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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十三章:時空と真実編
59/77

七話

絶対に負けられない……。


負けちゃいけない戦いが迫ってくる。


挑む相手は、三人の最強。


絶望はしない。


でも、これを絶望的って表現するんじゃないか?


魔力からなにから、すべて俺より上の三人が相手だ。


逃げ出したくなるよ。


それでも逃げないし、絶望なんてくそくらえ。


負けられない。


ここで負けたら、全部無駄になる。


必死に世界のために戦った……。


大好きなあの人たちの想いすべてが、嘘になっちまう。


ズキンと痛みが走る。


俺がやるんだ。


俺がやらなきゃいけない。


俺が最強を超えるんだ。


俺が、三人を……。


殺すんだ!


(いいですね?)


ああ……。


(チャンスは一度。それに、一瞬です)


ああ!


俺は、可能な限り気配と魔力を消して走り出す。


真っ向勝負だけでどうにかできるほど、甘くない。


先制攻撃……。


この奇襲で、もし一人でも倒せるなら!


どんな手段でも使ってやる。


勝つためなら、どんな汚いことでもやってやる。


勝つこと。


それが、最低限で唯一の俺がしないといけない事なんだから。


「くそったれ!」


俺が刃に手をかけた瞬間……。


先手をとられた。


完全に気配を消していた。


敵を舐めたつもりはない。


それでも、俺の予想を超えてきやがった。


「この!」


俺に向かって降り注ぐ、真っ黒い幾本もの魔法の光を、直撃するものだけ刃を使って消飛ばした。


ジュッっと音を出して、魔法が触れた地面が融解する。


「くっ!」


魔法の熱で液体化した地面で、自分の足が溶ける前に空中へと跳び上がる。


その先には、アストレアの槍が待っていた。


やばい! やばい! やばい!


空中を蹴り、アストレアに足の裏が向くように、九十度体勢を傾ける。


来た!


予想通り、俺の背後だった場所には、師匠からの斬撃が待っていた。


「おお!」


それを自身の斬撃で迎撃する。


さらに強くなっていた。


いや、もとの強さに戻ったっていう方が正しいか?


俺は戦闘開始早々に、すでに窮地に追い込まれた。


頭上にいる師匠は、既にもう一撃を放つ体勢。


足元のアストレアは、俺の背中をかすめただけの槍を引き、もう一撃を放っている。


正面にはユーノの魔法攻撃。


まだ……。


まだだ!


<トライデント>


俺は、空中を蹴るとその場で丸まって回転する。


「おおおお!」


アストレアの槍で左足首が吹っ飛び、師匠の刀は鎖骨から肺までを切り裂いた。


それでも、二人を弾き飛ばすことには成功した。


復元と回復を行いながら、空中を蹴りユーノの攻撃を回避する。


(止まらないで!)


ああ!


動きを一瞬でも止めれば、取り囲まれて即終了だ。


空中に球体を描くように、体を滑らせていく。


俺を追いかけるように、アストレアが槍を放つ。


そして、俺の進路を制限し誘導するようにユーノが魔法を乱発。


そんな中で、俺の動きを読むように師匠からの、全てを切り裂く斬撃が襲ってくる。


完璧な連携。


光すら見えない。


無敵すぎだよ、ちくしょう!


俺の刃はやはり、防御としてふるうことしかできない。


灰色の障壁で退路を確保し、槍をかわして師匠の斬撃を刃で相殺する。


ただただ、逃げ回るのが今の俺にできることだ。


もちろん、すべての攻撃はかすめるだけで、致命傷一歩手前のダメージを置いて行ってくれる。


どう考えても、俺の魔力が消えて終わりだ。


それでも、諦めるつもりはない。


(まだです! 予想の範囲内!)


ああ!


反撃への機を、待つんだ。


たとえぎりぎりになったとしても……。


可能性が一パーセント以下だったしても……。


この世に、絶対がない限り、反撃の機会は来る!


もちろん、現状を甘んじて受けるつもりもない!


感知の力が増したことで、足場としての障壁は必要ない。


最初から灰色の魔力で展開させることが出来る障壁は、若造に任せていた時のように微妙な調整がきかない分、枚数を展開できる。


(もっとです!)


「こんにゃろおおぉぉ!」


ユーノの強力な魔法に、真っ向から障壁で受け止めると三枚重ねでも貫通される。


精度を上げるんだ。


若造は……ライブはもういないんだ!


同時に展開した障壁に、角度をつけていく。


一枚一枚で、少しでも魔法攻撃の威力をそぐんだ。


俺に届くのが一瞬でも遅らせれれば……。


退路が広がる!


アストレアの槍は、俺よりも射程が長い。


師匠の攻撃が来る以上、刃で防ぐわけにもいかない。


それでも……。


「ぐっ!」


槍の先と、自分の足をぶつけて距離をとる。


ぶつけた足は、最悪膝まではじけ飛ぶが……。


アストレアは、その場に一瞬ではあるがとどまらないと槍を連射できない。


距離をとることができる。


二本の刃で受け止めることも考えたが……。


師匠の攻撃を甘く見れば、そこで終わりだ。


片腕で空中を叩いてでも、同等の斬撃で迎え撃たないと、斬り殺される。


一秒の間に、どれほどの攻撃を交わし、どれほどの距離を走っているだろう。


一歩間違えれば即終了の、精密作業にも似た回避行動を続ける。


(気を緩めないで!)


ああ!


そんな暇ないよ!


(いける! いけますよ!)


分かってる!


俺のレベルアップを超えた、三人の進化。


それがここにきて止まっている。


理由は大体の見当がついている。


現在の魔力量は、俺の知っている三人よりも倍近くになっている。


それにより、すべての能力が底上げされたんだ。


それを三人は、俺と戦いながらなじませていった。


だからこそ、上限がある。


(今の三人は……)


俺を殺すことを、ユミルから指示されただけのロボットと変わらない。


そんな事でしか、付け入る隙がない。


でも、隙は隙だ。


今まで研鑚した力はあっても、そこから向上はしていない。


もちろん、三人との差はまだまだあるが……。


少なくなっていることは事実!


諦めない!


(ええ!)


どれほどの時間を逃げ回っているだろう?


双子神の攻撃を、ほぼノーダメージで回避できるようになった。


それでも、防御にしか回れない。


次元流……。


何度もイメージトレーニングはしてきたが……。


強い。


要所要所で、崩される。


思考力が低下してる師匠は、俺の予想通りに動くことが多くなっていた。


それを崩すように動いてる。


何度も……。


何度も……。


それでも、そのすべてに対応されてしまう。


元々の応用力が高すぎるんだ。


こちらの攻撃が甘ければ、難なく対応される。


師匠以上の動きをしても、対応される。


師匠から授かった技は、そういう特性を持っているから……。


格上相手に戦うための技だから……。


ほとんど差のない攻撃では、突破口が開けない。


その上、先の先をとってしまうとこちらがダメージを負う。


十分なためが出来る師匠と違って、俺は双子神からの攻撃も回避しながら……。


先の後をとらなければならない。


技の相性でこちらが優位でなければ、攻撃が打ち負けてしまう。


師匠の攻撃を、認識してからでは直撃を食らう。


読みを的中させて、先の後を相性のいい技で迎え撃つしかない。


最低限同等でなければ、回復に魔力が裂かれてしまう。


本当に……。


勘弁しろよ。


技の精度は、びっくりするくらいあげたつもりだってのに……。


最強は伊達じゃないか。


(まだです! 我慢ですよ!)


分かってる。


焦りも迷いも、剣を殺す。


もちろん、諦めるつもりなんて……。


「あああああ!」


微塵も無い!


****


気が遠くなるほどの、回避と防御を続けた。


この世界の壁に、何回穴を開けちまったんだろう。


唯一の救いは、この世界を壊すほどの攻撃はその威力の高さで、次元の狭間に突き抜けてくれている事だろう。


力量の差は埋まっているはずだ。


それでも、攻撃に移れない。


師匠の剣がそれを許さない。


想定内だ。


卑怯だろうが、不意打ちでもしない限りこの人には勝てない。


想定なんだが……。


(魔力が……半分をきりました)


俺の方に限界が近づいてくる。


攻撃に移れなければ、こうなる事は分かっていた。


それでも、消耗が想像以上に激しい。


この世界の魔力が、薄いせいか?


いや……。


相性だろうな。


敵からの魔力が全く吸収できないからだ。


分かってる。


元々勝算なんてほとんどなかったんだ。


ここから退避したとしても、魔力を回復できる目途なんてない。


ここで勝てなきゃ終わりだ。


それでも、負けられない。


奇跡なんてこの世にはないんだ。


祈っても意味がない。


それでも、泣いて助けを求めたい気分だ。


地獄ってやつだな。


だから、俺はここにいるんだろ?


俺は、俺という罪を償うために。


「嘘だろ……」


俺は、戦いの最中にある気配を感知した。


ガキの気配……。


もう来るなって言ったのに……。


馬鹿が!


ガキに向かって、俺が障壁でそらしたユーノの魔力砲が……。


う……あ……。


「うおおおおおお!」


俺は、反射的に球体だった体術の軌道から外れる。


間に合わない!


嫌だ!


嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!


もう、誰も死なせたくない!


魔法のほうが速い……。


俺は……。


本当に誰も守れないのか?


「う……あああああああああああああああ!」


切っ掛けなんて、どこでどうなるか分からない。


俺が唯一出来た事。


それは魔法の進行方向に、障壁を展開させる事。


展開と魔法の進行が、ほぼ同じ速度だ。


展開した瞬間、粉々になって消えていく。


俺の頭の中で、回路がつながった。


それは、俺にしかできないこと。


幾億の想いを背負った、俺にしか出来ない特別なこと。


新たに展開した障壁は、今までのものとは違う形をしていた。


今までと同様の灰色をした術式が書かれた円の周りを、術式で形作られた六芒星が回転していた。


術式。


異世界の術式を幾重にも重ねた、特別な術式。


その効果は……。


リフレクト(反射)!


魔力砲と衝撃がぶつかり、耳障りと言えるほど高い音が、空気を振動させる。


相手の魔法を利用して、反射する障壁がガキを守った。


そして、その反射された魔法は、師匠に向かう。


回避した師匠が……。


(今です!)


ユーノの攻撃軸線上に!


《レディ! セット!》


コードを入力すると同時に、俺の左腕からブチブチと嫌な音が聞こえる。


アリスさんが、俺の左腕に流れている液体金属を使い、無理矢理鎧へと変化した。


無理矢理なので、その鎧は俺の肉と皮膚を突き破って出現した。


師匠のようにきれいな白銀の鎧ではない。


俺の左腕には、血みどろの……ミスリル以上の高度を持った小手が出現した。


「おおおおおおお!」


真っ直ぐ突き進んでくる俺に、アストレアが……。


思考力の低下したアストレアに、一瞬の隙が生まれた。


今の俺には……。


十分だ!


突き出された槍が、トップスピードに乗る前に左手を突き出す。


流石に、手の甲を突き破られたが……。


小手のおかげで、それだけで済んだ!


刀に乗せられるだけの魔力の刃を灯した。


俺の手を貫通したままの槍を握り……。


その突き出される力と、空を蹴った力で刃をアストレアの胸に突き刺した。


そして、そのままアストレアを盾にユーノに突き進む。



胸の奥に……痛みが……。



予想通り、ユーノは味方と判断しているアストレアへの攻撃が、遅れた。


そのまま俺は、ユーノの胸も串刺しにした。



胸の痛みが強くなっていく……。



今こそ!


次元流秘奥義を!


ミルフォスを倒した、未完成の奥義ではなく……。


師匠の記憶から受け継いだ、完成された完全な突きの秘奥義。


「おおおおおお!」


上空へ向けて、全力で空を蹴りつける。



<ゼロ! グラビティ!>


コアを貫かれた二人は、俺の目の前で……。


大気と魔力の摩擦により……。



胸の穴から、痛みだけでなく血が噴き出して……。



塵へと変わっていく。


電離層に到達する前に、二人は完全に消えた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


二人から、大量の魔力が俺に流入された。


向かってきている……。


師匠が俺に……。


(いいですね! ミスは許されません!)


ああ……。


師匠は、必ずあの技で来る。


なら、俺もそれにこたえるだけだ。


一度消えた魔力の刃を、再び灯す。


刀を構えて、師匠が俺のいる上空へと昇ってくる。


俺も刃を構えて、地表へ向けて加速する。


俺達の最後の決め技。


もちろん、これも次元流秘奥義……。


まさか、次元斬同士がぶつかるなんて、師匠も考えてなかっただろうな……。


心技体……。


全てを今届く最高点まで高めた俺は、刃を振り上げる。


(行きます!)



胸の奥からの痛みは、おさまってくれない……。




《リジェクト!》


お互いの剣が振り下ろされる刹那……。


左腕にあった小手は、銀色の散弾へと変化する。


俺の腕に作ったのは、所詮仮のコア。


解除することで、本体へと帰還しようとする。


俺の代償は、左腕のダメージ。


師匠は、左腕部分を完全に失った。


<ディメンションブレイカー……>


衝突した俺の刃は、師匠の刀を粉砕した。


でも……。


まだ、届いていない。


空を蹴り、さらにもう一度踏み出す。


<アンリミテッド>!


時が止まったような静かな世界で、俺の描いた奥義の円は師匠を両断した。



いてぇ……いてぇよ……ちくしょう。



本来、次元斬は己の全てをぶつける技。


一撃必殺。


ただ、俺の特性がそれを進化させてくれた。


限界を出しているのだから、二発目は本来放てない。


ただ、俺の吸収という特性が全力を放ちつつ回復することで、もう一歩だけ踏み込む力を与えてくれる。


その上で、アリスさんの補助をもらってハンデ付き……。


勝った気がしない。


俺はまだ……。


あなたの背中に、追いつけないようですよ。



胸に空いた穴が、どんどん広がっていく。



地面に落下した師匠は……。


小さなヘドロだけになっていた。


何の魔力も残ってない。


悪意の気配もない……。


師匠を見つめていると、草むらがガサリと動く


俺が、それを眺めていると……。


全身がヒビ割れた……。


銀色の小さな女性が、懸命に師匠へと……。



胸の穴からの痛みが、また強くなっていく。



アリスさんはよろけながらも、懸命に歩いてきた。


そして、ヘドロに覆いかぶさるように倒れこむ。


「マ……サキ……イッショニ……ネム……ロ……ウ……」


その言葉と共に、アリスさんは動かなくなった。


俺……。


勝ったのか。


勝てたんだな。


えっと……。


俺は、何をするんだったっけ?


え~……。


あ!


俺は、思い出したように地面を掘る。


そして、二人を埋めた。


ユーノとアストレアは燃え尽きちまったからな……。


しかし……。


このままじゃ、さみしいよな。


「最強の破壊神の墓標か……」


俺は、使わないほうの刀……。


両刃ではない刀の鞘から鎖を外し、地面に突き立てた。


一応、伝説級の武器だ。


これで、勘弁してくださいね。


師匠……。


「くっ! がはっ!」


胸の奥から、耐えがたい痛みが走る。


師匠……。


アストレア……。


ユーノ……。


アリスさん……。


胸の奥からの痛みが、際限なく強くなっていく。


「がはっ!」


目の前が回り、呼吸が出来ない。


俺は、その場に突っ伏していた。


守れなかった。


俺には殺すことしかできなかった。


「ああああああああああ!」


駄目だ……。


まだ、駄目なんだ!


何回も、何回も……。


こんな弱くて情けない俺を信じて……。


助けてくれたよね?


こんな馬鹿な俺を信じて……。


俺さ……。


俺……。


あんたの事が……。


あんた達の事が……。


大好きだったんだ。



「うああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


精神が……心が壊れる。


駄目だ!


耐えてくれ!


心臓が、内側から鋭い何かで掻き毟られる。


ここで……。


ここで俺が、壊れたら何のために師匠が死んだんだよ!


耐えろ!


今はまだ駄目だ!


泣くな!


泣けば、二度と立ち上がれなくなってしまう。


俺がもう一度泣くのは、終末を迎えるときだけだ!


持ちこたえてくれ!


それを……。


それを、死んでいったみんなも望むはずだから。


ちくしょう。


辛いな。


苦しいな。


これが、俺の罪かよ。


きつ過ぎないか?


強さってなんだよ?


神様は、俺に何をさせたいんだよ。


俺の心が弱いからか?


教えてくれよ。


俺は……。



俺は…………。




俺は………………。

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