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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第九章:異世界と狭間編
6/77

六話

【どう思われますか?】


『そうじゃな……』


【これは、危機が何時訪れてもおかしくないと思うのですが】


『分かっておるが、こやつはもう十分苦労をした。もう、何も背負わずに生きられれば』


【それは、そうですが……。この方は、たとえ自分がどんなに弱体化しようとも、地獄に飛び込んでしまいますよ?】


『それは、分かっておる』


【私も、今後は平和に暮らしてほしいと考えています。しかし、何かの時の為に私達が考えておくべきでは?】


『そうじゃな。異世界への移動、液体金属のコントロール、混合した灰色の魔力……』


【問題は山積みですね。その上で、戦闘力が不安定に……】


『今まで、誰かの無念を晴らす事や、守ろうと言う気持ち……。良くも悪くも感情の高まりによって、戦闘力を高めておったからのぅ』


【あの戦いの後、気が抜けてしまっているんでしょうか?】


『分からん……。只、それほどの相手がいないと言うだけかも知れん。もとより、自分の限界以上を絞り出して戦っていたからのぉ』


【よほどの相手が出てくるまでは、大丈夫でしょうが……】


『別世界の転移も、爆発すれば必ず発生するわけでもないしのぉ……』


【そうですね。転移するタイミングも、特定の時間や条件を見出せませんから……】


『うん? そろそろ目を覚ますようじゃな』



「おはよう、レイ兄、カズ兄、フィー」


目を覚ますと、幸子が目をこすりながら起きだしてきた。


「おはよう」


うん?


調理場に、フィーが立っている。


「お前……料理できる……した?」


「ハイ、私ハ元々身ノ回リノ事モ出来ル女性型アンドロイドデス」


えっ!?


女なの!?


今は、ロボットアニメに出られそうな、厳つい外観なんですが?


「味見ヲ」


差し出されたスプーンを受け取り、スープを……。


『これは……』


【うっ……】


辛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!


「辛い! 口、痛い!」


「スミマセン。味覚ユニットガ付イテイナイノデ」


そんなレベルじゃないくらい、無茶な味なんですが?


てか! 出来ないなら、作るな!


あ~あ……。


食材が……。


今日も、盗みに行くしかないか……。


二度寝しようと思ってたのに、完全に目が覚めちまった。


仕方ないか……。


はぁ~……。


やってらんね~……。


****


仕方なく俺が朝食を作りなおし、三人で食べる。


もちろん、フィーには必要ない。


「今日、盗み、行く。部品は?」


「う~ん……。次はどうするか、まだ考えてないんだ」


調達部品を、一也に確認してみるがどうやら方向が決まっていないみたいだ。


一也は、本当に頭がいい。


この世界の同年代の中でも、多分抜きに出ているだろう。


…………。


『まさか、この小僧まで憎いとか言うつもりか?』


違うわ!


そこまで腐ってない!


普通の生活さえ出来てれば、と思っただけだよ!


【そうですね】


人生ってのは残酷だ。


****


日中は隠れ家ですごし、日が沈んでから俺は屋外へ出る。


「行ってらっしゃい!」


「ああ」


幸子の頭を軽く撫でてから、暗闇を走り出した。


この日、この夜……。


俺の知らない運命が、流転する。


「なんだよ? これ?」


何時も通り、食料を確保した俺が、隠れ家に戻った。


隠れ家の入口は破壊され、二人と一体はいなくなっていた。


後ほど分かった事だが……。


実は、フィーのボディに使った警備部の部品に、位置確認の為の発信機が付いていたらしい。


情けないが、俺ではそんな事分かるはずもない。


更にいえば、頭がいくらよくても一也は十二歳の子供。


完璧ではないのだ。


自身が場所の特定をさせているとは知らないフィーが、警備部を敬遠しながら二人を連れて逃げていた。


それは、まるでそうなる運命だったかのように……。


****


「カズ兄!」


「なんだよこれ!? あいつ本当に、人間なのかよ! 反則だよ!」


ある工場内まで逃げた一也達は、そこで別の警備部の奴等と交戦する者達と、行き掛かり上共闘していた。


「駄目よ! 下がりなさい!」


「でも! フィーが! フィーが!」


「あれは、遺伝子レベルで肉体を強化した、警備部最強の紅蓮ぐれん。人間じゃあ、どうしようもないんだ……」


そこそこの戦闘力を手に入れたはずのフィーだったが、顔も体も厳つい一人の男に、苦戦していた。


「くっそ! アニキさえ居てくれたら……」


「どうするの? あのアンドロイドのお陰で、何とか時間は稼げてるけど、しゅんはもう戦線復帰は無理よ?」


恵一けいいちさん……スージーもレミに押され始めています。このままでは……」


「ここまでなのか?」


「さあ! 機能停止だ! ポンコツ!」


「フィー!」


火花を散らし、よろよろと立ちあがるフィーを殴ろうとするゴリラに、部下である男が体当たりをする。


「なっ!? なんだ?」


もちろん、それはその部下の意思ではない。


「うわあああ!」


ひっ……さ~つ!


【殺す気ですか?】


ヒューマンアロォォォォォォ!


「ぐおお! 何だ!?」


「レイ兄!」


「アニキ!」


警備部の人間を掴んで、俺はあごひげゴリラに投げつける。


何とか間に合った……。


「なんだ!? てめぇぇは!」


えっと……。


「俺、泥棒」


かなり激しい金属音が耳に届いた俺は、そちらへと目を向ける。


背広ゴリラの奥では、何故か幼女と鎧を着た女の子が戦っている。


てか、二人とも自在に動きそうな光の剣が、背中から生えてません?


それも、とんでもない速度でそれをぶつけ合ってません?


何? あれ?


『魔力を感知できん。アンドロイドじゃろう』


ですよね~。


ゴリラの隙をついてフィーを抱えた俺は、幸子達がいる場所へ跳びのいた。


「レイ兄ぃぃぃぃ!」


「遅い、なった」


「あの……どなたかしら?」


お前らこそ誰だ!


見た事ない女が二人と、男が二人。


男の一人は、気を失っているのか横たわって動かない。


う~ん……。


『どうやら、人間の様じゃな』


誰?


「一也? 誰?」


「俺も知らない……」


なるほど……。よし!


俺には関係ない人達だ!


「帰ろう」


「うん……」


「い……いいのかな?」


いいんじゃね?


****


フィーを小脇に抱えた俺は、二人を連れて逃げようとしたが……。


「何処に行く?」


立ちふさがられました。


自分の両拳を、ガツンガツンぶつけるゴリラに。


「俺、帰る」


「確かに、お前達はそこの恵一達とは関係ないようだ」


じゃあ、退いて……。


「だがな! そのガキ共を掴まえるのもどうやら、俺達警備部の仕事らしい」


ポケットから出した、携帯電話みたいなのをいじっている。


あれは、何かの情報が見えるんだろうか?


「何よりも! ここまでコケにされて、誰が逃げすか!」


どうするかな……。


この二人を連れて逃げるのは、ちょっと難しそうだ……。


「お前等、フィー、下がってろ」


アンドロイドと互角以上だろうが、所詮は人間。


ボディで沈めよう。


ドカンっと、何かが爆発したような音が工場の敷地内に響く。


はぁ!?


ゴリラの拳は、コンクリートに大きな穴をあけた。


ナックルガードをつけているが、人間の力じゃない!


来た!


速度も……。


「オラッ! オラッ! オラッ!」


いきなりのラッシュによる高速で飛んでくる拳を、俺は後退しながら避ける。


「避けてるだけじゃあ、どうしようもないぞぉぉぉ! オラァ!」


予想以上の戦闘力だ。


魔力を感じないから、判別できなかった……。


「へっ! 食らえ!」


はぁ!?


これは? 殺気?


ゴリラを目で見えるほどのオーラが包んだ。


速度の上昇したゴリラの右拳が直撃し、俺は後方にあった倉庫らしい場所へ背中から激突した。


「アニキィィィィィィ!」


「レイ兄!」


魔力と似ている様に感じるが、魔力とは少し違う力?


速度と威力が跳ね上がっていた。


肋骨が五本ももっていかれた……。


「くそ!」


「やはり、人間ではいくら強くてもデザインヒューマンには……」


「えっ!?」


ガラガラという音を聞いて、皆が俺の激突した倉庫へと目を向ける。


「へへへっ……。おもしれ~! 第二ラウンドだ!」


五月蝿いゴリラだ。


俺は自分の上にのっていた瓦礫を押し退け、立ち上がった。


「久々に、楽しくなってきやがった! さあ! 来いよ!」


「アニキ?」


「カズ兄……レイ兄が……」


俺の右半身から立ち上るのは、真っ黒なオーラ……。


「こいつは、想像以上だ。ゾクゾクしてきやがった」


拳に込めるのは……。


魔力と殺意!


パンッと言う、破裂音と共に距離を詰めた俺は、拳をゴリラの腹部へと向かわせる。


遅いが、それにカウンターを合わせようと拳を突き出すゴリラは、人間にしては桁が外れているんだろう。


だが……。


遅い!


俺は、拳をそのまま空に向かって振り抜いた。


「ぐげっ!」


吹き飛ぶゴリラの腹部は、右半分が吹き飛んでいる。


「信じられない……。あの紅蓮を……」


「彼もデザインヒューマンなの?」


【強敵に呼応するように、戦闘力が引き上がった?】


はぁ~……。


「お前等、怪我ない?」


「うん! レイ兄! 強いね!」


「すっげぇぇ……」


フィーは……。


「修理いる?」


「そうだね。まあ、直せるよ!」


「スミマセン」


「二人、守った。お前、いい仕事。よくやった」


「ハイ……」


「おい!」


ああ?


なんですか? クソゴリラ?


止めが欲しいのか?


「俺は、これくらいじゃあ死なねぇ! また、やろうぜ! なぁ!」


笑ってるよ。戦闘狂ってやつか?


嫌ですよ~っと。


まわりが呆然としている中で、俺達は立ち去ろうとした。


したんだけどね……。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


はっ!?


うげっ!


超高速で飛んできた、アンドロイドらしい幼女を俺は避け損なった。


直撃した俺の左腕は、骨が粉々になるほどダメージを受けた。


しまっ……。


「がああああ!」


幼女を追って、鎧を着たアンドロイド女が、叫びながら俺達に向かってくる。


アンドロイドと共に吹き飛ぶ俺が見たのは……。


「幸子ぉぉぉぉぉぉ!」


妹を守るために突き飛ばし、腹部を光るブレードで貫通された一也の姿だった。


この……。


クソったれ!


「プログラム:エクスプロージョン! アクション!」


「あああああ!」


俺が飛び出す前に、発狂した様に叫ぶ鎧を着た女に、フィーが光る拳をぶつけた。


「ア……ニキ……」


「カズ兄! カズ兄! カズ兄!」


俺は全速力で幼女を地面へ寝かせて、一也の元へ急ぐ。


【復元します!】


『大丈夫じゃ! 間に合う!』


骨の折れた左腕を一也にかざしていた俺の耳に、ドカンという衝撃音が届いた。


おっと……。


鎧女を吹き飛ばしたフィーが、右半身を失いながら俺の方に飛んでくる。


爆発したフィーの体を受けとめた俺の右手のひらは、ジュッと音を出した。


多分、火傷で指紋までなくなっただろうな。


まあ、いい。


何とかなったか?


【ふぅ~……。復元完了です!】


よし……。


「アニキ! 腕!」


「大丈夫」


よくも、俺の大事な奴等を……。


「フィー? 問題……なのか?」


「問……題……アリマ……セン」


皆殺しにしてやろうか……。


『落ち着け! 回復がまだじゃ!』


「アニキ!」


「うん?」


「フィーが! やばい! このボディじゃ、もうもたないよ!」


問題ありまくりじゃん!


やばい! ボディ……ボディ……ボディ……ボディ……。


あああ!


さっき俺にぶつかった幼女をばらすか!


てか! あの球だけになった状態でも大丈夫じゃないの?


どうなってるの~!?


「あの……それは、もしかしてフィーネなんですか?」


俺がオロオロしていると、男が話しかけてきた。


ああ?


今は、それどころじゃないんだよ!


「EX-三三五E、TYPE-F……フィーネ」


「うん……。フィーの型番だけど……」


一也も呑気に答えるな!


ボディ!


「お前等! 次はこうはいかないからな!」


ゴリラと鎧女が、警備部の奴等に担がれて帰って行く。


もういい!


お前等とっとと帰れ!


それどころじゃない!


ああ!


待て! その鎧女おいていけ!


そのボディ使う!


「フィーネを奥の工房に運んでくれないか? 多分、完全に修理が出来る」


マジで!?


****


回復をしつつ、俺はフィーを男の誘導に従って、工場らしき場所の奥へと運んだ。


一時間ほどで、修理出来ると言われた俺達は、工場の二階にある事務所らしき場所で待つ事になった。


「はい。あなた達にはコーヒー! で、その子にはホットミルク!」


こりゃどうも……。


コーヒーなんて久し振りだな。


「何から喋ろうかしら……」


目の前には、スーツ姿の美人が座っている。


「これ食べる?」


もう一人の、TシャツとGパンを着た女が、お菓子を持ってきた。


うん?


幸子が、ちらちらとこちらを見ている。


「食べる。いい思う」


俺のその声で、ニコニコとお菓子をほおばり始めた幸子。


「そうね。まずは、自己紹介から……私は由香ゆかこの会社の秘書兼、事務全般の責任者をしているわ」


「私は、佳織かおり! これでも、この会社の責任者兼、技術部長!」


「僕はしゅん。ここの警備を担当してるんだけど……。君凄いね。あの紅蓮を倒すなんて。僕なんて、五分でのされちゃったよ!」


あの化け物相手に五分もてば、お前も十分だと思うが……。


この場合、礼儀として……。


「俺、レイ。こっち一也、こっち幸子」


「よろしくね。それで……私達は……」


「ロンドと戦う正義の味方よ!」


はぁ?


支配企業ロンドは元々お手伝い型アンドロイド等、家庭用オートメーション機器を作る会社だったそうだ。


ただ、国を外敵から守るために、その技術を兵器にも転用していたそうだが……。


兵器開発が主流になったのは、今の社長になってかららしい。


今工房に居る男は、恵一けいいちと言う名前で、前社長の息子らしい。


そして、目の前の佳織は今の社長のさらに弟の娘。


因みに、その社長の弟は会社の重役らしい。


この由香(前社長の秘書)を含めた三人は、今の社長に反発して会社を独立させたらしい。


目標は、新技術を開発して今の社長を引きずり降ろし、恵一を新社長にすること。


佳織の父親の後ろ盾を貰い、日々頑張っているんだとか……。


ただ、会社を出るときにさっきの幼女とフィーを持ちだした為、トラブルになっているそうだ。


二体は、ロンドの技術を注ぎこんだ戦闘用アンドロイド。


さっきの鎧女もその一体らしいが……。


今の社長に障害になると思われたらしく、二体を奪還しようと今日のように、警備部が会社に夜襲をかけてくる事が続いているそうだ。


たく……身内で何をやってるんだか……。


この瞬は、人間離れした頑丈さで雇われたボディーガードらしい。


らしいが……。


さっきのゴリラや鎧女が出てくると、フィーと幼女……スージーでないと対抗できないらしい。


フィーがなんでああなっていたかと言うと、先代社長が作った戦闘用アンドロイドは全部で四体。


その一番戦闘力が高い奴と、相討ちになって爆散したらしい。


フィーはここでも家族同然に暮らしていたそうで、生きていた事を皆は本当に喜んでいるようだ。


てか……。


またですよ。


『仕方があるまい』


また、俺の知らない場所で知らない設定が……。


【この世界にとっては、貴方の方が異物ですからね……】


巻き込まれるのは、もう諦めても……。


なんで毎回、こんな大事なんですか?


【まあ、それは……】


何の嫌がらせですか!?


やめてくださ~い!


『お前の定めじゃな』


ちょ! あの!


やめてくださ~い!


迷惑です!


とても! 限りなく! 完全に迷惑です!


****


「あの……それで、貴方達は?」


(俺達は、この社会のはみ出し者って奴だ)


「えっ!? 頭の中に声が!?」


(ああ。俺、俺。こっちの方が説明楽なんでね)


「まさか! あなた……エスパー!?」


違う。


違うけど、それでいいや。


(そうそう。で……)


そして、念話でこちらの説明をする。


すると、一也と幸子を佳織が抱き締めた。


「あんた達! うちの子になりなさい!」


ふ~ん。


『経営者一族と言っても……』


クズしかいない、って訳じゃなさそうだな。


「レイさんの戦闘力は、超能力ですか……」


正確には魔法側です。


「確かに、それなら納得が」


もっと言うと、ほとんど只の腕力です。


「あはは! それじゃあ、僕も敵わないな~」


なんかこの瞬ってのから、馬鹿臭がする。


「レイもここで瞬と一緒に、警備をしない?」


えっ?


「そうですね。そうして頂ければ、心強いです」


報酬は、目の前の二人の体でOK?


『落ち着け、煩悩』


【どう考えても、幸子ちゃん達の面倒を見るのと、安定した生活では?】


ちっ……。


「わかった」


****


「お待たせ! お姉さまの修理が完了したよ!」


しばらくしてスージーとか言う幼女が、工房から出てきた。


自身の修理も終わったんだろうな。


「皆さん、お久しぶりです。それに……レイ、一也、幸子……。これが本当の私です」


おおおう!?


目の前には、厳ついロボットではなく……。


メイド服の美女が立っていた。


いや……。


あの、これ。


『なかなかの容姿ではないか』


これって。


【お美しいじゃないですか】


これって……。


【なんです?】


このゲームって! メイド押しのゲームだったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


『そこか!?』


だって! 前回のアンドロイドもメイドだった!


そして、よく考えると、俺の初めての彼女もメイド服だった!


ああああああ!


メイド服を着てる人を狙わないから、フラグが立たなかったんだぁぁぁぁぁぁぁ!


【落ちついて下さい!】


絶対ゲームパッケージに、メイドが三人くらい書かれてるよ!


あああああ!


『落ち着け! 馬鹿!』


姫とか占い師とか先生じゃ、目的のシーンにたどり着けないじゃん!


やってもうたぁぁぁぁぁぁぁ!


【いや、あの……。現実ですからね?】


ちゃんとしろよ! プレイヤー!


何でサブキャラばっかり狙いに行ってんだ!


馬鹿か! お前!


『馬鹿はお前じゃ』


うっさい! ボケ!


「どうかな? 変じゃない?」


「いいよ!」


「フィー! かわいい!」


フィーの問いかけに、一也と幸子は素直に称賛の言葉を口にする。


俺は……ちょっとした苦悩から、眉間にしわが寄ってます。


「変……かな?」


それを見ていたフィーが、表情を曇らせた。


「いい……思うよ」


俺の言葉を聞いて、満面の笑みを浮かべるフィー……。


やばっ……。


落ち着け! 落ちつくんだ! 俺!


相手は機械だ!


ハウス! ハウス! 俺!


可愛くても、マッシーンですから!


『どうせ元々、人間として終わっておるんじゃ。今更……』


酷いな、お前! この野郎!


でも!


守らないとまずい一線は、俺でもある!


きっとあるんだ!


うん!


昔のどっかの偉い人が、言ってたような気がする!


【誰ですか? それは?】


あああああああ!


「そうだ! 今からパーティしない?」


ああ?


「フィーネの帰還と、三人の歓迎パーティー!」


「いいね~! そうしよう! 僕が、買い出しに行ってるよ!」


「じゃあ、俺は会場の用意をする」


「じゃあ、私達は料理ね!」


「スージーも手伝う!」


あ、えと……俺も、料理を手伝うか?


「あなた方は、お風呂に入ってきて下さい。泥だらけですよ?」


ここは……。


【お言葉に甘えましょう】


あの言葉が適切なはずだ!


あの伝説の言葉が!


『伝説でも何でもないがな……』


(服をくださぁぁぁぁぁい!)


俺の叫びに、みんなが固まった。


あれ?


結構適切じゃね?


なんで?


「……ああ。用意するよ」


「はいはい! 僕が買ってくる!」


****


採寸を済ませた俺達は、風呂を借りた。


豪華な風呂だな……。


「アニキ……なんだか上手くいき過ぎて怖いよね」


「あはは! 広い広い!」


走るな! 危ない!


走っている幸子を捕まえ、お湯をかける。


その俺の背後から、ガチャリと戸の開く音がした。


は?


はあぁぁぁ!?


「レイ! 背中流すよ!」


フィーが入ってきました。


真っ裸で……。


ちょ! 完全に人間の体ぁぁぁぁぁ!


「お前! 駄目! 裸!」


「えっ? だって……」


「駄目!」


俺の叫びに、フィーが出ていく。


ふぅぅ。


はい? また入って来た!


「これでいいよね?」


今度は、水着らしきものを着用していた。


ちょ!


俺が丸出し!


「フィー! こっち!」


フィーを俺が制止する前に、幸子が引っ張りいれてしまった。


俺が、一也を。


フィーが幸子の背中を擦る。


なんだこの状況?


そして、四人で湯船に……。


なんだこれ?


「えへへ……」


幸子?


「家族みたいだね!」


そう言えば、こいつは五歳で両親から……。


「レイ兄がお父さんで、フィーがお母さん!」


まだまだ、甘えたい年頃だよな……。


「そうだな」


「レイがお父さんで、私がお母さんか……」


うん?


馬鹿二人が自重してるな。


『この!』


【おさえて! 折角のほのぼのした雰囲気です! ここはおさえて!】


変な気を使いやがって……。


****


「カンパーイ!」


佳織達が用意した手料理と、出来合いのお総菜がテーブルに混在して置かれていた。


そして、大量の缶に入ったアルコール。


「これ! 美味しいよ! スージーも作るの手伝ったんだよ!」


「うん! ありがとう!」


年の近い? 幸子とスージーは既に、意気投合し始めている。


てか……。


「フィー? アンドロイド……ご飯食べる?」


「私達は、生態部品が主なので、骨格や要所要所は金属だけど、ほとんど人間と変わらないの」


ほう。


人間と同じか……。


「へ~……。その年で、そこまでできるのか。凄いね。明日から、工房で勉強してみないかい?」


「いいの!」


社長の馬鹿息子と、一也がよく分からない言語でコミュニケーションをとっている。


【専門用語でしょうか?】


さっぱりわからん!


「いやぁぁ! 美味しいね!」


馬鹿は、酒もそこそこに俺達より食ってるな。


って!


えっ!


「うん! これをかけるとさらに美味しい!」


いや……あの……。


肉に乾燥材のシリカゲルかけて食ってる!


食べられませんって書いてあるだろうが! 馬鹿!


確か毒性はほとんどないはずだが、明らかに体によくない物だぞ! それ!


「あれ? なんか、スジがあるな~」


今度は、カップケーキを紙カップごと食ってる!


『腹に悪そうじゃな……。死にはせんじゃろうが』


筋金入りだ!


筋金入りの大馬鹿だ!


馬鹿じゃなきゃ、アホかラリパッパだ!


【若干、残念な人かもしれませんね】


佳織は、フィーと何か話を……。


あれ?


由香……。


あれってもしかして……。


『人の事には敏感じゃな』


由香が、目で追っているのは馬鹿息子。


あらら……。


ターゲットは、佳織しか残ってないな。


【別に、無理に狙わなくても……】


しかし……。


これじゃあ駄目だな。


俺は飲み干した酒の缶を、ゴミ箱に投げ捨てる。


『お前の体は、どうなっておるんじゃ? 既に、十五本目じゃぞ?』


だって! アルコール度数が低いんだもん!


こんな物、いくら飲んでも酔うわけない!


たく……。


馬鹿も、もう少し強い酒買ってこいよな……。


って、すげぇぇ……。


【あれって食べられるんですか?】


知らん!


そして、俺はすすめられても食わん!


馬鹿は、多分食べてはいけないであろう物体を、口にどんどん運んでいる。


それは、お総菜の飾りだと思うんだが……。


****


それから、皆が思い思いに楽しむのを、俺はただ眺めた。


あんまり喋れないからねぇ。


「じゃあ! 私ももう寝るから!」


「お休み」


眠そうなガキ三人を、佳織に案内されて部屋に寝かせた。


十時か……。


修練は、もう少し飲んでからにするかな……。


あれ?


先程までパーティをしていた場所には、満腹の馬鹿が眠っているだけだった。


他の三人は……。


奥にある廊下の方から気配がするので、何気なくそちらへ向かう。


「私は! 私は……もう必要ありませんか?」


「そんな事ない! でも……俺にとってフィーネは……」


修羅場の雰囲気を感じ取った俺は、気配を消す。


何? どう言う事?


「私は、もう必要ないですか? 恵一さん?」


「それは違う! 由香の事も本気で! でも……フィーネとは、十年間毎日一緒に居たんだ。俺が、一からあいつの思考をプログラムして……。一緒に成長してきた、大事な存在なんだ」


「私との関係は、フィーネさんの変わりでしかなかったの? 私は……」


聞いてはいけない会話なのでは?


【そうですね……。なかなかドロドロの……】


『むうう。ハードじゃな』


てか、あの馬鹿息子フィーと最後までいったんじゃね?


やったんじゃね?


『出来るかどうかは分からんが、会話の内容からほぼ黒じゃな』


いやいや……。


何処からどう取っても、真っ黒ですよ。


さ……流石、馬鹿息子。


護衛戦闘用兼恋人兼お手伝いさんとして、フィーをプログラムしたのか……。


どんだけ、自分に都合のいい女が欲しかったんだよ。


挙句に、フィーが死んだと思えば変わりをって……。


【さらに、フィーさんが帰還すればその相手と……。いえ、公認の二股を狙ってるような口ぶりでは?】


馬鹿だ!


かなり馬鹿の発想だ!


俺様か!? 俺様なのか!?


優しさって何ですか? この馬鹿息子!


これ以上聞いてるのは、気分が悪いな……。


『同感じゃ』


うおおお!?


振り向くとそこには、フィーがいた。


やべ!


見られた!


もしや、俺って機械にまで軽蔑される感じ?


変な表情のフィーが、俺の目をじっと見つめている。


えと……あの……。


無理ぃぃぃぃぃぃぃ!


これ以上耐えられません!


適当に置いてあった金属の棒を掴んだ俺は、外へ逃げ出した。


えっ?


ああ……。


こんな時でも、修練は怠りません。


金属の棒を、月明かりの中で一心不乱に振るいます。


****


「ふひ~……」


修練を済ませた俺は、事務所へと上がる階段部分へと座る。


そして、差し出されたタオルで汗を……。


えっ?


『アホ……』


今回は、否定できません!


目の前に立っていたフィーが、そのまま俺の隣に座る。


「聞いてたよね?」


あっ、はい。


「私にとって、恵一さんは世界のすべてだった。この大事な事を……。恵一さんの記憶が消えない様に、ロックをかけて厳重にデータを保護してたせいで、さっきまで忘れてた」


あっ、ふぁい。


「恵一さんが望む事は何でもしたし、恵一さんを守るためなら死んでもいいと思ってた。今でも、その気持ちに変わりはないの」


あっ、ふぉい。


「でも、記憶が無くなって……。外の世界を見て……。貴方に出会って……貴方を見てよかったと思えるの」


あっ、は……い?


「ぶっきら棒で、不器用で、自分の道を真っ直ぐ進む……。優しいあなたに」


ああ? はい~?


「あなたと私。それに一也に幸子で本当の家族になれたら……なんて」


はぁ~。


やっぱりメイドには、フラグが立ちやすいのかな?


ここで、フィーを抱き締めれば……。


あ~あ……。


もったいね~。


「俺は後少し……この世界から、消える。どうしようもない、それ決まり」


「えっ!?」


「神様殴った、俺、罰、受けた」


「そんな……」


「俺、時間あんまりない。一也と幸子……守ってほしい」


これでいい……。


俺には、これでちょうどいい……。


これでいいんだ……。


それから、フィーは無言で屋内へと帰って行った。


顔を見る勇気は……。


弱い俺には無かった。


情けない……。


本当に情けない。


****


「このプロテクターはすごいんだよ!」


「はぁ……」


「銃弾も弾くし! 刃物でも切れない!」


翌朝、馬鹿に警備の仕事を説明されていた。


馬鹿に渡された、ブルーのプロテクターを確認する。


なんか特殊な素材かな?


はぁ~……。


『これで、今日百回目のため息じゃな』


数えるなよ。


はぁ~……。


『百一回目じゃ』


フィーの見た目は、十分過ぎるんだよな~……。


いっそ、気にせずに童貞を卒業しとけば……。


『前から言おうとは思っておったが、初経験などお前が思うほどいい物ではないぞ?』


なん……だと!?


おま! 経験が?


『わしはこれでも、嫁を娶っておった。子は成せなんだがな』


マ……ジ……で……。


いや……。


ジジィだし仕方がない。


そうだ、元ジジィなんだこいつは。


いや! でも!


【落ちつきましょうよ】


何でお前は余裕なんだ! 若造!


お前は俺と違って、もう一生童貞なんだぞ?


【あの……私をいくつだと思ってるんですか?】


な……ん……だ……と?


【貴方より、一回り近く年上ですよ? 確かに、縁が無く婚姻には至りませんでしたが……】


えっ!?


え!? え!?


理解出来ない。


分かりたくない。


『童貞は、お前だけじゃ』


そ……。


ん……。


な……。


あわわわわ……。


きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。


『こ……壊れおった』


【ちょ! しっかりして下さい!】


あばばばば……。


あ……。


ちょ……。


【『ちょ?』】


「ちょうちょ……」


【『壊れた……』】


「なんだって!? 蝶は……そこだね!」


****


多分、北斗七星の横の赤い星並みに見えちゃいけない蝶を、瞬と一緒に追いかける俺をみた幸子が建屋内へ走った。


「カズ兄! レイ兄が! レイ兄が!」


「どうしたんだ? 幸子?」


「おかしくなってるぅぅぅぅぅぅ!」


あはははは……。


『かえってこんな……』


【何故、瞬くんには蝶が見えるんでしょうか?】


『馬鹿の事など、わしは知らん』


因みに……。


二時間後、正気に戻った俺は、みんなに薬を飲み、眠る様にすすめられた。


ラリパッパとして、檻に入れられないだけましなのかな?


ははっ……。


あはははははっ!


はぁ~……。


やってらんね~……。

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