だ。


なんで?


俺が動揺している間に、目の前に二人の人物が転送してきた。

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