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Mr.NO-GOOD´EX  作者: 慎之介
第十二章:闇の深淵と神々編
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十三話

嘘だろ……。


俺は、自分の失敗が信じられないでいた。


命をかければ……。


自分の全てをかければ、死んだとしても何とかなるんじゃないか?


今までがそうだったんだから。


と、何処かで思っていたのかもしれない。


気を抜いたつもりはなかった。


でも、気が抜けていたのかも知れない。


自分で自分が信じられない。


分からない。


何も……。


何も……。


ちくしょう……。


やってはいけない失敗をした。


折角皆が信頼してくれたのに……。


皆が託してくれたのに……。


あ~……。


ちくしょう……。


やってらんね~……。


俺は、背中が何かに引っ張られる……。


いや、背中からまるで井戸にでも落下している様な感覚に、おそわれていた。


抵抗できない。


体が……。


動かない。


動いてくれない。


【くっ! これは……】


『なんじゃ!? これは!?』


くそ……時空魔法?


時空魔法って何だ!?


『分からん! 体は動かんか!?』


駄目だ。


さっきから魔力も込めてるけど……。


全く動かない。


ギリギリ、両腕が少しだけあがるくらいしか……。


【障壁も展開できません!】


真っ暗な空間を、凄い速度で落下していく。


なんだ?


どうなるんだ!?


くっそ……。


徐々に、真っ暗だった景色に、光の点が見え始めた。


あれは?


【分かりません】


その点は、見渡す限り均等に広がっている。


数は多過ぎて分からない。


ここはなんなんだ!?


(ぐっ! ああああ!)


えっ!?


最初の変化は、頭の中に響いた悲鳴だった。


それが誰の物かは、すぐに分かった。


(きゃああああああ!)


(がああぁぁぁ!)


俺が取り込んだ思念体。


その断末魔の様な声が、聞こえる。


俺自身の頭の中から。


『なんじゃ!? 何が起こっておる?』


分からない……。


どうしたんだよ?


おい。


おいって!


(ぎゃああああ!)


えっ!?


俺の体から、思念体が浮き出してきた。


俺と落下速度が違うように、俺との距離を広げ……。


半透明な体が霧散した。


なんだよ!? これ!?


それは、最初の一人にとどまらず、どんどん後に続く。


共通点は、何かを求める様に俺に向かって、皆が手を伸ばす。


数えきれないほどの思念体が、俺の体から浮き出すと空中で霧散していく。


なんだよ!?


どうなってるんだよ!?


ああ!


何とか持ち上げた手で、思念体の手を掴もうとするが、俺の手はそいつらの手をすり抜けて掴めない。


【時空魔法……】


いったいなんだよ!


怒りや悲しみの顔で、思念体達が消えていく。


俺は、それをただ眺める事しか出来ない。


俺も、こいつらみたいに死ぬって事なのか?


それとも、俺は死んでる真っ最中なのか!?


『時空……そうか! 時間を操作されたんじゃ!』


えっ!?


『推測じゃが、ユミルの最後の言葉に人間とあった』


あ……。


神に時間は関係ない……。


『そうじゃ! 人間であるお前には、このように効果絶大でも、神にはほとんど効果が無いじゃろう』


じゃあ……。


【時間を巻き戻されているんですか?】


『分からん。時間には、過去から未来に進む以外の力もあると言う』


じゃあ、俺はこのまま消えて無くなるのか?


『分からん……』


くっそ……。


ここまで来て……。


全部無駄だったのかよ……。


くそ……。


こんな所で終わるのかよ……。


こんな情けない……。


今までの俺はなんだったんだよ!


くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


何が、全てを賭けてだ……。


何が、皆の想いを背負ってだよ……。


何も出来ないじゃないか……。


何も出来なかったじゃないか……。


何も……。


俺は、何のために……。


しばらくすると、俺の中から思念体が出尽くしたのか、声がしなくなった。


もちろん、体からはもう何も出てこない。


時間が、あの戦いの前に戻ったのか?


『いや……魔力は保有したままじゃ。時間を巻き戻しているのではないのか!?』


くそ……。


訳の分からないまま終わるのか……。


脳裏に、思念体達の表情が焼きついている。


何もしてやれなかった……。


背負うって約束したのに……。


俺は、嘘付きだ。


最低の嘘付きだ。


【えっ!?】


どうした!?


嘘……だろ……。


「そんな! 私の体が!?」


俺の左腕から光が漏れ出し、人間だった若造ライブになる。


『馬鹿な!』


ジジィ!


「ぬうう! 馬鹿な!」


ジジィまで!?


ちくしょう……。


「レイ!」


「若造!」


「レイよ!」


「ジジィ!」


二人に伸ばした手は、しっかりと二人の手を握った。


実体がある!?


どうなってるんだ!?


「ぐうう! わしは! お前と死ぬまで!」


「こ……の! 引っ張られて! レイ! 私は! 私は!」


「ジジィ! 若造! くそ! くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


≪右に見える光に、二人を投げ込みなさい≫


えっ!?


俺の頭の中に……。


声じゃない。


文字そのものが浮かんできた。


これは……。


≪早く≫


≪二人が消滅してしまいます≫


俺は……。


「ぐ! があああ! このぉぉ! くそっ……たれぇぇぇぇぇぇ!」


「レイ!?」


「どうしたんじゃ!?」


物凄い圧力の中、全ての力を使って……。


二人を光へと投げ込んだ。


最初に、肋骨と右足が砕けた。


そして、両腕がねじれ……骨が砕け、肉が弾け飛んだ。


「レイ! 私は! まだ……」


手を振り抜いた勢いで傾けた首からは、肉の引きちぎれる音が聞こえた。


最後に、左目が赤一色になった後、真っ暗になり何も見えなくなった。


「死ぬなぁぁぁぁぁぁぁ! 死ぬならわしが……」


二人が光に吸い込まれ、居なくなった。


このくらいの痛みは慣れている。


回復……。


あ……。


そうか……。


ジジィも若造もいないんだ。


これで、本当によかったのか?


≪大丈夫です≫


≪二人は、助かりました≫


そうか……。


よかった……。


何故か……。


信じられた。


理由は分からない。


まあ、二人が助かったならいいや……。


ここで、俺と一緒に消滅する事はない。


何も出来なかった俺なんかと、同じ結末なんて……。


≪三つの鍵≫


あ?


≪時の始めりと、終りを確かめなさい≫


何の事だ?


≪彼の時で、待っていますよ。レイ≫


俺は、死ぬんじゃないのか?


おい!


その文字を書いた主が、俺から離れるのが何となく分かってしまった。


待てよ!


まだ……。


「がっ!」


****


俺は、何かの強い衝撃を受けて……。


真っ暗な闇へと落ちて行く。


真っ暗な世界。


何もない……。


真っ暗なのに、自分の姿だけやけにはっきり見える。


これは……。


ここは何処だ!?


俺はいったい……。


誰もいないのか?


え?


気が付くと、俺は消えたはずの思念体達に取り囲まれていた。


いや……。


それだけじゃない。


人だけじゃない。


あれは、俺が殺したモンスター!?


悪魔達に……。


そいつらは、無表情のまま俺をじっと見つめている。


そうか……。


俺は、これだけの想いと怨みを背負っていたのか……。


皆の想いを背負って……。


これだけの敵の屍で、道を作って進んだ。


これだけの事をして、全て無駄だったんだな。


謝って許されるレベルじゃない。


俺を見ているのは……。


恨めしいからだよな?


殺したいからだよな?


そうか……。


ここは地獄なんだな?


どうするんだ?


俺が苦しみ続けるように、拷問でもするか?


永遠に?


お前等の気が済むなら、好きにしてくれ。


俺は、失敗したんだ。


お前等の想いに応えられなかった。


お前等を殺す事しか出来なかった。


もしかしたら、俺じゃなければ……。


分かってる。


もう、どうしようもない。


俺は、間違えてるかも知れないと何処かで思いながら……。


それでも、真っ直ぐに進んじまった。


想いを背負……いや……。


人の想いを踏みにじりながら……。


殺し続けた。


敵どころか……。


好きになった人を……守ると約束した人を殺した。


そんな力だから……。


愛した神様を、守れずに殺しちまった。


俺が、幸せなんか望んだから。


こんな歪んだ俺が、世界の未来なんて望んだから。


本当に殺されるべきは、俺だ。


死ぬべきだったのは俺だ。


俺の目の前に、オリビアと梓さんの姿が現れた。


二人とも……。


泣かないでよ。


ああ……。


ちくしょう。


何がいけなかった?


どうすればよかった?


死ねばよかったのか?


そうすれば、この二人は幸せになったのか?


世界どころじゃない。


俺は、愛した二人すら守れなかったんだ。


死ねばよかったのか?


なあ?


答えろよ!


答えてくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


悔しい……。


悔しくてたまらない。


自分の馬鹿さ加減が、許せない。


自分の弱さが、悔しくてたまらない。


どうすればよかったんだよ!


誰か、教えてくれよ!


頼むよ!


頼むから……。


俺は、まだ何も……。


何も守れて無いんだ。


何でもするから!


死んだ方がましだと思う苦しみでも!


何でも!


何時まででも!


永遠だって構わない!


未来永劫苦しみ続けろって言うなら、それでいいから!


俺に守る力をくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


願っても、祈っても……。


無駄だと分かってる。


でも、今の俺には……。


あ~……。


情けない。


最後まで、俺って奴は……。


本当に情けない。


弱いから、願う事しか出来ないのか?


他人に頼るしかないのか?


なんて、情けないんだ。


頑張った?


俺は、自分で出来る限り頑張った?


はっ!


この期に及んで、自分に言い訳してどうなる?


俺の頑張りなんて、ゴミクズ以下だろうが。


何より、無駄だったんだ。


結果を残せなかったんだ。


生きてること自体が、罪だったんだから……。


俺の存在なんて、世界からすれば百害あって一利なしじゃないか。


あ~……。


やってらんね~……。




「ここで諦める? レイ?」


オ……リ……ビア?


「誰も責めはせんぞ?」


梓さん。


「もう、十分頑張ったもんね」


えっ?


「これ以上生きても、余計に苦しむだけじゃ」


俺は……。


「ここで、終りにしても誰もレイを責めないわ。ね?」


「その通りじゃ。さあ、目を閉じよ」


俺は……。


「永遠の安らぎが待ってるわ。さあ」


「さあ」


ああ。


ちくしょう。


俺って奴は……。


「ありがとう、二人とも。俺は、また間違える所だった」


二人が……。


笑ってくれた。


「俺は、まだ死ねない。自分で決めたこの道を、歩ききってないから」


二人が、笑いながら同じ方向を指差した。


そこには、さっきまで無かったはずの光があった。


守れなかった女に支えられるなんて……。


本当に、情けない俺らしい。




さあ!


行こう!!

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