六話
「くっ! なんだ!」
(落ち着いて!)
分かってるよ!
空気抵抗!?
違う!
魔力の流れに、次元の壁だ!
俺は、自信を覆うフィールドを最大限に引き上げた。
もちろん、灰色の魔力を使っている。
強い力だ、落ちていく力に抵抗できない。
時空魔法とも違う……。
純粋な圧力……。
この!
(駄目!)
おおおおおおお!
握っていた刃を、魔力わざと逆らわせ減速する。
両足はもちろん、体全体で圧力に抵抗する。
それにより、魔力との摩擦が上昇し体表面を焦がしていた。
(このままじゃ! 塵に……)
「こな……くそ! だらぁぁぁ!」
障壁を展開させた。
出してすぐに粉々になってしまうが……。
一気に出せるだけ。
五十枚の障壁を展開させた。
それにより一瞬出来た足場。
(嘘……)
圧力と魔力を、刃で切り裂いた。
それにより、軌道が変わっる……。
何とか……。
(むちゃくちゃ……)
はぁ!?
助かっただろうが!
師匠にスマートには、俺には無理なんだよ!
うん?
熱……あついぃぃ!
空気抵抗!?
(次元の壁も一緒に切り裂いたようね)
どっかの世界か!?
真っ赤になった、俺周辺の空気。
やべっ!
物理法則で燃え尽きるかも!
ふん! がっ!
俺は、空中を全力で蹴り続ける。
止まれ! 止まれぇぇぇぇぇぇぇぇ!
完全に殺し切れていない、さっきの圧力と魔力で……。
うまくブレーキが利かない。
地面にクレータを作り、着地した時には皮膚の五分の三が炭化していた。
でも……。
助かった~……。
****
その場で、目を瞑ると回復と復元を同時に行う。
(貴方といると、驚くことばかりだわ)
ああ、そうですか~。
あれ?
師匠から離れても、会話が出来てる?
師匠達の気配はまだないよな?
(左腕を見てみなさい)
はい?
真っ暗で見えないです。
俺が着地した世界は、夜だった。
(そこは、何とかしなさいよ)
仕方なく、俺の着地の影響で火がついてしまった木に近づき確認する。
なんだこりゃ?
銀色の……吹き出物!?
(違います! それが、私の簡易コアです!)
あ……。
この箇所は……。
もしかして、最初の戦闘で敵の攻撃だと思っていたのは……。
(乱暴になってしまいましたけど、あの時はあれ以外選択肢がなかったんです)
敵の攻撃だと思ってた、銀色の散弾は……。
俺を助けようとした、アリスさんだったのか……。
もしかして、怪我の回復が遅かったのは……。
(貴方の魔力を使って、この仮のコアを作っていたのよ)
それで、復元の光が消えたのか……。
なるほどね……。
確かに、素手で力もまともに使えないのに師匠たちに勝てるはずがない。
ふぅ~……。
師匠。
(貴方はそこで立ち止まる?)
いいや!
進む。
(いい答えです。では、あなたに渡すべき物があります)
渡す?
山火事にならないように、あたりの火をけし、刃を鞘へと戻した俺は、その場から離れる。
現地の人間と接触してる場合じゃないし、いつの時代かもさっぱりわからないからね。
(マスター……貴方の師からの……記憶です)
師匠の記憶。
(もちろん、すべてではありません。私がともにあった間だけの情報です)
それは……。
(もちろん、あの戦いの記憶もあります)
戦いの記憶……。
師匠やルーが俺に望んでいる事……。
悲しみや絶望を味わう時間も……。
無駄って事ですね。
師匠!
確かに、泣きたくなるような現実だ。
でも、それは今は許されないんだ。
俺がやらなきゃいけないこと……。
師匠達を倒して……ユミルを殺す。
都合よく、ユミルを殺せば師匠たちが元に戻るなんて、ありえないだろうな。
でも……だからこそ、俺が師匠達を殺す。
俺が背負わないといけないんだ。
(満点! いえ、百二十点です! 馬鹿弟子さん)
バカっていうな、コラ。
(今、私が貴方にすべてを任せることを、いくら謝っても意味がないと思います)
ああ。
必要ない。
やってやる。
俺がやらなきゃいけないなら……。
いや、俺がやるんだ。
(では、受け取りなさい)
俺は、大きな岩の上で胡坐をかいて座り、目を閉じた。
師匠の記憶が、流れ込んでくる。
凶暴な星へと降り立った人々は、滅亡寸前だった。
そこで、その世界の賢者が世界の魔力を流用する装置を開発した。
魔力の強いものを、位相をずらしたもう一つに星に隔離したんだ。
そして、二つの同じ星はそれぞれの進化を遂げた。
怪物達の食物連鎖が繰り返される世界と、人間が文明を広げていく世界。
狂った神は、もちろん凶暴な世界へと追いやられた。
そして、装置を作動させた賢者自身も。
再び、世界が元に戻った時のために、賢者は魔法生命体のアリスさんを作った。
今の俺には理解できる。
悪意だ。
神も賢者も、悪意に飲み込まれてしまったんだ。
狂った神が求めたのは、戦い。
己よりも強い相手と、思う存分戦打事だけ。
その先にある自分の死も、どうでもよかったらしい。
いや、それを望んでいたのか?
狂った賢者が求めたのは、自分に苦痛を強いた世界への復讐。
そして、自分が神になること……。
二つに分かれていた世界は、元に戻り人間は凶暴な生物たちに駆逐されていった。
師匠はそんな狂った世界で、戦ったんだ。
偶然手に入れた神の破片で、死なない体になり。
狂う前の賢者の遺産である、アリスさんと共闘して……。
親から受け継いだ剣技で、神とも賢者とも戦った。
勝った師匠に残されていたのは、神を師匠が取り込んでしまったことにより、魔力がなくなった滅びた星だけ。
その時、アリスさんも一度コアを破壊されて死んでいる。
(ここからは、後で教えてもらった情報です)
偶然により、異世界に召喚された師匠は、悪意の存在に気が付いた。
そして、死なない体で戦い続けた。
ただ、世界を守るために。
アリスさんの魂は……。
そうか、ルーが保管していたんだ。
あれ?
いや、今はいいか……。
特殊な存在だったアリスさんを、師匠は見事に復活させた。
苦労して……。
何億年も苦労して、こんな最後かよ。
神様の……馬鹿野郎……。
最後の戦い。
俺がいなくなっても、師匠達は善戦した。
あの場に集まっていた神は、そのすべてをかけて戦った。
それでも、次々に仲間が倒れていった。
メーヴェルさんやエルミラも……。
そして、最後の瞬間。
全てをかけた全員の攻撃……。
これが決まればもしかしたら……。
でも、もしなんてないんだ。
乱入してきた、五人の死神達に体勢を崩された攻撃は不発。
全ての力を使った師匠たちは……。
悪意に飲み込まれた。
残酷だ。
残酷すぎるよ。
守りたかったものが、こんな事で……。
(大事なことは……伝わりましたね?)
ああ……。
(きっとこの記憶は、貴方の力になるでしょう)
もちろん、無駄になんかしない。
悪意への憎悪。
そして、この記憶の本質。
師匠がかけた、五億年の研鑚。
次元流の全てが、俺へと受け継がれた。
すげぇぇよ。
師匠、あんたやっぱすげぇぇぇよ。
最強の剣技を……。
さらに進化させようとしてたのかよ。
(もう、あなたが正当な後継者ですよ)
ああ……。
分かってる。
俺が行くよ。
最強のその先に……。
(はい)
おれは、その場で修練を行う。
体を動かすわけではなく、その場でそのまま目を瞑り……。
力を確かめる。
そして、イメージトレーニングに、魔法の訓練、戦いの作戦を練る。
これを同時に行い続けた。
ふと、目をあけると俺の体から噴き出していた灰色の魔力は、黄金に輝き始めていた。
まだだ。
もっと、先に……。
もっと、もっと先にあるものにたどり着くんだ。
一昼夜……。
俺は、不動の修練を続けた。
****
ん?
なんだ?
弱いせいで、感知が遅くなったが人の気配に目を開いた。
ガキ?
(そのようですね)
木の陰から、恐る恐るこちらをうかがっている。
何見てるんだ?
(傍から見れば、魔力で輝くあなたは不思議にうつるんじゃないですか?)
まあ、確かに……。
向こうに行け……。
って、こっちから話しかけるのもあれだしな。
まあ、ガキ一人に見られたからって、困ることもないか。
俺が再び目を閉じようとした瞬間、ガキは意を決したように俺の前に走ってきた。
何?
てか、過去のはずなのになんで今回は半透明じゃないの?
ここで、ガキと話して過去変わっていいの?
(もしかすると、この世界は時間の流れとはあまり関係のない世界、なんでしょうかね?)
よくわからない。
確かに、魔力はあまり感じない世界だけど……。
「天魔殿!」
はい?
天魔?
人間ですけど?
(この言語は……)
ん? そういえば、俺の世界の言葉と一緒だ。
(私達の世界とも同じです)
おいおい。
また、何かの因果って奴か?
「お願いがございます! 私に! 私に力をお与えください!」
はっ?
なんだ? このガキ?
頭がわいてるのか?
(少なくても、あなたを人間とは見ていないようですね)
ですよね~。
う~ん……。
よし!
(どうするんですか?)
無視します。
目の前で土下座したままのガキを無視して、修練を……。
はぁ~……。
(どうするつもりですか?)
流石に二時間土下座は、きついみたいだな。
プルプル震え始めてる。
はぁ~……。
どうするかな?
影響を与えていいのかな?
てか、軽く脅して追い返すか?
俺が、目を開いている事に気が付いたガキは……。
「どうぞ! 召し上がりください!」
米?
懐にしまってあった、食料を差し出してきた。
****
……。
食べちゃった。
「で? 名前は?」
「はい! 遮那と申します!」
「で? なんで力が欲しいの?」
「私の父は、戦で死にました。母は……母は、私を守るために身を怨敵へと捧げております」
小難しい喋り方するガキだな……。
(わかりませんか?)
流石に、わかるよ。
てか、たぶんこのガキ頭がいいな。
(そうみたいですね)
大事な伝えたいポイントだけを、俺に伝えた。
父親の敵である敵がいて、そいつを倒して母親を取り戻したいってところか?
でもな~……。
う~ん……。
「天魔様の、超常を欲しいとまでは言いません。少しでも……」
俺の前に立っているガキは……。
十歳前後かな?
唇を噛みしめて、震える両手を必死に握っている。
う~ん……。
「頭は下げなくてもいい」
考え込む俺に、ガキは再度土下座しようとしていた。
俺はある光景を思い出す。
(そんな出会いだったんですね)
ああ……。
俺も、このガキと全く同じように、師匠に縋ったんだ。
師匠……。
もし、俺が過去に干渉してしまうと……。
なんて、俺が考えるのが間違いなんだ。
もしも運命が決まっているなら、俺はやりたいことをやるだけだ!
俺は……。
「俺にはあまり時間がない……。それでもいいか?」
師匠が答えてくれた通りに、ガキに言葉を向ける。
そう、この言葉から俺の剣が始まったんだ。
「よろしくお願いします!」
「はいはい。じゃあ……」
俺は、俺にできることをした。
ガキに剣を教える。
本当に初歩の初歩だけだが、少しは役に立つだろう。
毎朝早くから、ガキは俺の前に修行に来る。
不動の修練を続けている俺だが、気になった点は指導した。
へっ……。
お前は知らないだろうが、これは最強の破壊神が使う剣なんだ。
ありがたく思えよ。
軌道を変えて、時間がずれたせいだろうか?
師匠達は、まだ来ない。
この世界に、迷惑をかけたくないなんて言ってる場合じゃない。
時間流の中で、俺に勝ち目はまずない。
この世界で迎え撃つんだ。
俺が、あの人を止めるんだ。
ん?
「どうしたんだ?」
「少しだけ……もう少しだけ……」
夕暮れになると帰っていくガキが、その日は当たりが薄暗くなっても帰ろうとしなかった。
「何かあったのか?」
「……実は……」
現在居候している寺の僧と、何かもめて帰りたくないそうだ。
やっぱり、ガキか……。
「すごい! 流石は天魔様……」
俺は、人間です。
わざわざ説明はしないけどね。
俺が担いで戻った猪を見たガキが、びっくりしている。
今日は、これが晩御飯。
「えっ……あの……えっ?」
「なんだ?」
「今のが天魔様の剣技ですか?」
「ただの解体だ」
ガキは、一秒もかからずに猪をさばいた俺に……。
(まあ、驚くんじゃないですか? 普通は)
このガキが、いちいちオーバーリアクションなだけだよ。
それを、たき火で焼いて食べる。
俺の食う量にまで、いちいち反応するなよ。
(完全に人間じゃないと思ってますよ)
はいはい。
もういいよ。
ん?
「何読んでるんだ?」
「これは、兵法書です」
力が欲しいか……。
う~ん……。
なんて書いてあるか、さっぱりだ。
(私にも読めません)
この世界の文字なんだろうな。
「つまり、ここで右翼の陣形を……」
俺が興味ありげに見ていると、ガキが書いてあることを説明してくれた。
この世界に、魔法はないんだな。
(そのようですね)
「あのさ……。それ、後ろから攻め込めばいいんじゃないか?」
「後ろ? しかし、そのような卑怯な真似は……」
おいおい。
「これ、戦争の戦術だろ?」
「はぁ……」
「殺し合いに、卑怯もくそもあるかよ。勝った奴のいう事が、正しくなっちまうんだよ。たとえ正々堂々戦っても、負ければ卑怯だったってねつ造されることだってあるんだぞ?」
「なるほど……」
「で、そこは槍でも持って待ち伏せれば……」
「では、この場合はどのように?」
「夜の闇にまぎれて、少数でいいから伏兵を潜ませてだな……」
ガキが眠気に負けるまで、ガキと兵法とやらの話をしていた。
****
俺は、ガキが眠ってから修練を再開する。
俺には、もっと力が必要だ。
師匠達に対する、作戦も立てたが……。
勝率は笑えるほどしかない……。
「……うん?」
眠っていたガキが起き上がり、目をこすっている。
トイレか?
草むらの入ったガキを見て、再び俺は目を閉じた。
って……おい。
用を済ませて帰ってきたガキ……。
寝ぼけたガキは、俺の太ももを枕に眠り始めていた。
邪魔すんなよ。
はぁ~……。
「おい」
「うぅん……天魔様……」
うっすらと目をあけたガキは、笑ってるよ。
なんだよ?
「天魔様は、私の知る他のつわもの達と全然違う」
はっ?
寝ぼけるなよ、ガキ。
てか、何が違うんだよ?
「皆、独特の圧力があって、恐怖で近寄りがたい。まるで、鋭い刃物のようです」
まぁ、強い人独特のオーラはあるよな。
てか、俺にはないの?
確かに、よく人に舐められるけどね……。
「そんな人達より、天魔様が強いのは私でもわかります。なのに、こんなにも優しくて、安心できて、引き寄せ……られ……る」
おいって!
どきなさいよ~!
ガチで寝るなよ!
もう少し敬おうよ!
一応、師匠っぽい事してるじゃんか!
(でも、この子の言う通りです)
何が?
(その柔らかな柔軟性ですよ。天地と一体となったような、自然の強さ)
自分じゃわからないよ。
そんなの。
(……マスターでさえ、まだ鋭い部分が残っています)
そっちの方がいいんじゃないの?
なんか、格好いいし。
(そんな貴方だからなんでしょうね。きっとそれは、貴方自身を支える力になりますよ)
抽象的すぎて、何を言いたいかさっぱりだ。
俺は、まだまだ弱いんだよ。
まだな。
「……母上……」
眠っているガキが、涙を流した。
てか、せめて父上だろうが!
俺は、男なんですけど?
(ふふふっ)
このガキも、ガキにしては苦労してるんだろう。
「ふん……」
俺は、目を瞑り修練を再開する。
ガキを起こさないように、そのまま。
(マスターもそうですが、お人よし)
うるさい。
****
翌日、俺は木刀で木を斬り捨てる。
「こ……これが、奥義!」
「そうだ。奥義は技であって技じゃない。自分自身の体をいかに使うか……。それだけだ」
「心得ました」
「今、見せた技も……生涯に一つできれば、普通の人間には十分だろうよ」
「はい! しかし、すべての技と名は記憶いたしました」
「まあ、どう使うかは任せるが……」
「なんでしょうか?」
「出来れば、弱い者を虐げる為じゃなく、守るために使ってほしい」
「はい……。あの……」
「なんだ?」
「この流儀に、名はないのですか?」
「次元流。最強の剣技だ」
「しかと……心に刻みました」
一週間ほど、ガキに手ほどきをした。
まあ、どこまで使いこなせるかは知らないが、十分だろう。
ちょうど、時間も来たみたいだしな。
ガキに修行の終わりを告げ、寺に帰るよう言い聞かせた。
巨大な悪意の魔力が三つ。
戦いだ。
(ええ)




