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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十三章:時空と真実編
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四話

戦いに集中している時。


俺は、すべてを忘れて迷いなく行動できる。


でも、いざ戦いから離れるとこんなにも迷い、悩んでしまう。


情けないよな。


人間だから仕方ない。


そう言ってしまえば、それまでだ。


決断まで考えることが重要なのかもしれない。


本当にそれは必要なのか?


そんなことまで考えているのに……。


それでも、何度も同じようなことで悩み歩みを止めてしまう。


そのくせ、後ろを振り返り反省する勇気もない。


俺はただ、戦いの中に逃げ込んでいただけじゃないのか?


本当の強さって、戦う事じゃなく……。


もっと、建設的なことじゃないのか?


たとえば、子供を必死に育てたりする……。


もっとこう、子孫を反映させる事のほうが生物としては正解じゃないのか?


戦争なんて何も生み出さないのは、嫌って程見てきたじゃないか。


俺の夢はなんだった?


広い牧場を経営したり、飲食店を開くことじゃなかったのか?


今の俺は、人として間違ってるんじゃないのか?


やってらんね~……。


マジで……。


誰か……。


答えをくれよ。


神様……。


全知全能なら教えてくれよ。


もし、そんな神がいるならどうやっても……。


「私は……私は何も守ることが出来なかったんだ!」


おっさんが出した大きな声で、思考が止まる。


話は聞いていた。


この世界が崩壊するまでの話。


どんどん浸食を進めた悪意が、世界の意思からも核を食らい旅立っていった。


多分、すべてを吸い取る前に旅立ったんだろう……。


このおっさんだけが、メーヴェルさんのように隔離されて生き残ったらしい……。


う……。


「奴らは、私の命よりも大事な子らを……奪った!」


血涙……。


「奴らに対する憎しみで、今すぐにでも気が狂いそうだ! 憎い! 奴らが憎い!」


なんでだ?


そこまで……。


なぜこんな場所で、来るとも知れない俺を待っていた?


今すぐにでも、奴らのいる戦場へ出向きたかったんだろう?


何より、俺なんかじゃ……。


「だが! 私には分かるのだ!」


「うっ……」


鬼のような形相のおっさんが、俺の両肩をつかむ。


すでに薄い皮はできているが、つかまれた腕がひりひりとまだ痛む。


「私が……私ごときでは奴らの餌になるのが、関の山だと……」


本当に悔しそうにおっさんが、歯茎から血が出るほどくいしばっている。


震える手から、怒りと悲しみがダイレクトで伝わってくる。


「何よりも……お前に会うことで、奴らに一矢報いる可能性が出る! それが、私には分かってしまうのだ」


分かってしまう……。


ないはずの運命を、なぜあんたは分かるんだよ?


俺なんかじゃ、全知全能には……。


「いや……すまない」


おっさんは、俺に背を向ける。


背中が……。


震えてるな……。


「神である私が……人間のお前に……」


そうだな……。


期待には……。


「これ以上苦しめとは……情けない」


ん?


「何よりも、唯一可能性を持つお前でさえも……確率は微々たるものだというのに……」


可能性?


「あんた、もしかして時空の力を?」


「そうだ……」


だから、隔離されたのか。


確率か。


「その確率ってのは、どれぐらいだ?」


「聞かないほうがいいぞ。絶望的な……数字だ」


ああ!


ちくしょう!


俺ってやつは……。


情けない人間だ!


本当に自分で自分が嫌になってくる。


たかが、連敗したくらいで……。


自分の中で勝手に、強大な敵を作るなんて……。


勝手に諦めようとするなんて!


情けないにもほどがある!


くそ!


今頃になって、みんなに支えられてたことが分かるなんて……。


なくさないと、そのありがたみが理解できなんて……。


馬鹿だよ俺は……。


心が挫けそうなとき、魂だけになったとしても、自分の命が危険だったとしても……。


みんなは、俺を立ち上がらせてくれたじゃないか!


ジジィと若造が支えてくれたじゃないか!


今度は……。


今度こそ!


俺は、自分自身で立ち上がるんだ。


俺は戦う事……殺すことしかできないんだ。


自分の幸せは……。


俺が知ってるあいつらが幸せなこと!


そうだ!


もう見失うな!


たとえ、全能の神がいて!


その掌の上で、道化を演じることしかできないとしても……。


一言でいい!


うそ……。


って言わせてみせる!


予想外の答えを出してやるよ!


逃げても負けても……。


やってやるよ! こんちくしょう!


「あんたなら、俺に武器をくれるんだよな?」


「レイ?」


「それがないと、確率はゼロになるんじゃないのか?」


「しかし……」


「なら、俺が悩む時間も無駄じゃないのか?」


本当に無駄だった。


「しかし! お前はさらに苦しまねばならんぞ?」


「その上、成功する方が奇跡的ってか?」


「その通りだ」


「なら、俺の答えはただ一つ。やらずに後悔するより、やって後悔する……だ!」


そうだ。


不可避な運命があったとしても、体当たりで突き破る!


「お前は、強いのだな」


俺にはこれしかないんだよ。


「……俺は弱い。でも、やるだけはやって消えるさ」


「ふっふっふっ……。それを本当の強さというのだ。レイよ」


弱いって言ってるのに……。


頭の悪いおっさんだ。


おっさんは、俺のおかげで……。


俺は、おっさんのおかげで、少しだけ笑うことが出来た。


これも、きっと幸せの一部。


……。


何をするかは、認識している。


「私たちの仕事は、金属の中に隠された姿を掘り出すことだ」


おっさんは、置いてあった小さいほうのハンマーを俺に渡してきた。


「金属の声を聴き。それに沿うようにこれで力を加えればいい」


金属の声。


これは俺の体の一部だし、未経験でも聞き取れるか?


おっさんは、足元にあった皿のような金属に特殊な火をともした。


てか、この金属は熱で変形しないんじゃないか?


えっ!?


おいおい!


「おっさん! その火!」


「そうだ。これは、わしの魔力を変化させた物だ」


「それって、あんたの命そのものじゃないか! もう、回復もこの世界からでないと……」


おっさんは、真剣なまなざしを俺に向けている。


言葉は無粋とでも?


それだけの、覚悟って事かよ。


分かったよ。


俺に、あんたの思いごと背負えって事なんだよな。


分かったよ。


俺が差し出した金属を、おっさんは常に炎であぶるように台に固定した。


「さあ、始めよう。神剣を超えた、究極の剣を作るんだ」


「ああ」


俺とおっさんは、ハンマーを打ち付ける。


金属の声……。


すべてのものは、分解すれば原子や分子……魔力になる。


魔力の流れを……。


もっとも最小の力を読み取るんだ。


一鎚一鎚に、想いをこめてふるう。


力が欲しい。


守る力が。


守れるだけの力が!


その想いにこたえる様に、金属が変形し始める。


平たく伸び……やがて液状化していく。


それでも、この金属は恐ろしいほどの強度を保持していた。


一度まだら模様に変わると、二つに分かれた。


割れたわけではない。


もともとは二本分の量があったんだから、当然なのかもしれない。


それは、そうあるかのように二つに分かれた後……。


剣へと形を変え始めた。


交互に打っていたハンマーを、その金属に導かれるように変則的に打ち始めていた。


怒りも悲しみも喜びもすべての思いを……。


一心不乱に剣へと叩き込む。


本来、刃の部分は研ぐものだろう。


しかし、その必要はなかった。


それどころか、柄や鍔の部分まで勝手に形成されていく。


もちろん俺に、そんな技術はない。


おっさんも、それらしいことをしている節はない。


それでも、勝手にすべてが変わっていく。


これが金属の奥にあった、本来の姿なのか?


気が付くと、鞘らしきものまで……。


「ぜぇ……ぜぇ……」


ボシュっと、おっさんの魂で燃えていた火が消えた。


それは、新たな俺の武器が完成した瞬間だった。


「はぁ……はぁ……これが……」


「ぜぇぜぇ……そうだ。お前の新たな刃だ」


一本は……刀。


師匠は、元々刀を使っていたんだから……。


俺の流儀にマッチするんだろう。


でも、もう一本のこれは……。


剣? 刀?


刀っぽいけど、両刃だ。


剣に見えなくもないけど、そりや鍔は完全に刀だし……。


根元部分は、刃がないところもある。


なんだこりゃ?


「それは、鋒両刃造きっさきもろはづくりという刀だ」


きっさき……何?


この刀は……。


俺は、両手に二本の刀を持ち、振り比べていた。


う~ん……。


流石は、俺の体から出てきた刃だ。


両方とも、特性は違うようだけど……。


しっくりくる。


多分、どちらでも使えるだろうな。


違いは、たぶん違いなんて本当のぎりぎりじゃないとわからないだろう。


こいつらが、俺の新しい相棒か……。


魂も心もないが……。


これ以上の武器はないだろうな。


「これを着るといい」


ん?


鞘をいじっていたおっさんが、服を差し出してきた。


「特殊な素材で編んである。少しは役に立つだろう」


「ああ、助かる」


てか、おっさんの魔力が……。


「そして、鞘二つにもミスリルで作った鎖のベルトをつけておいた」


血が付いたぼろぼろの服を着替えると、鞘をつける。


そして、刃を鞘へと納めた。


「おっさん……あんた……」


俺が気になることを口にしようとした瞬間、大気が震えた。


そして、この世界に悪意の気配が……。


三つ。


あいつらだ。


あいつらの目的は、俺だろうな。


今なら、少しはましな戦いが……。


「待て」


「ん?」


「この世界は、私の魔力でぎりぎり維持をしている。それだけ言えばわかるな?」


おいおい……。


勘弁してくれよ。


また、こんな事なのかよ……。


「お前には、行くべき場所があるのだろう?」


「でも!」


俺は……。


俺は、あんたも守りたいんだ!


その言葉は、おっさんの強い意志のこもった目で……。


その目を見てしまったせいで、口に出せなかった。


「わかってくれるな? レイ?」


「く……」


おっさんのコア……魔力は、今にも消えそうなほど弱っていた。


俺の刃を作るのに、すべてをかけてくれたんだ。


分かってる。


多分、このまま放っておいても死ぬだろう。


でも……。


次元の狭間まで行けば、魔力の回復が。


おっさんは、それを察したように目を細める。


馬鹿だよ……。


俺なんかのために……。


「あんたは、本当に馬鹿だよ」


笑うなよ!


馬鹿野郎!


「地獄を見てなおも、その優しさ。お前にならば……いや、お前だからこそ私の全てを託せる」


なんだよ! それは!


どいつも! こいつも!


「人間とは、弱く儚いものだとばかり思っていた。しかし、神よりも強いものだと教えられた」


だから、なんだよ!


そんな事学んでも……。


あんたはもう!


「な~に……。少しは、ダメージを与えて見せる」


何をしようとしているか。


敵を道連れに、この世界ごと消えるつもりなんだろう。


俺は。


俺にできることは……。


「あんたの思い……。確かに背負った」


俺はそう言って、おっさんに背を向ける。


「すまないな。さあ、行ってくれ」


泣いたり、悩んだりが時間の無駄だってわかってるよ。


たとえ用意されたものだとしても、俺は何かを見つけないといけない。


その何かを見つけて、答えを出さないといけない。


俺が消えてなくなってしまう前に……。


****


二本の刃を持ち、世界の壁を越えて流れに走る。


流れに乗ると、もうおっさんの世界がどうなったかもわからない。


悪意は、すぎには追いかけてこなかった。


それこそが答えなんだろうな。


あの三体を待ってここで迎え撃つか?


いや、得策じゃない。


せめて、俺に有利とは言わないまでも、不利じゃない場所が必要だ。


勝つんだ。


次こそは、絶対に勝つんだ。


少なくても、あれに勝てなきゃユミルなんかに勝てるはずがない。


流れに乗りながら、頭を戦うことに向けていく。


少なくても、時空魔法で吹っ飛ばされる前より戦闘力が落ちている。


思念体達の意志力は、俺自身が高めるしかない。


覚悟をもっとしっかり持って……。


それ以上に大きいのは、ジジィと若造に任せていた魔力のコントロールだ。


強化に、フィールド、障壁に、回復と復元。


さらに、時間のコントロール。


全てを同時に処理したうえで、今までの自分がやっていたこともやるんだ。


何年か修行したいぐらいだよ。


嫌になる。


でも、今の俺には叱咤してくれるあの二人はいないんだ……。


泣き言を言ってる場合じゃないよな。


あの二人が、どっかで生きててくれることを信じて……。


やれるだけの事を……。


俺は、流れの中をひた走る。


さっきまでの流されるのではなく、走る。


今の俺には、それが可能だ。


走りながら、魔力の操作を延々繰り返す。


もう、敵に負けないために……。


あの二人にほぼ完全に任せていた、フィールドが一番厄介だな。


それでも、操作出来ないわけじゃない。


あの二人が、しっかりと俺の中にマニュアルを残してくれている。


強化もできる。


今までサボってたつけか……。


はぁ~……。


やって……。


いや……。


俺は、やらなければいけないんだ。


俺のこれは……。


封印だ。


あいつらがいないんだ。


愚痴なんて言っても、意味がないんだよな?


俺は、俺の生きている一分一秒を無駄にしないように、修練をする。


もちろん、流れを走ることも修練につながる。


先ほどまで感じ取ることも出来なかった魔力も、感じ取れるようになっている。


刃を俺自身で作る。


これも、仕組まれたことなのか?


神様は、俺を化け物にでもしたいのか?


それとも、俺自身をラスボスに?


絶対、思い通りなんかになってやるもんか!


俺は、俺自身で選択するんだ。


間違えたとしても、それでも自分で答えを出さないといけない。


俺は、頭をフル回転させ続ける。


そして、自分の中にジジィと若造以外の知識を再認識する。


俺の中に、図書館でもあるみたいだ。


思念体となった神や人からもらった、記憶の破片。


顕聖からの本もちゃんとある。


俺自身が読み込みに行かなければ、決して吸収できない。


でも、ちゃんとある。


俺は、その中から戦う知識を吸収する。


そして……。


虐げられた無念の記憶も、同時に……。


俺は、戦うために作られた。


そのせいだろうか?


その想いを吸収する事で、意志の力が強くなっていく。


偽神に作られた俺だけど、今は感謝してやるよ。


それが俺を強くしてくれるんだからな。


人間を殺すためじゃなく、守るために全力を出してやるよ。


たとえ、絶望的な確率しか俺の残ってないとしても、やってやるよ。


それが、俺のアイデンティティーなんだから。


チクリと、痛み?


うん?


回復したが、まだ左腕に違和感が残っているな。


あの攻撃は気を付けないと……。


見切れるか?


いや、見切れない時に俺は殺されるだろう。


見切るんだ。


「うおっ!」


先ほどの何倍もの速さで流れを駆け抜けた俺は、流れの終点にたどり着いた。


ここは?


「なんだこれ!?」


俺自身の体が、半透明になっている。


透けて向こうが見えてる……。


俺が流れついたのは……。


宇宙?


真っ暗な空間。


あちらこちらに、動く光が見えるだけの世界。


なんだここは?


魔力の感知もうまく働いてないのか?


わけが分からない。


ここに何があるんだ?


過去なんだよな?


くそっ!


本当に、わからないことだらけだ……。


ここに流れ着いた、本当の意味を俺はまだ知らない。


知っていればどうにか出来た、という類のものではない。


人間が、たどり着けるような場所でもない。


それでも、俺は……。

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