一話
冷たい……。
気持ちいいな。
痛っ……。
あれ?
痛い……。
苦しい。
体が熱い。
なんだろう?
眠い……。
体が重くてたまらない。
あ……。
おでこに冷たい感覚が……。
気持ちいいな。
目の前に靄がかかっている。
あれ?
くらくらして、目が回る。
また、ひんやりと冷たい感覚がおでこに……。
女の……人?
濡れタオル?
あれ?
俺は……。
俺は何をしていたんだ?
ここは?
あれ?
よく見えない。
それにしても、体が痛い。
呼吸も……。
なんだろう?
苦しい?
息をするだけで、体が痛い。
空気をすいこめない。
なんだ?
どうしたんだ?
分からない。
何か……。
何か大事な事が、あったんじゃ……。
分からない。
苦しくて、考えがまとまらない。
えっ!?
女の人が、俺の体を拭いて……。
俺は、吐血したのか?
女の人が持っているタオルらしき物に、多分俺が出した嘔吐物と血が……。
目の前を通ったので、ギリギリ見えた。
女の人だとは分かるが、顔がはっきり見えない。
苦しい……。
俺はいったい……。
声が上手く出ない……。
痛い。
苦しい……。
俺は……。
分からない……。
何も考えられない。
喉が渇いた……。
苦しい。
喉が渇いて焼ける様に痛い。
熱い……。
水……。
声が出ない……。
目を開けているのも辛い。
喉が……。
訳の分からないまま、目を閉じた俺は深い眠りにつく。
自分が置かれている状況も、理解しないまま。
情けない。
俺は、一人じゃ何も出来ないんだ。
あ~あ……。
やってらんね~……。
それから俺は、今の様な覚醒を三回ほど続けた。
正確には、記憶に残ったのが三回だけ。
もっと、起きたかも知れない。
でも、俺は覚えていない。
覚えている事は、吐血……嘔吐かな? で、激しく苦しんだ事。
そして、おでこの濡れタオルが気持ちよかったのと、スプーンで飲ませてくれた水が嬉しかった事だけ。
全く、自分の身に何がおきているか分からない。
自分の記憶の中での四度目。
目を開けると、少しだけ気分がよくなっていた。
相変わらず体中は痛いし、吐き気とめまいはおさまっていないが、まだマシだ。
右目だけだが、視界がはっきりとした。
「……ぐっ! ああ!」
自分の状況をあらためて確認しようと、体をおこそうとしたが激痛で上手く動いてくれない。
「くっ! くそ……」
首だけでも動かない。
それに、鈍い痛みが走っている。
首の骨でも折れたのか?
くっそ!
おい! ジジィ! 若造!
……。
あ……。
そうだ……。
もう、二人はいないんだ。
ああ……。
そうだった。
もう、二人は……。
俺は、何となくそのまま天井を見つめる。
苦しくて頭がまわらない訳じゃない。
ただ……。
少し、何も考えたくなかった。
そのまま天井を、ぼーっと眺める。
本能が、思考を停止しろと言っている。
何も考えるなと……。
それでも……。
俺は、人間だ。
考えてしまう。
時空魔法で、何処かへ飛ばされたのか?
時間の逆行なら、消えて無くなるんじゃないのか?
何故?
それは、早急に確認しないとな……。
俺の中から思念体は、居なくなっている。
それは、分かる。
そして、二人も……。
いや!
落ちつくんだ。
二人は、人間の姿に戻ったし、実体もあった。
時間逆行で、剣になる前に戻ったのか?
でも、若造とジジィがほとんど同じタイミングで元に戻った。
時間を逆行しているだけなら、何千年も前のジジィが……。
そうだよ。
俺が消えて無くなってから戻るはずじゃないか。
どう言う事なんだろう?
時間の逆行じゃないのか?
それと、あの時俺にメッセージを誰かが……。
あのメッセージを信じるなら、二人は無事なはず。
何となく、嘘じゃないと思う。
確認する方法が分からない。
あの魔法自体が理解出来ない。
無事なはず……。
無事だといいな……。
あの二人は、俺より苦しい人生を送ったのに……。
馬鹿な俺が契約しちまったから、さらに苦しんだのに……。
最後まで付き合うなんて言いだす、馬鹿だけど……。
いい奴だったんだ。
本当にいい奴らだったんだ。
知識がある癖にどっか抜けてる、イースト菌中毒の賢者マリーン(ジジィ)。
口うるさく道徳を押し付けてくる、パスタ信者の聖人ライブ(若造)。
あいつら、俺より頭いいはずなのに……。
馬鹿だったよな。
「ははっ……」
俺の人生は苦しい事だらけだったのに、あいつ等の事思い出すと……。
笑えてくるじゃね~か。
あいつ等と、よく喧嘩したな。
三人で考えても、選択ミスばっかりで……。
三人で、笑ったよな。
ああ……。
ちくしょう。
最初に、ジジィと喋れるようになって……。
人の事を、小馬鹿にしやがってさ。
本当にうざいと思ってたっけ……。
それから、若造と融合して……。
やっとジジィと折り合いが付いてたのに、倫理や道徳だのと……。
五月蝿い奴だったな。
頭の中は、常に賑やかで……。
そのくせ、いい雰囲気だと気を使って黙ったりしてさ……。
ああ……くそ。
胸にあいた穴が、広がっちまったじゃね~か。
そうだよ。
俺は、あの二人が大好きだったんだ。
家族だと思ってた。
いっきに、爺ちゃんと兄ちゃんがいなくなっちまった。
クソったれ。
ジジィ……。
キモイって言ってくれよ。
若造……。
照れますけど、気持ちが悪いですねって……。
言ってくれよ。
くっそ!
寂しいじゃね~か!
俺は、何処かで……。
『何を寝ぼけておる?』
【しっかりして下さいよ】
と、二人の声が聞こえるんじゃないかと……。
聞こえて欲しいと……。
願ってしまう。
弱い俺は……。
二人の無事よりも、自分の気持ちが大事だと思ってしまう。
情けない。
俺って奴は、本当に……。
一人じゃ何も出来ない……。
はぁ~……。
涙を……。
こんな所で流すのか?
もう……。
いや!
何を考えてるんだ!
俺にはまだやる事がある!
これだけ痛いんだ!
生きてる!
そうだ!
なら、立ち上がって進まないと!
泣く事なんて、死んでからでも遅くない!
立って……いや! 這いずってでも進むんだ!
俺は、まだ何もやってない!
二人の女性の顔が、浮かぶと同時に……。
二人の戦友……家族との決別に、踏ん切りをつける。
もしもの事があったとしても、二人の分まで俺は戦わないといけない。
俺は、生きているんだから。
生きている限り、戦うんだ。
故郷で暮らしてるオリビアと……。
魂の故郷で眠りにつく、梓さんの為に。
俺は、立ち止まれない!
立ち止まっちゃいけない!
「ぐっ! あ……あ……がああ!」
痛みに耐えて、無理やり上半身をおこした。
痛みで、冷や汗が流れ落ちる。
こんな痛みなんて、クソ食らえ!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
俺は……ベッドに寝ていたのか。
「ぐっ!」
そう言えば、首もダメージを……。
骨は折れて無いみたいだけど、少しでも動かせば激痛が……。
これは、魔道兵機との怪我より酷いな。
俺の体は……。
手当てがしてある?
右足と、両腕にギブス?
包帯が巻いてある。
もちろん、全身にも……。
「くっ……はぁ……はぁ……」
肋骨も駄目になってたんだな。
呼吸が……きつい。
俺のこの体は、完全に治るのか?
今までは、二人に助けられていた。
だが、今はそれも不可能。
何より、時間をかけてでも治ったとして……。
俺は、戦えるのか?
戦えるとして、どれだけ戦える?
次元流の奥義は、全て限界を超えた技。
回復が無い俺が使えば、すぐに再起不能になる。
それどころか、フィールドや強化なしでどうやって音速を超える?
無理だ。
おさえて人間の範囲で戦っても……。
今までの戦い方なら、すぐに行動不能になる。
敵の攻撃がかすっただけで、出血多量で死ぬのがおちだ。
体の、合成金属……。
駄目だ。
俺一人の精神力で、コントロールできるはずがない。
それどころか、まだ残ってるのか?
魔剣と聖剣は……。
駄目だろうな。
くそ……。
絶望的ってやつかよ……。
「……はははっ! い……ぐ! 痛っ!」
これくらいで心が折れるほど、情けなくはない!
体を……そう。
アンドロイドみたいにしてでも、あいつ等を殺すんだ。
俺は、その為に……その為だけに存在してるんだ。
「ん! がああ! く……くそ! この! くっ!」
ベッドのわきに置かれた、松葉杖らしきものを引きよせた。
「はぁはぁはぁはぁ……。ふん! ぐうう!」
そして、無理やりベッドから立ち上がる。
冷や汗……だけじゃなく、少し出血もしたようだ。
人間の体ってのは弱くて嫌になる。
そう言えば、女の人がいたような。
あの人が手当てしてくれたのか?
俺の寝たいた質素な小屋は、レンガ造りに木の扉……。
狭くて、ベッド以外に椅子が一つだけ……。
かなり過去にでも飛ばされたかな?
「ふ! う……はぁはぁ……ふ! んん! い……はぁはぁ」
痛みに耐え、何とか右足を引きづりながら扉を開いた。
****
これは……。
なんだ? これ?
のどかな風景が広がっている。
綺麗な池に、生い茂った草や木々。
ただ……。
空が……。
風景がおかしい。
黄土色?
いや、クリーム色か?
でも、角度によって虹色にも……。
どっかで見た様な……。
あ!
真珠だ。
クリーム色の真珠みたいな景色。
なんだここ?
こういう世界か?
まあ、いいか。
とりあえずは……。
池のほとりで、二人の人影が見えた。
テーブルとイスも……。
お茶を飲んでるのか?
くそ……。
片目だと、イマイチ距離感が……。
俺は、その二人に近づく。
万が一敵なら、一瞬で殺されるだろうな……なんて考えながら。
「おお。目が覚めたか。起き上がっても大丈夫か?」
白髪の長い髪を後頭部で結んだ爺さんが、俺に気付いて話しかけてきた。
また……長いあごひげだな……。
隣に座ってるのは……。
女の人……この人か?
この人が看病してくれていたのかな?
どれだけ寝てたんだろう?
この怪我だし……。
一週間とかか?
一ヶ月は、ないだろうけど……。
「まあ、座りなさい」
「ぐっ! ……かはっ」
椅子に座るだけでも、この痛みかよ。
「お茶と果物でも、どうかね?」
「あ……えと……」
喉は渇いている……。
でも、俺の両手は使い物にならない。
それをさっした女の人が、立ち上がり俺の口へとお茶を運んでくれた。
「んっ……ありがとう」
一度笑うと、木のくしに刺した果物を俺の口へと運んでくれた。
綺麗な人だけど……。
なんだろう?
人間味がないと言うか……。
これは、もも?
にしては……食感がリンゴみたいに堅いな。
でも、おいしい。
若干血の味がするけど、喉が渇いているから余計に……。
「もう、食事が出来るとは流石だな。特異なる者よ」
特異なる者?
俺が、この世界では異物だからか?
えっと……。
「まずは……ありがとうございます」
「いやいや、私はお前を待っていたのだ」
ん?
「あの……俺を待つ?」
「そうだ、特異なる者よ。ここは、時空の狭間[蓬莱]」
時空?
あの魔法のせいか?
もしかして、厄介な所に……。
「わしは、顕聖二郎真君。顕聖で構わない。ここで、時間を見守る者だ」
時間を見守る?
訳が分からない。
でも、神じゃない。
得体の知れない魔力は感じるけど、コアはない。
「そして、この者は香桃。お前の看病をしたのは、この娘だ」
「ありがとう。俺は……」
「レイよ。お前の事は分かっておる」
えっ!?
「わしは、時間をとおして世界を見守っておる物だ。お前の事は、知っておるのだ」
コアは無いけど……。
神様なのか?
思い込みはよくないけど……。
コアの無い神様っているのかな?
「何から、話すべきかな……」
説明をしてくれるのか。
助かる。
それにしても、呼吸がキツイな。
「わしは、お前と同じ運命より解き放たれた人間だ」
えっ?
人間なの?
「わしはお前と違い、我欲の為に修行をしてこのようになってしまった」
「我欲?」
「そう、わしは己の欲。不老不死を求めて、修行を続けたのだ。そして、一つの心理にたどり着き、時空の力を手に入れ、運命の輪から外れた」
運命の輪って……。
それに、時空の力。
「わしも、お前同様に運命にいない存在なのだ。お前の様に他人の為ではなく、所詮自分の為だったから、とても誇れる事ではないがな」
この人は……。
「心理にたどり着き、やっと己の愚かさを悟ったのだ。もう、三0年以上前の話だがな」
師匠にあった時と同じ感覚。
この人から、力を感じる。
今は、この人に頼むしかない。
力を無くした俺には、これしか……。
「ぐぐ! あ……くう!」
「どうしたのだ!?」
俺は激痛の中、地面にひれ伏す。
「はぁはぁ……。お願いです。俺に、力を下さい。なんでもします。命でも差し上げます。だから……」
えっ!?
二人が俺を支えて立たせた。
そして、椅子に座らせる。
駄目なのか?
「これほどとは……」
はっ!?
二人が、俺に頭を下げている?
「何を?」
「人は、相手に敬意を払う時、自然に頭が下がるものだ」
「敬意?」
「あれだけの苦しみを超え、失敗ともとれるこの状況。それでも挫折せず、その痛んだ体をおして人に頭を下げる」
「いや……俺は……」
「それも、自分の為ではなく人を守るために、さらに苦しむ事を厭わず……」
「俺には……」
「これほど、自分から人に頭を下げたいと思ったのは、初めての事だ。特異なる者……レイよ」
あの……。
俺は、どうすれば……。
「わしの出来る事は、全てお前に託そう。なにより……」
何より?
「そうしてほしいと、こちらから頼むはずだったのだからな」
「頼む? 何を? い……痛っ」
体中が、熱くて痛い。
「人間の未来を変えられる可能性は、わしとお前しか持っていない。そして、わしでは情けないが不可能だ」
可能性があるのに不可能?
てか、未来を変える?
「運命から外れてしまった者しか、本当の意味で運命を変える事は出来ない」
それで、可能性か……。
「そして、全てを変える力はわしには無い。お前だけなのだ」
それで、不可能ね。
出来るなら、そうしたい。
でも、今の俺は……。
「あらためて頼もう。人間と世界の未来を変えて欲しい」
「分かった。出来る事はする。でも……」
自分の体を、片方の目だけで見る。
首を下げるだけで、激痛を伴う。
血だらけの包帯……。
「今の俺は、普通の人間以下だ。回復とかって、出来ますか?」
「自分で認識していないようだな」
何が?
「ここへお前が来て、どれほどの時間がたったか分かるか?」
「え……三日……くらいですか?」
「四時間だ」
「はい?」
「血が乾ききっていないだろう? それが、証拠だ」
そう言えば……。
吐血してたから、新しい血なんだと思ってた。
でも、四時間だけ?
それだけなのか?
「お前は、何も失ってなどいない。答えは、自分のなかにある」
何を言ってるんだ?
答えが自分の中に?
どう言う事だよ?
「分かりません。どう言う事ですか?」
「それを、自分で探すのが最初の修行だ」
なるほどね……。
「あの、桃の木の下で、自分の体と魂に問いかけるがいい」
桃の木?
あれか……。
「ふん! う……ぐっ!」
****
痛みに耐えて立ち上がろうとすると、二人が支えてくれた。
そして、木の下へと座らせてくれた。
「わしから言うべき事は、人間に限界など存在しない。そして、答えはお前の中にある」
俺の中に答えが……。
分からない……。
俺が、四時間でこうなったのも理由があるのか?
限界は無い?
体と魂?
どうする?
俺は、木にもたれ掛り目を瞑る。
「はぁ……はぁ……」
今も呼吸するだけで、苦しい……。
ジジィみたいに、回復が使えれば……。
風がふき、炎症でほてった体を少しだけ冷やしてくれる。
気持ちいい……。
風……。
木の葉が揺れる音……。
風の音……。
俺の感覚は、目を閉じているのに外の世界の情報を伝えてくる。
風に大地に……魔力……。
徐々に意識が、体の内側へと向いていった。
外からの音が消え……。
心臓の鼓動が、大きく聞こえる。
左目……。
首の筋肉……。
両腕……。
肋骨……。
内臓……。
右足……。
使い物にならないな……。
体の中のイメージが、頭の中で出来上がる。
俺の意識は自分の血の流れに乗って、体の隅々まで行き渡った。
体中がボロボロだ。
自分の体は分かった……。
魂……。
魂か……。
俺のイメージは、自分自身の魔力へと向けられる。
体を循環している魔力。
魂から流れ出し、消費されて魂へと帰ってくる。
俺の魔力……。
今までは、ジジィが管理してくれていた魔力。
人間の純粋な魔力……。
いや、俺の魔力は変質してたんだよな。
他人を回復させるには、魔力を純粋な物へと変換させてた。
なら……。
この魔力はなんだ?
俺の体に、異質の魔力を感知する。
俺の体から……。
あ……。
ああ……。
ミスリル……。
オリハルコン……。
賢者の石……。
そうだ。
それは、不滅の物質。
時に左右されない。
黒と白の魔力をたどり、俺はたどり着いた。
戦友が残してくれた……。
力に。
根性の曲がったあいつ等らしい……。
「ははっ……」
酷く分かり難い場所に隠してあった。
俺の魂……。
その奥にそれはあった……。
完全に融合しているわけではない。
魂とコアは別だ。
でも、全く同じ場所にある。
ミスリル、オリハルコン、賢者の石が結合して……。
俺の中に存在している。
体中の合成金属も、変わりなく残っている。
俺の体と、完全に融合している。
物理的にも、魔力的にも……。
何も失っていないか……。
確かにそうだ。
あの二人が、力を残してくれたんだ。
さあ、魔力は十分にある。
****
「掴んだか……」
俺の全身から噴き出す煙を見て、顕聖が呟く。
両手を覆っていた灰色の光が消えると、目を開き包帯をとる。
辺りは、既に真っ暗になっていた。
「掴んだようだな」
「ああ。二人は、俺に力を残してくれた」
「その通りだ」
今までとの違いは、魔力のコントロールを全て自分でやらないといけない。
回復に障壁も……。
それでも、戦える。
これで、戦えるんだ。
お節介なあいつ等らしい……。
いなくなっても、俺を支えるのかよ。
さあ、やろう。
俺は、魔剣と聖剣を呼び出す要領で、体内のそれを体外へと排出する。
ひし形の金属が、俺の手の中に浮いている。
白と黒が混ざり……。
灰色ではなく、鉄の様に銀色に光っている。
これが、完全に合成された二つの伝説上の金属。
この金属には、多分名前はない。
あったとしても、俺は知らない。
剣の形は成していない。
それでも……。
何故か、目頭が熱くなる。
俺の大事な宝物だ。
「見事だ」
「俺の中にある。確かに、戦うための全てが全部あったよ」
「その通りだ。お前は何も失っていない」
全部あったよ。
俺の中に……。
二人が残してくれたんだ。
「その金属は……ヒヒイロカネと呼んではどうかな?」
えっ!?
いや……。
「気に入ってくれたようだな」
勝手に……。
勝手にきめられた!
恩人だし……。
嫌だって言えないよね……。
「では、今日からその金属はヒヒイロカネだ」
拒否権はなさそうだ……。
変な名前……。
はぁ~……。
やってらんね~……。




