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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十三章:時空と真実編
53/77

一話

冷たい……。


気持ちいいな。


痛っ……。


あれ?


痛い……。


苦しい。


体が熱い。


なんだろう?


眠い……。


体が重くてたまらない。


あ……。


おでこに冷たい感覚が……。


気持ちいいな。


目の前に靄がかかっている。


あれ?


くらくらして、目が回る。


また、ひんやりと冷たい感覚がおでこに……。


女の……人?


濡れタオル?


あれ?


俺は……。


俺は何をしていたんだ?


ここは?


あれ?


よく見えない。


それにしても、体が痛い。


呼吸も……。


なんだろう?


苦しい?


息をするだけで、体が痛い。


空気をすいこめない。


なんだ?


どうしたんだ?


分からない。


何か……。


何か大事な事が、あったんじゃ……。


分からない。


苦しくて、考えがまとまらない。


えっ!?


女の人が、俺の体を拭いて……。


俺は、吐血したのか?


女の人が持っているタオルらしき物に、多分俺が出した嘔吐物と血が……。


目の前を通ったので、ギリギリ見えた。


女の人だとは分かるが、顔がはっきり見えない。


苦しい……。


俺はいったい……。


声が上手く出ない……。


痛い。


苦しい……。


俺は……。


分からない……。


何も考えられない。


喉が渇いた……。


苦しい。


喉が渇いて焼ける様に痛い。


熱い……。


水……。


声が出ない……。


目を開けているのも辛い。


喉が……。


訳の分からないまま、目を閉じた俺は深い眠りにつく。


自分が置かれている状況も、理解しないまま。


情けない。


俺は、一人じゃ何も出来ないんだ。


あ~あ……。


やってらんね~……。


それから俺は、今の様な覚醒を三回ほど続けた。


正確には、記憶に残ったのが三回だけ。


もっと、起きたかも知れない。


でも、俺は覚えていない。


覚えている事は、吐血……嘔吐かな? で、激しく苦しんだ事。


そして、おでこの濡れタオルが気持ちよかったのと、スプーンで飲ませてくれた水が嬉しかった事だけ。


全く、自分の身に何がおきているか分からない。


自分の記憶の中での四度目。


目を開けると、少しだけ気分がよくなっていた。


相変わらず体中は痛いし、吐き気とめまいはおさまっていないが、まだマシだ。


右目だけだが、視界がはっきりとした。


「……ぐっ! ああ!」


自分の状況をあらためて確認しようと、体をおこそうとしたが激痛で上手く動いてくれない。


「くっ! くそ……」


首だけでも動かない。


それに、鈍い痛みが走っている。


首の骨でも折れたのか?


くっそ!


おい! ジジィ! 若造!


……。


あ……。


そうだ……。


もう、二人はいないんだ。


ああ……。


そうだった。


もう、二人は……。


俺は、何となくそのまま天井を見つめる。


苦しくて頭がまわらない訳じゃない。


ただ……。


少し、何も考えたくなかった。


そのまま天井を、ぼーっと眺める。


本能が、思考を停止しろと言っている。


何も考えるなと……。


それでも……。


俺は、人間だ。


考えてしまう。


時空魔法で、何処かへ飛ばされたのか?


時間の逆行なら、消えて無くなるんじゃないのか?


何故?


それは、早急に確認しないとな……。


俺の中から思念体は、居なくなっている。


それは、分かる。


そして、二人も……。


いや!


落ちつくんだ。


二人は、人間の姿に戻ったし、実体もあった。


時間逆行で、剣になる前に戻ったのか?


でも、若造とジジィがほとんど同じタイミングで元に戻った。


時間を逆行しているだけなら、何千年も前のジジィが……。


そうだよ。


俺が消えて無くなってから戻るはずじゃないか。


どう言う事なんだろう?


時間の逆行じゃないのか?


それと、あの時俺にメッセージを誰かが……。


あのメッセージを信じるなら、二人は無事なはず。


何となく、嘘じゃないと思う。


確認する方法が分からない。


あの魔法自体が理解出来ない。


無事なはず……。


無事だといいな……。


あの二人は、俺より苦しい人生を送ったのに……。


馬鹿な俺が契約しちまったから、さらに苦しんだのに……。


最後まで付き合うなんて言いだす、馬鹿だけど……。


いい奴だったんだ。


本当にいい奴らだったんだ。


知識がある癖にどっか抜けてる、イースト菌中毒の賢者マリーン(ジジィ)。


口うるさく道徳を押し付けてくる、パスタ信者の聖人ライブ(若造)。


あいつら、俺より頭いいはずなのに……。


馬鹿だったよな。


「ははっ……」


俺の人生は苦しい事だらけだったのに、あいつ等の事思い出すと……。


笑えてくるじゃね~か。


あいつ等と、よく喧嘩したな。


三人で考えても、選択ミスばっかりで……。


三人で、笑ったよな。


ああ……。


ちくしょう。


最初に、ジジィと喋れるようになって……。


人の事を、小馬鹿にしやがってさ。


本当にうざいと思ってたっけ……。


それから、若造と融合して……。


やっとジジィと折り合いが付いてたのに、倫理や道徳だのと……。


五月蝿い奴だったな。


頭の中は、常に賑やかで……。


そのくせ、いい雰囲気だと気を使って黙ったりしてさ……。


ああ……くそ。


胸にあいた穴が、広がっちまったじゃね~か。


そうだよ。


俺は、あの二人が大好きだったんだ。


家族だと思ってた。


いっきに、爺ちゃんと兄ちゃんがいなくなっちまった。


クソったれ。


ジジィ……。


キモイって言ってくれよ。


若造……。


照れますけど、気持ちが悪いですねって……。


言ってくれよ。


くっそ!


寂しいじゃね~か!


俺は、何処かで……。


『何を寝ぼけておる?』


【しっかりして下さいよ】


と、二人の声が聞こえるんじゃないかと……。


聞こえて欲しいと……。


願ってしまう。


弱い俺は……。


二人の無事よりも、自分の気持ちが大事だと思ってしまう。


情けない。


俺って奴は、本当に……。


一人じゃ何も出来ない……。


はぁ~……。


涙を……。


こんな所で流すのか?


もう……。


いや!


何を考えてるんだ!


俺にはまだやる事がある!


これだけ痛いんだ!


生きてる!


そうだ!


なら、立ち上がって進まないと!


泣く事なんて、死んでからでも遅くない!


立って……いや! 這いずってでも進むんだ!


俺は、まだ何もやってない!


二人の女性の顔が、浮かぶと同時に……。


二人の戦友……家族との決別に、踏ん切りをつける。


もしもの事があったとしても、二人の分まで俺は戦わないといけない。


俺は、生きているんだから。


生きている限り、戦うんだ。


故郷で暮らしてるオリビアと……。


魂の故郷で眠りにつく、梓さんの為に。


俺は、立ち止まれない!


立ち止まっちゃいけない!


「ぐっ! あ……あ……がああ!」


痛みに耐えて、無理やり上半身をおこした。


痛みで、冷や汗が流れ落ちる。


こんな痛みなんて、クソ食らえ!


「はぁ……はぁ……はぁ……」


俺は……ベッドに寝ていたのか。


「ぐっ!」


そう言えば、首もダメージを……。


骨は折れて無いみたいだけど、少しでも動かせば激痛が……。


これは、魔道兵機との怪我より酷いな。


俺の体は……。


手当てがしてある?


右足と、両腕にギブス?


包帯が巻いてある。


もちろん、全身にも……。


「くっ……はぁ……はぁ……」


肋骨も駄目になってたんだな。


呼吸が……きつい。


俺のこの体は、完全に治るのか?


今までは、二人に助けられていた。


だが、今はそれも不可能。


何より、時間をかけてでも治ったとして……。


俺は、戦えるのか?


戦えるとして、どれだけ戦える?


次元流の奥義は、全て限界を超えた技。


回復が無い俺が使えば、すぐに再起不能になる。


それどころか、フィールドや強化なしでどうやって音速を超える?


無理だ。


おさえて人間の範囲で戦っても……。


今までの戦い方なら、すぐに行動不能になる。


敵の攻撃がかすっただけで、出血多量で死ぬのがおちだ。


体の、合成金属……。


駄目だ。


俺一人の精神力で、コントロールできるはずがない。


それどころか、まだ残ってるのか?


魔剣と聖剣は……。


駄目だろうな。


くそ……。


絶望的ってやつかよ……。


「……はははっ! い……ぐ! 痛っ!」


これくらいで心が折れるほど、情けなくはない!


体を……そう。


アンドロイドみたいにしてでも、あいつ等を殺すんだ。


俺は、その為に……その為だけに存在してるんだ。


「ん! がああ! く……くそ! この! くっ!」


ベッドのわきに置かれた、松葉杖らしきものを引きよせた。


「はぁはぁはぁはぁ……。ふん! ぐうう!」


そして、無理やりベッドから立ち上がる。


冷や汗……だけじゃなく、少し出血もしたようだ。


人間の体ってのは弱くて嫌になる。


そう言えば、女の人がいたような。


あの人が手当てしてくれたのか?


俺の寝たいた質素な小屋は、レンガ造りに木の扉……。


狭くて、ベッド以外に椅子が一つだけ……。


かなり過去にでも飛ばされたかな?


「ふ! う……はぁはぁ……ふ! んん! い……はぁはぁ」


痛みに耐え、何とか右足を引きづりながら扉を開いた。


****


これは……。


なんだ? これ?


のどかな風景が広がっている。


綺麗な池に、生い茂った草や木々。


ただ……。


空が……。


風景がおかしい。


黄土色?


いや、クリーム色か?


でも、角度によって虹色にも……。


どっかで見た様な……。


あ!


真珠だ。


クリーム色の真珠みたいな景色。


なんだここ?


こういう世界か?


まあ、いいか。


とりあえずは……。


池のほとりで、二人の人影が見えた。


テーブルとイスも……。


お茶を飲んでるのか?


くそ……。


片目だと、イマイチ距離感が……。


俺は、その二人に近づく。


万が一敵なら、一瞬で殺されるだろうな……なんて考えながら。


「おお。目が覚めたか。起き上がっても大丈夫か?」


白髪の長い髪を後頭部で結んだ爺さんが、俺に気付いて話しかけてきた。


また……長いあごひげだな……。


隣に座ってるのは……。


女の人……この人か?


この人が看病してくれていたのかな?


どれだけ寝てたんだろう?


この怪我だし……。


一週間とかか?


一ヶ月は、ないだろうけど……。


「まあ、座りなさい」


「ぐっ! ……かはっ」


椅子に座るだけでも、この痛みかよ。


「お茶と果物でも、どうかね?」


「あ……えと……」


喉は渇いている……。


でも、俺の両手は使い物にならない。


それをさっした女の人が、立ち上がり俺の口へとお茶を運んでくれた。


「んっ……ありがとう」


一度笑うと、木のくしに刺した果物を俺の口へと運んでくれた。


綺麗な人だけど……。


なんだろう?


人間味がないと言うか……。


これは、もも?


にしては……食感がリンゴみたいに堅いな。


でも、おいしい。


若干血の味がするけど、喉が渇いているから余計に……。


「もう、食事が出来るとは流石だな。特異なる者よ」


特異なる者?


俺が、この世界では異物だからか?


えっと……。


「まずは……ありがとうございます」


「いやいや、私はお前を待っていたのだ」


ん?


「あの……俺を待つ?」


「そうだ、特異なる者よ。ここは、時空の狭間[蓬莱ほうらい]」


時空?


あの魔法のせいか?


もしかして、厄介な所に……。


「わしは、顕聖二郎真君けんせいじろうしんくん。顕聖で構わない。ここで、時間を見守る者だ」


時間を見守る?


訳が分からない。


でも、神じゃない。


得体の知れない魔力は感じるけど、コアはない。


「そして、この者は香桃こうとう。お前の看病をしたのは、この娘だ」


「ありがとう。俺は……」


「レイよ。お前の事は分かっておる」


えっ!?


「わしは、時間をとおして世界を見守っておる物だ。お前の事は、知っておるのだ」


コアは無いけど……。


神様なのか?


思い込みはよくないけど……。


コアの無い神様っているのかな?


「何から、話すべきかな……」


説明をしてくれるのか。


助かる。


それにしても、呼吸がキツイな。


「わしは、お前と同じ運命より解き放たれた人間だ」


えっ?


人間なの?


「わしはお前と違い、我欲の為に修行をしてこのようになってしまった」


「我欲?」


「そう、わしは己の欲。不老不死を求めて、修行を続けたのだ。そして、一つの心理にたどり着き、時空の力を手に入れ、運命の輪から外れた」


運命の輪って……。


それに、時空の力。


「わしも、お前同様に運命にいない存在なのだ。お前の様に他人の為ではなく、所詮自分の為だったから、とても誇れる事ではないがな」


この人は……。


「心理にたどり着き、やっと己の愚かさを悟ったのだ。もう、三0年以上前の話だがな」


師匠にあった時と同じ感覚。


この人から、力を感じる。


今は、この人に頼むしかない。


力を無くした俺には、これしか……。


「ぐぐ! あ……くう!」


「どうしたのだ!?」


俺は激痛の中、地面にひれ伏す。


「はぁはぁ……。お願いです。俺に、力を下さい。なんでもします。命でも差し上げます。だから……」


えっ!?


二人が俺を支えて立たせた。


そして、椅子に座らせる。


駄目なのか?


「これほどとは……」


はっ!?


二人が、俺に頭を下げている?


「何を?」


「人は、相手に敬意を払う時、自然に頭が下がるものだ」


「敬意?」


「あれだけの苦しみを超え、失敗ともとれるこの状況。それでも挫折せず、その痛んだ体をおして人に頭を下げる」


「いや……俺は……」


「それも、自分の為ではなく人を守るために、さらに苦しむ事を厭わず……」


「俺には……」


「これほど、自分から人に頭を下げたいと思ったのは、初めての事だ。特異なる者……レイよ」


あの……。


俺は、どうすれば……。


「わしの出来る事は、全てお前に託そう。なにより……」


何より?


「そうしてほしいと、こちらから頼むはずだったのだからな」


「頼む? 何を? い……痛っ」


体中が、熱くて痛い。


「人間の未来を変えられる可能性は、わしとお前しか持っていない。そして、わしでは情けないが不可能だ」


可能性があるのに不可能?


てか、未来を変える?


「運命から外れてしまった者しか、本当の意味で運命を変える事は出来ない」


それで、可能性か……。


「そして、全てを変える力はわしには無い。お前だけなのだ」


それで、不可能ね。


出来るなら、そうしたい。


でも、今の俺は……。


「あらためて頼もう。人間と世界の未来を変えて欲しい」


「分かった。出来る事はする。でも……」


自分の体を、片方の目だけで見る。


首を下げるだけで、激痛を伴う。


血だらけの包帯……。


「今の俺は、普通の人間以下だ。回復とかって、出来ますか?」


「自分で認識していないようだな」


何が?


「ここへお前が来て、どれほどの時間がたったか分かるか?」


「え……三日……くらいですか?」


「四時間だ」


「はい?」


「血が乾ききっていないだろう? それが、証拠だ」


そう言えば……。


吐血してたから、新しい血なんだと思ってた。


でも、四時間だけ?


それだけなのか?


「お前は、何も失ってなどいない。答えは、自分のなかにある」


何を言ってるんだ?


答えが自分の中に?


どう言う事だよ?


「分かりません。どう言う事ですか?」


「それを、自分で探すのが最初の修行だ」


なるほどね……。


「あの、桃の木の下で、自分の体と魂に問いかけるがいい」


桃の木?


あれか……。


「ふん! う……ぐっ!」


****


痛みに耐えて立ち上がろうとすると、二人が支えてくれた。


そして、木の下へと座らせてくれた。


「わしから言うべき事は、人間に限界など存在しない。そして、答えはお前の中にある」


俺の中に答えが……。


分からない……。


俺が、四時間でこうなったのも理由があるのか?


限界は無い?


体と魂?


どうする?


俺は、木にもたれ掛り目を瞑る。


「はぁ……はぁ……」


今も呼吸するだけで、苦しい……。


ジジィみたいに、回復が使えれば……。


風がふき、炎症でほてった体を少しだけ冷やしてくれる。


気持ちいい……。


風……。


木の葉が揺れる音……。


風の音……。


俺の感覚は、目を閉じているのに外の世界の情報を伝えてくる。


風に大地に……魔力……。


徐々に意識が、体の内側へと向いていった。


外からの音が消え……。


心臓の鼓動が、大きく聞こえる。


左目……。


首の筋肉……。


両腕……。


肋骨……。


内臓……。


右足……。


使い物にならないな……。


体の中のイメージが、頭の中で出来上がる。


俺の意識は自分の血の流れに乗って、体の隅々まで行き渡った。


体中がボロボロだ。


自分の体は分かった……。


魂……。


魂か……。


俺のイメージは、自分自身の魔力へと向けられる。


体を循環している魔力。


魂から流れ出し、消費されて魂へと帰ってくる。


俺の魔力……。


今までは、ジジィが管理してくれていた魔力。


人間の純粋な魔力……。


いや、俺の魔力は変質してたんだよな。


他人を回復させるには、魔力を純粋な物へと変換させてた。


なら……。


この魔力はなんだ?


俺の体に、異質の魔力を感知する。


俺の体から……。


あ……。


ああ……。


ミスリル……。


オリハルコン……。


賢者の石……。


そうだ。


それは、不滅の物質。


時に左右されない。


黒と白の魔力をたどり、俺はたどり着いた。


戦友が残してくれた……。


力に。


根性の曲がったあいつ等らしい……。


「ははっ……」


酷く分かり難い場所に隠してあった。


俺の魂……。


その奥にそれはあった……。


完全に融合しているわけではない。


魂とコアは別だ。


でも、全く同じ場所にある。


ミスリル、オリハルコン、賢者の石が結合して……。


俺の中に存在している。


体中の合成金属も、変わりなく残っている。


俺の体と、完全に融合している。


物理的にも、魔力的にも……。


何も失っていないか……。


確かにそうだ。


あの二人が、力を残してくれたんだ。


さあ、魔力は十分にある。


****


「掴んだか……」


俺の全身から噴き出す煙を見て、顕聖が呟く。


両手を覆っていた灰色の光が消えると、目を開き包帯をとる。


辺りは、既に真っ暗になっていた。


「掴んだようだな」


「ああ。二人は、俺に力を残してくれた」


「その通りだ」


今までとの違いは、魔力のコントロールを全て自分でやらないといけない。


回復に障壁も……。


それでも、戦える。


これで、戦えるんだ。


お節介なあいつ等らしい……。


いなくなっても、俺を支えるのかよ。


さあ、やろう。


俺は、魔剣と聖剣を呼び出す要領で、体内のそれを体外へと排出する。


ひし形の金属が、俺の手の中に浮いている。


白と黒が混ざり……。


灰色ではなく、鉄の様に銀色に光っている。


これが、完全に合成された二つの伝説上の金属。


この金属には、多分名前はない。


あったとしても、俺は知らない。


剣の形は成していない。


それでも……。


何故か、目頭が熱くなる。


俺の大事な宝物だ。


「見事だ」


「俺の中にある。確かに、戦うための全てが全部あったよ」


「その通りだ。お前は何も失っていない」


全部あったよ。


俺の中に……。


二人が残してくれたんだ。


「その金属は……ヒヒイロカネと呼んではどうかな?」


えっ!?


いや……。


「気に入ってくれたようだな」


勝手に……。


勝手にきめられた!


恩人だし……。


嫌だって言えないよね……。


「では、今日からその金属はヒヒイロカネだ」


拒否権はなさそうだ……。


変な名前……。


はぁ~……。


やってらんね~……。

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