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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十三章:時空と真実編
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八話

大切な人たちがいなくなっていく。


そんな中で、俺は一人で生き残る。


死ねない。


まだ、死んじゃいけない。


そんな事は、分かっているんだ。


それでも、俺の心は悲鳴をあげる。


俺の悪運っていったいなんだ?


師匠のように、死ねない呪いなのか?


いっそ、死んでしまえば楽になるんじゃないか?


誰にも知りあわずに、両親や兄弟達と死んでいれば……。


こんな思いをしないで済んだんじゃないか?


大勢死んでいく。


大事な人も、そうじゃない人も……。


世界や動物まで、俺に思いを託して死んでいく。


なんで、俺なんだ?


俺は、みんなの想いを背負っているから戦う。


まだ、死ねない。


でも、俺は……。


俺がいるだけで、みんな死んでいくんだ。


想いは背負ってる。


だから、戦うよ。


大事な人がいなくなってるのに?


俺は、何を守りたかったんだ?


俺には何が守れるんだ?


俺は、何をしないといけないんだ?


世界を守るんだ。


ユミルから……。


悪意から世界を守るんだ。


その為に、みんなが死んだんだ。


たった一人で生き残ったのは、俺だけ。


俺が、やるんだ。


俺の存在そのものが厄災なら、悪意を飲み込んで殺さないといけない。


この世には、何の犠牲もなく手に入るものなんてない。


俺なんかの命で、世界は守れるのか?


いや!


違う!


多くの代償は、俺じゃない皆が払った。


十分すぎるほど、対価は支払われているはずだ。


俺が運命から外れた存在だからか?


ただ、俺は回収する役を託されただけだ。


世界を守るのは、散っていった皆だ。


俺は、回収を済ませて、皆と合流するだけ……。


ただ、それだけなんだ。


皆が命までかけて、ここまでたどり着いて……。


俺にバトンを渡してくれたんだ。


俺がしくじるわけにはいかない。


やり遂げるんだ。


最凶の悪意をぶっ殺して、最悪の運命を粉々にしてやる。


やってやるよ! くそったれ!


人間ってのは、なんとも不可思議な生き物だ。


壊れそうな心を支えてのは……。


悪意を内包した生物らしく、真っ黒な狂気ともいえる感情と、守りたいという真っ白な気持ち。


俺は人間だ。


運命にも選ばれなかったし、神にもなってない。


だから、灰色のままなんだろう。


でも、それが力になるならそれを受け入れよう。


希望を捨てよう。


絶望に飲みこまれないように。


涙をこらえよう。


今、立ち上がるために。


心を殺意に染めよう。


今日を勝って……。


明日死ぬために……。


****


師匠たちの墓に背を向けると、次元の壁を切り裂いて世界から外へと飛び出した。


「ん? これは……」


世界の全てを見たからか?


それとも、さっきの戦闘によるレベルアップ?


はぁ~……。


俺って本当に、まだ人間なんだろうか?


時空の力は、魔力の流れから俺に様々なことを情報として伝えてきた。


神眼なんてもってないんだけどな。


「はっ!? この世界は……」


俺が破壊神と双子神を殺した世界は……。


原初の世界。


俺がぶつかったのは、狂った賢者が世界を分かつ為に作った結界。


「なんてこった……」


ガキは俺が世界を出た後に、師匠の墓標である刀を引き抜き……。


その世界で戦っていた。


名をかえ、仲間を増やし……。


兄弟に裏切られても、必死に生きた。


影武者や仲間が殺され、最後は一人で山奥に身を隠した。


そして……。


その子孫が、次元流を受け継ぎ……。


最後に、神道真幸しんどうまさきへと刀とともに受け継がれた。


「はっ……ははっ……。おいおい」


俺は、次元流の後継者。


そして、創始者らしい。


何億年も先の人間だぞ? 俺は?


もしかすれば、俺がいなくてもあのガキが一人で、次元流を開発したかもしれない。


それでも、この世にもしもなんて無い。


運命ってのは、メビウスの輪のようにループでもしてんのか?


はっ……笑えないな。


時間の流れへ戻った俺は、走り出す。


そして、世界の情報を見続けた。


時空……。


世界そのものと一体化する。


完全とは程遠いが、より力を高めていく。


そんな中で、俺はもう一つの真実を知った。


俺の生まれた世界。


おかしいとは思っていたが、その通りだった。


世界の意思が、人間を殺そうとしたり……。


偽神が、いきなり暴走したり……。


変異した、強い亜人種が生まれたり……。


悪意による実験場。


それが、俺の生まれた世界だった。


より強力な人間を生み出し、実体のなかった悪意が器とするために……。


そう、俺は悪意の器として生まれたんだ。


勇者や英雄に選ばれないわけだよ。


だって、世界を滅ぼす器なんだもん。


そのせいか?


俺が最後に戦う理由って?


一応、あの世界での最新鋭の器。


それが、俺の正体。


だから、こんなにも俺は……。


みんなを殺すことしか出来ないんだな。


少しすっきりしたよ。


自分達の一部が作った俺に滅ぼされるなんて、馬鹿な奴らだ。


最後に大笑いして死んでやる。


「うお!? なんだ!? 流れが……」


俺が、自分の世界へ気を取られている最中に、時間の流れが止まった。


やばいのか?


時間の狭間……。


あった!


俺が近づくと、時間の狭間に俺が通れるだけの穴が開いた。


****


くそ……。


間に合わなかった。


待っていたのは、ユミル……だけ。


顕聖……。


香桃……。


この世界に時間の流れは関係ない。


分かっているけど……。


(お前が戻るまでもたせることが出来た。なに、満足しておるよ)


(顕聖)


目の前に、ほとんど魔力が尽きた思念体だけとなった、顕聖と香桃が立っている。


(この世界の時間を止めた。いつまで保てるかはわからんが……)


(時間を止めれば、そのものへの干渉は不可能)


(その通りだ。ここでなら、思う存分戦うことが出来るだろう)


顕聖。


(十二分に、強さを増したな)


ああ……。


(あなたを含めた、みんなからもらった時間だ。一秒だって無駄にしない)


(よい答えだ。わしらの力が消えてしまう前に、見事悪意を討ち取って見せてくれ)


(ああ!)


(わしらの想いも、持っていくがいい)


俺の中へ、二人の思念体が消えた。


「人……間……」


空や地面を掻き毟っていたユミルが、こちらへ……。


顔を向けた?


地面に広がっていた真っ黒な液体が、そのまま立ち上がると……。


全身に、無数の白い仮面のような顔が、ゴボゴボと気泡の様に浮かび上がってくる。


なんとなく分かる……。


魔力を取り込み過ぎて、統制しきれていない。


魔力は……。


過去で見た神様よりは少ないけど……。


まあ、関係ないか。


あれが、強くても弱くても……。


倒すことに変わりない!


「うおわあぁぁ!」


ユミルに向かって走り出した瞬間、反射的に後ろの飛びのいていた。


全身の仮面の隙間から、真っ黒な触手が伸びてきた。


その上で、仮面からは強力な魔法が飛んでくる。


全方位無差別攻撃……。


射程に入った瞬間、殺されるんじゃないか?


俺がもう一歩進んでいれば、消飛んでいた。


威力も完全に反則級だ。


背中に、冷たい汗が流れる。


どうする?


躱せる……とは、思えない。


「おお……おおお……」


巨大な体を、ゆっくりとこちらへ進ませてくる。


うまく体を操作できてないじゃないか。


そんなになっても、まだ求めるのか?


まだ、奪い足りないってのかよ!


こんな……。


こんなゴミ屑のためにぃぃぃぃぃぃぃぃ!


「おおおおおおお!」


俺を前に進ませたのは、怒りと憎しみによる殺意。


もう一歩進めば、奴の射程に入る。


歯を食いしばれ!


恐怖も! 保身も! 命も必要ない!


射程に入った俺を待っていたのは、触手による強力な物理攻撃と、数えきれないほどの魔法の閃光。


もっとも攻撃が少ない位置に飛び込んだが、反射しきれなかった魔法が、心臓と脇腹を消滅させた。


触手のかすった右腕は、一瞬でミンチにかわる。


「がああああ!」


左腕だけで、仮面の一つを切り裂いた。


引かない!


引いてたまるか!


お前なんかに負けてやるもんか! くそったれが!


自分の射程内で戦う。


もちろん、敵の射程は俺よりも長いが、関係ない。


真っ向勝負だ!


俺は全身に、回復と復元の煙と光を常に纏い、亜光速でユミルの周りをぐるぐるとまわる。


仮面の奥にある魔力を、一つずつ殺していく。


仮面は新しいものがすぐに生えてくる。


分かってる。


これくらいじゃ、ほとんどダメージはない。


それでも、これしか今はないんだ。


回避できなかった触手が、俺の腕を……。


足を……。


心臓を……。


粉々にする。


反射しきれない魔法が、俺の臓腑を……。


頭を……。


目を……。


消滅させる。


皮膚が裂け、肉が千切れ、全身の骨が粉砕されても……。


俺は、刃を振るう。


ギリギリ死なないように、走り続ける。


敵を殺すために。


一降りするごとに、刃の威力と精度を高めるんだ。


魔力は、敵から補充できる。


ギリギリでいい。


死ななければ、刃を振るうことが出来る。


一降りで、より多くの魔力を殺せ。


苦痛なんて、知るかボケ!


「おおおおおおおお!」


いったい、いくつ分の俺が消滅しただろうか?


俺は、一心に剣を振るう。


億なんてとうの昔に振りぬいただろう。


気が遠くなるような、一瞬の斬撃。


相手の魔力を殺すためだけに、それを繰り返す。


それでも、敵は魔力の底が見えてこない。


永遠に続く、地獄のような実戦。


まだ足りない。


もっと力を。


こいつを殺す力が必要なんだ。


まだだ!


まだ、踏み込みが甘い。


脳が吹き飛んでも、心臓が破裂しても、復元の力で死なないんだ。


まだ、本当のぎりぎりじゃない。


まだいける!


もっと、もっと力を!


怖がるな!


あの世に両足を突っ込んででも、刃を振るうんだ!


より鋭く重い一撃を!


命なんか……。


魂なんかいらない!


もっと速く!


もっと強く!


反射の力を付加した障壁は、的確に敵の魔法を叩き返す。


走り、空を蹴る速度はすでに光を超えた。


振るった刃からは、常にリング状の衝撃波を伴い、魔力と実体の刃が幾重ものダメージを与える。


戦いながら、レベルを上げる。


俺は、ずっとこうやって来たんだ。


まだ、足りない。


もっとだ!


誰も見ていない、止まった時間の中での戦い。


最高速度で動き続ける俺のせいで、ユミルは灰色の黄金に輝く繭に包まれているように見えるだろう。


そして、それを取り囲むように散らばる大量の血と肉片。


悪意の魔力を食らい、刃を振るい続ける。


敵の攻撃を可能な限り回避する。


そうすることで、もう一歩踏み込める。


持って行かれそうな意識を、殺意でつなぎとめる。


刃に守りたいという想いを乗せて、威力を高める。


ただ、ただ……。


斬り続けた。


****


ユミルの大きさが、元の半分ほどになった頃……。


俺の少しだけ残った、冷静な思考が俺自身に連絡をよこす。


必要なレベルに達したと……。


その瞬間、敵との距離をおいた。


「イレギュラー! 貴様! 貴様!」


魔力を削ったことで、制御できるようになったか?


「何故だ! 何故、人間の貴様が死なん!」


まだ、体全体の動きは遅いがな。


音速にも達してないんじゃないか?


声の方が先に届いてるぞ?


「私は神を超えた! 貴様ごときに……なんだ……それは?」


確かに、お前は神を超えている。


普通に倒すのは不可能だろう。


このまま削れば、細分化してでも逃げてしまう。


なら、まだその状態で一気に殺すしかない。


俺は自分自身から、体と魔力と思念体を分離した。


ユミルには三人の俺が見えているだろう。


「イレギュラー……。お前……お前ぇぇぇぇぇぇぇぇl!」


俺が思いついたわけじゃない。


修練で行き着いた境地でもない。


師匠がたどり着いた、全ての奥義を超越した奥義。


師匠自身がたどり着けずに、未完成だった技。


この一撃に、俺の全てを!


「おおおおおおお!」


ユミルの背後、上空、正面に一瞬で移動した三人の俺は、それぞれが秘奥義をぶつける。


それぞれが、心技体を極限まで高めた一撃。


ユミル本体に操作が戻ったことで、俺への反撃が遅れた。


終わりだ!


<次元流極奥義!>



背後から、横一線に刃が走る。


上空から、縦に刃が振り下ろされる。


正面から、真っ直ぐ刃が突き出される。



その三つは、ユミルの中心で重なり合った。




<三神!!>




全てを消滅させる力が生まれ。


ユミルが消滅していく。


俺の感覚が加速されているせいで、ひどくゆっくりに見えるが……。


何も言い残すことなく、悪意の親玉は消えてなくなった。


終わった……。


やった……。


やりましたよ、師匠。


倒したよ、みんな。


これで……。


これでやっと……。


えっ?


おいおい……。


やめてくれよ。


まだなのか?


くそ……。


まだ、俺の罪は消えないのか?


俺は、まだ許されないのかよ。


ユミルから解放された魔力を……。


俺の魂が食らっていく。


気力をすべて使い果たしていた俺は、それを止めることが出来なかった。


俺は、俺のできることをすべてやったつもりでいた。


ルーが言っていた三つの力。



ヒヒイロカネの刃。


世界の始まりを見ることで高まった、感知の力。


そして、師匠からの記憶。



すべてそろえて、ラスボスを倒したんじゃないのか?


気力が尽きて、体が動かないけど……。


魔力が今まで以上に大きくなっていく。


俺は、ここじゃ死ねないのか?


くそ……。


まだ、許されないのかよ。


俺にこれ以上どうしろってんだ?


神様よ~……。


俺は、もっと苦しめって事か?


まだ、楽にさせてくれないのか?


くそ……。


ユミルが完全に消滅した。


時間が止まった、時間を監視する場所だったその場所には、俺だけが立っていた。



完全に把握しきれないが、今ならルーでも殺せるんじゃないのか?と、いうほどの魔力を蓄えて。


「俺は、今から何をすればいいんだ?」


役目を終えたように、時の狭間がガラガラと崩れ始めた。


俺への返事は、もちろんない。


俺に何をしろってんだ?


ルーなんだろうか?


俺の頭に浮かんだ疑問は、解決されていない。


仕方なかった。


それしか選択肢がなかったと言えば、そうなのかもしれないが。


まるで、俺をためし鍛えようとしているようだった。


人間がいる限り……世界がある限り、悪意は完全には消えない。


師匠達はみんな死んだ。


絶望し、諦めろと言わんばかり……。


それとも、それをこえる強さを手に入れろと?


そうしなければ、ユミルには勝てなかった?


駄目だ。


分からない。


敵もいなくなった……。


ルーの力を借りて、元の世界に戻るって選択肢もないわけじゃない。


でも、気持ちの悪い違和感が消えない。


何か、決定的な情報が欠けている。


なんだ!?


いい事だとは、とてもじゃないが思えない。


どんな最悪が待ってるんだ!?


あ~……。


駄目だ。


いくら考えても、分からない。


俺は、とことん馬鹿だった。


今より苦しい事ってなんだよ?


勘弁してくれよ。


どうすりゃよかったんだよ?


な~?


な~って!


あ~……。


「やってらんね~……」

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