五話
過去……なんだよな?
あれ?
何もない。
なんだこれ?
なんで俺は、半透明なんだ?
(あなたは見なければなりません)
はい!?
また、頭の中に文字が浮かぶ。
話しかけられたわけじゃない。
突然、言葉だけが脳に放り込まれたような感覚。
時間をさかのぼる流れは、ルーが作ったと言っていた。
なら、この言葉もルーなのか?
俺に何を見ろと?
何をしろっていうんだ!
……。
おい!
返事しろ! こら!
おいって!
(あなたが、世界の未来を望むなら……)
当然だろうがって!
俺の質問に答えろよ!
なあ!
(ここは、世界が出来る前の世界)
世界がない世界って……。
言葉おかしくね?
てか、何もないのに世界ってできたの?
なにそれ、怖い。
(あなたが望んだことで、すべてを知る権利が生まれました)
望んだから与えられる……権利ねぇ……。
(それは、同時に知らなければならない義務)
情報もただじゃないか……。
いいぜ。
それも背負ってやる。
みんなの未来が手に入るなら。
(故に、あなたはあなた自身で選択をしなければなりません。それが……それだけが、未来へとつながる唯一の可能性です)
なんだよ……。
結局、ヒントだけで答えは無しかよ。
俺の選択に、世界の未来が?
最悪だな、世界。
自爆スイッチを、芸を仕込んだだけの猿に拭き掃除させる並みの危うさだぞ?
なるほどな。
おっさんが、絶望的な数値っていうはずだ。
一パーセント以下。
小数点が必要な確率じゃんか……。
毎度毎度……。
やってくれるぜ。
神様よ~。
成功した暁には……。
へへっ。
ケツに全力でローキックを、三十発連続でぶち込んでやるよ。
絶対、泣かせてやる。
首じゃなくて、ケツでも洗って待ってろ。
俺がそんな事を考えていると……。
パチンと大きな破裂音が轟く。
「うおぅ! なんだ!?」
いきなり何もない場所で、光が弾けた。
これは……。
コア!?
うっすらと……でも、強い意思の力を感じる。
神のコア?
なんで、いきなりそんな物が?
「あれは……時空の……」
最初に光が弾けた場所に、時空の力が痕跡として残っている。
(それこそが、原初の因果。すべての罪の源です)
「マジかよ」
これから、何かがおこる。
俺は、なんとなく想像できてしまった。
俺には見えてしまうんだ。
感じ取れるんだ。
そのコアは、完全にではない。
しかし、明らかに悪意に浸食された神のコア。
もっと正確に言うと、コアの破片。
これが世界の始まり?
ここにはあるはずがないもの。
こんな例外で、世界は始まったのか?
再度確認するように、光が弾けた時空の動きを感じ取る。
間違いない……。
こんな偶然……奇跡?
これが、奇跡ってものなのか?
こんな危うい偶然の上に、俺たちの世界はあったのか?
時空を操作できる奴らだっている世界だぞ?
もしかしたら、俺ですら世界を消すことだって出来るかもしれない。
どこかで、世界はもともとあるがままにあり。
偶然なんかじゃなく、当然のように世界はできたと思っていた。
人間が生まれたのだって、奇跡的な確率の偶然。
それでも、世界には神がいて、もともと決められていたから人間が出来た。
世界もそうあるから、そうなのだと勝手に思い込んでいた。
「うおおお! なんだ!?」
巨大な光の渦が、コアの破片に近づいてくる。
魔力の塊!?
感知できる出来ないとかじゃない。
莫大な力そのもの。
「あ……そうか。あれが、創造主……」
意思の力を感じる。
魔力とは不釣り合いな、弱く儚い意志の力。
今にも消えそうな神のコアと、惹かれあったのか?
創造主から伸びた二本の光の帯が、やさしく包み込むようにコアの破片を飲み込んだ。
何かの偶然が重なって……。
未来から流れ着いた神のコアを。
自分が、半透明でこの場所に干渉できない理由が理解できた。
当然だ。
ここに俺が干渉できてしまうと、世界が変わってしまう。
そうなれば、俺は存在しなくなる。
顕聖から教えられた、時空の法則。
過去への干渉は、本来不可能。
それを行うには、莫大な魔力が必要らしい。
時間を戻れば戻るほどその量は増していく。
この世界に干渉するとすれば、創造主が命を懸けるほど魔力が必要じゃないのかな?
見ることも来ることも出来るが、干渉できない。
それが過去か……。
創造主は、神のコアに優しく優しく……。
慈しむように魔力を注ぐ。
完全な球体にコアが戻ったな……。
てか、創造主には法則もクソもないな。
自分の三分の一近く、魔力を注ぎ込みやがった。
コアってそんなに魔力補充できないはずなのにな……。
そこから、何もなかったその場所に世界が構築されていく。
創造主は……。
深く傷つき眠るコアのために、ゆりかごとして世界を作ったんだ。
時間の流れ、物理法則、魔力の特性……。
全ては、未来からの記憶で形成されていく。
あのコアが……。
なるほど、あれがルーか……。
あれ?
でも、あいつから悪意は感じなかったのにな?
「おお! は……ははっ。出鱈目な……」
創造主は、法則と次元の狭間を作り終わると、いともあっさり最初の世界を作り出してしまった。
これが俺たち人間の世界が、始まった瞬間か……。
これが、世界で……人間なんだな。
力は、意志の弱いもが持つべきものではない。
志なき力は暴力でしかない。
正義大義こそが力を持つ正しい理由だ。
創造主……いや、神様。
弱い人間は、そんなことを必死で訴えてるんですよ。
さらに、そんな事言ってる奴に限って、弱いものを虐げる。
力は力でしかない。
目の前の神様は、俺にそれを教えてくれる。
あれだけあっさりと世界を作った神様は……。
四苦八苦しながら、必死に生き物を……人間を作る。
純粋に、力を使うってこういう事かな?
試行錯誤の末、結局二つも惑星を作ったよ……。
優しくて、全知全能とは程遠い神様?
何故、あんたは魂の故郷に引きこもったんだ?
人間に絶望でもしたかい?
世界が嫌になったのかい?
そんなことを考えながら、俺は世界の始まりを見守る。
そのにいるけど、いない存在として。
平等なやさしさって……。
存在するものなんだろうか?
全てに平等。
人間のいないほうの星。
人間以外の生物たちが、楽園として暮らせるように創造された星。
大変なことになっていた。
生物は、エネルギーを吸収しないと生きていけない。
最初から直接魔力を吸収できるようにすれば、何の問題もなかったかもしれない。
もちろん、生物の進化は望めないだろうけど。
でも、未来からのそうならなかった知識から作られた生物たちは……。
弱肉強食の生存競争を始める。
異種族だけでなく、同族すら食らって力をつけ始める個体が現れた。
強くなり、弱いものを食らう生物。
平等は残酷と言えるのかもしれない。
強気なったものも、神の力で排除することを神様は選ばなかった。
只見守ることしかできない。
その星は、楽園とはかけ離れた凶暴な世界へと変わっていく。
極めつけは、その世界に作った世界の意思……。
目的を与えられていなかった神は、世界に渦巻く悪意の影響をダイレクトに受け、戦闘狂の壊れた神になった。
これが世界。
弱肉強食こそ真理。
分かってるけど……。
神様泣きそうになってるじゃん。
目覚めないコアを何回も見て……。
凶暴でも、自分の作ったものを壊せない神様って……。
ん?
うわ~……。
もう一つの人間の星。
その星も、一つの波紋が発生した。
少しだけ腕力が強い人間。
その人間が、力で食料を弱い人間から奪った。
本当に俺には当たり前のことで、なんでもない日常。
しかし、それがすべての始まりになっていた。
人よりもいい思いをしたい。
ただただ、そんなことで未熟で弱い人間は進化する。
それと同時に、狂っていく。
俺は、これをよく知っている。
これこそが、人間が逃れることの出来ない罪。
欲望。
悪意なんだ。
仕方がない……。
世界の全ては、最初から悪意を内包して作られてしまったのだから……。
俺が戦っている悪意とは……。
世界であり、人間自身なんだ。
俺自身も、殺意という黒い感情を高めることでより力を発揮できる。
喜びなんかの白い感情は、戦うことを限定すれば力としては弱い。
どう言い訳したり、理由をつけても人間は両方から成り立っているんだ。
悪意を消すなんて、人間を……。
世界を消さなきゃ無理なんだ。
俺の選択の一つは、もしかすると世界を俺自身が消すことも含まれているのか?
今の俺は……。
もちろん! こんなことで立ち止まったりしない!
前に進んで見せる。
それでも、考えないといけないんだよな。
悪意が具現化して、世界を飲み込む。
それを防ぎたい。
成功しても、未来には同じことが起こるかもしれない。
無駄だと……。
もしかすれば、今を生きる俺には今を守ることが重要だけど。
永遠を生きる神様の心を折るには、もしかしたら十分だったのかもな。
今俺に降りかかる悪意だけを倒す。
これも、俺の答えの一つだな。
でも、考えるんだ。
俺はまだ答えを出しちゃいけない。
なんとなくそう感じる。
そして、ある違和感も……。
この過去への流れは……。
俺に絶望しろとでも言いたいのか?
諦めさせたいのか?
それとも、その逆?
意図が、まだわからない。
考えるんだ。
人間の星が、宇宙船まで使った戦争を始めた時、俺はあることに気が付いた。
俺は、この世界を知っている。
爆発した母性から、宇宙船に乗って逃げ出す人間。
人間は宇宙じゃ生きられない。
神様が仕方なく導いたのは、狂った神が支配する凶暴な世界。
ここは……。
師匠の生まれた世界。
そうなんだ。
別に不思議なことじゃない。
師匠の世界が最初の世界だったんだ。
「うわぁぁ!」
人間の船が、その星につくと同時に、俺は時間の流れに引き戻されていた。
俺の終点は、ここじゃなかったんだな。
そうだよな。
これを見て答えを出すだけじゃ意味がないよね。
俺は、どこに向かってどこにたどり着くんだ?
俺は何をすればいい?
返事がないのもわかってるよ。
****
先ほどまでとは、たぶん逆向きの時間の流れに乗った俺は……。
走り……。
来た!
追いつかれた。
三つの悪意が俺に向かってきていた。
反射的に、両刃の刀を抜いた。
神様を見たせいか?
それとも、世界の始まりを知ることで法則でも理解できたのか?
感知する力がさらに増している。
時間の流れの中だっていうのに、俺は普通にその場に立ち構えることが出来た。
全く、何をさせたいんだか……。
「おおお!」
左腕に、若干の違和感が残るせいだろうか?
俺は、二本の刃を抜かずに、そのまま敵に走り出していた。
敵は……。
まだ俺よりも速い。
それでも、さっきよりはましな戦いができる。
俺の肉をそぎ落とし、骨を砕いていた攻撃を、皮の部分でとどめる。
敵の手数が多いせいで、攻撃がクリーンヒット……できない!
焦るな!
見極めるんだ。
足を止めれば直撃を食らう。
流れの中で、立体的な円……。
球体のように動きながら、敵の攻撃を回避し刃をふるう。
<ホークスラッシュ>!
くそ! ダメか!
この流れの中では、流石に衝撃波は使えないらしい。
出した瞬間、霧散した。
敵の攻撃……。
とがったゲル状の剣を斬っても、ほとんどダメージはないか……。
うっすらとコアらしきものが見えているが……。
遠い。
攻撃が届かない。
距離だけではなく、俺の技量がまだ遠い。
フィールドも、敵の攻撃にはほとんど効果がない。
障壁も時間操作も無理だ。
まともに機能しているのは、身体強化と回復だけ。
これで、あの散弾みたいのをもう一度食らえば……。
懐に飛び込みきれない。
それどころか、敵の速度が増してきている。
それだけじゃなく、連携するような動きまで……。
反則だぞ! ちくしょう!
回復も強化も……。
動きだって、さっきより速くしたはずなのに……。
「げはっ! く……そっ!」
立体的な円の動きに、ついてくる。
致命傷は何とか避け続けてるけど……。
敵の攻撃だけが、俺に届きやがる!
「まてっ! こ……この!」
俺の射程範囲から、瞬間的に離脱する敵に、俺の口をついたのは待て……。
「くっそぉぉぉぉ!」
敵の攻撃を受け止めた俺に待っているのは、敵の魔道砲。
皮膚を焼かれているだけ……。
確かにそこまでは避けられるが、そのせいで流れの動きが阻害される。
かなり自由に動けるようになったといっても、少しでもミスをすれば流れに自由を奪われる。
敵の攻撃をいなせなければ、流れ自体に体をぶつけられ、ダメージを受けてしまう。
強い!
今までのどんな敵よりも……。
技量として、俺が全くかなわない。
虚をついても、間合いを外しても……。
全て対応される。
その上、速くて射程も長い。
糸口がつかめない!
俺の力が増すよりも早く、敵が強くなっている。
さっきまで躱せていた攻撃を、防がないといけない。
かすり傷だった攻撃が、肉をえぐり始めた。
すでに、俺は自分の刃を防御以外に使えなくなっていた。
敵が強くなっていく……。
死の恐怖に、飲み込まれるつもりはない。
それでも、勝ちへの算段が全く……。
「ぐっ! がはっ!」
すでに、敵の攻撃が俺の急所をかすめ始めていた。
同時に攻撃を受ける回数も、二回や三回じゃなくなってきた。
可能な限り防いで避けているのに、俺はサンドバック状態と言える。
気を緩めれば、すぐにでも殺される。
何も選ぶ前に……。
まだ! まだだ!
まだ、負けられない!
こんなところで!
「こんな雑魚に負けるために! くぉのぉ! 無様に生き残ったつもりはない!」
一ケタほど速度を増すことで、敵の直撃するはずだった攻撃から体をずらした。
灰色の魔力。
知識を生かすんだ。
学んで、理解して、応用する。
白と黒の魔力は、本来相反するもの。
接触しただけで、爆発してしまうものだ。
俺の魔力が高まる理由は、その爆発する手前の状態を定着させることが出来るから。
ジジィと若造に強化を任せていたときは、その爆発寸前の魔力では強化していなかった。
正確には、無理して使えないはずの魔力まで使ってはくれていたけど、灰色ではなくマーブルの力だった。
液体金属のおかげで、俺の体は灰色の魔力に耐えられる。
基本性能を向上させるだけじゃない。
爆発的な強化を!
さらに、灰色の力を時間操作に使い自身の処理速度を引き上げる。
時間遅延を引き起こしたうえで、亜光速に動いて……。
やっと、敵の動きにぎりぎり対応可能になった。
それでも、ぎりぎりだ。
動きが速すぎる。
それも、まだ進化するのかよ!
こっちは、二段とばしで階段を駆け上がってるつもりなのに!
敵はエレベーターですか!?
チートすぎるんだよ! くそったれが!
(よく見なさい!)
は?
「うおおおぅ! よっと! この!」
突然頭の中に聞こえた女性の声に、危うく直撃を食らいそうになった。
なんだ!?
ルーじゃない。
誰だ!?
でも、どこかで聞いたことがある声だったような……。
よく見ろ?
敵を……。
俺は何かを見落としているのか?
何を!?
あれ?
敵と同じ速度領域の中で、攻撃をいなすことが出来てきた。
そこで、俺はあることに気が付いた。
敵の手数が減っている。
敵の攻撃に、明らかなパターンが見て取れる。
もう、敵の体から触手を伸ばすような攻撃は来ていない。
斬撃に近い攻撃と、エネルギー砲のみ……。
それに……これは……。
最高速度が上がってるんじゃない。
最高速度自体は、俺が上!?
三体だから苦戦しているのか?
それもある。
でも、それ以上に……敵の動きが洗練されている。
連携の精度が上がっている。
俺の動きを読むように先回りする動きが、より明確になっている。
技術がましている……。
二体が目まぐるしく体の位置を入れ替えて、波状攻撃を仕掛けてきている。
そして、最後の一体が虚を突いたトリッキーな動きで、俺を的確にとらえてくる。
こんなの……。
こんなのって……。
戦闘に向けている部分は、今まで遜色なく動いてくれていた。
本当に俺には、もったいないほどの高性能な体だ。
それがなければ、俺は死んでいた。
敵の分析に向けていた思考が、停止した。
考えることを拒否している。
だって、こんなのありえない。
こんなのないよ……。
手遅れだったのか?
ああ……。
ちくしょう……。
ちくしょう……。
なんだよこれ……。
「あああああ!」
俺の久しぶりな攻撃は、トリッキーな動きをしていた一体に弾き返された。
まったく……。
全く同じ技で……。
俺は、この動きを知っている。
よく知っている。
だって、肩を並べて悪意と戦ったのだから……。
ずっと追いかけていた背中なのだから……。
嫌だ……。
こんなの……。
ありかよ! ちくしょう!
嘘であってほしい。
俺のそんな願いをあざ笑うかのうように、敵はたぶん完全体になった。
一体は、刀のような腕から伸びた黒い刃物を……。
一体は、槍の様に伸びた鋭い武器を……。
一体は、背中に真っ黒な魔方陣を背負っている。
グシュッとヘドロが、気持ち悪くうごめく。
三つの真っ黒なヘドロから、ユミルのような真っ白な仮面のような顔が浮き出してきた。
俺は、こいつらを知っている。
知っているとも……。
だって、仲間なんだよ。
俺を助けてくれた人達なんだよ。
俺の……。
俺の!
師なんだよぉぉぉぉぉぉ!
「師匠……アストレア……ユーノ……」
こんなの……。
こんなのないよ……。
こんなのって……。
ちく……しょう……。
(馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 動きなさい!)
頭の中から聞こえた声に、反射的に反応した俺は……。
いや、俺の体は敵の攻撃をうまく回避してくれた。
(動きなさい! 諦めるんじゃない!)
分かってる!
「うおおお!」
今、俺は立ち止っちゃいけない!
無駄な思考を捨てろ!
戦いに集中するんだ。
相手が、三人である事が認識できた。
それは、皮肉にも俺の記憶にある三人のパターンに動きを、照らし合わせることが出来た。
俺は、より効率的に攻撃を回避する。
まだ……。
まだ、反撃までは追いつかないが、それでもダメージを軽減できる。
(そう! そうよ……。諦めないで……。あなたが、最後の希望なんだから……)
声の主を、俺は知っている。
以前にもこうやって……。
師匠を通してリンクした時に、声を聴いている。
アリスさん……。
師匠の相棒で、恋人の魔道生命体。
どうやっているかは、わからない。
でも、アリスさんが俺に語りかけているんだ。
最後の希望……。
その言葉が、あの戦いの敗北だったとのだと理解できた。
俺が最初に負けて……。
そのあと、師匠達も負けたんだ。
そして、取り込まれた。
信じたくない……。
でも、目の前に現実がある。
ちくしょう……。
敵が分身体を、三人で作ったんだ。
そりゃそうだ。
だって、三人は最強なんだ。
俺なんかより強かったんだ。
ちくしょう……。
ちくしょう……。
ちくしょう……。
****
「ぐがああ!」
ドガン! っという音が、俺の頭の中で再生された。
たぶん本当には音はしなかっただろう。
しかし、体が何かにぶつかった。
見えないが固い壁のようなものに、激突した。
亜光速で、そんなものに人間がぶつかったんだ。
只で済むはずがない。
体が粉々……ミンチになりそうだ。
痛みすら知覚できない。
オリハルコンと同等の強度。
本当にこれに助けられた。
後、痛みになれすぎた俺の意識は切断されずに済んでいる。
これは、いったいなんだ!?
時間流の中に、いきなり出現しやがった。
時間の流れから、墜落する鳥のようにふっとばされていく。
この意味を、俺はまだ知らない。
すぐにわかるけど……。
それでも……。
これの心は、三人のことで引き裂かれるほど痛みを発していた。
体のダメージ……。
そんなものより……。
これは、キツイよ。
ありえないって……。
勘弁してくれよ……。
ちくしょう。




