十二話
俺の視界には、魔力をすべてが見える魔眼の力と、物理的な力や術の性質などを見切る神眼の力が付加された。
ただの人間である俺には、望んでも手に入らない見る力。
まともにやり合えば、師匠どころか、双子神にも勝てないだろうな。
所詮俺は人間だから。
でも……。
「おおおおお!」
<メテオストライク>!
全ての動きが予測できた俺は、一振りで三体のコアを消滅させた。
でも、俺には見えないからこそ予測という力が付いた。
俺は、弱いからさ……。
足掻くしかない。
『来たぞ!』
【障壁を再展開します! それまで……】
足掻いて……。
足掻いて……。
死ぬまで……消えて無くなるまで足掻けば。
一つぐらい……。
一つぐらい、願いが叶うんじゃないかな。
希望や祈りに飲み込まれない様に……。
そっと願おう。
誰にも気づかれない様に……。
師匠を含めた神様や……。
ジジィと若造にも気付かれない様に……。
ただ、何よりも強く願おう。
どうか……。
どうか……。
俺の愛した人たち……世界に真っ白な未来を。
そこで、辛い事が待っていても仕方ない。
悲しい事があっても、どうしようもない。
それが、残酷な現実って奴なんだから。
でも……。
こいつ等は、その真っ白を奪うと言うんだ。
そして、真っ黒に塗り潰すってさ……。
許せるわけがない。
俺以外に待っているのは、お前等に強制された未来じゃない!
自分達の選択で掴みとる未来だ!
俺の考えは、もしかすると間違えているかも知れない。
所詮、人間なんて自分のいい様にしか物事を理解出来ない。
だが、俺はそれでいい。
自分の命を賭けるなら、自分の信じた道に全てを賭けるだけだ!
俺にとって、お前等は何の価値もない……。
いや、邪魔でしかない。
なのに、お前等は俺の大事な物を殺していく。
殺そうとする。
なら、俺の命と……。
何の価値もない、俺其の物とお前ら全ての死を交換だ。
レートは間違ってないよな?
だから、死んでいけよ!
俺が、殺してやるからさ!
「があああ!」
<シャイニングアロー>!
五体のコアを、一本の矢のよう突き進む俺が消し飛ばす。
「はあああああぁぁぁぁぁ!」
アストレアの光槍が、敵のコアを連続で貫いていく。
射程範囲の敵がいなくなると……。
「滅びよ! メテオストリーム!」
なんの合図もなく、背中合わせになっていたユーノとスイッチする。
広範囲の攻撃魔法で敵を減らし、接近した敵を槍で直接迎撃する。
空中で二人の立ち位置は、左右上下と目まぐるしく入れ替わりながら、敵を殲滅していく。
完璧な連携だ。
「次元流奥義! 竜破斬(りゅうはざん+フレアノヴァ)!」
黒い羽が、飛行機雲の様な黒い魔力の尾を引いて、とんでもない速度で敵を斬る続けている。
ちっ……。
俺は、まだまだだ。
でも、まだまだなら……。
俺はもっと強くなれる!
「おおお!」
ギリギリで躱した敵の拳で、左頬の皮膚が弾け飛ぶ。
コアを貫かれたそいつが光に変わる前に、もう一体の敵へとその体をぶつける。
『骨折は回復したぞ!』
【後方は、障壁で攻撃を逸らします!】
「らあああああぁぁぁ!」
死んでいく仲間をぶつけられ、視界を遮られた敵を両断した。
そして、そのままそいつの体を蹴り空中で回転を始める。
<トライデント>!
一体……二体!
もう……一体!
わざとコアを少しだけずらして、魔力の刃を敵に突き刺す。
【きます!】
『足の裏に、魔力を集中するぞ!』
味方ごと俺を殺そうと放ってきた、複数のエネルギー砲。
その一つの上を走り、敵を切り裂く。
魔力が完全に見えれば、敵の攻撃事態を利用できる。
敵のエネルギー砲は、俺の足場になる。
残像を利用して、敵の予測できない場所から、捉えきれない様に攻撃する。
敵の攻撃は、最大のチャンス。
敵の防御は、最高のチャンス。
俺から意識をそらせば、その瞬間に殺してやる。
俺を見失えば、そこがお前の死に場所だ。
「があああああ!」
(気付いてる? ユーノ?)
「はっ! はっ!」
(ええ。この予測は……異常ね)
「消し去れ! ビッグバンエターナル!」
(こんな精度が百パーセントの予測なんて、有り得ないわ。どうなってるの?)
「冥府へ消えろ! ライジングデッド!」
(この広がり続けている、灰色の魔力が関係してるのかしら~? あの男の魔眼でも、この力を見きれていないわ)
「吠えろ! ゲイボルグ! はぁぁぁ!」
(そうだ。この魔力には、強大な意思の力がこめられている)
「滅びよ! メテオストリーム!」
「はっ! はぁぁ……はっ!」
(意思の力?)
(そうだ。この魔力と意思の力が、敵の魔力すら支配し始めている。敵にその意識は無い様だが、この限界の戦いで敵は選択肢をあいつに制限されているのと同じだ)
「鳳仙花(ほうせんか+フレアノヴァ)!」
(敵の魔力まで取り込んで、強くなり続けているの!?)
(そうだ。現に魔力もどんどん増している)
俺が、夢中で戦っている中、俺以外の三人は俺を冷静に分析している。
リンクしているので、情報は流れてくるが……。
思考を全て殺意に向けているせいで、理解出来ない。
俺は、ただ敵を斬るだけ……。
(気付いているか?)
(ええ……。敵を……レイが一番撃破しているわ)
(一番前に突っ込んでるってのもあるけど~……)
(成長……いや、進化している。敵を一体倒すごとに剣が一段跳ばしに、威力を増している)
「おおおおおおおおおおらああああああああああぁぁぁぁ!」
俺達四人の戦闘を、仲間達はただ見守る。
足手まといにしかならない事を、理解しているから。
狭間から侵入しようとした敵は、五体。
すべて主神クラスであり、数で勝る神に負ける要素は無かった。
「凄い……凄すぎます! レイさんも! 破壊神様も! 双子神様も!」
「ええ……これが最強達の戦闘なんですね……」
「新入りさん達は、あの方達の戦闘を見るのは初めてなんだな?」
「あっ! はい」
「あれは、この世界が始まって……多分最強のパーティーだろうな」
「そうなんですね……」
「皮肉な物だ」
「何がですか?」
「あそこに居るのは、全員本来俺達よりも力の劣る者たちだった」
「それは……」
「もちろん、あの四人の強さに疑いなど持っていない。だが、元人間、魔力の劣る双子神、そして人間」
「確かに……」
「それぞれが、世界をまもろうと研鑚を積んだ。そして、慢心していたであろう俺たちでは、たどり着けない高みへと昇ったんだ」
「はい」
「もっとも驚愕すべきは、その中に百年も生きていない、本当の人間が含まれていると言う事だがな」
「彼は、本当の特別です」
「ああ。神ですら改変は出来ても縛られてる、運命を打ち破った……たった一人の特別だ」
「はい」
****
敵の半数を撃破した所で、師匠と双子神に異変が起こる。
(マスター! 限界です!)
「くっ! ここまでか……」
師匠の黒い羽はその大きさを失い、双子神の青と赤の光は強さを失う。
「一気に三人同時だなんて~!」
「想像以上に、消耗が激しいわ! いったん、引くわよ!」
(レイ! 私達は回復が必要なの!)
<ドラゴンバスター>!
敵を袈裟掛けに切り裂き、障壁を蹴る。
<トライデント>!
そして、次の敵を三枚下ろしにして消し飛ばす。
「おおおお!」
(ちょ! 聞いてない!)
「ユーノ! アストレア! いったん回復だ! 急げ!」
「分かったわ!」
師匠と双子神は、仲間達の元へと戻り補給を受ける。
「急げ! 一気に補充だ!」
「はい!」
準備していた補給部隊が、指揮をとる神の声で三人に一気に魔力を流し込む。
「ふぅ……。俺達が抜けても、敵を一体も抜けさせないか……」
「何よ……。無理しちゃって~……」
「スタミナだけなら……レイが、一番ね」
「まあ、敵の魔力をどんどん吸収してるからね~」
「あいつには、限界が無いのかも知れないな」
「あれ~? 何? 師匠を超えちゃった感じ?」
「なんで嬉しそうなんだ? まだ、経験と技なら負けてないつもりだ。だが、この先はどうなるか……不味いぞ!」
「こんな時に! ユミルの分身体!」
「もう! まだ、回復に時間が必要なのに!」
「あれは、今のあいつでも消滅は……」
来たぞ!
大物だ!
『うむ!』
障壁は一枚でいい!
【分かりました!】
「イレギュラー……。さすがに目ざわりだ! 消えろ!」
十中八九……。
通常の戦闘で、俺に勝ち目はない。
魔力も、速さも向うが上だろう。
なら……。
最速最高の技で、打ち破るのみ!
行くぞ!
『うむ!』【はい!】
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
それを見た、師匠が焦り出す。
「不味い! あれは、いくら次元斬でも一撃では……」
全力の踏み込みが、俺の体を光へと到達させる。
先の先をつかれ、敵が反応出来ていない。
機!
<ディメンションブレイカー……>
斜めに走らせた剣の軌道が、俺の身体を中心に円を描く。
えっ!?
俺の本能が、限界を超えても敵の健在を俺に教える。
まだ、足りない。
なら!
両足で魔力をとらえ、さらにもう一度踏み出す。
そして、全てがほとんど動かない世界で、俺はもう二重の円をえがいた。
<アンリミテッド>!
「まさ……か……」
自分が倒された事が信じられないまま、敵は消えていく。
「はぁはぁはぁ……」
どうだ! くそったれ!
『よし! 砕けた足は回復した!』
<魔力も十分です!>
そうだ……。
俺はまだ戦える!
「そんな……」
「あら~?」
「何をそこまで驚くの?」
「まさか……まさか我が流派最高の技まで、進化させるんて……」
(技も、マスターと同等ですか?)
「いや……それ以上だ。あれは、今の俺には出来ない。それどころか、あれを出来る者は金輪際現れるかも分からない……」
「あら? 冗談だったのに……」
「レイは、本当に実現したの?」
「そうかも~……」
「はははっ!」
(マスター? あの……真幸? 大丈夫?)
「ああ! まさか、これほど嬉しい瞬間に巡り合えるとはな! あいつは、今……俺を超えた」
「最強の人間……じゃなくて、本当の最強までいっちゃった~?」
「ええ! そうみたいね!」
「さあ! 補給完了だ!」
「ええ! 最強を支えられるのは、私達!」
「行きましょ~!」
数を数えるのすら面倒なほどの敵を相手に……。
大勢の神に見守られ……。
最強の神達と肩を並べ……。
絶え間なく降り注ぐ、敵の攻撃を掻い潜り……。
命の瀬戸際を全力で走り抜ける。
そして、俺は剣をただ振るう。
敵を殺す為だけに。
馬鹿な俺は、これで全てが終わると信じてしまった。
そんな都合のいい事は、おこらないのに……。
そう、運の無い俺には起こり得ないのに……。
世界が残酷で無慈悲に出来ている事を、忘れてしまった。
狡猾な悪意達が、力任せに出るなんてありえない事なのに……。
本当の最高神であるルーが、予測してくれた……。
頭のいい、双子神が作戦をたててくれた……。
周到な師匠が、全てをうまくやってくれた……。
そんな都合のいい事を考えてしまった。
敵の正体も考えず。
敵の目的も考えず。
思考を全て戦いに向けてしまった。
なぜ世界が、崩壊を迎えようとしているのか。
なぜ死神達が、絶望に飲み込まれたのか。
俺は、何も理解していなかった。
俺に幸運なんて……。
有り得ないんだ。
大好きな人達の気持ちを、何も理解していない……。
何も気付いてやれない馬鹿な俺には……。
これが、限界だったのか?
もっとうまく出来たんじゃないのか?
誰も苦しまない方法が……。
もし俺に、もっと力があれば……。
もし俺に、物語の主人公達みたいな頭脳があれば……。
もし俺に……。
奇跡がおきてくれれば……。
後悔や懺悔なんて、先がある者にしか意味が無いのに……。
本当に俺は情けない。
勇者でも無い俺が、ここへ立ったのが全ての間違いだ。
やってしまった事は、もう元へは戻せない。
なら、俺が出来る事は……。
やっぱり、責任をとる事だろう。
すべての責任を……。
後悔と絶望で立ち止まれば、すべてが終りだ。
全てを完璧には、もう望めないかも知れない。
でも、立ち止まってしまえば終わるんだ。
俺は、愛する人たちを守りたいんだ。
完璧じゃなくても、俺は俺の全てを賭けて最良に……。
今できる最良にもっていくんだ。
俺は、俺の出来る事を……。
全力で! 全てを賭けて!
皆が笑ってくれる、明日の為に。
<トライデント>!
刃の付いた球体となった俺は、障壁により角度を変化させて敵をズタズタに切り裂く。
<メテオストライク>!
回転力の落ちた俺は、敵に向かって魔力を蹴り剣を振り下ろす。
コアを消滅させられた敵が、光に変わると同時に俺は障壁へと着壁?する。
「はぁはぁ……敵は……」
「今ので最後だ」
師匠……。
俺はどれくらい戦ってたんだろう?
【どれくらいでしょうか?】
『集中し過ぎて、時間の感覚がないな……。まあ、何時もの事じゃ』
これで、後はユミルって馬鹿だけなのか?
「レイ? 回復は~?」
え~っと……。
「仲間達が、何時でも回復出来るように準備してくれているぞ?」
あれ?
『これが、人間がもつ本来の魂の力かのぅ?』
さあ……。
「レイの持久力はどうなってるの?」
「何が?」
「私達なんて、五回は魔力を補充したのよ?」
そうなのか。
【私達も、想像以上で驚いていますがね】
『確かに、ほぼ最大出力で戦闘を継続したからのぅ』
敵の種類にかなり左右されるけど、一対一より一対多が俺にはむいてるんだろ。
敵から、魔力を吸収できるのは倒した後らしいからな。
【確かに、一体で強い敵と戦うよりも、持久力が引き上がりますね】
ああ……。
少しでも、敵が俺よりも弱ければ、常に魔力がフル充填で戦える。
「ねぇ~? 聞いてる?」
「時間が無いのよ。早く補充を……」
「必要ないみたいだ」
「えっ?」
「敵から吸収して、満タンだ」
「そうなの~? 便利な属性ね。確かに、魔力は減ってる様には見えないけど……」
「少し休んでから……」
おいおい。
「時間が無いんだろう? 行こう」
「いいの?」
「ああ! 大丈夫だ!」
「分かったわ。じゃあ……」
「仲間への指示は、私達がするわ~」
双子の神が、仲間元へ向かい指示を出す。
「よくここまで次元流を極めたな」
師匠……。
目が金色って、怖いです。
それも、虹彩縦に走ってるじゃないですか。
『今、そこなのか?』
【いつもの照れ隠しじゃないですか?】
いやいや、怖いって。
【否定はしませんが】
「この前は、言い損ねた事があってな」
(うふふっ。喜んでくれますかね? マスター?)
おふぉう!?
『なんじゃ?』
あれ? いや、あれか!?
もしかして……。
ヤバい! ヤバいって!
【どっ……どうしたんですか?】
怒られる。
きっと怒られる!
【なにか後ろめたい事でも?】
いっぱいあり過ぎて、どれか分かんない!
師匠、神様だから何を見ていたのか……。
ヤッベ!
殴られる!
破壊の属性持ってる人に、殴られる!
きっとどこか壊れる!
『いっそ、殴られてしまえ』
最終戦の前にへこむとかって、どうよ!?
【相変わらず、卑屈というか……。大丈夫ですって……】
ヤベェよ!
絶対斬られるよ!
ヤベェって!
「お前は……」
やべぇぇって!
一番ましでも、ユミルボコッた後で、殴られるよ。
絶対痛いよ!
絶対、どっか折れるよ!
「次元流の免許皆伝だ。今日から、お前が正統な後継者だ」
ヤベ……えっ?
今……。
【ほらね】
『お前の被害妄想は、きっと死んでも変わらんな』
「あの……いいんですか? 俺で?」
「技術は問題ない」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
『ちゃんと聞け』
【は! ってついてますよ】
はっ?
「精神面。特に、下心についてはこの戦いが終われば、おいおい指導していく」
それって、本当に免許皆伝ですか?
どっちかと言えば……。
【仮免ですね】
ですよね~。
「まあ、そう言う事だ。説教と殴るのは、全てが終わってからだ」
あ……。
それは、あるんだ。
『当然じゃな』
てか……。
【そう言えば、賢者様を通して心の声は……】
「ああ。すべて聞こえている」
ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
「レイ? どうかしたの~?」
えっ!?
あの……。
「何をそんなにおろおろと……」
「あの……レイさん?」
えっと……。
師匠に殴られる……。
『口に出してみればいい』
殴られる通り越して、斬られる。
【はぁ~……】
「レイくん?」
あっ! そうだよ!
「なんでもない!」
『なんじゃ? 急に?』
死ねば、殴るなんて無理だよ!
そうだよ!
どの道、全部かけて勝てるかどうかなんだし……。
『おまえ……』
うん!
勝ち逃げだ!
これしかない!
【貴方って人は……】
****
さあ……。
「行こう! 時間が無い!」
俺の声に、皆が頷いてくれた。
そして、ユーノが世界の中心への、最後の結界に扉を開いた。
この時の俺は……。
これがどれほどの意味を持っているかを、分かっていなかった。
この場所、この時間がどれほど重要かを理解した。
つもりでいた。
でも、本当の意味を分かっていなかった。
人間の俺には、これが限界。
勇者でも無い俺にしては、よくやった。
俺は悪くない……。
言い訳ならいくらでも出来る。
でも、それは……。
世の中には、やっていい事と、悪い事があって……。
それは、俺がやってはいけない事。
絶対に。
それは、最悪の選択。
諦めない事……。
絶望しない事……。
辛くは……無い。
だって、それは俺がずっとやってきた事。
足掻く事。
真っ直ぐ前に進む事。
戦う事。
俺の人生。
その物。
後悔なんて、意味が無い。
運命なんて、クソ食らえ!
苦しみや悲しみが、必要ないなんて言わない。
でも、決められた未来……。
運命なんてクソみたいな物に……。
苦しめられるのは、俺一人で十分だ。
全部俺が背負ってやるよ!
だから……。
それを俺によこせ! クソったれ!
「俺達四人でも、どうなるか分からないほどの強敵だな」
「救いは、あいつがあそこから動けないって事くらいかしら?」
五メートルほどの光の球体に、真っ黒い球体を吸着している。
そして、毛細血管?
いや、カビの様に黒い筋が、光の球を浸食しようとしていた。
これが、ユミル?
『魔力は、測定できんレベルじゃな』
【あの光の球が創造主さんでしょうか?】
多分そうだと思う。
てか、あれから感じる馬鹿みたいな魔力のせいで、完全に感覚がくるってる。
黒い球体の中から、ゴボッっと気泡が……。
そして、真っ白くて気持ち悪い顔と、両手が水底から浮かび上がる様に出てきた。
こいつが、ユミル。
気持ちの悪い顔しやがって。
眼球真っ黒じゃね~か!
『ふん! こんな気持ちの悪い奴に、世界をやるわけにはいかんな』
ああ……。
【馬鹿は死ななきゃ分からない……ですね】
ああ……。
こいつさえ倒せば!
「しつこいゴミ共だ」
ゴミはお前だ、クソったれ!
「それ以前に、この場に相応しくない者がいる様だな」
ああ?
「ここは、神のみが立ち入る事を許された、神聖な場所だ」
なるほど、俺に喧嘩売ってくるのか。
『冷静にな』
【こちらの心を乱す作戦でしょう】
分かってる。
「これは、死神から吸収した力だ」
「つたないぞ!」
えっ?
師匠?
辺り一面が、真っ黒に……。
「レイ!」
なんだ? これ?
「消えろ、人間。時空魔法……トキジク」
体が……。
後ろに引っ張られて……。
吸い込まれる!?
『な!? これは!?』
【抵抗……出来ない!】
「不老である神には、時間など意味が無い。だが、人間のお前には別だ」
時間!?
「混乱した時の中で、消えろ。人間よ」
くそ!
俺は、こんな所で……。
なにも……。
まだ、何も……。
くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「そんな……。レイ……」
「嘘! 嘘よ! こんなの……」
「くそ! こんな……こんな……」
(真幸……)
「非力な人間などを、切り札とした。自分達の愚かさを悔やむが良い、古き神達よ」
「いや……いや……レイさん……」
「いい絶望だ。新たな神となる私の祝いとして、最高ではないか」
「お前だけは……お前だけは!」
そして、俺のいなくなった最終戦が幕を上げた。
師匠と双子神は、全力でユミルと戦う。
ああ……。
情けない。
俺は、なんて弱いんだ。
大事な所で、失敗する。
悔しい……。
自分の弱さが悔しくてたまらない……。
ちくしょう……。
ちくしょう……。
ちくしょうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
あ~あ……。
こんな最後かよ。
やってらんね~……。




