十一話
うわ~……。
化け物だらけ……。
【味方ですし、頼もしいじゃないですか】
本当に全員、主神クラスになってるよ。
こんな裏技あったのか。
『一時的と言っておったが……。この世界では可能なのかも知れんな』
まあ、師匠達が他の世界に入るのは面倒そうだったもんね。
う~ん……。
やっぱり、元が人間の神は少し弱いか?
『他に比べて、五~八割と言ったところか?』
意思の力に限界があるんだろうな。
【多分、皆さん完全には魔力を制御できないでしょうね】
それでも、戦わないといけないんだな。
『命をかけて戦う同士。これは、強い神を探すよりも大変じゃろうからな』
ふ~……。
命を賭けてか……。
死んでくれるなよ?
寝ざめが悪くなる。
【なら、やる事は……】
ああ、守りきるさ。
誰も死なせない。
あいつらは、頑張ってきたんだ。
死んでいいわけが無い。
『そうじゃな』
しかし……。
『この世界は、魔力が濃いな』
ああ……。
魔力感知範囲が、かなり限定される。
【狭間と違って、思念もありませんね】
ああ、浄化でもされたのか?
たく……。
味方の拠点が、これかよ。
やってらんね~……。
『やるしかあるまい』
当然だ。
不利な条件は、元々覚悟してたしな。
ここまで連れて来てくれただけで、十分だ。
後は、この命を燃やすだけだ。
「あの……ユーノ様?」
「な~に~?」
「こうなって分かった事が……」
「私達の魔力が、弱いって事~?」
あ、そう言えば……。
俺は、建物の陰から聞き耳を立てる。
【貴方の隠れるのは、癖ですかね?】
条件反射?
「私達は、二人で一人の双子神。あの男を除けば……レイは神じゃないから、最強なのよ」
うん?
師匠の様に、自分より強い敵を倒せるのか?
「あの……どういうことでしょう?」
「そうね。信頼も必要よね。なら、教えてあげるわ。私達は、世界になり損ねた出来損ないだったの」
えっ?
エリート感バリバリだったのに?
「私達は、世界になるには魔力が強過ぎたのよ~。だから、分裂しちゃったの。そのせいで、一つ一つが世界になるには魔力が不足しちゃったわけよ」
「それを憐れんでくれたあの方に、こうして人型にして貰ったのが私達」
へ~……。
まあ、普通の神よりは強いよね。
「私達が生まれた時には、既にここで破壊神は働いていたわ~……。力を制御できずに、もがいてたけど」
師匠にもそんな時代があったのか……。
【意外ですね】
「でも、仕事から帰るたびに強くなっていったの」
「私達は、あの男を振り向かせたくて、毎日訓練を続けたわ~」
「ちょ! ユーノ!」
はい?
「そして、手に入れたのが魔力の共振。二人で、共振させる事で魔力効果を普通の三倍まで引き上げられるのよ。そして、最強と呼ばれる様になったわ」
へ~……。
「でもね~……。あいつは、それよりも自力で強くなっちゃうし。挙句に、一途に死んだ恋人を想い続けてたのよ。初恋なんて、ろくなもんじゃないわよ」
何? その設定!?
「あの、今でも破壊神様は……」
「あの方が、何故かその死んだ恋人の魂を保管してたのよ」
「で~、この間復活しちゃったの!」
五億年頑張った報酬なら、安いもんだよね。
「あの師弟には、本当に……」
なんで、俺?
文句は、師匠に言ってよ。
「どうなの~? 定着した?」
「はい!」
ふ~……。
「じゃあ、行こうか?」
「レイ」
「レイさん!」
「ちょっとタイミング良過ぎない~?」
はい! 聞こえまてん!
そして、世界に中心へと向かう。
本当の中心へ……。
全く波打っていない、静かな湖?
【大きいですが、底はかなり浅いですね】
でっかい水たまり? の方がしっくりくるかな?
『う~む。恐ろしく澄み切った水じゃな』
その水溜りに、光の球体が浮いている。
今の俺でも、完全に認識できないほどの魔力を秘めているのは分かる。
「あれが、世界の核よ」
「そして、創造主様自身なのよ~」
「思ってたよりは、小さいな」
「見た目はね~。でも、今いるこの空間と一緒であの内部も、何層にも異空間が広がっているわ」
「そして、それが結界の役割も果たしている。本来ならば、敵が侵入出来無いはずだったんだけどね」
「侵入する条件を満たしてきたのか。あいつ等は、狡猾だからな」
「じゃあ、準備はいい~?」
「ああ」
戦いだ。
最後の戦い。
もう、何も抑えないくていい。
俺の中にある、全てを解き放つんだ。
『一世一代の晴れ舞台じゃ!』
【戦いましょう】
双子神の誘導で、五層の結界を通り抜けた。
「次の層に……敵がいるようね~」
俺の目にも、既に真っ黒で薄汚い奴等の力がうつっていた。
「ああ」
「作戦はさっき言った通りよ。レイ、比重は大きいけど……」
「任せろ。俺が、全部殺してやる」
既に、俺の体からは灰色のオーラが滲みだしていた。
****
「さあ! 行くわよ!」
双子神の解錠と同時に、俺を先頭に光の球体へと飛び込む。
そこは、宇宙の様な空間だった。
敵だ。
『三体か』
すべて、主神級の黒い羽の天使。
「ぐぁ……があああああああぁぁぁぁ!」
敵を視界に捉えた瞬間、俺の中で感情が爆発した。
これは、俺が取り込んだ思念体の想いなんだろうか?
【障壁! 展開します!】
俺はその想いに、支配されたわけではない。
何よりも強い想いは、俺自身の……殺意。
今まで抑え込んでいた感情が、全ての想いを戦いへとけん引する。
もう我慢なんてしない。
誰も、失いたくない。
失わない為に……。
守るために、全てを出すんだ。
魂を……。
想いを……。
俺の全てを燃え上がらせろ!
爆発するほどに!
「ちょ! レイ!」
「きゃ!」
爆風の様に溢れ出した灰色のオーラを纏い、敵を見据える。
それと同時に、三枚の障壁が俺の周りに展開された。
その障壁は、いままでの白い色ではなく、灰色の障壁。
思念体からもたらされた知識と、合成魔力で作り出された俺の新しい盾。
これなら、主神クラスにも対抗できる。
融合された剣には、既に魔力の刃が灯っていた。
そして、障壁を全力で踏み込み敵に飛び掛かる。
『魔力制御と強化は、全てわしに任せろ!』
【障壁維持! コントロールは私が!】
敵が、俺に向かい拳を……。
遅いんだよ。
<シーザースラッシュ>
コアを中心に、敵の胴を両断した。
次……。
「この!」
「ゴミが! この神に……」
左右から向かってきた馬鹿を、袈裟斬りにする。
三つの悪意の消滅を確認した、悪意の大群がこちらに向かってくる。
殺す。
殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!
灰色の魔力が、俺の残像を浮かび上がらせながら敵に向かって突き進んでいく。
敵を殺す為に。
「レイさん……凄い。主神クラスを……」
「見るのは後です! エルミラさん!」
「はっ! はい! メーヴェル様!」
「メーヴェル! さっきの説明通りに!」
「はい! ユーノ様!」
ユーノを中心に、空間をゆがめる術が組み上がられる。
「いいわね! 気を抜くんじゃないわよ!」
「はっ!」
そして戦闘に特化した神、約八十とアストレアが無防備になる術に取りかかった仲間を囲む。
その術の完成が、この戦いの全てを決める。
魂の故郷に満たされた魔力。
それは、全て生命になる為の魔力であり、神でも吸収する事は出来ない。
その為に、俺達の補給ラインを確保しないといけない。
「おおおおおお!」
<ドラゴンバスター>!
コアを消し飛ばされた馬鹿が、光となり消えていく。
今俺の魔力は、主神クラスより、少し低いぐらい。
いける!
これなら、主神クラスに引けは取らない!
障壁を蹴り、敵の遠隔攻撃を障壁で逸らし、魔力の刃で敵を斬り捨てる。
【右から三発!】
『上方から、二発じゃ!』
【はい!】
俺の周囲を、二枚の障壁が絶え間なくぐるぐると回っている。
足場となる障壁は、真下からの攻撃を防ぐと同時に、足場になる。
<メテオストライク>!
敵の攻撃を粉砕すると同時に、そのまま敵の急所を刃が通過する。
俺の視界全てに、気持ちの悪い黒い羽がうごめいている。
どれだけの世界を奪ったんだ。
くそったれが!
「おおっ! らああぁぁぁ!」
すれ違いざま、二体を斬り捨てる。
気を抜くな。
全てを把握するんだ。
俺の後ろには通さない。
皆殺しだ。
「ア……アストレア様?」
「何よ?」
「あの……レイは……食らっている!?」
「そうよ。あいつ等の力は、もともと世界だった力。支配していた敵の意識が途切れれば、自然とレイに取り込まれるの」
「あれが、魂の吸収」
「いいえ。吸収は、さっきの様に暴走しない限り、差し出された魔力にのみ作用される力よ」
「しかし……どんどん力を……」
「そうよ。敵から解放された魂たちが、望んでレイに取り込まれているの。救いの光へと向けて、進んでいるだけ……」
<ホークリング>!
魔力の輪で、仲間に向かうエネルギー砲を迎撃する。
来る!
【くっ! 障壁!】
『速い!』
世界を三つほど飲み込んだらしい馬鹿が、障壁を拳で突き破り迫ってくる。
さっき戦った完成した間もない奴とは違う。
見た目は人間だが、服を着ているし、速度も俺より速いらしい。
敵の拳が俺の腹部を貫通し、鈍い音が聞こえてきた。
「ぐっ!」
だが……。
『うむ! 液体金属は十分に機能しておる!』
敵の拳は、肘の部分で進行を止めた。
俺の体が、強化されてなければ粉々にされていただろう。
だが! そうはならなかった!
「おおおおお!」
腹部に手を突き刺したまま、こちらを見上げようとした馬鹿に、剣を振り下ろす。
「ごほっ……どうした? 来いよ、くそったれ」
俺の周りには、四体の馬鹿が浮いていた。
人間の姿が二体。
でかい鳥の姿に、虎の様な姿が一体ずつ。
全部、俺より強くて速いだろう……。
来いよ!
殺したいんだろう? 俺を。
『回復完了じゃ!』
「来いよ! くそったれ!」
俺に向かって、四体が真っ直ぐ向かってくる。
「行くわよ!」
「はい!」
ユーノが組みあげた術が、空間に穴を開き、魂の故郷が狭間と直結された。
「もう大丈夫よね!? 早く援護に……」
「駄目よ~、アストレア。作戦を守りなさい!」
「でも! 敵が!」
「信じなさい! レイを! なによりも、ここを保持するのが優先よ!」
「くっ……。レイ……」
「我慢なさい! 私も行きたいの山々なのよ~」
「ごめん……」
「でも、これの保持が最優先なのよ~。そして、これがレイを助けるのよ。アストレア」
「うん……」
<シーザー……>
目の前の障壁が、ガシャンと音を出して砕ける。
敵の牙が……くそ! 避けられん!
<スラッシュ>!
「くっ! このぉ!」
敵を斬り裂こうとした俺の剣は、足を食いちぎられ体勢を崩したせいで、軌道が逸れた。
コアに的確に魔力を撃ち込まないと、この化け物達は倒せない。
『回復が……間に合わん!』
くっ!
【あった! ありました!】
情報を探っていた若造が、障壁の術式を組みかえる。
人型の馬鹿を、その障壁は弾き返してくれた。
ヒビは入ったが、主神級の三倍の攻撃に一度は耐えられるほど強固になったのだ。
『よし!』
体を捻り、残像を使う事で敵の攻撃をギリギリ回避する。
俺の耳に再びガラスが砕けたような音が届く。
「グルオオオ!」
二回直撃を受けた障壁が砕けると同時に、敵の牙が体勢の崩れた俺に向かってくる。
くっ!
速度が……。
(剣を左後方に振るうんだ。その勢いで、体をずらせ)
えっ?
俺は、声に従って剣を振るう。
(そうだ。気を抜くな! 次が来る)
ああ。
お前等も来てくれたんだな。
「あ……あああ……。メーヴェル様……彼らが……」
「ええ! 来てくれたんです! 思念体となって……」
(お前から貰った、最後の至福。神ならば、返さねばなるまい)
(貴方の食事。美味しかったわ)
(さあ! 行こう!)
(私達の想いを!)
ああ……。
ああ!
分かってる! 行こう!
俺の纏うオーラがさらに、膨れ上がる。
想いの力を、剣を乗せるんだ。
敵の動きが、よりはっきりと認識できる。
今の俺なら、余波でダメージはほとんどない。
ギリギリで避けるんだ。
避けた瞬間に、反撃の体勢をとれ。
障壁に角度をつけろ。
攻撃をいなすんだ。
『来るぞ!』
恐れるな!
踏み込むんだ!
俺の命を使って……。
恐怖の……絶望の先にあるものを掴みとるんだ!
「速度が増していく!? 今のレベルアップした魔眼で追いきれないなんて……」
「私の神眼でも……」
「ほら~! 気を抜かない!」
「そうよ! 死神達もくるかも知れないのよ! ここを守るの!」
「はっ! はい!」
敵の軌道が、全て浮かび上がる。
俺の全てをつぎ込めば、もっとも理想の動きへ到達できる。
敵を殺せる。
敵は、どんどん増援されるが、関係ない。
ただ、敵を殺すんだ。
余計な思考を消すんだ。
魔力の流れに逆らうな。
最大限の攻撃を……。
心を、殺意で一色に。
「速度も魔力も、どんどん上昇している」
「凄い! 凄い! レイさん凄い!」
「うん! レイ君がいれば、僕達勝てるよ!」
「はいはい。気を抜かないの~! 何度も言わせないでよね」
「す……すみません。ユーノ様」
『ぐうう!魔力維持を……』
【処理を加速……この……】
行かせない。
お前達を、大事な仲間の所へは……。
速度を引き上げろ。
まだだ……。
まだ、無駄がある。
剣に魂を込めろ。
軌道を理想の先へ……。
一撃を必殺へ……。
大量の魔力により、残像が無数に出現し、敵の混乱を誘う。
本体を見極め損ねれば、その瞬間光へと変わっていく。
衝撃で、俺を見失えば命が尽きる。
死んでいけ。
ここが、俺とお前等の墓場だ。
その尽きない欲望を抱えて、消えていけ。
この世界にお前等は必要ない。
俺が、お前等を否定してやる。
存在そのものを!
『魔力が……さらに高まっていく。意思の力か!?』
【これなら! 思考を加速させられる! いけます! いけますよ!】
『うむ! 遅れをとるな!』
俺の命ならくれてやる!
だから、死んでいけ!
「あれを……あれを人間と言っていいのか?」
「神を超えた……人間」
「あんた達ね~……」
「仕方ないわ、ユーノ。あれは、私達以外では視界に事すら出来ないわよ」
「でもね~……。限界ギリギリの一歩先まで、踏み込んでるレイが……」
「限界の先!? ユーノ様!? それは、一体?」
「見えないから、まるで余裕を持って倒している様に見えるんじゃない~? メーヴェル?」
「はい……。違うのですか?」
「敵は、レイの速度域について行っているわ。だから、敵の攻撃をわざと受けて、さらに一歩踏み込みながら倒してるのよ~」
「そんな……」
「高速で回復しているけど、完全な捨て身の戦法よ」
「何故!? 何故ですか!? アストレア様?」
「一歩踏み込む事で、一撃で敵を討つ事が出来るのよ」
「そんな……なんでそんな戦法を……レイさんは……」
「今の、これが結果よ~」
「最速で倒す事で、敵がこちらにこない」
「あ……私達を……守るために……」
「馬鹿よ……。馬鹿」
「も~! 何やってるのよ! まだなの!?」
くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
『ぬう!』
【まだです!まだ……】
「がああああ!」
目の前にいた敵を斬ると同時に、二体が仲間に向けて突進している事が分かった。
やらせるか!
若造!
【はい!】
「おおおおお!」
上方へ飛び上がり、馬型の敵へ剣を振るう。
腹部ごとコアを消滅させた。
もう一体が……。
鮫型の敵が、仲間達に向かって大きな顎を開いている。
【いけぇぇぇ!】
飛び上がる前に分離しておいた障壁を、敵の前に移動させる。
超高速で移動する化け物に、障壁はいともあっさり噛み砕かれた。
そして、敵は俺がいるはずの場所へちらりと目線をうつす。
敵の視界にうつったのは、灰色のオーラが作り出した俺の残像。
こっちだ。
クソ野郎!
<シャイニングアロー>!
壊された障壁の裏で、再展開した障壁を蹴り……。
開かれた口の先にある、敵のコアへ真っ直ぐ剣を突き出す。
「ああああああああああ!」
俺が口の中に半身を入れた所で、下半身からブチブチと何かが千切れる音が聞こえてくる。
「ぐっ……ごぼっ!」
コアは消滅させたが……。
まだ、敵の速度が上……か。
俺が口の中に飛び込むと同時に、口を閉じられた。
凶暴な牙で噛みつかれた部分が、俺自身の進む力で引きちぎれたようだ。
下半身が、皮と少しの筋肉だけで繋がっている。
『くっ! 間に合わん!』
【復元に回ります!】
ああ!
「おらああぁぁああ!」
左拳で、空中を殴りつけ……。
敵のコアへ向けて剣を振るう。
やらせない!
やらせてたまるか! くそったれ!
「レイさんが……」
「エルミラさん! レイ君の為にも、集中しなさい!」
「もう! もう! なによ!」
「ユーノ……落ちついてよ……」
「アストレアこそ、それ以上噛むと爪がなくなるわよ?」
「五月蝿いわね!」
くっ!
このぉ!
太股を骨ごと食いちぎられ、バランスを崩した俺の首に、蛇型の敵が噛みついてくる。
振りあげた剣で、敵を切り裂いたが……。
後ろから迫ってくる敵に……。
くそ。溜めの時間が……。
(体を鞭だと考えろ!)
おおおおお!
<ドラゴンウィップ>!
捻転させた体を、鞭のようにしならせて敵のコアへと撃ち抜く。
これは……。
俺がガキの頃に、骨格を狂わせるから師匠から止められていた技……。
『もう、使ってもいいと言う事じゃろう』
本当に……。
仲間が保持していた穴から、黒い影が飛び込んでくる。
「待たせた」
「おっそい~! ってちょっと~……」
「大丈夫なの?」
左上半身が鎧で包まれている状態で、飛び込んできた師匠は、傷だらけで血を大量に流していた。
そして、黒い雷が体に纏わりつき、バチバチとまわりの神を威嚇しているようにさえ見える。
「大丈夫だ。行こう!」
「でも~」
「皆さん! 破壊神様に魔力を! 急いで!」
「はい!」
「助かる……ぐっ……」
魔力の注入により、加速する苦痛を伴う回復で、師匠は顔をしかめる。
俺は知っている。
それは、人間では気が狂うほどの苦痛。
「大丈夫じゃないじゃない! 魔力も半分以下に……」
「大丈夫だ! すぐに回復する!」
「ここに向かってたあの大群を一人で、殲滅したんでしょ~? 少しは休みなさいよ~」
「そうよ! 仲間達も……全員無事じゃない! どれだけ自分一人で戦ったのよ!」
三割の主神達が、穴を通ってこちらへと入ってきた。
だが、外にも七百以上の神を感知している。
師匠は、仲間を一人も失わずにここへたどり着いたんだ。
かなわね~な……。
「よし……。魔力も回復した!行こう!」
「でも……」
「あそこで……あそこで、俺の大事な大事な馬鹿弟子が、血を流しているんだ! 俺が休憩なんて出来るか!」
「破壊神様……」
「あいつは、たった十年程で俺と肩を並べているんだ! それは俺の五億年に匹敵する、苦痛を味わった証拠なんだよ!」
「ふ~……。行くわよ! アストレア!」
「ええ! ユーノ!」
「俺は、俺の大事な馬鹿弟子を全てをかけて死なせない!」
(行くぞ! アリス!)
(はい! マスター!)
「ぐう……おおおおおおおおお!」
師匠の瞳が赤から金色に変色する。
それと同時に、魔力が膨れ上がった。
持っていた刀は、真っ黒に染まる。
最後に、真っ黒な光の羽を背負う。
「何!? この魔力は……主神クラスを超えているわ……」
「さあ! 今こそ! 我等の核となる魂よ!」
「原初の結びつきを! そして、我等に力を!」
「「共振!」」
双子神の着用していたローブが、青と赤に光り輝く鎧へと変化する。
そして、ユーノの背中には、レッドメタリックに光り輝く巨大な魔方陣が……。
アストレアの手には、ブルーメタリックに輝く槍が出現した。
「メーヴェル様……双子神様達も……魔力が」
「ええ……。これが最強の神……」
「さっきの指示通りに頼んだわよ!」
アストレアの指示で、穴に悪意をはじく魔法障壁が展開される。
魔力の補給部隊、穴を外と内で守る部隊が、自分の魔力を最大まで高める。
「よし! 俺にリンクしろ!」
(これでいい~?)
「ああ……だが、レイとリンクするときは気をつけろ」
(分かってる! 精神防壁をはってあるわ!)
(当然よ~。あの意思の力は、レイ意外に受けとめる事なんて無理よ)
「よし! 行くぞ!」
「「ええ!」」
黒と赤と青……。
光り輝く、最強が戦場に飛び出す。
(合わせろ!)
師匠……。
(はい!)
えっ!?
(もしもの時は、俺が……)
(死なせない! あの四人だけは……)
(盾になら、私でもなれる……いえ! なるのよ!)
(何があっても、この穴を守る! あの人たちの役に立てるなら!)
思念がダイレクトに読めるようになった俺に、千二百も神の心が伝わってくる。
「おおおおお!」
<ドラゴンバスター>!
馬鹿だよ……。
馬鹿ばっかりだ……。
全員から、嘘の無い気持ちが……。
世界を守りたい。
俺達を死なせたくないと言う、気持ちが伝わってくる。
その思念は、俺を前へと進めさせてくれる。
弱いくせしやがって……。
人間の俺なんかを本気で信頼しやがって……。
馬鹿どもが!
余計に負けられなくなるじゃんか……。
『勝たねばなるまい!』
【この想いに応えてこその、貴方です!】
ああ!
「次元流奥義! 弧月乱舞(こげつらんぶ+フレアノヴァ)!」
<ホークリングレイン>!
「穿て! 神槍ゲイボルグ!」
「消し去れ! ビッグバンエターナル!」
背中合わせになった俺達は、それぞれが広範囲の攻撃を繰り出した。
世界一つ分……主神クラスのエセ天使どもが一掃されていく。
まだ、一面を埋め尽くすほどのくそったれ共がいるが……。
思念体となっても戦い続ける人々が……。
千を超える神々が……。
世界の裁定をしている二人の女神が……。
最強の師匠がついているんだ!
負ける気がしない!
俺は、一人じゃない!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」




